水星に行こう
水星の戦争が終わってから数日。ゲームしたりプールで泳いだり、アニメ見たりヨガやったりと充実した日々を送った。今日は俺の部屋で3人集まっている。ベッドでごろごろしながら、今日は何をしようかぼんやり考えていく。
「暇ですねえ。ハヤテ様、なんかして遊んでくださいよー。あーそーんーでー」
背中にのしかかってくるリリー。こいつも暇なのだろう。
「もう、ハヤテ様に迷惑かけないの」
「シオンだって遊んで欲しいくせにー」
「私は……まあ、それはそうなのだけれど……はしたないわよ」
「はいはい、わかったからだる絡みすんな」
シオンとリリーを撫でながら、暇つぶしに作った色々を出す。
「アデルをさらに有名にするグッズ考えたんだけどさ」
「もうがっつりネットミームですよー。まだ満足しないんですか?」
リリーの言うことも最もだ。アデルはその断末魔までしっかり音声素材にしたし、コクピットの映像も本編として投下した。
「なんかもうちょい有名にしたい。なのでアクスタ作ってみた」
軍服と全裸バージョンのアクスタをお披露目してみる。
「うひゃはははは! おっさんのアクスタに需要ないでしょ!」
「お前おっさんのアクスタなめんなよ。作ってる方もつらいんだぞ」
「ふへへへへ! なんで作ったんですかこれ!」
リリー大爆笑である。ベッドで足をばたばたさせながら、楽しそうに笑う。シオンはアイスティーを作りながら、ちょっと困惑している。アクスタがまずわからないのだろう。ここで文化に触れさせるぞ。
「持ち運べるサイズで、ちゃんと股間は隠してあるから安心だ」
「見ているだけで不安になりますわね」
「絶対いらない」
不評らしい。ならばここから巻き返してやるぜ。さらなるグッズを出す。
「だがこれだけじゃない! 台座にセットすると喋る!」
『こんなことでえええええええ!!』
「うわーい無駄にすごーい」
「セットするたびに違うセリフを喋る。水星で大流行するぞ」
『気持ちよすぎだろ!!』
「それ言ってないセリフでしょー」
なぜこんなものを作ったのか。そう、俺は暇だったのだ。そしてエゴ・サンクチュアリの技術力が凄い。つまりそれはもう無駄にクオリティの高い無駄なものが作れるのだ。
「次はアデルのぬいぐるみだ。これでぬい活させるぞ」
「ぶははははは! 全然かわいくなーい!」
「ぬいぐるみはかわいいものがいいです」
軍服とパイロットスーツバージョンがある。これも持ち運びやすいサイズだ。
「ダメか。これ持ってスイーツとか食えばいいのに」
「スイーツがかわいそうですよハヤテ様」
「テロリストのおっさんのぬいぐるみは縁起悪いでしょ」
「ちゃんとお腹押すと喋るんだぞ」
『独立国家として団結するのだ!』
「何がちゃんとなのかわからないです」
「そここだわりますー?」
これも不評か。やはりブームというのは簡単に起こせるものじゃないな。意図的にできる時代じゃないのかもしれない。
「しょうがねえな。ノイジー、ライトオブグローリー名義で水星軍本部にでも送っておいてくれ」
「了解です。着払いにしてやりましょう」
「なんてかわいそうな水星軍。わたしでも同情するね」
「ハヤテ様、何か悩みがあるなら、いつでも相談に乗りますから」
「ガチの心配はやめてくれ」
シオンが心配しているのでやめる。まだこの領域の話は早かったようだ。諦めてアニメでも見ようかと思ったら、ノイジーから通信。
「水星行きの手続きが済みました。いつでも上陸できます」
ようやくか。港が開いてから一般開放されるまで一週間はかかったか。ついアクスタ作ったりしたが、最初から目的は水星観光だ。ご当地グルメとか観光スポットに行ってみよう。
「よし、準備するぞ」
「ふふっ、ついに出発ですね。楽しみです」
「あーそーぶーぞー」
今回は3人ともアメリカ人風の外見にして水星へ。シャトルから降り立つと、港の空調の涼しさに迎えられた。施設内は快適に保たれているようだ。そこから外に出て天を見上げる。透明かつ極厚なドームに覆われた世界は、太陽の暑さと放射線をカットしている。それでも建物の外に出てしまえば暑さは感じるので、完全なバリアではないのだろう。
「これが水星都市か」
大通りは人も多く、店が立ち並ぶ景色はまさに都会。だが高いビルが少ないな。高層ビルを建てない方針なのだろうか。街頭モニターには、レッドフェニックスの勝利をたたえる映像が流れ、金塊によって水星の未来は明るいと宣伝されている。
「金塊パフェ、金塊ワッフル、金塊マカロン、めっちゃありますねえ」
「全部金色ね。本物の金ではないでしょうけれど」
広場の屋台には様々な料理が並ぶ。今は金塊フェアらしい。初めて聞く言葉だ。
「玉子たっぷり金色焼きそばとかあるぞ。この表現はいいねえ。大抵の食い物に合うだろ玉子」
「商魂たくましいってやつですねー」
「興味はありますが、水星の名産品も気になりますわ。どうしましょう?」
独自の食い物は気になるが、金塊フェアなんてずっと続くかわからん。ここはブームに乗ってみるか。
「今だけ食えるもんを優先しようか。あとは別の日にでも来ればいい」
「なるほどなるほど。それじゃ、何食べます? わたし甘い物がいいでーす」
「まず食事をして、デザートに甘い物でどうですか?」
「いい案だ。焼きそば食おうぜ」
レタスとにんじんと人工肉と玉子か。人工肉が平べったくて未知の味がしそう。
「焼きそばを焼いてから玉子を焼いてますね」
「ああすることで半熟のいい感じで乗せられるんだろう」
オムソバってのが昔あった気がするが、それに近いか。ふんわりした玉子がかかっていてとても美味しそうだ。1個買って食ってみる。
「いいね。ちゃんと火が通ってる。肉はハムに近いか?」
味濃いめ。歯ごたえも悪くない。結構うまいじゃないか。玉子もふわっといい感じ。リリーが口を開けているので食わせてやる。
「おー……これはこれは。いけますねえ。確かに食感もハムっぽい」
リリーだけでは不公平なのでシオンにも食わせる。少し恥ずかしそうに食べるのが、大口開けるリリーとの違いだな。
「とてもおいしいです。麺まで味が染みていますね」
みんな好評らしい。続けて黄金の串焼きにチャレンジ。長方形の肉の塊が串に刺さっている。タレと粉が金色だ。何使ってるんだよこれ。3本買ってみんなで食う。
「うめえ。こいつは濃厚な味だな」
さっきの人工肉と同じ肉だろう。そこに塩コショウと山椒とあと不思議な甘しょっぱい何かがかかっている。なんかすごいうまい。凄い好みの味だ。この肉の特性なのか、肉汁が出ない。内部に味が凝縮されている。そして歯ごたえが柔らかくてぷつんと噛みちぎれる。
「凄く美味しいです。私これ好きです」
「うまうま、意外とお腹いっぱいになりますねえ」
「うむ、だがほどほどにしないとデザートが入らないぞ」
「水星金塊フラッペってありますよ。結構並んでますし、あれ行きましょうよ」
確かに一番並んでいるだろう。メニューを見てみる。コーヒーか紅茶フラッペの中に、バナナとパインが小さく角切りにされて入っている。真ん中くらいにチョコソースの層があるな。水星の鉄などを含んだ地層に金塊が隠れているイメージだろうか。うまそうだな。俺達も並んでみる。
「おっ、アイス乗ってるパターンもあるぞ。あれにするか」
「楽しみー!」
「ええとても……ジョニー様、目線だけで4人ほど前をご覧ください」
シオンが小声で伝えてくる。今回の偽名はジョニー。言われたとおりに目だけで追うと、黒髪のイケメンがいた。金髪ロングの元気そうな女と一緒だ。
「あいつ確か……」
「マーキュリーのパイロットですねえ」
「はい、なぜここに……?」
確かにエイデン・レイヴンだ。列に並びながら会議が始まる。近づかないように、目線を合わせないようにしよう。こちらのことは知らないはずだが、情報を与えるのもよくない。
「ノイジー」
「軍の情報にアクセス完了。今日はオフのようです」
「偶然居合わせたということ? 嫌な予感がしますわね」
「しかも女連れか。本当に人生イージーモードだな」
当然だが俺にそんな経験はない。まあ今にして思えば、劣等種と遊びたいかと問われればノーだが。それでも人生がイージーである証拠ではあるので、不幸になって欲しい。
「楽しい気分が削がれる。さっさと買って席につくぞ」
「賛成でーす」
「騒ぐのは避けるのよ? ジョニー様の迷惑になってはいけないわ」
「わかってるって」
買ったら案内された席につく。そこまではよかったんだが。
「エイデン、これすっごく美味しいわ!」
「はしゃぎ過ぎだよシャル」
エイデンの近くの席だ。テーブルは丸くてパラソルの刺さったタイプ。相手も少し離れた同じテーブルで談笑している。
「よりによってどうしてこうなった……?」
「目立たないように飲みましょう……あっ、冷たくて美味しい」
「おぉ、いい香りだ。甘いけどさっぱりしてるぞ」
「スムージーでシャリシャリしていいですねこれー」
ストローが大きめなので、小さい果肉も一緒に吸える。これがなんとも紅茶に合っている。アイスと一緒に飲むと最高だ。水星の暑さがさらに美味しく感じさせてくれる。来てよかった。
「もう、難しい顔してばっかりじゃない。敵はやっつけたんでしょ?」
「そうだけど、まだ謎が多いんだ。軍も調べている最中だよ」
あいつらがいなければもっとよかった。何か不穏な会話をしているので、つい聞いてしまう。なんとなく3人とも静かに飲みながら聞く。
「戦闘中に援護してくれた何者かがいるって」
「いいじゃない。味方がいるってことでしょ?」
「正体がわからないんだ。恐ろしく遠い場所からの攻撃らしいんだけど、誰も名乗り出ていない。誰が何の目的でやったかわからないんだよ。もしかしたら今度はこっちが狙われるかも知れないんだ」
今のとこ予定はないから気にしないでくれ。
「どんな技術があればそんなことができるのか……」
「結局気になってるのはそこでしょ? ご両親に似たのね」
「かもしれない。技術屋の子供として育ったからね」
「はいはい、今日はオフでしょ。それは忘れなさい。エイデンのご両親に頼まれてるのよ。辛気臭いから連れ出してってね」
「ひどいなあもう」
そのまま会話を聞いていたが、俺たちの痕跡は残っていないようだ。正体不明の何者かに警戒しているようだけれど、それだけでは俺たちには届かない。少し安心して騒がしくしているシャル? を見る。
「すみません、うるさくしてしまって」
エイデンがこちらへ話しかけてきた。自然と見すぎてしまっていたらしい。
「てへへ、すみませーん」
「いえ全然。気にしないでください」
「全然全然、大丈夫でっす」
「こちらはお気になさらず」
あっちから話しかけてくるのは想定外だが、自然な声が出たと思う。
「はしゃぎすぎたね、シャル」
「そうね、もう行きましょ。次は映画かしら」
「わかった。今日は君に付き合うよ。けど港には行かないようにね。夕方から検問があるはずだから」
「あの景色好きなんだけど、残念ね」
話しながら去っていくのをそっと見送る。そこでようやく一息つけた。
「はあ……なんか疲れた」
「甘い物で栄養補給しましょー」
「検問があると言っていましたわ。私たちも飲みながら帰るべきかもしれません」
「だな。コロニーに戻るぞ」
「了解でーす」
半分くらい飲んでいたフラッペを片手に港へ歩く。今日はもう家に帰りたい。夕方になる前にシャトルでコロニーへ帰った。




