1-12 転生した少年は訓練の成果を試される
訓練を始めてから1ヶ月が経った。
爺ちゃんに言われたとおりに魔力を使い切ったおかげか、僕の保有魔力量は格段に増えていた。
何倍──いや、何十倍になっている。
まあ、元がすぐに尽きるレベルなので、何十倍になってもそこまでではあるが・・・・・・
だが、保有魔力量が増えたおかげで思わぬ副産物があった。
自分の中にある魔力を感じることができるようになった。
そのおかげで魔力の流れをより把握することが可能だ。
けれど、体の方はあまり成長が感じられなかった。
いくら子供の体とはいえ、1ヶ月程度では大した変化はないだろう。
わかっていたこととはいえ、少し悲しい。
成長するのはもっと長い目で見ないといけないだろう。
【身体強化】の訓練では、主に四肢の強化と視覚・聴覚の強化を行っていた。
四肢の強化は体を動かす上で重要なので、この訓練の意図は理解できる。
だが、視覚・聴覚の強化にはどんな意味があるのだろうか?
激しく動き回れない部屋で訓練するため?
「今日は試験をするぞ」
「試験?」
ある日、爺ちゃんが宣言する。
いきなりの発言に首を傾げる。
朝食を終え、少し離れた森の入り口に連れてこられた。
「この森の中に目印を置いてきた。それを取ってきなさい」
「森って、結構広そうだけど・・・・・・」
試験の内容は理解できた。
だが、そのレベルは果たして適切だろうか?
生い茂る木々は一本一本が大きく、子供の視点だからこそなおのことその大きさを感じる。
そんな森の中で目印を見つけることができるだろうか?
「安心しなさい。一本道だから、迷うことはない。私が軽めに走って往復1時間程度だから、レイなら3時間だろうな」
「一本道なら大丈夫か」
迷う心配がないのなら安心である。
だが、それで試験になるのだろうか?
そんな僕の予感が悪い意味で当たってしまう。
「だが、この森の中には獣や魔物がいる」
「ま、魔物?」
思わず驚きの声をあげてしまう。
本を読んで、知識としては知っていた。
だが、実際にその存在を聞くのは初めてである。
まさかこんな近くの森にいるとは思わなかった。
「まあ、今回行く範囲で出てくるのはせいぜいゴブリン程度だ。今のレイでもどうにか倒せるはずだ」
「僕、まだ戦闘とかしたことないんだけど」
倒せると言われても、前世では喧嘩もしたことがない。
魔力の操作と【身体強化】しか習っていないのに、戦うことすら想像できない。
「安心しなさい。ゴブリンがいるのも道から外れた場所だから、ほとんど会うことはないはずだ」
「もし出会ったら?」
「すぐに逃げなさい。【身体強化】をすれば、簡単に振り切れるはずだ」
「それでいいんだ」
てっきり戦えと言われると思った。
天才と言われているので、それぐらいできると思われていてもおかしくはない。
「逃げる判断も大事なことだ。できないことを無理に挑戦し、無駄な被害にあう必要はない」
「なるほど」
逃げることも大事──たしかにその通りである。
挑戦することを美徳とする考え方もあり、それも大事なことだろう。
だが、失敗して傷つくことがわかっていて、挑戦するのはただの無謀である。
そういう意味では逃げる判断ができることも大事なのだろう。
「もし逃げ切れないと思ったら、大声で私を呼びなさい」
「それでどうにかなるの?」
真剣な表情の爺ちゃんにツッコむ。
いくら子供の足とはいえ、往復3時間の距離の最奥で叫んでも聞こえないのではないだろうか?
もしかすると、冗談なのか?
「それとこれは弁当だ。お腹がすいたら食べなさい」
「・・・・・・」
弁当と水筒を渡され、なんとも言えない気持ちになった。
訓練と言っているが、これではちょっとした遠足気分である。
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