第4話 勇者選定①
「俊。これに出場してみたらどうだい?」
そう言いながら夜が取り出したのは一枚のチラシだった。
「勇者選定……?なにこれ?」
「この町に来た時に大きな闘技場があっただろう?そこで催しがあるらしいんだよ」
「どんな?」
「勇者同士が戦うらしい」
「絶対に出たくない!」
「即答か……」
夜があきれる。
「でも優勝賞金として100万でるらしいよ?」
「それでもいやだ!」
「100万でもつられないのか……」
「ご主人様……」
「うお!?」
いきなりの声におどろいて振り返るとミニスカメイド姿のクランがいた。服装は俊の趣味である。
「クラン……いつからそこに……?」
「ずっといましたよ……?」
クランがかわいらしく首をかしげる。
「そ、そうか」
「それ……私出ましょうか……?」
「へ?」
「私の力も確認してもらいたいですし……」
「でもこれって勇者同士で戦っていいのか?」
「力の高め合いってことで許可されてるんだよ。殺しはもちろんなし。腕の一本や二本なら回復系の勇者が治せばいい話だからね」
「じゃあクラン。がんばっておいで」
「がんばってみます……ご主人様……」
三日後。
勇者選定当日。
「本当に出なくてよかったのかい?まだ間に合うよ?」
「だって痛いの嫌だもん」
「俊様を傷つけられる人ってそうそういないと思うんですけど……」
俊たちは観客席に座っていた。
目の前では能力を全開に出し合っている激しい戦いが繰り広げられている。
「なんかうずうずしてきちゃったな……」
「夜?」
「ボクも出てくる」
いきなり夜は席を立ちあがるとそう言った。
「はあ?」
「まだエントリーは間に合うからね。あとは任せたよ」
そう言って夜は行ってしまった。
「めずらしいな夜が戦うなんて」
「そうなんですか?」
「いや、いつもは俺に戦わせようとしますから」
「大丈夫ですかね?」
雫さんは心配そうな顔になる。
「なにがです?」
「いや、夜さんってLv120なんでしょう?」
「あー……」
「相手死んじゃう可能性は……」
「夜を信じましょう」
試合を見ているとクランが出てくる。
ざわっ……
会場がざわつく。
「あれって『疾風の戦巫女』じゃないか?」
「ああ……」
そんなささやき声が周りから聞こえる。
「『疾風の戦巫女』?」
「まさか……あんな若い娘が『疾風の戦巫女』だったんですか!?」
「え?雫さん知ってるんですか?」
「有名ですよ?私も15歳だとは知りませんでしたが……風の能力をうまくつかい魔物を狩る……『疾風の戦巫女』クラン・ハーヴェリー……」
「そんなに有名だったのか……じゃあ夜がクランの名前にひっかかってたのもそれか」
俊は納得した。
「でも『疾風の戦巫女』って確か『魔王の災厄』にかかったとか」
「ああ、直接感染したって聞いたけど嘘だったのか?」
「なあ、それよりも戦巫女のあの服装なんだ……?」
「さあ?でもいい趣味だ」
そんな会話も聞こえた。
「『疾風の戦巫女』と戦えるなんてな」
「お手柔らかに……」
クランの相手は体格の大きい、いかにもパワータイプの勇者だった。
競技場の中心では互いに向かい合い、開始のゴングが鳴るのを待っている。
カァン!
ゴングが鳴る。
「加速……」
ヒュッ!
風を切る音がする。
「っ!?」
クランがそうつぶやいた瞬間、相手はクランのことを見失ってしまう。
ダァッッッン!
一瞬で相手の後ろに回り込んだクランは回し蹴りで相手を吹き飛ばす。
「見えた!」
「俊様?なにが見えたんですか?」
「い、いや。なにも……」
パンツが見えたのは黙っておく俊。
「カウントを……」
「あ!はい!」
クランは審判にカウントを要求する。審判はすぐにカウントを始める。
この勇者選定は相手のギブアップか20カウントのダウンで勝敗を決める。
「多分起き上がれないだろうな」
「どうしてわかるんですか?」
「クランは足に能力を付加させてあの絶対的な速さを出したんですよ。その速さで蹴られたらたとえ15歳の女の子の蹴りでもすごい威力を出せる……あれが『疾風の戦巫女』……」
「でも相手の方も結構頑丈そうですよ?」
「それでも立てない」
俊の言った通り相手は立てなかった。
クランが俊たちの方を見て微笑む。
「クランがすごくかわいい」
「俊様?できれば思ってることは口に出さないで頂けると……」
「雫さんももちろんかわいいですよ?」
「はぅ……」
照れてる雫さん超かわいい。とは口には出さなかった俊。
「夜だ」
「あ、本当ですね」
夜が出てくる。
「相手が心配ですね……」
「ええ……」
相手は……
「おい、あのお嬢ちゃん大丈夫か?」
「相手は前年度優勝者だぞ?」
イケメン。
「イケメンは死ねばいい」
「俊様!?」
つい口からもれてしまった俊の言葉に雫は驚く。
「俊様も十分かっこいいですよ」
「え?本当?」
「ええ」
「お嬢ちゃん?怪我をする前に棄権したほうがいいんじゃないのかな?」
夜のことを心配するイケメン。
「お嬢ちゃん?それは誰のことだい?」
「もちろん君だよ」
「君にそんな心配されたくないね。君もその整った顔が傷つく前に棄権したほうがいいんじゃないかい?」
夜のような見た目少女にこんなに馬鹿にされたらイケメンのプライドもズタズタである。
カァン!
ゴングが鳴る。
「棄権しなかったこと後か……
ズンッ!!
イケメンはしゃべってる途中で地面にうつぶせで倒れてしまう。
「っ??」
イケメンはなにが起こったかわからない。
それでもイケメンはなんとか起き上がろうとするが起き上がれない。
カウントが始まる。
「くくっ……!ふはははははははははは!ダメじゃないか!試合はすでに始まってるのにそんなに隙を見せるなんて!」
「うわあ……」
「夜さん容赦ないですね……」
他の観客もざわついている。
当然だ。前年度優勝者があんな少女に一瞬でやられてしまったのだから。
20カウントが終了し、夜の勝利となる。
その瞬間イケメンは立ち上がれるようになる。
「その顔は傷つけないでおいてあげたよ。といってもほかの顔は修復不可能のところまで傷つけちゃったけど」
夜はにやけ顔でイケメンを馬鹿にする。
しかし事実なのでイケメンは言い返せなかった。
勇者選定の1日目が終わった。
1日目では基本的に1回戦だけを行い、2日目から本格的な試合へとなる。
つまり1日目は予選みたいなものだ。
「いやあ!あのイケメンの無様な姿……思い出すだけで笑える!」
こんなに上機嫌な夜を見たのは全員初めてだった。
「ご主人様……私、頑張った……?」
「おう。頑張ったぞ」
俊はクランの頭を撫でる。
「ぁぅ……」
クランは小さな声を漏らす。
「そういえば夜」
「なんだい?」
夜は上機嫌に聞き返す。
「あれはどうやったんだ?」
「あれって?」
「ほら、イケメンを地面に倒したやつ」
「重力をちょっとね」
「……夜って何者だ?」
「ただのLv120の勇者だよ」
そして勇者選定は2日目になる。




