ライトオブグローリーVS水星軍
アデルの衝撃映像で戦場は大混乱だ。だが戦意を失っていない連中もいるようで、地球軍はほぼ壊滅した。もともと戦力に差があったからか、手当たり次第に撃っていれば、数で押せるレベルではあった。
「結構やるもんだな」
俺の部屋で3人でモニターを眺めながら紅茶を飲む。シオンがクッキーを配り、リリーがポップコーンをバリバリかじっている。
「よくこの状況で戦闘できますねえ。ふへへへへ、じゃあ次の動画投下だー!」
『今日はライトオブグローリーと水星の貴族派の癒着について解説するのだ』
ただ音MADだけで終わるわけがない。それではバカにしただけで、水星内部の貴族派とライトオブグローリーを潰すには足りない。なので貴族派が金塊を横流ししていたこと、アデルが今まで民衆を犠牲にしてでも地球人殲滅を実行してきたこと、その実績を表にまとめて解説動画を作った。アデルと貴族派の首だけ出演動画だ。
『まとめるとこんな感じなのだ。邪魔者を暗殺して容赦なく死人を出すし、賄賂満載なのだ』
『これは危険ね。騙されるといつ犠牲になるかわかったものじゃないわ』
ちなみに情報は大マジである。しっかりノイジーに調べてもらい、裏取りしたやつを流している。これで水星議会を掌握した貴族派は慌てるだろう。
「これで内部の貴族派は、逮捕されるか処刑されるか、まあ解決だ。あとは宇宙のライトオブグローリーだが」
『まだだ、地球連合を倒しただけでは終わらん。水星軍よ、我らの指揮下に入れ。共に新国家のために戦うのだ!』
アデルは特殊コスモクラフト・トレイターに乗り込み、自らが宇宙に出たようだ。そこでうまいこと鼓舞できれば、まだやれると思っているのだろう。
実際水星軍の穏健派と先住一族派閥は、ほとんどが宇宙にいる。ここで説得か撃墜してしまえば、無理やり権力者になる道はまだある。
『聖戦は続いている。愚かなる連合を排除した今、独立国家として団結するのだ!』
『そうはいかんぞ、アデル・ガルシア』
水星軍の中から赤色のロボットが出てきた。他よりも二回りくらいでかい、二足歩行の機体だ。4枚の羽のようなものが生えているし、天使とも鳥ともとれるフォルムをしている。スーパーロボット系のコスモクラフトだろう。周囲の機体よりでかい。派手に見えるが、気品も感じられる。
「ノイジー、ありゃ何だ?」
「レッドフェニックス。水星の象徴的コスモクラフトです。赤い不死鳥などと呼ばれています。全長40メートル。高機動高火力型であり、殲滅戦や格闘戦も想定された機体です。乗っているのは穏健派の先住民族代表、ヴィクター・ブレイズ、32歳。実質的な総帥です」
「ほー……大将自らパイロットとは、度胸があるというか、命知らずというか。いや異名があるってことは強いのか」
通信を傍受して映像が出ると、そこには金髪で、30代くらいのイケメンさんが映っていた。キリッとした顔で、猛烈にカリスマが漂っていらっしゃるよ。
『水星内部の過激派は逮捕された。この星はそこに生きる人々のものだ。お前たちのようなテロリストには渡さんよ』
『おのれヴィクター。下卑た映像も貴様の仕業か!』
『残念だが外れだ。我々も独自で情報を集めてはいたが、あの動画はそれより量も多く正確だ。誰が作ったのか知らんが、一言お礼申し上げたいくらいさ』
「そうだろうそうだろう、作るの大変だったんだぞ」
「動画編集って重労働なんですねえ。身を持って知りました」
本当にな、動画編集って凝り始めるとマジで終わらないんよ。この超未来SF世界でもきつかったぞ。もっと褒めろ。
『貴様らはただのテロリストだ。水星のことに口を挟むべきではない。コロニーへ引き返せ。無駄な殺しをするつもりはない』
『我々を侮辱する気か!』
『どう取るかは君たちの自由だ。ライトオブグローリーの諸君、本当にこれが君たちの望んだことか? 武力で水星を制圧し、他者をより多く殺せばいいという思想が、本当に平和へ繋がるのか? もう一度言う。引き返すならば背中を撃ちはしない。よく考えて欲しい』
穏健派ってのはマジらしいな。部下も戦闘態勢を取っていない。ここまでされて、アデルはどう出るかな。
『我々に逃走も敗北もない。敵前逃亡するものなど存在しない! 貴様らの惰弱な思想では、いつまでも戦争は続く。地球とコロニーの戦いは終わらない。圧倒的な武力と財力でのみ、安息の地は作られるのだ!』
『戦いに疲れて血迷ったか。争いは新たな争いを生むだけだ』
『ならばここで証明してみせよう。武力による平和を! 全軍攻撃開始!!』
「まあそうなるよな。敵なんてぶっ殺せるなら、死んでくれたほうが嬉しいし」
対立というのは、自分と意見が違ったり、利益が相反する場合もある。ぶっちゃけ消えてくれると快適なのだ。どうせ戦争なら殺したいじゃん。
そして戦闘が始まった。ライトオブグローリーの軍勢が進軍を始めると、水星軍は嫌でも迎え撃つ形になり、広がりながら弾幕で応戦している。
『ええい、こんなことで水星の同胞を失うわけにはいかんのだ』
フェニックスは、4枚の羽と右手の拡散ビームガンでザコを散らしながら、宇宙空間を自由に飛び回る。縦横無尽に高速移動しながらビームの光を放つさまは、炎をまとった不死鳥が羽ばたいているようにも見える。
「光がとてもきれいですね」
「うんうん、イルミネーションみたいでいいよね」
戦闘によるビームの群れ。機体の爆発。ブーストを吹かして飛び回る機体。それらすべてが宇宙を彩る光になる。純粋に美しい光景だった。
その中でもひときわ光るのやつがいる。トレイターは、体の各所についているビーム兵器とミサイルで雑兵をなぎ倒し、手足についた巨大なビームソードで焼き払う。その姿は、アデルの過激な思想を体現しているようだ。
『ふはははは! 散れ! 力なき者に中立を保つことなどできんと知れ!』
『力の使い方も知らぬ愚か者が言うことか』
レッドフェニックスが猛スピードで飛び回る。翼から光が溢れ出て、すれ違った機体を焼き尽くしていく。斬り掛かってくる敵機に対して体を一回転して蹴り飛ばし、隙を見せた相手にビームライフルの銃撃を叩き込む。格闘戦のセンスもいい。
『ヴィクターさん、前に出すぎです!』
「また違うロボが出てきたぞ」
全身水色で白のラインが入ったロボだ。周囲のコスモクラフトより明らかに小さい。だがその射撃は正確で、敵のコクピットを一撃で貫きながら超高速で飛行する。コスモクラフト・ノーマルにどことなく似ている気がするな。
『現れたか。青い閃光。貴様も不死鳥もろとも落としてくれる』
『すまないエイデン。私としたことが、少々冷静さを欠いていたようだ』
『ここからは僕も戦います。水星を、みんなの故郷を奪われないために』
声が若いな。少年に近い男の声だ。だが戦闘では的確な射撃で味方を援護している。アンバランスなやつだ。
「解説役のノイジーさん、あれはなんだい?」
「水星軍のコスモクラフト・マーキュリープロトタイプですね」
「マーキュリー? 水星独自の機体ということかしら?」
「正解です。ノーマルタイプよりも小型でありながら、あらゆるスペックで上回る、水星でのみ開発中の機体です。パイロットはエイデン・レイヴン。若干18歳の天才パイロットで、青い閃光の異名を持ちます」
「ほー、漫画の主人公みたいなやつだな。随分と恵まれた野郎だ」
両親が水星軍の技術者らしく、本人もメカニックの才能があるらしい。通信映像を見ると、それはもうイケメン君だよ。黒髪に青い目の少年だ。顔も才能も家柄もガチャ大当たりか。気に入らんねえ。きっと人生楽しいだろうよ。
『アデル・ガルシア! あなたからは憎しみと自己顕示欲しか感じない。そんな人が水星に来るべきじゃないんだ!』
マーキュリーが高速でトレイターに迫る。大将の防衛に動くコスモクラフトが、全員一撃でコクピットを狙い撃ちされていった。
『年端もいかぬ子供に何がわかる? 身内を殺されたことがあるのか? 故郷を壊されたことがあるのか?』
『あなたがやっていることは、新たな死人を出しているだけじゃないか!』
トレイターのビームの嵐を避けながら、正確に射撃を繰り返すマーキュリー。だがビーム湾曲フィールドにより、生半可な火力では逸らされるようだ。
『ここは自分たちにお任せを! どうか不死鳥を落としてください!』
『囲め! 1機でできる限界を教えてやるんだ!』
『こんなことで命を投げ出すなんて!』
部下がぞろぞろと出てきては、マーキュリーを包囲する。それでも動き続けながら確実に数を減らし、味方の元へ帰っていく。敵に背中を向ける瞬間にも、数機撃破しているあたり化物だな。
「あの射撃、あまりにも正確すぎますわ」
「あれは狙っているとかいうレベルじゃないな。敵の移動先にビームが置いてある」
エースパイロットとはこういうものか。異次元の戦いだな。パラドクスじゃなければ戦闘になるか怪しい。先に見ることができてよかった。
『決着をつけるぞ、アデル』
『貴様を落とし、この聖戦に終止符を打つ!』
戦闘も佳境に入ったか。どうなるか見届けてやろう。




