表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】魔法学園の大罪魔術師  作者: 楓原 こうた
大罪に寄り添う聖女と救済の邪教徒
12/69

エルフの少女

「はぁ……はぁ……っ!」


 息を切らし、木を背もたれとしてしゃがみこむ少女。

 その表情は苦悶そのものだった。


(どうしてここでハイオークが出てきちゃうかな……ッ!)


 目の前には少女を取り囲むように集まるハイオークの群れ。

 必死に逃げ回っていたが、途中で躓いてしまいこうして追い込まれている。


 立ち上がろうにも、躓いた際に足首を捻ってしまったらしい……患部は思いっきり腫れ上がり、思うように立ち上がれなかった。


(もうっ……こんなことなら、行商に金を払って馬車に乗せてもらえばよかったよ!)


 先日行われた王立魔法学園の入学試験。

 それが無事に終わったのはいいが、我が家があるエルフ領まではかなりの距離がある。


 そんな距離を馬車で移動しようものなら、平民にとっては破格の金額になってしまう。

 それこそ、平民の稼ぎでは1ヶ月も働かなければならないほど。


 ただでさえ王立魔法学園に入学するだけで、学費がすごいのだーーーーこれ以上、お金を使いたくないと思うのは、当然のことだろう。


 故に、この少女は家まで徒歩で帰ることにした。

 何回かの野営と街で安い宿に泊まれば、なんとかなるだろうとたかをくくっていたのだ。


 ……それが今回、仇となった。


「ギュルフフ……」


「ひぃっ!?」


 ハイオークの舌なめずりと笑い声が、エルフの少女を怯えさせる。

 足を捻っているせいもあるが、腰が引けて上手く移動することもできなかった。


 ーーーー王立魔法学園に入学を志望している生徒であれば、ここで魔法を使って抵抗することもできるだろう。

 だがしかし、恐怖がその考えを阻害する。


「いやぁ……誰か助けて……ッ!」


 目をつむり、現実から逃避しようと身を竦める。


 自分で現状を打破しようとせず、他者に助けを求めるのは怠惰だ。

 そもそも、自分が命の価値を下げて金を渋ったからこそ招いた現実、自業自得だろう。


 だがーーーー


 ぐちゃり。


「……え?」


 そんな肉が潰れるような生々しい音が不意に聞こえた。

 少女は気になり、目を開けるとーーーー


「な、なにこれ……」


 視界に写ったのは、ハイオークの群れの頭上に広がる大きな獣のような口。

 黒くて、禍々しくて、原型も形状も多種多様で定まっていない。


 だけど、大きな牙と形を見れば、間違いなく口なのだろう。

 その口が、ハイオークの頭蓋を、抵抗許さず食べていたのだ。


 ……そして、頭蓋を食べ終われば次は胴体、更に下半身、最後に残ったのは、無造作に散らばるオークの血だけだった。


 少女は困惑する。

 目の前で起こったことが理解できずに、ハイオーク以上の恐怖を身に覚えたからだ。


 何処から出現したのかは分からない。

 だけど、ハイオークの次は自分ではないのだろうか?


(こ、こんなのに勝てるわけがないよぉ……)


 その禍々しさに、思わず下半身から液体が漏れる。

 何がーーーーと言うのはセリフが憚られてしまう。


 そして、黒い口は全てのオークを食い物とし終わるとーーーー


「いやぁー、オークって意外と美味しいもんだなー。羊肉と同じ味がしたぞ?」


「味って分かるのですか?」


「そりゃあ、もちろん。だってこれは俺の暴食を満たす為の魔術だもん? 味覚がない食事なんて、意味がないじゃないか」


「へぇー! ユリスの魔術はやっぱりすごいですね!」


「あたぼうよってやつですぜ!」


 ーーーー一人の少年と、一人の少女が急に目の前に現れた。


 白髪に、動きやすそうな軽装。金髪に、聖職者特有の修道服。

 異様な組み合わせ。突然のことに、少女は開いた口が塞がらない。


 そして、二人は徐に近づいてきた。


「大丈夫ですか? ……もう安心してくださいね、ユリスが皆やっつけてくれましたから」


「まぁ、上から見た限りでは他にハイオークの姿は無さそうだし、大丈夫だと思うぞ? ……よく頑張ったな」


 そして二人は、優しい笑みを向けてくれる。

 安心させるように、もう大丈夫だと教えてくれた。


(あぁ……この人達が助けてくれたんだーーーー)


 そう実感すると、少女の意識はそこで途絶えてしまった。



 ♦️♦️♦️



「エルフがこんなところに……ねぇ? エルフ領はもっと西だろうに」


 ユリスは気を失った少女を見て疑問に思う。

 長い金髪に、エルフ特有の尖った耳。それでいて、人間とは何処か違うような可愛らしい整った顔立ち。

 薄緑を基調としたレジャー服からは素晴らしいくびれがはっきりと分かる。


「そうですよね……それに、お一人でなんて危険すぎます」


 セシリアは目の前のエルフの少女の足を癒しながら、疑問を口にする。


 エルフ領は、貴族を持たない国が認めた領地だ。

 元々、人間とエルフは対立しており、和平を結んだ際に国王から領地がエルフに贈られた。


 そこではエルフが暮らし、国に納める税も貴族という縦社会も一切影響させないーーーーそういう条件だったそうだ。


 だが、そのエルフ領まではかなりの距離がある。

 それこそ、辺境の地であるアンダーブルク領を越えるほどの距離だ。


「後でお説教しなければいけませんね」


「流石は聖女様、お優しい事で」


「これは人として当然な事です!」


 エルフの少女が知らぬ間に、どうやらお説教が確定してしまったようだ。


「それより、気絶したこいつをどうするかだ。俺としては、セシリアが口を開く前に決めてしまいたいところだな」


「どうして私が口を開いちゃいけないのですか!?」


 癒し終えたセシリアがユリスに詰め寄る。

 エルフの少女の赤く晴れた足首が見事に引いているーーーー流石は、女神から直接恩恵を賜った聖女だ。


「だって、セシリアに意見を聞いたら「私はこのままこの人を見捨てることができません……助けてあげれないでしょうか?」みたいなこと言うじゃん。俺、流石にそこまではーーーー」


「私はこのままこの人を見捨てることができません……助けてあげれないでしょうか?」


「おいこら話聞いてたのかねこの子は?」


 一言一句違わないその発言に、ユリスは頬をひきつるひきつらせる。


 ユリスとて完璧な善人じゃない。

 セシリアみたいに、誰も彼もに優しさを振り撒ける訳じゃないのだ。


 だけどーーーー


「お願いします……」


 セシリアは一生懸命に頭を下げる。

 自分の事のはずではないのに、自分の事のように必死に。


(……はぁ、ズルいなぁ)


 そんな姿を見せられたら断れないではないか、ユリスは頭の中で愚痴ってしまった。

 故にーーーー


「……今日は何処かで休憩する。そして、その後俺が責任もって安全な街まで運んでやるーーーーそれでいいか?」


「……わぁっ! ありがとうございますユリス!」


 セシリアは満面の笑みで嬉しさとお礼を伝える。

 その笑顔に、思わず胸が高鳴ってしまったのは、仕方ないのかもしれない。


(こりゃあ、俺は一生セシリアには勝てないかもしれないなー)


 セシリアの笑顔には何故か逆らえないような気がする。

 そんなことを思ったユリスであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おもらしえっちだ…… [気になる点] 半年前に主人公がセシリアを助けた時は助けたあと放置じゃなくて家に連れ帰ったんじゃないの?なんで今回の子はそこまで面倒見てあげないの? 助けた者には助け…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ