2-8 転生した少年は暴走する夫人を心配する
「ああ、なんて甘美な響きなのかしら」
辺境伯夫人の表情がとろけている。
とても人前でしてはいけない表情である。
周囲はかなり引いているが、本人はまったく気にした様子はない。
流石にまずいと思ったのか、母さんが声をかける。
「色々と教えてね、キュリテ」
「任せてください! では、さっそく始めましょう」
「えっ⁉」
正気に戻ったと思ったが、勢いよく部屋から飛び出した。
母さんも一緒に連れて行かれた。
珍しく慌てた様子だった。
しかし、とんでもない人だったな。
「普段はもっとまともなんだがな」
辺境伯が申し訳なさそうに呟く。
だが、とても信じられない。
あんな感情を露わにする人がまともな姿など想像できない。
「あの娘は昔からルクスが好きだからな。一時期、私も敵視されていたな」
「あなたを倒して、ルクスさんの気を引こうとしていたんでしょうね」
懐かしい思い出のように二人は話す。
だが、そんな風に話す話題ではないだろう。
本当に大丈夫なのか、あの人?
というか、よく辺境伯は彼女と結婚できたな。
「・・・・・・」
「ん?」
(サッ)
少女──アテルがこちらを見ているのに気がついた。
だが、すぐに視線を逸らされる。
おとなしい雰囲気の少女なので、もしかしたら恥ずかしがっているのかもしれない。
こういうときはこちらから話しかけた方がいいだろう。
「僕はレイ。よろしくね」
笑顔で声を掛け、手を差し伸べる。
子供同士なので、堅苦しい挨拶は必要ない。
この方が親しみやすい、と思っていたが──
(パンッ)
「えっ」
なぜか僕の手ははじかれていた。
いきなりの衝撃に驚きを隠せなかった。
「アテルっ!」
妹の暴挙にレガンが怒鳴る。
流石に見過ごせなかったのだろう。
(ダッ)
「あ、待てっ!」
だが、彼女はそのまま部屋から飛び出してしまった。
いきなりの行動に呼び止める間もなかった。
「・・・・・・」
はじかれて痺れる手をじっと見つめる。
あんな風に拒絶されるのは初めてである。
かなりショックで、心に結構ダメージがあった。
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