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2-3 転生した少年は馬車旅を始める


 手紙が送られてきた翌日、屋敷から出発した。

 片道1週間程度の旅らしく、隣の領地でもそこそこの距離があるらしい。

 まあ、車などの交通機関があるわけでもなく、馬車での移動だからそれも仕方がないだろう。

 だが、僕は初めての遠出にワクワクが止まらなかった。

 今までフォルテ子爵領の中──いや、屋敷周辺の森ぐらいしか行ったことがなかった。

 馬車という非日常も楽しみの一端を担っていた──はずだった。


「うっぷ」


 馬車の外で僕は吐き気と戦っていた。

 楽しみだったはずなのに、始まって数十分で地獄だった。

 想像以上の揺れのせいで吐きそうになった。

 まだほとんど進んでいないのに、1回目の休憩になった。


「レイ、大丈夫?」


 心配げな表情で母さんが背中をさすってくれる。

 その優しさに吐き気が和らいだ──気がするだけだ。

 やっぱりかなりしんどい。


「まあ、馬車が苦手な奴も多いから仕方がないな」

「お父様っ!」


 僕の様子を見て笑う爺ちゃん。

 その反応に息子が心配な母さんは怒る。

 当然の反応である。


「よし、帰るか。ここまで酷い吐き気ならば仕方がない。あやつらには諦めて貰おう」


 爺ちゃんがとんでもないことを言い始める。

 吐き気と戦う僕としてはありがたい話だが、実際はかなりやばいことをやらかそうとしている。

 貴族同士の繋がりは大事だし、格上の貴族からの誘いを断るのはよろしくないだろう。

 どうにかしたいが、馬車酔いによる吐き気はどうしようもない。


「そんなことできるはずないでしょう」


 母さんも同意見のようだ。

 まあ、当然の反応である。


「しかし、レイがこれでは馬車での移動は無理だろう?」

「それは・・・・・・」


 爺ちゃんの言葉に母さんは反論できない。

 流石にこの状況を解決する手立ては思いついていないようだ。

 本当にどうしよう。


「まあ、解決方法がないわけじゃない」

「本当に?」


 爺ちゃんが何か案がある様子だった。

 何も思いついていなかった母さんが食いつく。


「だがな・・・・・・」


 しかし、爺ちゃんはなぜか言いづらそうだった。

 解決手段があるのに、どうしたのだろうか?

 その反応に僕は疑問を感じた。



◇ ◆  ◇  ◆  ◇


「あぁ、だいぶ楽だ」


 1時間ほど経ち、再び旅が始まった。

 先程とは違い、僕は馬車酔いから解放されていた。


「・・・・・・」

「そろそろ機嫌を直しなさい」


 むくれる母さんに爺ちゃんが声を掛ける。

 旅が再開してから、彼女はずっとあの反応である。


「レイが馬車酔いしないために一番良い方法はこれしかないんだ」

「だからといって、私たちが馬車に乗って、レイだけ走らせるのはどうなの?」


 僕が馬車酔いを回避する方法──つまり、馬車に乗らないことである。

 【身体強化】で脚を強化して走ることで、馬車に遅れずに走ることが可能である。

 昔ならすぐに魔力が限界に来たが、2年の訓練のおかげでこの程度の消費ならずっと走っていられる。

 まさかこんなところで訓練の成果を感じられるとは思わなかった。


「きゅうっ!」


 僕の横でラビも一緒に走っていた。

 なぜか嬉しそうだった。







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