1-4 転生した少年は祖父の部屋に向かう
この屋敷で一番大きな扉の前に来る。
まだ子供の体のせいか、余計に大きく感じる。
(コンコン)
「入れ」
ノックすると、渋い声で返事がくる。
母さんが扉を開く。
部屋の中に入ると、一人の男性が座っていた。
年齢は40代半ばぐらいだろうか、日本ではまだ中年ぐらいに見える。
整えられた髭が男らしさを感じられ、将来こういう風に成長したいと思わせる。
彼がフォルス=フォルテ──フォルテ子爵家の当主であり、僕の祖父だ。
「レイを呼んできました、お父様」
「ああ、ご苦労様」
母さんをねぎらう爺ちゃん。
相手を睨み付けるような視線から勘違いされがちだが、相手に気を遣える優しい人である。
初対面の人には難しいだろうが、慣れた人にとっては親しみやすい。
「爺ちゃん、どうしたの?」
「レイ」
僕の言葉に母さんが反応する。
礼儀正しくしろ、と言いたいのだろう。
だが、わざわざ祖父相手に今更丁寧に話しかけるのも変な話だろう。
現に爺ちゃんも気にした様子はない。
「お前も先月に6歳になった。なので、あることを伝えようと思ってな」
「なんで先月に伝えなかったの?」
思わずツッコんでしまう。
何か重要なことを話したいのだろう。
それならば、どうして6歳の誕生日に伝えなかったのだろうか?
そのせいで誕生日の1ヶ月後という中途半端な時期に聞くことになったのだが・・・・・・
「誕生日当日の楽しい雰囲気を壊したくなくてな」
「本当は?」
「・・・・・・レイに嫌われたくなくて、中々言い出せなかった」
「やっぱり」
理由が嘘っぽかったので追求すると、やはり本当の理由があったようだ。
爺ちゃんらしい理由である。
まあ、前者も一部ではあるだろうが・・・・・・
「それで、何の話なの?」
とりあえず、話を促す。
内容的に僕が爺ちゃんを嫌う可能性がある内容らしい。
そんなことはあり得ないと思うが、純粋に内容が気になる。
「話を聞いても、私を嫌わないか?」
「僕が爺ちゃんを嫌うわけないでしょ」
不安げな彼を安心させるように告げる。
正直、見た目が格好いい彼がこんな風に情けない姿を見せるのは止めて欲しい。
こっちの方がよっぽど嫌われる理由になるだろう。
僕の言葉にようやく覚悟が決まったようで、爺ちゃんは襟を正す。
そこまで真剣な話なのだろうか?
「6歳になり、フォルテ子爵家を継ぐために勉強が始まっただろう」
「そうだね」
説明を聞き、僕は頷く。
先月から貴族子弟としての勉強が始まった。
前世での知識があるおかげか、子供が身につけるレベルの内容は簡単すぎる。
だが、この世界独特の内容もあり、新しいことを知れる楽しさもある。
「だが、気になることはないか?」
「気になること?」
爺ちゃんの言葉に首を傾げる。
何かおかしなことがあったのだろうか?
僕が子供らしからぬ優秀さを見せてしまったことだろうか?
だが、それなら爺ちゃんが嫌われることを怖がったりしないだろう。
貴族の勉強が始まり、僕が彼を嫌うことになる内容とは──
「もしかして、魔法の勉強がないこと?」
「やはり気づいていたか」
辿り着いた答えを口にすると、爺ちゃんが肯定する。
この世界のほとんどの貴族は魔法を使うことができる。
当然、幼い頃から家でその訓練を行い、扱いを学んでいく。
その訓練がまだ始まっていないのだ。
「レイ。お前は魔法を使えないのだ」
「えっ⁉」
爺ちゃんは衝撃の事実を口にする。
部屋の空気が重くなったのを感じた。
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