【SS】手折りたいひと
文字書きワードパレットより、No.20『カフネ』(探す・白百合・髪)。
婚約時代。エディが魔法学院から帰ってきたばかりのころ。
トントントン。トントントン。腕を組み、右手の人差し指でもって一定のリズムを刻みながら、エギエディルズは溜息を吐いた。
遅い。いくらなんでも遅すぎる。
そう内心で呟きながら、深く被ったローブのフードの下で整った眉をひそめる。
待ち合わせ場所にと選んだ王都における観光名所のひとつ、大広場の噴水の傍らに佇む黒蓮宮のローブをまとった長身の青年の姿は、大層衆目を集めている。だがしかし、その人物――すなわちエギエディルズが放つお世辞にもご機嫌とは言い難い雰囲気は、見る者を怯えさせるに十分なもので、周囲の人々の視線は集まっては散る、を繰り返している。
よほど親しい者の前か、あるいはよほど気分を害したときを除いて、感情の起伏をあまり表に出さないと言われているエギエディルズが、町中でこれほどまでに解りやすく苛ついている理由など、たった一つだ。
すなわち、先達て七年ぶりの再会を果たしたばかりの婚約者――フィリミナ・ヴィア・アディナである。
エギエディルズは本日、彼女と出かける約束をしていた。魔法学院から帰ってきて、はじめての二人きりの外出だ。
近く、エギエディルズの養父であるエルネストの誕生日を控えており、どうせなら一緒にプレゼントを探しに出かけては、というフィリミナの母であるフィオーラによる提案が事の発端だった。
流石フィリミナの実母にしてエギエディルズの未来の義母である。すばらしい提案だった。
自分で言うのも何だが、どう頑張っても自分から『ふたりきりのおでかけ』なんて提案できるはずもないという自覚があった。だからこそエギエディルズは、一瞬思考が停止したものの、それでも「構わない」とその提案に即座に頷いた。
だがしかし、だがしかしだ。
母の提案に驚いたように目を見開いていたフィリミナは、しばしの沈黙の後に、「エディはお忙しいでしょうから」と遠慮がちに辞退しようとしてくれたのである。
冗談ではなかった。彼女が元よりとてもとても……それこそ歯がゆいほどに気遣い屋であることは知っていたが、その時ばかりは久々に心の底からなんていらない気遣いなのかと頭を抱えそうになった。
この機会を逃したら次がいつになるかなんて解ったものではない。なんとか「俺がたった一日の休暇で遅れを取るような仕事をしていると思うのか?」と低い声を絞り出し、かろうじて……本当にかろうじて、約束を取り付けることに成功したのが先日の話だ。
そして本日。いよいよ『ふたりきりのおでかけ』当日である。
昨夜遅くまで黒蓮宮にて今日の分の仕事まで片付け、胸を張って休暇を満喫できる状態にまで持ち込んだ。
何を着て出かけていいものか解らず、誰に舐められることもなく、隣に立つフィリミナも恥ずかしくはないだろうと思われる黒蓮宮のローブを羽織って待ち合わせ場所にやってきた。
あまり早くやってきては、気遣いばかりがお上手な婚約者殿は恐縮してしまうだろうから、きっかり十五分前。我ながら悪くはないと思われる時間帯に到着できたと思ったのが、今から四十五分前。
そう、四十五分前。
つまりエギエディルズは、待ち合わせ時間から既に三十分間、待ちぼうけをくらわされている訳である。
あのフィリミナが連絡もなしに約束を反故にするとは考えにくい。ならば何かあったのかもしれないと考える方が妥当なところだ。
しかし敬愛する養父曰く、「女性が少しばかり遅れてくるのは、駆け引きの手段としてはよくあるものなのだから、お前はのんびり待ってあげるんだよ」とのことである。なるほどそういうものなのかと納得し、三十分待ち続けているのが現在のエギエディルズである。
「お前は少しせっかちなところがあるからね」と養父に苦笑された手前、本来ならば待ち合わせ時間になったと同時に探しに行きたくなる足をなんとか理性で押し留めていた。
だが、もう、限界だ。
何せ三十分だ。たかが三十分と言うなかれ。三十分『も』、エギエディルズは待った。もう勝手にさせてもらっても文句は言われないはずだと自分に言い聞かせ、いざ、と足を踏み出す。
フィリミナの住まうアディナ邸と、この大広場の位置関係から考えれば、フィリミナがどういう道順でここまでやってくるかを想像するのは決して難しいことではない。もっと言ってしまえば、風の精霊に少しばかり問いかけてやるだけで、彼らはたやすく彼女の居場所を教えてくれるだろう。
確実性を取るならば後者一択なのだが、何故だか今のエギエディルズは、後者を選びたくなかった。自分の力で、フィリミナを見つけたかった。
石畳を蹴り上げるたびに硬質な音が高らかに響き渡る。その音が示す通りの急ぎ足で、エギエディルズは視線を左右に巡らせながら歩を進める。
それからどれだけ歩いたか。
大した距離ではなかったはずだというのに、エギエディルズにとっては果てしなく長いそれに思えてならない道のりの最中、不意に聞き慣れた声がかすかに耳朶を打った。賑やかな王都の雑踏の中では、聞き逃してしまっても何ら不思議はない、微かな声だ。
先達て七年ぶりに耳にして、時間をひねり出しては会いに行き、最近になってようやく『聞き慣れた』と言えるようになった、エギエディルズにとっては聞き逃すことなどありえない、その声。
ぴたりと足を止める。そして導かれるようにその声が聞こえた方向へと向かう。
黒蓮宮の魔法使いを前にして誰もが自ら道を開けてくれるのをいいことに向かったその先は、少しばかり大通りを外れた、緑豊かな公園だ。
決して大きくはないながらもよく手入れの行き届いた公園の、その片隅に、朝焼け色の目を向けたエギエディルズは、無意識に安堵の溜息を吐いた。
木々に囲まれた備え付けのベンチの前に、ようやく探し求めていた人物の姿を見つけたからだ。
「……何をしている?」
「――――エディ?」
つかつかと大股で歩み寄れば、驚いたようにフィリミナがこちらを見上げてその瞳を大きく瞬かせる。幼い少女めいた仕草につい目を奪われていると、彼女の隣で、「うわっ!?」と驚いたような声が上がった。
はたと気付いてみれば、妙に軽薄な印象を抱かせる顔立ちの青年が、そこに立っていた。
すっかりフィリミナばかりに気を取られ、彼のことなど完全に視界から追い出してしまっていた。だが気付いてみれば、放っておく訳にはいかない。何せその青年の手が、今にもフィリミナに触れようとするかのようにふらちに伸ばされていたからだ。それが許されてしかるべきなのは、この自分――エギエディルズ・フォン・ランセントだけだというのに。
込み上げてくる苛立ちのままに睨み付ければ、深く被ったローブ越しではその視線は見えないはずだというのにも関わらず、青年は大きく身体を震わせ、「そ、それじゃあっ!」と、慌てたように走り去っていってしまった。
もう彼が二度と戻ってくる気にならないようにと、その後ろ姿をじっとりと更に睨み続けていると、「もう、エディったら」と困ったようにフィリミナが苦笑する。
「せっかくご親切にわたくしを助けてくださろうとした方でしたのに」
「…………助ける?」
どういう意味だ。
まさか待ち合わせ場所である大広場までの道のりに迷った訳ではないだろう。
良家の子女でありながら、お供の一人も付けずに王都のあちこちを出歩ているのだと、乳母であるシュゼットが嘆かわしげに溜息を吐いていることは知っている。
そんな彼女が今更道に迷うとは到底思えない。
訝しげに首を傾げてみせると、フィリミナはなおも困ったように微笑んで、ちょいちょい、と自らの髪を引っ張ってみせた。
「その、髪が枝に引っかかってしまいまして……」
「なんだと?」
彼女が引っ張った髪の束の先を愛で追いかける。彼女の長い髪のその一束は、確かに上方へと伸び、天に向かう木の枝に絡まっていた。
なるほど、これでは身動きが取れるはずもない。しかもこの位置では、自分でほどくことも叶わないだろう。先程の青年は、そんなフィリミナを助けようとしていた訳だ。
なるほどなるほど。そこまでは恐らくは正しく了解した。そう納得していると、「約束のお時間に遅れてしまって申し訳ありません」と肩を落として謝罪したフィリミナは、すいとその手をエギエディルズへと差し出した。
一体何のつもりだとこれまた訝しむエギエディルズをよそに、フィリミナはさらりと続けた。
「申し訳ありませんが、ハサミかナイフをお持ちではありませんこと?」
「待て。仮に俺が持っていたとして、それで何をするつもりだ」
「え? ですからこう、引っかかっている髪を」
ばっさりと。そう身振り手振りで示してみせる婚約者に、エギエディルズは激しく頭痛を感じた。
そう容姿に頓着しているつもりはない――というと「そのツラで何を言う!」と某義弟(予定)には怒鳴られるのだが――エギエディルズですら、貴族の子女の髪がどういうものなのかということくらいは知っている。長く伸ばされた髪は一種のステータスだ。長く伸ばしても手入れが毛先まで行き届いた髪は、それだけの余裕が家に余裕があることを示すという。そうでなくても、普通に考えて、女性にとって髪の毛とは特別な意味を持つ大切なものだろう。
それなのにこの婚約者ときたら、何の気負いもなくあっさりと、「ばっさりと」なんて言ってくれるのだ。馬鹿なのだろうか。
「馬鹿なのか」
「だ、だって、もう随分とあなたをお待たせしているのに……」
気付けば内心の呟きをそのまま口にしていたエギエディルズに、フィリミナは気まずそうにもごもごと言い訳を口の中で転がしている。一応、自分が相当まずいことを言ったという自覚はあるらしい。自覚があっても行動が伴わなければ何の意味もないのだが。
何がハサミだ。何がナイフだ。そんなものよりも頼るべきものが、目の前にいるだろう。
「身体を反転させられるな? よし、そのまま動くな。じっとしていろ」
「は、はい」
何をされるのかと怯えてでもいるのか、いかにも戦々恐々とした様子でこちらに背を向けるフィリミナの髪に、エギエディルズは手を伸ばす。
絡まっていた髪は、驚くほど簡単に枝からほどけた。初めて触れる淡い色の髪は、驚くほど柔らかかった。フィリミナは相変わらず大人しくこちらに背を向けたまま。それをいいことに、エギエディルズは絡まった髪に難儀しているように装いながら、そっとそのひとふさを持ち上げる。
フィリミナは気付かない。七年間、幾度となく触れることを、指を通すことを、夢見た髪だ。引き寄せられるように、そのまま唇を落とす。
くんと鼻を鳴らすと、紅茶とも薬草とも菓子とも異なる、気品ある甘い花の匂いがした。
「エディ? どうでしょうか。ほどけまして?」
恐る恐るかけられた問いかけに、はっと息を飲む。その呼吸が、気付かれない程度に小さなものであったことに安堵する。
それでも何かしらの違和感を感じたらしいフィリミナは、不思議そうにこちらを振り返ってくる。
するりと指の隙間からすり抜けていく長い髪が、どうしようもなく名残惜しかった。思わず追いかけそうになってしまった手を全身全霊をかけた理性でもって押し留め、エギエディルズは未だ鼻に残る甘い匂いを噛み締める。
いつもフィリミナのそばで感じる薬草茶の香りとは異なる、どこか気取った香りだった。
香水でも付けているのか。珍しいこともあるものだと思いつつ、いつも通りの無表情でエギエディルズは口を開いた。
「そもそもどうしてこんなところを通ろうと思ったんだ。大通りを歩いてこればよかっただろう」
この公園は、アディナ家から大広場までの道のりを普通に進もうと思えば通ることはない場所だ。それも、わざわざ髪を木にひっかけるなど、茂みを突っ切るような真似でもしない限りはあり得ない。何がどうして先程のような状況に陥ったのか。
自分が見つけられなければどうなっていたことかという苛立ちが、自然と声音ににじんでしまう。
そこはかとなくエギエディルズの目が据わっていることを、ローブ越しであるにも関わらず何故だか理解したらしいフィリミナは、落ち着かない様子で忙しなく両手の指を組み替えながら、「ええと」と言葉尻を濁らせた。
「準備に手間取ってしまいまして。こちらが近道だったものですから、つい」
「準備?」
思ってもみなかった言葉を、そのまま反芻する。そしてエギエディルズは、ようやく……本当にようやく、フィリミナの今の姿を頭のてっぺんから足の爪先まで、しかと確認した。
フィリミナの、常ならばシニヨンにまとめられている長い髪は、銀細工のバレッタで飾られて背に流されている。いつもならば地味な色合いにシンプルなデザインのものばかりを好むくせに、今日に限ってわざわざ白百合が可憐に刺繍された、華やかながらも上品なドレスに身を包んでいる。
先程鼻をくすぐったのは、白百合の香りだったのだろう。わざわざドレスに合わせて香水まで用意したらしい。
普段のフィリミナからはあまり考えられない、いかにも良家の子女といった姿は、いくら彼女が十人並みの容姿であるといえども、その辺のよからぬ考えを抱く男どもを引っかけるには十分魅力的なものだ。
それもこれも、エルネストの誕生日プレゼントを選ぶためのものだと思うと、いくら敬愛する養父相手であったとしても複雑になる。正直、心中穏やかではいられない。
「そんな姿をしているから引っかかったんじゃないか」
ただ単純に枝に引っかかるばかりではない。余計な虫まで引っかけてくれた。
よく見ればドレスばかりではなく、髪を飾るバレッタも百合の意匠だ。
白百合は純潔を意味するという。自ら手折ってくれと言わんばかりの姿が、やけに腹立たしかった。
養父がすばらしい人物であるとは誰よりもよく理解しているつもりだが、それでも自分ではない他の男のために着飾っている婚約者の姿など、見たいものではない。
本日の『ふたりきりのおでかけ』を望んだのは間違いなく自分自身であるとはいえ、フィリミナの当初の遠慮ぶりも踏まえるに、もしかしたら『ふたりきりのおでかけ』は失敗であったのかもしれないとすら思えてしまう。
無意識に拳を握り締め、気付かれない程度に唇を噛み締めるエギエディルズに、フィリミナは微笑んだ。その微笑みに、諦めが見えたのは気のせいだったのか。
「そう、ですね。仰る通りです」
そのままフィリミナはこうべを垂れて俯いてしまう。その寸前にこちらへと向けられた眼差しに、落胆がにじんでいたように見えた。
ああ、まただ。またやってしまった。
いつだって笑っていてほしいと思っている。それは確かな事実であり、偽りのない本音だが、そんな風に笑ってほしい訳ではない。どうしようもない衝動が胸の奥底から込み上げてくる。
どうか、笑ってくれと。そう、たった一言、伝えることができたなら。
「まあ、似合っていないことは、ない、が」
「!」
そうして気付けばぎこちなく、無意識にこぼした小さな声が、聞こえたのだろうか。
驚くほど勢いよく、フィリミナのこうべがバッと持ち上げられる。何を驚いているのか、大きく見開かれた瞳は、確かに潤んでいた。
七年ぶりに再会したあの日と同じように輝いている瞳に見惚れ、息を呑むエギエディルズに気付いた様子もなく、フィリミナはそっと口を開く。
「……ほんとうに?」
いかにもおそるおそる問いかけてくる声には、今度は隠しきれない期待がにじんでいた。この婚約者が何を自分に期待してくれているのかは解らなかったが、その意味を考えるよりも先に、気付けばエギエディルズは頷いていた。だって本当に、今のフィリミナの装いは、普段のイメージとは異なれど、確かにこれはこれでとてもよく似合っていたからだ。
養父のためだと思うと悔しいし、先程の青年の方が先にこの姿を目にしていたのだと思うとなおさら腹立たしいが、それでも今のフィリミナは確かに美しかった。
世間一般で言えば「それなりに」や「十人並み」や「よくて中の上」と言われようとも知ったことではない。エギエディルズにとっては、いつだってフィリミナは、他のどんな相手よりも、誰よりも、いっとう美しく思えてならない存在だ。七年前から、その思いはちっとも変わらない。
それがいいことなのか、悪いことなのかは、正直なところ解らない。けれどそれでいいと思えるし、これからも変わることなどないだろうという確信がある。
白百合だって、どんな花だって、フィリミナのことをきっと何よりも輝かせてくれるのだろう……と、そこまで思ってから、ふとエギエディルズはまじまじと再びフィリミナの姿を見た。
その視線に気付いたフィリミナは、何やら居心地が悪そうに縮こまり、そわそわと身動ぎをする。
ああ、やっぱり。
「白百合も悪くはない。だが」
「……なんでしょう」
「お前には、雛菊の方がよく似合う」
「!」
どうせ同じ白い花なら、白百合よりも――いいや、他のどんな花よりももっとずっと、雛菊の方が、フィリミナに似合うに決まっている。
どういうつもりで今日フィリミナが白百合を選んだのかは知らないが、よくよく考えてみれば、今日彼女が雛菊の装いをしていなかったことは僥倖であると言えるのではないか。とっておきの、最高の雛菊の装いは、いつか自分のためだけにしてもらえばいいのだから。
自分はもうさんざんフィリミナを待たせてきたのだから、それくらいならば自分だって待てるつもりだ。……もちろん、早いに越したことはないけれど。
「そろそろ行くか。養父上にはローブピンあたりを贈ろうかと思うんだが……フィリミナ?」
なんとか自分の心中でさまざまな葛藤に折り合いをつけてから声をかけたのだが、何故かフィリミナは、両眼をまたしても大きく見開いて、ぽかんと口を開けていた。
こちらを見上げてくる瞳には、「信じられない」とでも言いたげな光が宿っている。
どういう意味かと首を傾げてみせると、慌てて彼女は何度もかぶりを振った。
「い、え。なんでもないのです。そうですね。ええ、わたくしも、そう思います」
噛み締めるように紡がれたその言葉に、なんだかんだ言いつつやはりフィリミナと養父のための買い物ができることは喜ばしいことだ。
どうやら彼女もエギエディルズが挙げたローブピンという案に賛成のようだし、早めにプレゼントを決めて、余った時間をどこかの喫茶店で過ごすのもいいかもしれない。
そう結論付けたエギエディルズは、くるりと踵を返した。
「行くぞ。はぐれるなよ」
「はい、エディ」
一歩遅れそうになったところを、小走りになったフィリミナはそっとエギエディルズのとなりに並ぶ。
はぐれるなと言うくらいなら、手を取って引き寄せ、腰を抱いて寄り添い歩くくらいのことをしてみせたらいいのかもしれない。自分達は確かに婚約者同士なのだから、それくらいのことは許されるべき当然のことだ。
けれどできない。できるものか。それができたら苦労はしない。
せめてここで手を差し伸べることができるのなら。それすらも今のエギエディルズには許されない。手は繋げない。少なくとも、今はまだ。
ただとなり合って歩くこの道のりが、どこまでも続いていたらいいのにと。
エギエディルズは、隣の婚約者がまったく同じことを思っていることなどつゆしらずに、ただそう願わずにはいられなかった。




