食堂にて一騒動
カエサルの実力確認はそれから一時間程で終わった。
皆、己の全力で挑んだものの返り討ちーーーー数分もかからないうちに敗北してしまった。
結果としてはユリスのみ奮闘したと言えるだろう。
だがーーーー
「うわぁ……負けたー……」
学園の中にある大きな食堂。
そこには全学年の生徒が食事をするため、計り知れないぐらいの大きさであった。
そんな場所でユリスは一人、トレイに並んだ料理を口にすることなく机に突っ伏していた。
「俺ってダメダメな人間なんだ……勝てなかった……傲慢な鼻っ柱をへし折れなかったー……」
「ま、まぁ……元気出してよユリスくん! 凄かったよ、ユリスくん!」
悔しそうに唸るユリスを、隣に座るミラベルが励ます。
「そうですよ? それに、ユリスはまだ全力出していなかったじゃないですか!」
「馬鹿野郎……あそこで憤怒と暴食を使ったらエラい事になんの……。あれは威力が強すぎるから、絶対先生殺しちゃうよ……」
ミラベルとは反対側の隣に座るセシリアも励ますが、ユリスが元気になる気配はない。
全く、気難しい男である。
「あなたがそんな落ち込んでいたら私達はどうなるのよ? 私達、一瞬で終わったのだけれど?」
「そうだぞユリス! お前は十分強かったぞ!」
今度は対面に座るリカードとアナスタシアがユリスに声をかける。
たが、セシリアとミラベルとは違い、黙々と昼食を口に運んでいた。
「今度、俺の秘蔵コレクション(※写真集)を見せてやるから!」
「早く昼食を食べてしまおう、休憩が終わってしまうからな!」
この変わり身の早さ。
ユリスの悔しさは写真集に負けてしまうほどちっぽけなものだった。
ちなみに、この写真集はリカードが入学式に行く前にユリスに見せた、きわどい服装の踊り子達の写真である。
「「……はぁ」」
何の写真集かは分からないが、ユリスの元気っぷりを見て、二人はため息をつく。
大体、察しがついたからだ。
「そう言えば、どうしてここにアナスタシアがいるんだよ? 他所の令嬢達と飯食わないのか? っていうか、食え」
「あら? 酷い言われようね。別に、私が一緒しても迷惑がかかっている訳でもあるまいし」
「お前、周りを見てもそれが言えるか?」
ユリスが周囲を指差す。
そこには男女学年問わず、面白いぐらいに視線が集まっていた。
不思議に思う生徒や、興味として見やる生徒、今にも怒りをぶつけてきそうな生徒などーーーーその毛色は様々。
「公爵令嬢が、伯爵と子爵の息子と一緒に飯を食べてるからな。そりゃ、周りからしたら面白くねぇだろうな」
「学園は色んな貴族と縁を作るいい機会だしなーーーーじゃあ、今のうちに縁を作っておくかリカード?」
「残念だな! 俺はもうすでに作っている!」
「あなた達……本人を目の前にしてよく言えるわね……」
アナスタシアがユリス達の言葉に頭を押さえる。
事実、学園は表向きは実力の向上と教養を身につける事だ。
だが、ここでは今まで接点すらなかった他の貴族もたくさんいる。
もちろん、爵位が上な貴族とお近づきになって損はない。というか、得しかない。
だからこそ容姿端麗で誰にでも優しく、公爵家のご令嬢であるアナスタシアは皆、お近づきになりたい人なのだ。
それが、リカードみたいな伯爵であればまだしも、ユリスのような子爵だと周りも面白くない。
だから、皆様々な目でユリス達が座るテーブルを見ているのだ。
「た、確かに……この視線は流石に気になるかな……」
「ふぇ? そうですか?」
エルフ領に籠っていたミラベルとは違い、セシリアは日々注目を浴びている聖女。同意が得られないのも仕方がないのかもしれない。
「ま、俺は貴族云々って気にしてないから別にいいけどな! お前もそうだろアナスタシア?」
「ふふっ、流石はリカードね。あなたとなら仲良くなれそうだわ」
どうやら二人は仲良くなったみたいだ。
その清々しさを分けてほしいと、小心者のユリスは切に思った。
「……はぁ」
「どうかしましたかユリス? ため息は幸せが逃げてしまいますから、してはいけませんよ? もしよろしければ「あーん」してあげましょうか?」
「こんな大衆の視線が集まっている中で、君は何を言い出すんだ」
どんな羞恥プレイだよ、とユリスは顔をひきつらせる。
そんな時ーーーー
「おいっ! アナスタシア!」
アナスタシアとリカードの背後からそんな怒声が聞こえてきた。
視線を動かしてみると、そこにはバーンと見覚えのない男子生徒二人の姿が。
(厄介な人が来たなぁ……)
ユリスはひっそりと悲しみの涙を流す。
きっと、面倒事になりそうだから。
「……なによ」
声の主が一瞬にして分かったのか、アナスタシアは心底嫌そうな顔でバーンに振り返る。
「お前、俺の婚約者のくせにどうしてこいつらと食べているんだ!」
「「こ、婚約者っ!?」」
婚約者というワードに反応する、純情可憐な乙女二人。
乙女は、恋路沙汰はすこぶる気になるようだ。
そして、その一方ーーーー
「おめでとうアナ! お前もついに婚約者が出来たか!」
「おぉー! 友達として素直におめでとうだぜアナスタシア!」
男子一行は、アナスタシアの婚約を祝福する。
普段、モテたいヤりたいなどと抜かしている二人だが、友達が花道を歩くのであれば素直に祝福してやりたいと思っている。
嫉妬とは程遠い気持ちをアナスタシアに向けた。
「いやぁ~、お前その性格とかぺったんこな胸だし、縁談もすぐ断るし、絶対に婚期逃すと思ってたんだよな~! うんうん、婚期逃す前に婚約できてよかったな素直におめでとうと言う前に俺の関節があらぬ方向にぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
ユリスの言葉の最中、アナスタシアがこれでもかというくらいに身体強化の魔法を使って、ユリスの腕関節をねじ曲げる。
ユリスの絶叫が、食堂に響き渡った。
「……だから、何度も言っているけどあなたは婚約者候補なの。婚約者じゃないわ」
ユリスの間接を締め上げると、アナスタシアは嫌々バーンと相対する。
「ふんっ! 今はそうかもしれんが、いずれはそうなるだろ!」
「……はぁ」
アナスタシアは聞く耳持たないバーンに大きなため息を吐く。
アナスタシアは、事実婚約者はいないが婚約者候補なら何人かいる。
それはアナスタシアの意思を最大限尊重しようと言う、両親の判断故のものである。
本来、爵位の高い貴族にとっては縁談は切っても切れないもの。
そこに本人の意思など殆どなく、家の存続と地位向上に扱われる。
がしかし、アナスタシアの両親はそれを快く思わなかった。
だが、それでもアナスタシアは誰かと結婚しなければならないーーーーだから、婚約者候補をあてがって、せめてその中から好きな人を選ばせてあげよう、そう考えたのだ。
「まだ答えは出していないの……だから勝手に決めつけないでくれるかしら? それに、私が誰とご飯を一緒にしようが勝手でしょ?」
「ふんっ! そんなの知るか! お前は俺の言う通りにすればいいんだ!」
「そうだ! バーン様の言う通りにしろ!」
「女のくせに反論するんじゃねぇよ!」
我が儘なバーンに同調するように取り巻きも声を荒上げる。
取り巻きはいくら学園の中にいるからといって、公爵の人間に対する口の聞き方とは思えないほど失礼だった。
その言葉に、アナスタシアの額に青筋が浮かぶ。
(あぁー……アナがキレてるや)
痛めた関節を擦りながら、ユリスはアナスタシアの限界が近いことを察する。
普段目立ちたくないユリスでも、流石にこのままではマズいと立ち上がろうとした。
するとーーーー
「そこの聖女も一緒に来い! こんな無能と田舎の亜人と一緒にご飯を食べる必要はないぞ!」
(……あ?)
ユリスの額にも青筋が浮かぶ。
田舎の亜人とは、エルフを嫌う者が使う侮蔑の言葉だ。
今ではあまり使われない言葉だが、人間至上主義の町ではよく耳にする。
更に、セシリアの意思も確認せず無理矢理に連れて行こうとするその言葉は、ユリスの逆鱗に触れた。
だからユリスはバーンに掴みかかろうとする。
「おい……お前、今なんて言ーーーー」
「お止めなさい」
ーーーーその瞬間、また新しい声が介入してきた。
さらりとした銀髪を靡かせ、ゆっくりとした足取りで近づく少女。
傍には誰も控えていないのが不思議で堪らないほどの人物ーーーー
「第3王女殿下!?」
「双方、言い争いはここまでです」
第3王女その人が、ユリス達の前に現れた。




