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復讐を果たして死んだけど転生したので今度こそ幸せになる  作者: クロッチ
第二部 葦原動乱

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天下統一③

ブクマ5000件突破しました。

本当にありがとうございます、とても励みになります。

これからもどうぞよろしくお願いします。


1.浅井・朝倉、滅亡


 越前に雪崩れ込んで来た浅井を追い返すわけにもいかず、朝倉は遂に戦に打って出る決断を下した。

 が、当主である朝倉義景はカールを警戒し城に引き篭もり、総大将を一門の者に任せ自身は城に引き篭もった。

 そんな状態で士気が上がろうはずもなく浅井・朝倉連合軍はホームの利を生かすことも出来ず散々に蹂躙された。

 だが最終局面、炎上する一乗谷城から義景が遂に出陣。

 と言っても家を守るだとか民を守るだとかそういう理由ではない。

 八俣遠呂智の力を奪われたくないあまりに発狂し、カールを殺そうと出て来ただけ。

 呆れ返る織田方だったが、ここで異常が発生する。


 ――――義景が異形に姿を変えたのだ。


 カールは何もしていない。

 恐らくは尋常ならざる執着が八俣遠呂智の力を暴走させたのだろう。

 顕如の時よりも大きくおぞましい異形が不死性を武器に大暴れすれば被害は甚大なものになろう。

 カールは信長に軍を下げるよう指示を出し前線に出撃し義景と対峙。


《♀#†%°♪◯◯@*∇∃∃!!!!!》

「……言葉すら忘れたか。馬鹿な奴だよ」


 死にたくないと抗うのなら良い。

 権力を手放したくはないと喚き散らすのなら良い。

 互いの欲望(ねがい)を賭けて潰し合おうじゃないかとドライに割り切れる。

 だが、八俣遠呂智の力に拘泥して我すら捨ててしまった姿にはいっそ哀れみを覚える。


「まあ、だからって手は抜かんがな」


 義景は8メートルはあろうかという巨人の姿を取っている。

 鱗の弾丸を飛ばしたり触手を生やしたりはするが基本的な構造は人間と変わらない。

 急いで殺す理由がないのなら確実に、そして安全に仕留めるのが常道だ――ゆえに末端から削って行く。


「手堅く行かせてもらう」


 自らの肉体をすっぽり斬気で覆う。

 後は薄皮一枚での回避に専念すれば敵は勝手に削れて行くという寸法だ。

 理性ある相手ならば成立しないが正気を失い殺意のままに動く今の義景には覿面の戦法である。


「そらどうした? そんな鈍い攻撃じゃ俺は殺れんぞ」


 振るわれた拳を身体を滑らせるように回避し肉を削る。

 大きな隙を見せたのならこちらからも手を出す。

 その繰り返しで義景はあっと言う間に瀕死にまで追い込まれた。


「これで仕舞いだ」


 腰から抜いた田村麻呂の太刀を横薙ぎに振るい首を落とす。

 八俣遠呂智の力は完全に消え去り義景の骸も人の形に戻る。

 その光景を見て、しつこく抗っていた敵方の将も諦めたのだろう。次々に武器を捨て去る――決着だ。

 カールが拳を高々と突き上げると、それに呼応するように勝ち鬨の声が上がる。


「お疲れ」

「そうでもないさ。それより後は任せたぞ」

「ああ。信勝が陣を張っているからそこで休むと良い」


 戦後処理を信長に任せ陣幕に戻ると信勝が即座に水と手拭いを差し出して来た。


「お疲れ様です殿下。見事な男振りに御座いました」

「おう、ありがとな」


 水を頭から浴び、手拭いで戦塵と返り血を拭い一息吐く。


「……改めて思ったが戦争って糞面倒くせえな」

「は、ははは……勝てば終わりというわけではなく、むしろそこからが本番ですからね」

「世の中の大名はよくやってるよホント」


 うんざりしていると今度は食事が運ばれて来る。

 信勝が事前に手配しておいたのだろう。先ほどもそうだが、実に気の利く男である。


「それとつい先ほど、三河の徳川様より文が」

「家康からか。悪いが読み上げてくれるか?」

「え……あ、よろしいので?」


 中身を見て良いのかと言いたいのだろう。

 カールは当然だと答え、湯漬けを啜った。


「……」

「どうした? あれか、家康の奴半端ねえ悪筆だったりして読めない?」


 中身を開いたが信勝は何も言わない。

 理由は分かっているが、この後の流れに繋げるためカールは敢えて惚けた振りをしつつカースのスイッチを入れた。


「……何故、殿下は私を……」


 それは正に青天の霹靂だった。

 謀反を起こした咎で飼い殺しにされていた自分が、将軍の側役になるなど一体何の冗談かと。

 これが名ばかりの将軍であれば理解出来なくもないがカールは名も実も伴った真の意味での将軍だ。

 姉が、信長がまたぞろ理解出来ない思惑の下にそうしたのかと思いきや将軍からの打診だと言う。

 ただ一度、挨拶をしただけの自分を何故?

 信長と意気投合しているぐらいだし、将軍もまた理解出来ない存在なのか?

 困惑しつつも逆らえる立場ではないので打診を受け入れ、カールに仕えるようになった。


 だがいざ仕えてみると信長とは正反対の実に親しみやすい人間だった。

 自分にも良くしてくれるし、久しぶりに気分が上向きになれた。

 だからこそ分からない。何故自分が?


「殿下も御存知でしょう? 私は……私は……」


 信勝は苦悶に顔を歪ませながら何とか言葉を紡ごうとするが結局最後までは言えず項垂れてしまう。

 だが、カールには分かっていた。


「何で二度も謀反を起こした挙句、母親を犠牲に生き残った自分のような無能を傍に置くのかって?」


 あ、二度目は重臣にチクられて事前に阻止されたんだから未遂か。まあどうでも良いな。

 干物を齧りながら告げた言葉は悉く信勝の心に刺さり、更に顔が歪む。


「っ……そ、そうです……そんな私を使うことに何の意味があるのでしょう……?」

「そんなお前だからだよ」

「え」

「断言する。今のお前と謀反を起こす前のお前、どっちが部下に欲しいかっつったら断然前者だ」


 何故だと思う? 酒を呷りながらカールが問う。


「こ、心が折れてしまったから……でしょうか?」

「ベキベキに圧し折られたからもう逆らう気骨もないだろうって? ちげえよ」

「ならば……」

「謀反起こす前は信長んこと見下してただろ? うつけだってよ」

「…………はい」

「今はどうだ?」

「見下せるはずがありません」


 今ならば分かる。ハナから格が違ったのだ。

 そのことに気付けないほど自分と姉の間には絶対的な差があった。

 そう吐露する信勝にカールは小さく笑みを零す。予定通りの流れだと。


「私は、嫌と言うほど己の無力を思い知らされました」

「そこだよ」

「は?」

「逆立ちしても届かない現実に打ちのめされ打ちひしがれ、散々惨めな思いを味わったお前だからこそ価値があるんだ」


 箸を置き、カールは真っ直ぐ信勝を見つめる。


「人間は自分の弱さを知ることで成長出来る生き物なんだよ」


 弱さを知らず負けを知らず、それでも強者のままで居られるのはほんの一握り。

 それこそ天に選ばれたような傑物だけだ。


「そんな綺麗事を……」

「だが事実だ。何せこの俺もそうだからな」

「……」

「信じられないか? でも、そうなんだよ。昔の俺はずっとずっと弱かった」


 苦笑を浮かべカールはかつての自分を語り始める。


「昔な、どうしても殺したい奴が居たんだわ。けどよ、そいつと俺の間には天と地ほどの差があった」


 武力でも知力でも足元にさえ及ばない。

 知れば知るほど瞭然となる格差。何度己の無力を呪ったことか。


「惨めだったぜ~? 何で俺はあんな屑一人殺せやしないんだって夜毎、枕を濡らしてたよ。

だが、どんだけ泣き喚いたって現実は変わりゃしない。だから俺はまず自分の弱さを受け入れた。

無力を認めた上で、事を成し遂げるためにはどうすれば良いかを考えて必死に手前を磨き上げた。

で、結果どうなったか。細かい経緯は省くが俺はあの屑を殺すことが出来たし今じゃ天下の征夷大将軍様よ」


 凄まじい成長だろ? と笑うカールだが、信勝は否定する。

 それはカールが特別だったからで、自分とは違うと。


「殿下は諦めなかった。その“不屈”もまた選ばれた者の強さだ」

「いいや違うね。人には必ずあるんだよ、譲れない何かがな。俺にとってのそれが屑の抹殺だったから諦めずに居られたんだ」


 仮に別の問題で自分の無力を思い知ったとして。

 その時、自分は腐らずに居られただろうか? 答えは否だ。多分、普通に折れる。

 その挫折を引き摺ったまま別の道を進んでいただろうとカールは言う。


「なあおいカッツ。お前にとって織田家の当主は何をしてでも欲しいものだったのか?」

「そ、れは」


「なりたいかなりたくないかで言えばなりたかったんだろうよ。

だが母ちゃんや家臣共に煽られてその気になったってのもあるんじゃねえの?

だからだよ。その程度のもんだからたかだか二度の負けでボッキリ折れちまったんだよ」


 信勝にとって織田家の当主の座は譲れない何かではなかったのだ。

 だから折れて、腐って、立ち直れぬまま今に至ってしまった。


「だと、しても……だとしても……私には譲れぬ何かなど……」

「あるよ。と言うか、気付いてないだけでお前はもう見つけてる」

「え」

「お前、自分がこのままで良いと思うのか? 思わないだろ? それだよ」


 信勝を手招きし、自分の隣に座らせカールは諭すような口ぶりで語る。


「お前、死にたいと思ってただろ。辛くて苦しくて惨めで情けなくて。いっそ死ねば楽になれるって」

「――――」

「でも、死ねなかった。死ぬのが怖いからじゃない。惨めなまま終われねえってお前の心が叫んでたからだ」


 だから俺はお前を選んだのだとカールは笑う。


「もう既に切っ掛けは手に入れてる。コイツはここからだって確信したから俺はお前に声をかけたんだ。

ようカッツ。今が底だ。ここがドン底だ。ここから先はもうねえ。お前は堕ちるとこまで堕ちたんだ。

だったらよぅ、後は這い上がるだけだ。断言する。お前はこっからだ。こっからデケエ男になっていく」


「なれる、でしょうか……? 私も、殿下のように……立ち上がって……立派な男に……」

「なれるさ。んで、俺らを助けてくれ。俺や信長とは違う視点で俺らの不足を補ってくれ」


 期待してるぜ! 笑顔と共にカールはバン! と信勝の背を強く叩く。


「~~~ッはい!!」

「良い返事だ。そいじゃあ、改めて家康からの手紙を読み上げてくれ」

「はっ!」


 先ほどとは打って変わって晴れやかな表情。

 どうやらフォローの一段階目は上手くいったようだとカールは内心、胸を撫で下ろす。

 気持ちは上向きになったが信長への恐怖が薄れたわけではない。

 関係を修復するためには、まだまだ手順を踏む必要があるだろう。

 信勝の読み上げを聞きつつ、カールは姉弟関係修復の算段を立てていく。


「……――とのことに御座ります」

「ふむ。まあ、大体は予定通か」


 家康と共に三河に行った氏真は今川家は奸臣に乗っ取られているとの声明を発表。

 自分を騙し、仲間を騙し、地獄へ誘おうとした重臣らを徹底的に糾弾。

 将軍の後ろ盾を前面に押し出し、今川家を散々に揺さぶった。

 結果、六割ほどは氏真に寝返った。

 試算では七割はいけると思っていたのだが義元を支えてきた重臣だけあって中々にやり手だ。


 この事態に同盟を結んでいる武田もまずいと思ったのだろう。

 将軍本人ならともかく家康と氏真ぐらいならと信玄(偽)が出兵。

 徳川家と武田家with今川家(氏真抜き)は三方ヶ原で衝突、結果は徳川方の完勝。

 弱体化しているとは言え猛将、精兵揃いの武田相手に完勝? と思うかもしれないが当然である。

 徳川方の指揮を執ったのは誰あろう信玄(本物)なのだから。

 強みも弱みも知り尽くした信玄は徹底的に武田、今川連合軍を叩き追い返した。

 信玄(本物)の存在はまだ明るみには出していないが、勘が良いものは確実に気付いたはずだ。

 楔を打ち込まれた武田家はこれから更に揺れるだろう。


「次は武田と上杉か。あーあ、隕石落ちて勝手に滅んでくれたりしねえかな」

「流石にそれは……」

作中にあるようにカールはカースを使ってますが

そのままだとネガティブなカッツが欲しい言葉(例:私なんか死ねば良い→死ねよお前)

みたいな感じになるので気持ちが上向くような言葉をかけて

欲しい言葉がネガティブなものからポジティブなものに変わるようカースで確認しつつ調整してます

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