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第8話 ジパング防衛戦③

「私が俊を育てます。私が借金を返します」

「お姉ちゃん……?」

「大丈夫だよ俊。お姉ちゃんがちゃんと守ってあげるから」

俊を優しく抱きしめる女性。

それは俊の救われた記憶。

「お姉さんは……残念でした」

軍人の1人が俊に言ってくる。

「犯人は能力者らしいわよ……」「魔物って聞いたわよ?」

「能力者だとして、どうして感知能力者に感知されなかったんだ?」「証拠がなにも見つかってないって……」

それは俊を絶望におとした記憶。



「『炎帝魔装』」

アンドレイがそう言った瞬間、彼の身体は炎につつまれる。

そして炎が消えると、少し黒みがかった炎の色をした鎧をつけたアンドレイがそこにいた。

「さあ、やろうぜ!」

なぜアンドレイという人間が魔物側についているかなんてわからない。

しかし、そういった人間がいるせいで苦しむ人がいる。

そういった人間のせいで自分を愛してくれた人はいなくなってしまった。

俊には戦う理由が十分にあった。


「お前らみたいなのがいるから……」

俊は憎しみをこめた視線をアンドレイにむける。

「あん?」

「お前らみたいなのがいるから義姉ねえさんは!!」

いつもめんどくさがっている俊からは想像できないほどの速さ。

とっさのことでアンドレイは反応できない。

ガンッ!!

「がっ!?」

俊は6大属性の炎、風、水、風、闇、光。そのすべてを右手にまとわせアンドレイを殴る。

顔面を殴られたアンドレイは地面にたたきつけられる。

「まだだ!!」

ゴッ!!

地面にたたきつけられ、その反動で浮いたアンドレイはまた地面に張り付く。

夜が勇者選定でやったような重力操作。しかしその威力は人を殺さない程度にやっていた夜とは次元が違う。

「ぐ!?がっ!!」

みしみしとアンドレイの身体から音があがる。

「まだ潰れないのか……その鎧か?」

俊は冷めた視線でアンドレイを見下ろす。

「     」

アンドレイがなにか言おうとするが圧迫されているため声がでない。

「お前らみたいなのは……死ねばいいんだ」

ドォォォォォォォン!!

『終焉の雷』

それを俊は無詠唱で行う。

『終焉の雷』は一点に絞りこまれ、アンドレイの身体をつらぬく。

「…………」

周囲に『終焉の雷』の余波である電気が走っている。

ヒュー……ヒュー……

アンドレイはなんとか息をしている状態だった。

アンドレイの鎧が消える。

「まだ……生きてる……」

俊は虚ろなまなざしでアンドレイを見る。

ゴッ!!

『黒く重い星』の1センチサイズを周囲に展開させる。

それは100を軽く超える数だった。


「それでなにをするつもりだい?」

俊の後ろから夜の声が聞こえる。

「これをこいつの身体の中に転移させる」

俊はアンドレイを見ながら言う。

「そんなことしたら身体は破裂するだろうね」

「そしたら確実に殺せる」

「……君はそれでいいのかい?」

「え?」

「君になにがあったかなんて知らない。聞こうともしない。でも君はそれでいいのかい?」

「…………」

俊は考える。義姉さんは本当にこれで喜ぶのか、と。

「でも……こいつらは……義姉さんを……!」

ぎゅっ……

「夜……?」

「君は優しい子だからね」

夜は俊をだきしめる。

「う……」

「男の子が泣いちゃいけないよ?こいつはちゃんと国に引き渡そう」



「国を守ってくれた勇者に乾杯!」

防衛戦が終了し、城ではパーティーが行われていた。

夜とクランは軍に勧誘されている。

俊は……

「うまっ!こんなの食べたの初めてだ!」

とにかく食っていた。

並べられた料理の中に雫が作ってくれた料理があることに俊は気づかない。

なんとも最低な野郎である。

とにかく食っている様子から、軍は俊に声をかけられずにいた。

「絶対にこの先こんなもの食べる機会なんてない……!だから今日で一生分食べてやる……!」

「ご主人様……口が……」

クランが近寄ってきて俊の口を拭く。

軍の勧誘を断り続けやっと解放されたみたいだった。

「お、ありがとなクラン」

「いえ……これもメイドの仕事ですから……」

「さすがにパーティーのときくらいメイド服脱げばよかったのに」

クランはメイド服だった。

「希望でしたら今すぐ脱ぎますけど……?」

クランがスカートに手をかける。

「そんな意味じゃないから!ドレスとか着ればいいのにって意味だからね!?」

「そうですか……」

「なんでそこで落ち込むの!?」

「いえ……私のストリップを見てご主人様がオオカミさんに……わん」

「あれ?語尾が……それよりも!クラン15歳だよね!?」

「わん」

「気に入ってる!?てか、かわいいな!おい!」

「15歳というのはそういうのに興味を持つ年齢ですから……」

「あー……そうだね……」

「今夜は一緒に寝ますか……?」

「はい!?」

「もう……ご主人様のえっち……」

クランが頬を染めながら言う。

「ついていけない!!」

「冗談です……」

「どこから!?」


「もうちょっと静かにできないのかね」

夜が呆れながら俊とクランのやり取りを見ている。

「いいんじゃないですか?」

雫は苦笑いで夜に話しかける。

「そうかい?」

「ええ。それよりも……今日はありがとうございました」

雫は頭を下げる。

「ボク一人の力じゃないよ」

「それでも感謝の言葉は言わないと」

「律儀だね」

「そうですか?」

「……さて、雫。ボクたちはたぶん明日旅立つよ」

「…………」

「そんなかなしそうな顔をしないでくれ」

「でも……!」

「いつまでも英雄視されるわけにはいかないからね。それに今回の魔物の襲撃で死んだ人もいる……そんな人を出さないために魔物を狩らないといけないから」

「はい……」

「雫も来るかい?」

「っ……」

「……ごめん。今のはいじわるな質問だったね。君は一国のお姫様だ。自由ではない」

「私……短い間でしたけどこの旅楽しかったです……お姫様とかそんな階級なく接してくれて……うれしかったです……」

「そうか」

「本当は……まだ一緒にいたいです……離れたくないです……いろんな世界を見てみたいです……!」

「またボクたちを頼るかい?」

「……いえ、これは私の……わがままですから……」

「うん。それでいい」

夜は雫の頭を撫でる。

「でも、これだけは覚えててね」

「?」

「ボクは君が選んだ道がどんな道だろうと尊重するよ。そして協力もしよう。きっと君のお父さんもボクと同じじゃないかな?」

「お父様が……?」

「さて、俊のところにも行っておいで」

夜が雫の背中を押す。

「好きなんだろう?」

「ふぇ!?」

雫の顔が赤くなっていく。

「乙女だね」

「よ……夜さんだって見た目は私よりも乙女じゃないですか!」

「いま見た目のこと言ったね……?」

「あ……」

「ボクの見た目がそんなに幼いか!」

「なにやってるんだよ……」

雫にとびかかろうとした夜を俊が抱え上げる。

「離せ俊!一回この胸があるお姫様に言ってやらないと!」

「お前……相手は姫様で、そしてここはその本拠地だぞ?」

「ふん!それがどうした!ボクは勝てる!」

「うわ……そんな言葉言っても事実だから怖いわ……」

そんな騒がしさで夜はけていく。


「俊」

「夜?どうしたんだ?」

深夜。俊の部屋に夜がやってくる。

「昼間襲撃してきた男だけどね……自殺したそうだ」

「そっか」

「ん?案外あっさりしてるね?」

「だって、喜んだら止めてくれた夜にもうしわけないだろ?」

俊はにやけながら言う。

「う……」

「まさか抱き着いてくるなんてなー」

「わ、忘れたまえ!それに君だって泣きそうだったじゃないか!」

「男にだって泣きたいときはあるさ」

「開き直った!?」

「夜かわいかったぞー」

「撫でるなぁ……」

「ほれほれ」

「も……もう怒った……今日から君の借金に利息をつけることにする」

「本当に申し訳ございません」

俊が土下座する。

「君にはプライドがないのかい……?」

「俺のプライドで借金が減るっていうなら俺はプライドだって捨ててみせよう」

「なんかかっこよく言ってるけど、言ってることは悲しいね」

「俺も思った」

「まあ言いたかったのはそれだけだよ」

「……聞かないのか?」

「聞いてほしいの?」

「いや……いい。おやすみ」

「ああ。おやすみ」


翌日。

「さて、準備はできたかい?」

「大丈夫……」

「うう……雫さん……」

「いつまで落ち込んでるんだ……ほら、行くよ」

俊は夜にひきずられるようにして城を出て行った。


城内部。とある一室。

雫は長い髪の毛を短くしているときだった。

「失恋したとき、髪の毛を切ると忘れられるって言うし……」

「雫」

「お父様?」

雫の部屋に王様がやってくる。

「雫の髪の毛があああああああ!」

「お父様!?」

いきなり叫びだした王様に雫は驚きを隠せない。

「雫の!きれいな!髪の毛が!!」

「落ち着いてくださいお父様!」

「あ、ああ……そうだな……どっこいしょっと……」

「お父様、なんか老けました……?」

「雫が死んだみたいなことになってたからなあ……」

「ご心配かけてもうしわけありません」

「行きたいんだろう?」

「え?」

「あの勇者たちと一緒に旅したいんだろう?」

「……はい」

「じゃあ行ってきなさい」

「え……?」

「世界を見るのは大事だぞ?それにあの勇者たちは強い。雫のことを守ってくれるだろう」

「いいの……ですか?」

「そりゃ、親としては心配だぞ?でも、雫が選んだ道は尊重してあげたいからね」

夜の言った通りだった。

「お父様。私、行ってきます」

「うむ。いそぎなさい。彼らはもう出て行ってしまったらしい」

「はい!」


雫は走る。

まだ髪の毛はうまく切りそろえられていなかったがそんなの気にしてる余裕はない。

首都入口の門でやっと背中が見える。

「みなさん!」

俊たちは一斉に振り返る。

「きたね」

夜はわかっていたように言う。

「はあ……はあ……はいっ」

「雫……一緒に行く……?」

「ええ」

「どうしたんだい?俊」

黙っている俊に夜が声をかける。

「まさか、雫が来るとは思わなくて驚いて声がでないとか言う気じゃ……」

「髪が……」

「え?」

「雫さんのきれいな髪の毛がああああああああああ!」

「お父様と同じ反応!?」

「まあ、似合ってるしいいか」

「立ち直り早いな君は……」

「みなさん、またよろしくおねがいします」

「よし!行くよ!」

俊たちは首都ジパングをあとにした。

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