穏やかとは言えない日常 ⑵
やって参りましたカンセイ男爵領の冒険者ギルド。何故に?問うてはいけません。成り行きです。あの獣道を抜けカンセイ男爵領から通常移動で男爵家まで案内して貰ったの。揉めないよ。そこでかくかくしかじかとか云ちゃん話しも滞りなく終ったんや。メデタシ?
予定であるキンセイ男爵領での合流日は明日だから、ここで歓待されちゃう事にした。美味しい気持ちの入った普通の昼食を終わらせ、午後はちょっとした時間潰しの今なんです。気持ち・・気持ちだけだけど貰っておいたよクスン。
要請したキンセイ男爵領で牽制する騎士達は、あちら側の検問場所に向かったらしい。明日早々に決着させるつもりだから、厳戒体制も長くは引かないし。
「え、ええっと、領主様のご子息様のメグレル様?本日はどの様なご用件で御座いますか?」
「はい、メグレル・カンセイです。今日はこちらのテライース伯爵様が冒険者ギルドに用向があるとの事でお連れしました。」
イエイ、そんな俺でーす。サルの話しでちょっとな。ほぼ暇潰しだけど。案内人は自己紹介どおりにここの領主の子息、さっさ会ったばかりだけど勇者のファンらしい。俺の用事がひと段落したから、暇潰しの案内をしてくれている。
この建物の中に入ったのは、同じ暇人の<メイサ>と双方の騎士が4人とウザったい賑わしなってしまった。早く用事を片付けよう。
「紹介されたテライースだ。一応冒険者でもある。」
はい、ギルドカードもあるからね。あるあだよ。喋り方も余所行きの貴族みたいな横柄な輩を演じます。本当だよ?演技は大事だし。サルにイラついたのは確かだから。サル撲滅は悲願だもの。
「・・Bら・・職業が勇者?しつ、れいしました。」
「おい!」
「はっ、はいぃぃ、すいません」
「いや、悪い。其方に文句が合った訳じゃない。その職業欄?なんで勇者に成ってんの?」
「・・申請してませんか?」
「してねえ・・」
なんだ申請?俺は勇者やってましたって言ったけど申請だったの?いやいや、申請だけで成れるシステムとかおかしくね?国王とかいけちゃうのか?首が飛びそうだけど。
「主さまー、王都の指導官とか何とかが絡らみましたよね?最後まで睨みだけで圧倒したじゃないですか。受付嬢もテンぱってましたしギルドマスターも土下座しましたからヤバ勇者なんでしょう」
「あいつら・・今度会ったらぶっ飛ばすか」
「破裂しますからダメですよー」
「もっ、持っ、申し訳」
「いやいい。そこは王都の不始末だから問題無い。その、冒険者登録に向かったら変なのに絡まれて、威圧で脅かしたらBランクを押し付けられた感じだ。昔の事だな」
「主さまーひと月は立ってません」
「おおぅ。あっ、あれだわ!シズセイヤ伯爵領からこちらに来た時に、山林だか林らしき所を通ったら猿の軍団に出くわしたんだ。その事でちょっと気に成ったから、何か情報があればと寄って見た。」
うん、気まずい時は速攻で話題を変える。彼女を連れている時に見映えの良い女の子に目が捕られるあれだ。女の子なら誰でもとは言っちゃダメ。否定出来ないから言い出さない。
「ああ、軍団と呼べるのかは解りませんが、こちらにも11頭の群れの報告があります。」
「・・11頭?・・」
「はい、近隣の者達から駆除依頼が出されています。ギルドも農作物の被害を確認しましたから、その依頼は受理されたのです。あちらにお座りのパーティが現在その依頼を遂行中ですね」
おお、中に入ったときにテーブルを囲んでいる1組のパーティは見えていたんだ。彼等が・・これって俺が獲物横取り案件かしら?
「木の上をすばしっこく逃げ回り、攻撃もあったりと苦戦中との事でした。現在までに討伐出来たのは3頭ですか。少し時間が掛かりそうですが、優先して対処して貰います」
「それなんだがこっちが襲われた場合はどうなる?手出しはご法度なのか?」
「いえ、これから討伐依頼を受けるのは難しいですが、対処して頂くのは問題ありません」
「そうか。・・なら問題ないな。ちょっと生意気な顔でこっちを煽ってきたから、我慢に耐え兼ねてちょっとくらわした。」
「主さまー余程サルが嫌いらしく見た瞬間にボンとしてましたよ。あれはちょっと可哀そうに見えましたねーでもいい気味でした」
「<メイサ>も嫌ってんじゃねえか」
「似たもの同志ですもの」
似た魔力同志じゃないかな?丸っと俺の魔力で出来ていそうだ。あれ?分身かもしれん。そして以心伝心だからな。サルボンと俺を呼んでくれ。
「ええっと、何頭か討伐したのでしょうか?」
してるよ。受付嬢が言ってた頭数に間違いなければ、合わせれば依頼は終わりだろう。ちょっとムカついたから纏めて締めたし。サル顔はムカつき最高値で爆買いしてやる。
「ああ、纏めてボンしたからここに8頭持って来ている。これは何かに使えるのか?」
「はい。どの位の傷み具合によりますが、肉と毛皮は素材の評価が付きます」
ならばと交渉しました。その結果は討伐依頼の達成ポイントに、討伐報酬と素材換金の形だな。中途半端に成ってるパーティは、ポイントは半分預かりになり俺が貰えるお金を全て渡した。まあお詫び代で良いだろう。
現場で獲物の横取りじゃないし、ムカつき顔に鬱憤は晴らしたからな。案内人のメグレル君はパーティの奴等にお金を渡した時は驚きと崇拝したような目で為政者を見ていた。まあ俺だ。
<メイサ>が最近溜まった鬱憤を晴らしていただけと言ったら、それから冷めた目が追って来る。言わ猿退治だったのに。
今日は慌ただしい1日だった。あわあわです、ぷくっと膨れたらパーンするあれな。カニの泡泡じゃないよ。直ぐに弾けなかったりするもの。弾けずに慌てる?お前だけにしとけ。
ここからは慌てず騒がすの夕食タイム。冒険者ギルドの後に潰せる暇潰し場所が無かったからいそいそしました。
だって昼食で痛い目に合ったから、仕返し・・其れ也の食べ方を教授しなきゃねえ。シズセイヤ伯爵領の台所を担う近隣の領なんだけど、小麦の不作が未だに尾を引いている。ダイレクトには備蓄問題だな。
その対策が陸稲になっているから、そっちの備蓄量は潤沢と呼べつつあるらしい。
だからの実食!古米じゃねえか!見分けが難しいって?漬け置きで対策しようよ。ああ、古米っぽいのは米粉にしちゃおう。
挽いたね、ドン引きだったよ。轢き逃げされた気分だ。朝飯も食わずにこの領に突っ込んで来たのが不味かったのかな?サルにも遭遇したし。
ここで米粉作りに奮闘するとは思わなかった。でも作ったよ、もっちもち食感のなんちゃって米粉ピザ・・貝柱多目にいってる。在庫過多なので。
多種キノコ三昧もいけるし、スープも・・小魚と貝柱から出汁も取ったからね。スープは野菜も増し増しでポトフっぽい何かだ。クリーム味です。くすねて来てます。自前になっちまった。
米の炊き方を知りたいとか・・ご飯におかずがピザなのはどうかと思う。
もう丼物しかないだろ?ないよね?玉ねぎに玉ねぎで玉ねぎなんだよ。玉らない。普通のネギもある?どっちでショー。
ほうほう、新鮮なサルの肉が入ったと・・そんなに癖が無いらしいので、ちょっと濃いめの甘辛にし卵でとじといた。贅沢は敵だよ。
「・・そうですね、今は諸事情から時間が取れませんが、早急に此方の領に顔を出しましょう。小麦を抜かした農産物が豊かですからね。手付かずの農地を早急に対処しましょう。後は商業ギルドに調味料の元に成っている物で、育成が可能な物も手配します。諸々の資料がありますから、彼等にはしっかり働いて貰います。」
「・・商業ギルドが・・上手くいけば良いが」
「大丈夫ですよカンセイ男爵。どの地域で育てられるかの実績を資料として持っています。無理な物は買い込み、作れる物は量産して売りましょう。シズセイヤ伯爵領はその政策を進めています。それとメンドセイ侯爵領の生産物も、こちらに購入出来る事は確約済ですから。」
ん?男爵は不安の折り合いに苦労顔だが、子供達は話しより食事を楽しんている。あー調味料なしの薄味ばっかりだから、それに遣られてるのね。化学調味料に誤魔化された現世の食事と一緒か。あっちは薬臭かったけどな。
こっちの世界の食物はそこそこ味は濃いけど、クセも一緒に出ているからな。えぐみに渋みに青臭い、ばりっばりの原種野菜だもの。
じゃが芋がじゃがじゃがしてなくて根芋の長紐だったりする。責任者責任取れ!前の俺が責任取らされたじゃないか!
土だよ土、そこそこ柔らかく耕さないと根を張ります。ヒトデみたいになっちゃったテヘ。
ほうほうピリ辛が良いと。へっへへ、誤魔化しですが何か?舌が痺れて味が解んないよね?味覚失調だよね?苦い物食べなきゃそのまま行けるよ。混ぜたら危険!辛みと苦味。
「メグレル君は本当にキンセイ男爵領に一緒に来るのですか?お妹様も心配してますよ。」
「はい。妹のマグレナは結構な心配性なんです。傍にいないだけでオロオロしますから」
「酷いですお兄様!マグレナはそんな気弱な女ではありません。ですがキンセイ男爵領は適地ですよね?現地部隊までの合流は少数精鋭で当たるとお聞きしています。ならば心配にも成ります。」
「それこそ不安はありません。僕はテライース伯爵様と帯同出来るのです。」
おおっ、こっちに火種と視線が来ちゃったよ。メグレル君の決意は変わらないみたいだから、ここのわちゃわちゃはそのままスルーしよう。
「<メイサ>どうかなこの領は?」
「うーんほんわかし過ぎでしょうか?せめて領政くらいはガツガツしていても良いでしょうね。」
「そっか。まあいいんじゃない?こっちで勝手に推し進めるから。普段考えも及ばないような事をさせても、そのうち慣れるんじゃないかな?アセアセさせながらちょとだけ楽しくさせれば持続するだろうし。」
「継続して手が掛かりますが、主さまが納得なら問題ありません。」
「うん、必要なスパイスはスローライフに欠かせないからね。其れより目的地の様子はどう?」
「変わりませんねー。ずっとビビリっぱなしです。こう成ってしまったから、周りの全てが敵に見えるのでしょぅ。逃げる事も考えられず、外の様子にもカリカリしてます。下の姉弟へのあたりも悪くなりました。これでは兄の為にと、此方に恩情を願う事はほとんど無いかと。」
「そうか。なら舞台しだいだね。その姉弟が非情者に見られなければいい。必要な役者を揃えればいいね。愚者息子の取り巻きの家族達はどうしてるの?」
「取り巻き達は家に戻りませんから、詳しい状況が掴めていないのでしょうね。明日は家族の所に別動隊を向かわせて、取り巻きの救済などを願う者は同罪に扱うと説明しましょう。それに、碌に働かない者達をこのまま養う者もいないでしょう。農民意識はそんなものです。」
「それでいっか。まず合流場所にメグレル君達と同行する護衛騎士で向かい、同行する説明やらここからの対処の変更も伝えなきゃだし。それも優先事項だろうから。」
「その最後に伝えて貰えるなら、サルの肉は筋が多くて美味しくなかったと」
「あはははって、筋切りばっちしするかホロホロまで煮込めばましになるんだよ。もう食べるつもりはないけど・・あれ?フラグったかも?又いつか食べそうだ」
「大丈夫です。今度から口にしたら魔力に変換しちゃいます。私は演技派ですから」
「・・・」
マジかー・・いやいや、そんなん出来るの<メイサ>だけだ。魔力を取ってもお腹が膨れる事は無いからな。それにどうにか出来る様に成ったとしても、食べる欲を失くしたくはない。多少の不味い物だって品数だと割り切れば飽きもこないし。
美味しくする努力は大事じゃないかな?





