グレートバトルコロシアムに行ってみよう
水星観光した翌日。自室のベッドでうだうだしていた。この環境最高である。
「ハヤテ様、今日は遊ばないんですか? どっか観光行くとか」
同じくベッドでゲームしているリリーが絡んでくる。遊んで欲しいらしい。
「いいかリリー、おっさんはな、毎日遊ぶ体力なんてないんだ」
「悲しいなあ……」
「こうして昼まで寝ているのも贅沢だぞ。寝心地いいしな」
「それはそうですけど、なんかやりたいことないんですか?」
そこでふと考える。俺は楽園でうだうだすることが完成形だから、これ以上を望むというのがよくわからなかった。だがあえてやりたいこと、食べたいもの、欲しいものを考えてみると。
「宇宙飯食いたくね?」
「なんですかそれ? コロニーのごはん?」
「あれだよ、四角いプレートに入ってて、全部ペーストされてるやつ。カラフルでスプーンとかで食うの」
昔のアニメでは、固形物よりもペーストが多かった気がする。あの時代を詳しく知らないが、宇宙ではあれが食えるのだろうか。少し興味が湧いた。
「よくわかんないです。アニメの話?」
「だと思う。実際に食えるかは知らん。コロニーとか、軍艦でも食ってるかも」
俺もアニメ知識だから詳しく話せない。シオンが紅茶をいれてやって来るので、なるべく詳しく話してみた。
「お望みでしたら私が作ってみますが」
「気持ちはありがたいが違うんだ。そういう豪華な手作りじゃなくて、既製品のやつ。日頃こんなもん食ってんだなっていうアレが食いたいんだ」
「こだわりがあるのですね。でしたら食べられそうなコロニーに行ってみましょうか? このコロニーで作っても違うんですよね?」
「違う。多分完璧なものが出てくるが、なんか違うんだ」
「めんどくさいこだわりだあ。でもお出かけには賛成ですよ!」
そんなこんなで次の遊び場を考える。2人の行きたい場所なんかも考慮すれば、おのずと決まると思ったが、どうやら宇宙は広いらしい。
「うーむ、候補が多いな」
「順番に行ってみるのも楽しそうですわ」
「おお、悪くないねー。でもイベント欲しいし……んん?」
リリーがモニターをじっと見ている。放送されているのはロボット同士のバトル。実写だがバトルフレーム同士が戦っているな。森のような場所で撃ち合いをしている。やけにカメラワークが多彩だ。
「ノイジー、これなに? なんで地球連合が仲間割れしてんの?」
「地球連合のコロニー、シリウスアリーナで行われている、グレートバトルコロシアムという競技です」
「競技? 戦争じゃないということかしら?」
「正解です。あくまで競技であり、殺人や軍事行動目的ではないとされています。バトルフレームのコンペにも使われるなど、小賢しさも見せていますが、人間特有の見栄というものでしょう。解説は必要ですか?」
「頼む」
モニターに球形のコロニーが映し出される。土星の輪のようなものが3個ついていて、輪っかに丸い何かがいくつもついている。
「中心の大きな球体がシリウスアリーナ本体です。帯状のレールについている球体はバトルフィールドとして使用されます。森林もその一種ですね」
「本格的だな。コロニーそのものもバカでかい」
「内部は都市部と競技場を中心としたエンターテイメント区画が主で、観光客が多く訪れます。全宇宙に放送されるバトルはとても人気ですね」
「ほーほー、それでそれで? バトルの説明もお願いねー」
「バトルはシングル戦と3人1組のチーム戦があります。コクピットの破壊は禁止など細かいルールは割愛しますが、機能停止か降参で勝利。1位にはシリウス・ザ・シリウスの称号が与えられます。賞金は莫大。アイドル扱いですね」
画面では決着がついたのか、イケメンパイロットがインタビューを受けていた。ファンらしい集団や声援も聞こえる。会場は大盛りあがりだ。人気競技なのは間違いないだろう。
「凄いわね。地球限定の競技ではなさそうだけれど、バトルフレームばかりなのはどうして?」
「コスモクラフトも出場可能ですが、スーパーロボットは個別カスタムで高性能なかわりに、パーツ交換が遅く、統一規格のバトルフレームに比べて修理コストが高いため、連戦が厳しいのです。ほとんどはコロニーの守護についているため、出張するのも難しいという理由もあります」
「コンペがどうのというのは?」
「バトルフレームは頭部、ボディ、手足でパーツを自由に換装できます。また、地球の研究所すべてがこの企画に合わせて作るよう命じられているため、ここで成果を出して売り込むのが手っ取り早いということです」
企業お抱えのパイロットに、パーツの宣伝をさせつつ勝ち続けるわけか。次の試合では、白いライオンの顔が火を吹いている。
「おいあれロイヤルタイガーのパクリだろ」
「ほんとだ似てる!」
「でも本物より小さいし、威力も低く見えるのだけれど」
「所詮はコピーです。本物よりサイズも小さく、出力も低くなります。スーパーロボットのような大出力の動力源を積めないうえ、規格に合わないからです」
なるほど、所詮は劣化コピーか。徹底した量産性により、全機体が同じ武装を積める。だが欠点として突出した必殺技すらパーツ依存になるわけだ。
「ライオンの相手は、ロケットパンチと胸のビームが武器ですねえ。わたし結構好きかも。アニメっぽくて」
「目からビームも出ているわ。こうしてよく見ると、バトルフレームも多彩に感じるわね」
「ここで朗報です。ご所望の宇宙食ですが、軍人が食べているものが提供される食堂を見つけました。アリーナ内部です」
「ほほう、よくやった」
自然と3人で目が合う。次の目的地が決まった瞬間だった。
2日かけてゆっくりエゴ・サンクチュアリで移動して、近づいたらシャトルでコロニーに入場。今回は全員日本人っぽい顔にした。俺は元々そうだけど、ちゃんと顔を変えている。
「ほー、水星とは違うな」
高層ビルが多く立ち並び、巨大な街頭モニターでは、バトルフレームの試合が流れている。行き交う人々も多く、派手なネオンや土産物屋もあった。コロシアムに行くほどプラモだのぬいぐるみだのと、関連商品の店も増えていく。
「賑やかですね。まるでコロニーそのものがお祭りのようですわ」
「水星とは全然違うねー」
「あっちが温泉とかのある観光地なら、ここは大都会の人気スポットかね」
街並みを見ながら目的の飯屋へ行く。なかなか盛況のようで、店内の大型モニターでは、ロボットバトルが放映されていた。4人がけのテーブルへ案内されて、メニューを見ると、あの四角いペースト飯がある。
「俺これにするわ」
「わたしこっちの洋風ソースで」
「では私は中華プレートをお願いします」
注文を終えて、周囲をそれとなく見る。店員が軍服だし、よく見れば店内の壁も宇宙船っぽい。こだわってるねえ。味もこだわりがあると嬉しいな。
「店内がいい匂いですね」
「うんうん、期待できるね。メニュー見た時は悩んだけど」
「別に合わせなくてもいいんだぞ?」
「わたしも興味あったし、ちゃんとパンとマカロニのやつにしときました」
「ハヤテ様の好みを知るのも楽しいですわ」
いい子だねえ。2人のためにもちゃんとした料理が来ることを祈ろう。そしていよいよ実食。パンと水と緑色のペースト。そしてオレンジ色のペースト。さらには水色のゼリーっぽい何かだ。これに豆と紅茶がつく。
「出たな宇宙飯。ふむ…………薄味だがいけるな」
野菜のペーストだなこれ。オレンジ色のはケチャップ味のマッシュポテトだろうか。どちらも柔らかくて食べやすい。水色のゼリーはラムネ味かな。結構うまい。
「こちらもおいしいですよ。豆の炊き込みご飯と……オレンジ色のものはエビチリ味です。野菜の肉詰めも味が濃厚で、ご飯がすすむ味付けですね」
シオンの中華プレートもうまそうだ。卵スープもあってボリュームもいい。
「ほうほう、ふむふむ、いけますねえ!」
洋風プレートは赤いマカロニとコーンスープ。6等分された四角い野菜っぽいものにパン。そして三角のチーズが3個だ。普通だな。そのメニューでまずいものは出てこないだろう。
「おっ、コスモクラフト出てますよ」
モニターではバトルフレームチームとコスモクラフトチームが戦っている。注意深く観察すると、コスモクラフトの背中に全員同じ装備がある。簡略化された翼のようなブースターだ。
「なんだっけあれ……見たことあるな」
「ブーストフェザーですね。実用化されたのでしょう」
ノイジーの発言で思い出す。前に設計図渡したやつだ。本人のDNA情報と取引したやつ。そのおかげか知らないが、コスモクラフトチームが終始有利に立ち回って勝利した。機動力で差がついたみたいだ。
「知ってるんですか?」
「お前らが生まれる前に、ちょっとな。俺とノイジーだけの頃、設計図を与えたブースト装置だ。秘密だぞ」
「へー、そんなことしてたんですね」
なんか随分前に感じるが、割と最近だよな? 年取ると時間の感覚が曖昧だねえ。もう少し異世界SFを噛み締めて楽しむべきかもな。
「戦況を変える装備を開発するとは、素晴らしいです」
「俺がやったわけじゃないさ。興味があるなら見ていこうぜ。まだまだ試合はあるらしいし、アリーナに行く金はある」
「行きましょう! わたしの機体の参考にします!」
というわけでコロニーの闘技場へ向かうのであった
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