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復讐を果たして死んだけど転生したので今度こそ幸せになる  作者: クロッチ
第三部 誕生、カール大帝!!

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大帝カール⑬

1.血染めの戴冠式


 カールが帝都に入ってから一週間が経ち、旧帝国の罪人達の処刑日がやって来た。

 場所は帝都の近くに魔法で作られた即席のコロシアム。

 十万人は優に入る大きな箱だが観覧希望者が殺到し、席はあっという間に埋まってしまった。

 が、魔法テレビによる放送も行われるので直接ではなくとも誰もが見られるようにはなっている。

 とは言え子供に見せるには刺激が強過ぎるのでカールは事前に子供には見せぬようにと厳命していた。


「罪人を」


 コロシアムの上段に誂えられた玉座に座るカールがそう告げると兵士らが数十名の罪人を場内に叩き込んだ。

 両手を後ろに縛られ目隠しをされている彼らは何が起きているかを理解出来ず、呻き声を上げている。

 兵士らは喧しい罪人達に蹴りを入れ、乱雑に目隠しを剥ぎ取った。


「これは……貴様、カール・ベルンシュタイン! これは何のつもりだ?!」


 命惜しさに怯えている者らと違い、皇子達はこの場にあっても尚、気丈だった。

 カールを認めてはいないし、今も自分達こそが国を治めるべきだと思ってはいるが同時に敗北と死を受け入れているからだ。

 だがこの状況は彼らの想定を外れるものだった。公開処刑になるだろうとは思っていたが形式に則った厳格なそれを想像していたのだ。

 現に牢獄から出される前に豪勢な食事を取らされたし風呂にも入らされた。

 そして貴種が死出の旅路に出るのに相応しい装いもさせられたのだ。疑う方がどうかしているだろう。

 しかし、現状はどうだ? 闘技場のような場所に連れて来られた挙句、観客達は飲み物や食べ物を手に事の成り行きを見守っている。

 これでは下劣な見世物のようではないか。


「何のつもりって……お前ら、まさかとは思うが貴人として礼を払った刑に処されるとでも思っていたのか?」

「…………賤しい血を引く成り上がり者に品格を期待したのは間違いだったようだな」

「おうおうおう。好き勝手言いなさる」


 この期に及んでも皮肉を口に出来るとは大したものだと笑い、カールはパチンと指を鳴らした。

 すると罪人達を拘束していた縄が切れ、彼らは自由を取り戻す――が。


「ッ!? な、何だ……身体が……お、重い……」

「それでは処刑人の入場だ! 皆、拍手で迎えてやってくれ!!」


 ふけだらけのぼさぼさの髪。手入れも何もされていない伸び放題の髭。しみだらけの薄汚れた肌。

 罪人達と反対の入り口からやって来たのは正反対の人種だった。


「て、てめぇ……」

「スラムに居る浮浪者を金で雇ったんだ」


 輝くような笑顔だった。


「日々の糧にさえ困る有様でありながら、そこを抜け出す努力もせず漠然と幸運を待っているだけの真性の屑を選んだよ」


 怨みで殺されるのであれば、まだマシだ。

 しかし、この処刑人達には皇子らへの恨みは一切ない。あるのは浅ましい欲望だけ。


「注文はただ一つ。散々に痛め付けて殺せ、だ」


 誰もが理解した。この処刑の目的は命を奪うことではなく尊厳を踏み躙ることであると。


「ふ、ふざけるなァ! それが、それが皇帝になろうとする男のやることか!?」

「はっ」


 鼻で笑い飛ばした後でカールは思い出したようにポンと手を叩く。


「一応、彼らの面接はしたんだが……ふふ、中には男が好きで好きでしょうがないという奴らも混ざってるんだ」

「な」

「注文を守るなら好きにすれば良いと言ってるからなあ。死ぬ前に新しい扉を開けるかもしれんぞ?」


 悪意に満ち満ちた顔に罪人らの顔面が蒼白になる。


「ひ、ひへへ。皇帝陛下……も、もうはじめてよろしいので?」


 処刑人の一人が卑屈な笑みを浮かべながら問うと、


「まあ待て。まだ説明は終わってない。よう屑ども、拘束を解いたことからも察しがつくと思うが抵抗は自由だ。

そうだな……三時間、三時間生き残れたのなら助命のチャンスをくれてやっても良いぜ?」


 拘束を解きはしたが別に彼らが自由になったわけではない。

 魔法による幾重にも及ぶ弱体化が施されているので彼らはプロシア帝国の貴族でありながら魔法は使えないし、身体能力も子供以下になっている。

 逆に処刑人側には魔法による強化が成されているので……。


「ああ、別に自殺しても良いんだぜ?

貴種としての誇りを捨てて惨めな浮浪者どもから逃げたって誰も責めやしない。笑いはするがな」


「この卑劣漢が!!!」


 それをお前が言うかと口を開きかけたところで、罪人として引っ立てられた貴族の一人が叫ぶ。


「わ、私の妻や子供達にもこのような惨い仕打ちをするのか!?」

「いや? 公開処刑にするのはお前らだけだよ。俺も暇じゃねえからな」


 その言葉にほっとする男であったが、


「ここに居ないお前らの親族は全員、モルモットにするつもりさ。

罪もない人間を非人道的な実験に使うのはありえねえが罪人だし何をしても良心が痛まない。

何のかんの言ってもプロシア帝国の貴種だからな。それなりのレベルの魔道士を実験体に出来るのはありがたい。

適齢期の女なら母胎にも使えるし今から夢が広がリングだって研究者ども大はしゃぎしてたよ」


 皇帝カール・ベルンシュタインは一握りの希望とて与えるつもりはなかったのだ。


「何という……あなたに人の心はないのか!?」

「市井の人間に謂れのない罪を押し付けるお前らに人の心があるとでも?」

「~~ッッ! あなたは……お前は人間じゃないだろう!? 私達は貴族だぞ! 黙って私達に従っていれば良かったものを!!」

「……なるほど。人の形をした糞袋に言葉が通じると考えた俺が阿呆だったわけだ」


 さっさと始めてくれ、投げやり気味に指示を出すや処刑人達は罪人に群がりグランギニョルの幕が上がった。

 最初は皆が怨嗟の声を挙げていたが十分もすると、皇子二人以外の罪人は惨めに許しを乞い始めた。

 その嘆願を聞き入れる者は誰も居ない。残酷劇は止まらない。

 そうして二時間が過ぎる頃には皇子二人以外は無惨に死に絶え、その皇子達の命もまた風前の灯になっていた。


「……敵であろうとも敬意を払え。俺に武を授けてくれた師の教えだ」


 ひゅー、ひゅーと掠れた呼吸しか出来ないような有様。

 それでも皇子二人の目は未だ敵意に満ち満ちていた。


「敬意を払う価値もない塵どもだと思っていたがその気骨だけは天晴れの一言だよ」


 皇子二人の行動は愚かなものだった。

 父にそう誘導されたとは言え彼らが真っ当な貴種であれば選ばなかった道なのだから。

 しかし、事ここに及んでも尚、折れずに居られるのは評価すべきだろう。


「であれば俺も敬意を払おう」


 立ち上がったカールは地を蹴り処刑場へと降り立った。


「言い残すことは――……なんて、聞くまでもないか」


 死ね。その瞳は雄弁だった。小さく笑い斬気を纏った脚を振り抜く。

 首が飛び、少し遅れて鮮血が噴水のように噴き出した。

 カールは返り血を拭うこともなく声を張り上げる。


「――――これを以って咎人への裁きと、我が戴冠の儀を終了する!!!!」




2.うぇっへっへっへっへ


 ――――これを以って咎人への裁きと、我が戴冠の儀を終了する!!!!(キリッ)

 とか言っても別に全てが落ち着くわけではない。

 帝国という巨大な国家を掌握したのだ。知らなきゃいけないこと、決めなきゃいけないことは山ほどある。

 一週間、処刑の準備を進めながらも仕事はして来たがまるで楽にならない。次から次へと仕事が押し寄せて来る。

 カスどもの始末を終えて一段落ぅ、したかったんだけどなあ。

 終わったら速攻で帝都に戻って仕事仕事仕事……ウケル。いや笑えねえよ。


「えーっと、次は……」


 時刻は午前二時になろうとしている。帝都に入ってから毎晩、徹夜だよ……。

 葦原ん時は後々、信長に任せるからってブン投げまくれたんだがなあ。


「……陛下、そろそろ一息吐くと良い。若く、常人より遥かに体力があるとは言え慣れない仕事だ。消耗も大きいだろう?」


 宰相として俺の仕事を補佐していたゾルタンが待ったをかける。

 俺自身に自覚はないが、これ以上続けさせると逆に能率が下がりそうだなというタイミングで何時もストップをかけてくれるのだ。


「ん、分かった。そいじゃあ一時間ばかり外の空気を吸ってくらぁ」

「うん、気をつけて」


 窓を開け身を乗り出し、そこからするすると上へ向かう。

 忙しい日々のささやかな楽しみとでも言うべきか。城の天辺に登って星を眺めるのがちょっとしたマイブームなのだ。

 時計塔から見るそれとはまた違う趣があるんだなこれが。


「ふぃー……」


 屋根の上に寝転がり、星を眺める。

 もう直ぐ十月になるが今年は残暑が厳しく昼間はクッソ暑いが夜はそれなりに涼しい。

 気持ちの良い夜風が全身を撫で、力が一気に抜けていく。


「……ロルフとエルンスト、か」


 昼間、ぶち殺したアホ二人の顔が脳裏に浮かぶ。

 アイツらがやったことを許すつもりはないし、報復したことについても後悔はない。

 皇帝に唆されたようなものとは言え同情もない。良い歳こいた大人だからな。

 ヘレルのカスを殺った時ほどではないが復讐を果たせてスッキリはしているのだが……。


「良い目をしてたよな」


 最後の最後まで心を折らず、俺を睨み付けていたあの瞳。良くも悪くも気骨がある男達だ。

 だからこそ、ふと思うのだ。

 違う出会い方をしていたのなら憎み合うこともなく、違う関係を築けていたのかもしれないと。

 そして何より、


「――――カールくんが気にすることじゃないよ」


 優しい声が耳朶を揺らす。

 視線だけを横に向けるとアンヘルが少し困ったような顔で隣に座っていた。


「……お前、空気読め過ぎじゃね?」

「ふふ、だって私は世界で一番カールくんにとって都合の良い女だもん」


 ふふん、と可愛らしいドヤ顔を披露するとアンヘルは静かに語り始める。


「カールくんにとっての家族はさ。無条件で愛すべき存在でとても大切なものなんだよね。

でもそれはさ。前世でも今世でもカールくんのご家族が愛されるに足る素晴らしい人達だったから」


 ……それは俺も分かってる。

 世の中にゃ家族というものを忌々しく思っている奴だってごまんと居るだろうさ。


「私達にとってはそうじゃなかった。兄上に対する肉親の情なんてものは欠片もない」


アンヘルは淡々と告げる。


「カールくんはさ。人よりもよく見える目があるから、きっとIF(もしも)の可能性が見えちゃったんだと思う。

だから気にしちゃうんだよね。私達にとってもっと良い未来があったのかもって。でもね、結局それはもしもの話だよ。

選んで捨ててを繰り返して生きていくのが私達(にんげん)なら、私は選んだものを大切にしていきたい。それはカールくんも同じでしょ?」


「……そう、だな」


 俺自身はそういう生き方をして来た。

 前世でもそう。俺は復讐を優先して神崎達と袂を分かった。

 あの時も心は痛んだけれど後悔はなかった。俺は選んだ道を全うした。


「私達を大切にしてくれるのは嬉しいよ? でもね、背負う必要のないものまで背負い込まないで」

「……」

「カールくんからはもう十分、色々なものを貰ったから」


 淡く微笑むその横顔は息を忘れるほどに綺麗だった。


「それに、家族になれたかもしれないって意味ならアーデルハイドとクリスがそうじゃない。

私達だけじゃ決して繋げられなかった絆を紡いでくれたのはカールくんだよ? だから兄上達のことは良いの。

第一、カールくんには別の可能性が見えてたかもしれないけど私達はあの人達と仲良くしてる光景なんて微塵も想像出来ないし」


 可能性っていうか……俺のも別にそこまで確たる根拠があるわけじゃないんだがな。

 何となくそういう未来もあったのかもって思った程度だし。


「でも、カールくんは気にしちゃうよね? 自分のことならともかく私達のことだとさ」


 だから、とアンヘルは笑う。


「素敵な素敵な旦那様。愛しい愛しい旦那様。潰えた可能性が霞むぐらいの愛情を私達にくださいな」


 アンヘルだけではないこれは姉妹の総意なのだろう。

 つくづく、良い女を娶れたよ。色々大変なことはあったが俺の女運は世界一だぜ。


「分かったよ。全身全霊でお前達を愛すると誓う。何度生まれ変わっても俺のことが好きになるぐらいにな」

「んふふふ、今の時点でも何度生まれ変わってもカールくんを好きになると思うけどね」

「マジか。俺ってばホント、罪な男だぜ」


 二人して笑い合う。


「さて。それじゃあ私もお嫁さんとして毎日お仕事を頑張ってる旦那様のために出来ることしなくちゃ」

「?」


 立ち上がったアンヘルは寝転がった俺の足を跨ぐように俺と向き合い、


「元気になーれ♥」


 ワンピースの裾をめくり上げた。


「! これ、おまえ……え、うそ……!!?!! お、おぉう……おぉう!!」


 空ぅ気が旨いぃい! 身体が軽い!!

 素晴らしい、連日の疲労が消えていく感触がこれでもかと!!


「うぇっへっへっへっへ」

「喜んでもらえて何より」

真実男と神崎ちゃんの襲撃から始まった内乱はこれで〆になります。

次からはクラスメイトとの交流や真実男とのそれから。外交とかをちょこちょこ書いていく予定です。


最後のアンヘルですが

はいてなかったのか目玉が飛び出るようなドエロ下着だったのかはご想像に任せます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カール大帝戴冠の儀お疲れさまですね。 [一言] プロレスifを見た後だと複雑ですね。
[良い点] 内乱終結お疲れ様です! [一言] >if うんまあ……イージーモードもといギガント否鬼なら仲良くやってましたしね。
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