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復讐を果たして死んだけど転生したので今度こそ幸せになる  作者: クロッチ
第二部 葦原動乱

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関ヶ原の戦い④

1.Anything Goes!


 復活したカールは未だ劣勢なものの、明らかに倒れる前より強くなっていた。

 熱に浮かされながら戦っている者たちは気付いていないが幽羅だけはその現象に注目していた。


「……復活自体はかまへん。カールはんの頭おかしなるぐらいの精神力からすればそれは不思議やない」


 だが強くなるというのはどう考えてもおかしい。

 時間が経てば経つほど消耗していくのに力が増すなんて道理が通っていない。

 何かカラクリがあるはずだ。そしてそれがきっと、勝利の鍵となる。

 術式の維持を行いながら観察を続け――遂に幽羅はその答えに辿り着く。


「…………皆の意思を集めとる……?」


 相手が欲する言葉を与えられる。

 カールのカースは言ってしまえば限定的にではあるが願いを叶える力とも言えよう。

 元々、そういう力だったのか。幽羅が言うところの頭おかしいレベルの精神力に引き摺られ暴走しているのか。

 理屈は不明だが今、そのカースは他者の祈りを集めて己が力に変える能力へと変貌していた。


「さっぱり意味が分からんけど」


 カールのカースなど微塵も知らない幽羅だが今起きている現象だけは理解出来た。

 ならばと幽羅は即座に新たな術式の構築を始める。


「幽羅さん!?」

「……大丈夫大丈夫。ここが踏ん張りどころや」


 如何な大陰陽師とて限界はある。

 既にキャパを超えているのに更に術を増やそうとすればその反動は尋常ではない。

 だがカールが我らの大将があんな酷い状態でも皆の意思を背負って戦っているのだ。

 自分だけが弱音を吐くわけにはいかないと幽羅は笑う。


「うぎぎぎぎ……! 突然すまんなあ! うちは安倍晴明!! ちょっと聞いてもらえるか!?」


 葦原に生きる全ての人間に念話で語りかけながら関ヶ原の様子もリアルタイムで脳裏に叩き込む。


「今、うちらは戦っとる! 葦原を滅ぼす邪神の軍勢と!! 見えるか!? あのふざけた化け物が!!

見えるか!? あんなんとたった一人でやり合うとるうちらの将軍様の姿が!!

同じ戦場におってもうちらは雑魚の相手ぐらいしか出来へん! あの戦いに加わっても無意味に殺されるだけや!!

せやけど何も出来んわけやない! 明日を望む気持ちが、勝利を願うその思いが将軍様の力になる!!」


 だからどうか祈って欲しい。

 血反吐を撒き散らしながら必死に懇願する幽羅自身もまた、強く強くカールを信じている。

 彼ならばきっと勝てる。明るい未来を皆に齎してくれると心の底から信じている。


「お、お、お、お? 何か糞ほど調子が良くなって来たんだが!?」


 幽羅の援護射撃は覿面だった。

 懸命に戦うカールの姿に胸打たれた者。自分が死にたくないからカールの勝利を願う者。

 葦原全土から届く様々な祈りがカールを押し上げる。


「理由は分からんが……ふ、ふふふ……ふははははははは!!」


 白銀のオーラを身に纏ったカールが八俣遠呂智の横っ面を蹴り飛ばした。

 そしてくいっ! と親指で自身を指しながら世紀最高のドヤ顔でこう告げた。


「今の俺は究極完全体(アルティメット)カールだ――――勝てんぜ、お前は」


 カールは完全に調子に乗っていた。

 だが、調子に乗っても許されるだけの力があった。

 対八俣遠呂智戦を想定して編み出した特攻スタイルは被弾前提の戦法だ。

 必殺の意思を掲げ前へ前へと進み続けること以外は度外視しているので必然的に被ダメージも膨れ上がってしまう。

 だが今のカールは殆どダメージを受けていない。

 カールの殺意に身体が追いついたことでその速度域は音さえも置き去りにしたのだ。


「首が落ちた!!」

「三つ……これであと三つ! いける! 今度こそいけるぞ!!」


 首が落ちるということはリソースが減るということ。

 これまで無尽蔵に生み出されていた眷族の数も目に見えて減っていた。

 それもまた討伐軍の士気を更に高め、戦況が徐々に徐々に引っ繰り返っていく。


《《《《ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!》》》》

「ケケケケ! なあオイ、気付いてるかよ? お前の目……俺を見上げてんぜ?」


 八俣遠呂智の瞳はこれまで徹底的に人間を見下していた。

 だが今はどうだ? 忌々しげにカールを睨め上げている。


「これで格付けは済んだな。俺が上でお前が下だ!!」


 断頭台の如き踵落としが八俣遠呂智の首を落とす。

 と同時に進化が始まった。明らかに進化への移行が早くなっている。

 これまでは限界ギリギリまで学習を続けていたがそれでは間に合わないと気付いたのだ。


「なあオイ、これ以上無様晒す前に自殺しといた方が良いんじゃな~い?」


 空高くかち上げられたカールだがダメージは殆どない。

 ぐるん、と空中で回転し地面を睨むように炎と雷を混交させた気で作り上げた巨大な腕で地上に乱打を放つ。

 降り注ぐ拳の流星群に八俣遠呂智は成す術なく蹂躙される。


 ――――そして遂に七本目の首が落ちた。


 これが最後の進化だ。

 関ヶ原全域に散らばっていた眷属が一匹残らず消えているところを見るに全てのリソースを最終進化に注ぎ込んだのだろう。

 それゆえにこれまでで一番長い時間をかけて進化をしているのが見て取れた。

 地上に降り立ったカールは呼吸を整えながらじっと、その時を待った。


「お?」


 ビキリビキリと亀裂が走り罅割れた箇所から激しい光が漏れ出す。

 そして夜を塗り潰すような光が爆ぜた後、八俣遠呂智が居た場所には一人の人間が立っていた。

 性別は男。黒髪を結い上げた凛々しい顔立ちで体格はカールと同じぐらいか。

 半身を覆い尽くす鱗がなければさぞやモテたことだろう。


「ま、そうなるわな」




2.Be The One


 八俣遠呂智との決戦が定まった時から考えていた。

 進化を繰り返すであろうコイツは最終的に何になるんだろうと。

 何度も進化をするということはそれだけ追い詰められているということ。

 となると、そこまで追い詰めた人間(おれ)になるのは当然の帰結と言えよう。

 だから戦いを見守っている連中のような驚きは俺にはない。

 強いて言うならまんま俺の姿になるんじゃないかって予想が外れたのは少し意外、


「でもないか」


 数十メートルほど離れた場所に立ち俺を睨む八俣遠呂智の姿。

 どっからどう見ても葦原人だ。多分、あれは田村麻呂だろう。

 幽羅が田村麻呂は自らの内に封印していたオロ――九頭竜に呑まれ成り果てたみたいなこと言ってたし。


「ニン……ゲン……人間人間人間ンンンンンンンンンンンンン!!!!!」

「おお! 言葉も――いや当然か。人間の形を取ったんだからちゃんとした発声機能も備わるわな」


 そしてこの後の展開も予想はつく。

 俺は半身になり軽く両足を開いて“構え”を取った。


「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ゥゥウウウ……ッッ」


 唸り声を上げながら八俣遠呂智は前傾姿勢を取った。

 そしてめいっぱい力を溜めて地を蹴る。

 凄まじい速度で撃ち出された八俣遠呂智が勢いそのままに俺に拳を叩き付けようとするが、


「甘い」


 脱力した右手を蛇のように這わせ手首を引っ掴む。

 そして俺へと向かっていた力のベクトルを変え腕を捻り上げ破壊。

 同時に更に攻撃を繰り出そうとする八俣遠呂智の腹に膝を突き刺す。


「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 雄叫びを上げ更に苛烈に俺を攻める八俣遠呂智だがその攻撃は一つ足りとも届かない。

 俺が全ての攻撃にカウンターを合わせているからだ。


(……これがジジイの居る領域か)


 武の極みなんてものに至ると攻撃は当てるものではなくなる。

 ただそこに置いてやれば良い。そうすれば勝手に当たりに来てくれる。

 廃棄大陸での修行で、葦原での戦い。

 潜った修羅場の数も質もかなりのもの。全てが俺の血肉になっている。

 そう、俺は遂に武神の領域に辿り着いたのだ――――なーんてことはない。

 ジャーシンで頭一つと戦ってた頃と比べると今の俺は何倍も強いだろう。

 だが一足飛びどころかワープで武の頂に辿り着けるほどではない。

 当然、タネがある。


「意味が分からないって顔してるな。だが、これは必然さ」


 当たれば首どころか上半身が吹っ飛ぶような右フック。

 掻い潜るように懐に飛び込み顎に右掌底を打ち込み左手で八俣遠呂智の腰を抱き寄せるように体重を前方に。

 力の流れは俺が完全に掌握している。

 顎に打ち込んだままの右手で八俣遠呂智を後頭部から地面に叩き付け、即座に後ろに跳ぶ。


「その戦い方は人間(おれ)化け物(おまえ)を殺すために編み出したものなんだからな」


 人間相手にまったく通用しないとは言わない。

 だがそりゃあくまで彼我の身体能力に圧倒的な差がある場合に限る。

 明美たちとの鍛錬では途中からバッチリ適応して来てたしな。

 対八俣遠呂智戦に向け練度を上げるために使い続けてたが純粋な戦いならこの戦い方にあんまり意味はない。

 人間の形をしている敵と戦うのなら人間を相手取るために磨き抜かれた技術を使った方が良いに決まってる。


「ガワだけ取り繕った化け物が使っても劣化品にしかならんのは当然だろう」


 俺が特攻戦法を採用した最大の理由がこれだ。

 進化を繰り返して行けば最終的に最も脅威と感じた俺を模倣する可能性は高い。

 化け物の利点を捨て人の真似をするのであれば、後は楽勝だ。

 人の技術を解禁してやれば型に嵌めてやれる。


「それに加えてお前が真似てんのは“俺”の特攻戦法だ」


 とても正確なラーニングだ。

 それだけにあまりにも読み易い。他人ならともかく俺が俺の動きを読めないわけがないだろう。

 最終進化だけあって肉体的な性能は大したもんだが動きが分かっているなら攻略は容易だ。

 先の先を取り続けて一方的にボコってやれば良い。


「おら、まだ自己再生は尽きてないんだろう? かかって来いよ」


 そこからの展開はあまりにも一方的だった。

 俺にかかっていた謎の超強化の効果はもう切れていたが問題なく対処出来た。

 ひたすらにカウンターを叩き込み続けること数時間。自己再生にも翳りが見えて来た。


「……くぅッ」


 このまま一気に……ん?

 これは――いや、そういうこともあるのか。なら……そうだな。うん、俺は最後まで俺らしくやらせてもらう。


「やーめた」


 意識の間隙を縫っての踏み込み。

 反応し切れない奴の左足を思いっ切り踏み付ける。


「!?」


 田村麻呂の太刀を空中に召喚。

 逆手で引き抜き力いっぱい振り下ろし俺の足ごと奴の足を地に縫い止める。


「格下相手に技をひけらかすのもダセエからな」


 笑う。


「シンプルな殴り合いで決着(けり)つけてやるよ」

「……!」


 驚き目を見開く奴の横っ面を思いっ切り殴り飛ばす。

 手は止めない。次は心臓。次は鳩尾。矢継ぎ早に拳を繰り出す。


「おぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!」


 奴の拳が顎をかち上げる。

 そのまま息つく暇もない連打が俺を襲う。技も糞もない原始的な殴り合い。

 痛いし苦しいし良いことなんて何一つない。


(だが……悪くねえ)


 深夜から始まった戦いの中で俺は一番高揚していた。

 これが俺という人間なのだろう。

 ジジイやクロスは俺を勝つためなら何でもするやべえ男だって言ってたがそれはちょっと違う。

 大事なのは納得。納得出来る結末に至るために我を通し続けるのがカール・ベルンシュタイン/美堂螢という人間なのだ。

 復讐のために散々やらかしたのもそう。あの糞野郎を地獄に落とさなきゃ納得出来なかったら。


(戦いが終わったら……ああ、気持ちよく眠れそうだ)


 打って打たれて、絶え間なく与えられる痛みに身体が悲鳴を上げる。

 もう嫌だ、やめてくれと。それでも俺も奴も拳を繰り出し続ける。


「「オォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」


 永遠にも続くと思われた拳の応酬。

 だがこれは無限を否定する戦い。有限の時が燃え尽き終焉が訪れる。

 奴の目は焦点が合っておらず、握り締めた拳すらも不完全だ。

 俺もボロボロだがまだ心は熱く燃えているし、拳だって固く握られている。


「――――終わりだ」


 一番最初に受けた教えを丁寧になぞり突きを放つ。

 真っ直ぐ最短距離を進んだ拳が奴の顔面を打ち抜いた。

 仰向けに倒れた奴が――“田村麻呂”が空を仰ぎながら晴れ晴れとして顔で告げる。


「ありがとう」

「……あんたも馬鹿だな。そのまま八俣遠呂智が嬲り殺されるのを見てりゃ良かったのにさ」


 驚くべきことに田村麻呂の精神は生きていたのだ。

 気の遠くなるような時間ずっとずっと八俣遠呂智に苛まれながらも己を保ち続けていた。

 そして奴が弱り切ったところでその主導権を奪い返してみせたのだ。

 何のために? ケジメをつけるために決まっている。


「そういう君は優しいな。一方的に殺すことも出来たのにそれを良しとせず。私を人として終わらせようとしてくれた」

「あんたのためじゃないよ。俺は俺の納得を優先させたまでの話だ」

「私も同じさ。ケジメをつけなきゃ納得出来なかった。なのに――嗚呼、望外の幸運だ。こんなにも満ち足りた気持ちで逝けるとは」


 田村麻呂の肉体が光となって夜に溶けていく。


「八俣遠呂智も……九頭竜もきっと君に感謝している――本当にありがとう」


 そう言って田村麻呂は完全に消滅した。

 長い長い旅路の果てに、ようやく終わりに辿り着けたのだ。

 お疲れさん、と小さく声をかけ俺は深く息を吐き出した。


「ふぅ」


 気付けば雨は止み、空にはまん丸お月様が浮かんでいた。

 このまま感慨に浸るのも悪くはないが……最後まで役目を果たさないとな。

 すぅ、と大きく息を吸い込み腹の底から叫ぶ。


「――――この戦、俺たちの勝ちだ!!!!」


 高々と拳を突き上げると割れんばかりの歓声が戦場に響き渡る。

 良い気分だ。本当に良い気分だ。


(このまま、寝ちまおう……)


 心地良い疲労を感じながら俺の意識は闇に閉ざされた。

今日は一話投稿です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前世の復讐相手がヤマタノオロチかと思ってました
[一言] サブタイトル?がOOOとビルド…仮面ライダーカール?そういえばそんな魔法道具開発してましたね
[良い点] 化け物は化け物らしく、人は人らしく闘わなきゃね 化け物が人のマネをしてもうまく行くわけなし、その逆もまた然り [気になる点] イキリ悟り飯したのに勝った……だと……?! あと、前世ネームが…
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