過激派の旗艦に潜入せよ
水星観光を台無しにされたので、新国家設立を台無しにしてやろう。
ノイジーが早速、裏ルートの武器商人を見つけてくれた。
「今回のターゲットはシンデン・マーケット。要するに海賊もどきですね。盗品であろうと売りさばく裏商人です。ライトオブグローリーとの取引はゼロ。初対面のため、誰が入れ替わっていても気づかれません」
「こいつらを潰してガワだけいただく。武器を売るついでに連中の母艦に潜入する予定だ」
「危険です。見つかればハヤテ様がどうなるか……」
「そうですよー、遊びで死んじゃったらつまんないじゃないですか」
「そこは慎重にやるさ。計画もある」
こいつらの言い分もわかる。なので計画はしっかり練ってある。ホログラムに敵艦の見取り図と、シンデンの輸送艦を出す。
「いいか、輸送艦に乗っているのは4人。こいつらは殺す。あくどい真似して商品を作っている。戦災を利用したクズだ。さらに海賊を狩って武器と、できればロボをゲットする。相場よりも安く売れば食いつくだろう。そこからはナノドローンを飛ばす。今回は多脚飛行型だ。どこでも入れる。お前らはここで留守番な」
「まあ女の子がついていくのは怪しいですよねえ」
「危なくなったらすぐ戻ってくださいね」
2人が心配してくれる。今までで一番危険なミッションだからな。だからこそ、俺も無策ではない。必ず成功させてみせる。
「心配するな。ちゃんと保険はかけるさ」
「目標補足」
「よし、パラドクス出るぞ」
というわけでステルスで輸送船に近づき、低出力のビームセイバーで操縦室脅す。停止した船に声を変えて呼びかけた。
「貨物室のハッチを開けるから全員並べ。5分以内だ。逆らえば船ごと爆破する」
ノイジーのハッキングで外部ハッチを開き、コンテナを確認する。武器と機体を発見した。性能は低いらしいが、こっちは数が揃っていればそれでいい。
『何者だてめえ!』
「知る必要はない」
並んで宇宙服を着ている連中を掴み、宇宙に投げてビームで焼く。
『ぎゃああああ!?』
「船内に生体反応なし。鮮やかな手際ですね」
「どうも、そっちは?」
「10分前に全機能掌握済みです。どこにでも移動可能ですよ」
「鮮やかなお手並みだこと。それじゃあ内部を改造しつつ、海賊狩りだ」
付近の海賊を潰し、武器と機体をいただく。コクピットハッチをひっぺがし、人間をポイ捨てしたら、機体を持ち帰って修理する。戦艦はいらないから消す。持て余すものは持たないに限る。輸送船はノイジーが運転しているので、どんどん武装を運ぼう。ここまでは順調だ。
「よし、こんなもんだろ。アデルに追加のリストを送れ」
「了解。通常の20%引きで送ります」
「いいぞ。別に儲けたいわけじゃないからな。こういう取引ってビジネスメールでいいのか?」
「お好きにどうぞ。所詮裏の小さな武器屋です。礼儀正しさなど相手も期待していませんよ」
「そらそうだ」
というわけで文面を考える。お互いまだ直接顔を見せていないはずだ。それは輸送船の取引記録で把握している。なら付け入る隙はある。俺はシンデン・マーケットの名義で、暗号通信によるメッセージを送った。そしてしばらくすると返信が来た。どうやら初顔合わせだ。俺は中東系の30代男性の外見になっている。
「シンデンか」
画面に映ったのは、厳つい髭面の男。40代後半のベテラン軍人らしい、鋭い目つきと、肩幅の広い体躯。旗とでっかいデスクのある部屋が見える。他の人間の声はしない。部下が介入していないのはいいことだ。
「アデル・ガルシア様。シンデン・マーケットのシンデンでございます。割引商品、ご検討いただけましたでしょうか? 私もガデル様の志に共感し、特別に勉強させていただきました」
「追加リストは見させてもらった。質も量も悪くない。20%引きの理由は? 商人が損得も考えずに動くとは思えん」
アデルの声が低い。探るような響きである。だがこういう革命家は、情に訴えつつ損得で納得させればいけるはずだ。っていうかいってくれ。
「コロニーで生まれ育った身として、地球連合を根こそぎ始末してくれるなら、私の損失など些細なものですよ。ご検討のほど、何卒よろしくお願い申し上げます」
「コロニー生まれか。まあいい。直接の引き渡しと面会が希望とあったな。なぜだ?」
ここだ。正直ここが一番難しい。引き渡すだけなら旗艦に入れない。まじで難しいのだ。頼むから引っかかってくれ。
「アデル様に直接お会いしたいという気持ちがございます。とっておきの情報もございますが、通信では少々都合が悪うございます」
「信用ならんな。本心を話せ。コロニー生まれだと言ったな。私の志に共感するなら、話してみろ」
「アデル様、私の故郷のコロニーは、地球連合の資源独占で崩壊しました。戦火で唯一の身内である母を失い、裏商人に身をやつしました。商人と言えども人の子でございます。地球人を倒すなら、どんな武器でも安く提供します。アデル様の勝利が、私の復讐でもあります」
できる限り感情を込めて語る。俺に演技の才能があるとは思っちゃいないが、ここだけでいいから騙されてくれ。アデルはしばらく考え込み、ゆっくりと口を開いた。
「そうか……いいだろう。合流ポイントの座標は後で送る。その場で品質を確かめたい。万一罠なら、シンデン・マーケットごと潰すぞ。覚えておけ」
「承知いたしました。品質は保証いたします。発送は直ちに。信頼いただけるよう、全力を尽くします」
「期待しているぞ」
そして通信が切れた。その瞬間、俺の緊張の糸も切れた。息を吐き、画面外においておいたコーラを飲む。冷たさと炭酸で少し気分が戻る。
「はあ…………なんとかなったな」
「素晴らしいですわ!」
「うんうん、漫画の交渉シーンみたいでかっこよかったですよー!」
「そうかい、そりゃよかった。一応社会人だったもんでね。経験が活きたか」
あんまりやりたくないな。というか二度とやりたくない。相手が警戒心の強い軍人とか、経験ないんだよ。社会ごときに酷使されていた、つまんねえ元の世界の生活を思い出すしな。交渉するならこっちが上でいこうと思った。
「完璧な偽装でした。商人の演技も素敵です。ハヤテ様はそういった才能もあるのですね!」
「褒めすぎだ。だがここまでは完璧なはず」
「直接会えてよかったですね。これで厄介な場所はクリアしたんじゃないですか?」
「だといいな。ノイジー、ポイントが判明したらすぐにコロニーごと向かうぞ。輸送船も連れて行く」
「了解です。緊張を解すため、少しお休みになることを推奨します」
数時間後、輸送船に乗ってポイントへ到着。コロニーは少し離れた場所にステルスモードで潜伏させている。
「さてさて、第二関門いってみようか。シオン、リリー、ここからはあんまりおしゃべりできないから、アニメでも見て待ってな」
「どうかご無事で」
「どうせなら帰ってから一緒に見ましょう。待っててあげますよー」
「了解。行ってくる」
輸送船から通信をつなぐ。やはり緊張するもんだね。
「アデル様、シンデンでございます。貨物を積んで参りました。ドッキング許可をお願いいたします」
許可が下り、船が連結される。旗艦のハッチが開き、武装した兵士が数名、銃を構えて待機していた。アデル本人が先頭に立ち、厳しい目で俺を睨む。
「シンデンか。随分と素早いな。貨物を確認する」
「ありがとうございます、アデル様。コスモクラフトの修理済み機体8機、ビームガン20、ミサイルポッド10、バズーカ15、各種弾薬、ご確認ください」
アデルは部下に命じ、貨物をチェックさせる。兵士たちがコンテナを開け、機体を検品していく。部下の報告が入る。問題なしとされたようだ。
「ふむ……本気らしいな。よし、次は直接、別室で話そう。詳細を聞きたい」
完璧だ。俺は感謝の意を述べ、戦艦内へ案内された。旗艦の内部は、軍船らしく無駄のない構造で、まばらにいる兵士たちの視線を浴びる。確かこの辺にあるトイレのはずだ。
「すみません、トイレに行ってもよろしいですか? 長旅でして」
「すぐそこだ」
「ありがとうございます」
そそくさとトイレに入り、素早く目的の個室に入る。ここは上にダクトがある個室である。ドアが閉まると、ノイジーの声が響いた。
「完璧です。旗艦のレイアウトをハッキング済み。自動操縦で問題ありません」
懐から多脚型飛行ドローンを出す。ステルスモードのそれを、ダクトからそっと奥へと進ませる。
「いってらっしゃい」
小型で蜘蛛のような脚を持ち、静音で壁を這える。ノイジーが遠隔操作し、アデルの私室へ向かう。映像を一旦切り、怪しまれないうちにトイレを出る。
「失礼いたしました」
アデルは無言で歩き出す。誰にも聞こえないよう、ノイジーからの通信が続く。
「ドローン到着。アデルの私室換気口から侵入成功。カメラとマイク展開。いつでも動けます」
上出来だ。満足してアデルの用意した部屋に入る。軍人らしい簡素さだが、壁に地球連合の停泊位置と水星の鉱山データが貼られ、机上には酒瓶が転がっている。部屋からして会議室か何かだろう。
「情報とは何だ?」
「現在判明している金山の位置と、地球連合の動向をこちらに」
「ほう、どうやってこれを?」
「水星にも地球連合に金塊を取られるくらいならば……と考えるものはおります」
ステルスで連合の艦隊に近づいてハッキングかけた。情報は本物だ。金山の位置は全部書いたわけじゃない。こいつらが把握しているものに少し加えただけ。本当にちょっとしたおまけである。
「使えるな、シンデン。覚えておこう」
「ありがとうございます。次に水星の出方ですが……こちらに」
「……ほほう、やつらも必死か。だが我々が立ち上がれば情勢は変わる」
そんな感じで密談は滞りなく終わり、バレる前にさっさと輸送船に戻って帰った。ここからは自分の部屋で報告を待てばいい。次の展開が楽しみだ。




