天下統一①
新年初投稿です(遅れてごめんなさい)
今回の連続投稿で天下統一終わらせます。
1.仕置き
一向宗を始めとする各勢力への朝敵認定が帝と将軍の連名で発せられるや、葦原は未曾有の大混乱に陥った。
カールと敵対している者は言わずもがな。
風見鶏を決め込んでいた者もそれを続けられるような状況ではなくなった。
だが、カールは直ぐに戦を仕掛けることはなかった。その前にやることがあったのだ。
寺社勢力への仕置きである。
今の情勢なら寺社勢力を潰しても反感は最小限に抑えられる。
だが、民衆の心の拠り所として機能する宗教勢力をそのまま潰すのは旨味が少ない。
ゆえにカールは宗教勢力に対してだけは助け舟()を出した。
“仏の教えを以って民の心を慰撫して来た功績は大なり。弁解の機を与えよう”
そう言って各宗派の長を上洛させたのだ。
危険は承知の上だが、民衆の支持が命綱である彼らはそれを受けざるを得なかった。
加えて自分達には利用価値がある。叡山の長は帝の弟だし何とかなるという打算もあった。
それゆえ僧兵を引き連れて上洛したのだが、当然のことながら彼らを見る民衆の目は厳しい。
事情を知らぬ僧兵達にとっては針の筵であった。
そして民衆が見守り帝も出席する白州の場でカールは将軍として彼らを問い質した。
申し開きがあるのなら言ってみよ、と。
するとまあ、舌の回ること。伊達に宗教勢力の長はやってねえな? と弁舌で次から次へと言い訳を並べ立てる。
――――当然、カールは聞いていない。
『沙汰を下す。以降全ての寺社勢力は幕府の管轄下に置く。その方らの口出しは一切禁止だ。
当然だろう? 知らぬこととは言え帝に弓を引いた以上はそれぐらいはしてもらわねばな。
そもそもからして僧籍にある者が武器を持ち、人を殺すこと自体がおかしいのだ。
守りが必要だと言うのなら我らがやる。そなたらは安心して念仏でも唱えておると良い』
賢明な者ならこの状況で逆らいはしなかっただろう。
だが、色々な意味で勘違いしている各宗派の長達は猛然と反発した。
折角築いた権力を手放したくはなかったのだ。
『逆らうか。やはり貴様らは邪神の走狗なのではないか? どれ、試してみよう』
カールはその場で、帝や大衆の前で光を放ち長達を化け物に変えた。
将軍職に宿る櫛灘姫の力を用いて八俣遠呂智の力を流し込んだのだ。
『征夷大将軍カール・YA・ベルンシュタインに命ずる。逆賊を討ち果たせ!!』
『承知!!』
ブック通り帝が指示を出すやカールは田村麻呂の太刀を用いて即座に処断。
帝は弟相手にも容赦はなかった。まあ、手紙を捏造して自分を殺しに来るような弟に情けをかける理由もないので当然だが。
ともあれこうして各宗派は完全な黒となった。
同席していた幹部は全員捕縛。僧兵らは逆賊として裁かれるか朝敵討伐の兵となり罪を償うかを選ばされ殆どの者が後者を選んだ。
後者を選ばなかった者は逃げ出すか暴れるかしたのだが、何もかもが敵に回った状況では意味もなくその場であっさり処断された。
そうしてカールは宗教勢力が蓄えていた金と兵を丸々ゲットし、更に肥え太ることとなった。
それを終えると、ようやく出陣だ。
カールは謙信を補佐役に僧兵の三割を率いて信長と共に一番手近な朝敵である六角討伐へ。
松永姉弟、並びに三好三人衆は手勢と残りの僧兵と共に西への備えに就いた。
氏真、信玄は家康と共に三河に戻り東の備えに。
島津は中央の戦には参加出来ないので帰途に。
順慶は東西どちらからの援軍要請にも答えられるよう本拠地へ帰還し待機。
――――いよいよ天下獲りが始まったのだ。
京に近くいち早く混乱が起き、その規模も半端なかった六角はあっさり滅びた。
大河ドラマで言うナレ死ぐらいあっさりだった。
『六角弱すぎワロタ』
思わずカールがそう漏らしてしまうぐらいだ。
まあ無理もない。こんな状況で戦えなんて無茶にもほどがある。
草野球チームの子供にメジャーでタイトル総なめにしろと言うぐらい無茶だ。
六角を滅ぼすと信長は後始末のために文官の林くんを残し、浅井・朝倉攻めの準備を整えるためカールと共に岐阜城へと帰還した。
「岐阜も良いとこだなぁ。城も何かすげえし、信長やるじゃん」
「おれの功績と言うより蝮の功績だがな。おれはちょいと弄っただけだ」
家臣らが忙しなく準備に励んでいる中、カールと信長は天守に上り世間話に興じていた。
まあ、やることはやったので働いていないというわけではない。
「しかし信長よ。折角銃をくれてやったのに全然使ってねえな」
六角攻めでも使わなかったし、聞けば美濃攻略も金の力でゴリ押して銃は使わなかったらしい。
どういうこったとカールが聞けば、
「斎藤も六角も、鉄砲を使うほどの相手ではなかったからな。であれば、ギリギリまで伏せておくべきだろう。
まあ武田と上杉相手には出し惜しみは出来んし、浅井・朝倉攻めで調練がてら実戦に投入するつもりだ」
「ほーん……まあ、考えあってのことなら良いさ。俺は戦争の素人だしな」
「素人、素人ねえ」
疑わしげな目を向ける信長にカールはいやマジだってと弁解する。
「確かに教本にあるような知識はまるで知らんのだろうが勝つために何が必要かは分かっているだろう?
でなければあんな方法で敵の名声を地に落とすやり方が思いつくかよ。なら素人であっても少し勉強すればやれんことはあるまい」
「つってもなあ……本職が居るんだからそっち使った方が確実だろ」
「だが覚えておいて損はないだろう? どうせならおれが直接、指南してやろうか?」
「そりゃ光栄だが、全部終わったら俺は酒場の店員に戻るわけだし必要ねえよ」
「勿体ないな。お前ならもっと上を目指せるだろうに」
「そんな甘くねえよ」
将軍になれたのだって幾つもの自分ではどうにもならない条件が重なっていたからだ。
大陸に戻れば何一つ特別なことはない一市民だとカールは笑う。
「どうだかな。案外……ふふ」
「何だよ」
「別に」
カールにとって信長との語らいは実に心地良いものだった。
友人のそれよりも近く、恋人ではないがある意味それよりも深い。
同じような気質の持ち主だからこそ気兼ねなく居られるのだろう。
敢えて言うなら同士という言葉が一番、近いのかもしれない。
「ったく……ああそうだ。お前の弟のことなんだがよ」
「ん、信勝か? あれが何ぞ無礼でも働いたか?」
「いやいや、むしろ馬鹿丁寧に――じゃなくてだ」
かつて二度の謀反を起こすも、蝮の娘である帰蝶を娶り次代に織田の血を繋ぐために生かされた信長の弟。
カールは彼のことが気になっていた。
「あの兄ちゃん、そろそろやばい感じだぞ?」
「やばいって何だやばいって」
「多分、お前のことが怖過ぎてふとした拍子に首を括りかねないぐらい追い詰められてる」
挨拶をしに来た際、信長を見る信勝の目は恐怖一色だった。
これが単なる死の恐怖なら抗えるかもしれないがあれは違う。
「おれを見るとびくびくしてるのは分かってたがそこまでか?」
「そこまでだよ」
「むぅ……まぁだ気にしてるのか。手打ちは済んだと言うのに小心な……」
母に謀反の責を全て被せて処刑した時点で禊は済んだ。
また謀反を考えているようならともかく、大人しくしているのなら特別何をする気もない。
利用するために生かしたとは言え、信長自身情がないわけではないのだ。
大体、本来は守るべき対象である弟を誰が好んで殺したいと言うのか。
憤然とする信長にカールは言う。それは違うと。
「違う? 何がだ?」
「殺されるかもという恐怖でビビってるわけじゃないよ。大体、それなら首を括るっておかしいだろ」
「む」
「アイツは多分、お前が理解出来なくてビビってるんだ」
「ん、んん?」
首を傾げる信長。
信長は生まれながらの強者である。それゆえ弱者の考えを理解出来ないのだ。
「何で母親を平然と殺しておいて二度も謀反を起こした自分を生かすのか。
母親を殺せるなら弟を殺すことに何の躊躇いがある? 何故、殺さない? 何故、生かした?
信勝からすればお前の行動は訳分からないんだよ」
「待て待て待て。母を殺したのは……」
カールは手で言葉を遮り、大きく頷く。
「分かる。いや俺には分かるよ? 俺も同盟組むにあたって織田家の内情について色々調べたからさ」
元々信長と母親である土田御前の関係は良いものではなかった。
信長の武家の娘らしからぬ奔放で野卑な振る舞いは御前にとっては目に余るものでしかない。
だから何度もいけませぬよと言い聞かせるが言うことを聞かず、夫に相談しても信長はアレで良いの一点張り。
御前の頭が硬いと責めるのは酷だろう。彼女は常識的なことしか言っていないのだから。
どこの世界に娘が周囲にうつけと陰口を叩かれて良い気分になる母親が居ると言うのか。
娘を悪く言われることもそうだが、暗に親の教育がなっていないと言われているようなもので当然、ストレスは溜まっていく。
そんなこんなで御前は次第に信長を疎ましく思い始め姉とは違って品行方正で母の言うことをしっかり聞く信勝を溺愛するようになった。
「そこまではただの不仲な親子で済むが、問題はここからだ」
「……そうだな」
先代当主信秀は娘の器量を見抜いていたため、次期当主に信長を指名した。
当然、御前は猛反発だ。
女が武家の真似事をするなどおこがましいし、何より信長はうつけだ。そんな娘が当主になって良いわけがない。
信勝をこそ当主にするべきだと言い募ったが信秀はそれを一蹴。
武家の真似事をするのがおこがましいと言うのならお前が口を挟むのもおかしいだろうと。
そして信長は信秀の急逝によって家督を相続した。
夫が死んだことで箍が外れた御前は信勝を当主にしようと暗躍を始め遂には謀反に発展。
全ての責が御前にあるわけではない、信長自身にも非はあるし信勝の野心もあっただろうし。
だが、
「お袋さんは超えちゃいけない一線を超えちまったんだよな?」
「そうだ。女が武家の真似事をするなどおこがましいと言いながら謀を巡らせ殺し殺されの世界に踏み込んで来た」
それでも信長は一度は許したのだ。
信勝が一度目の謀反に失敗した際、御前は信勝を許してやって欲しいと信長に言って来た。
どの面下げてと思いつつ母と弟を殺したいわけでもないしと許しを与えた。
だと言うのに懲りずに二度目だ。
「お袋さんは自分が殺されるはずがないと思ってたんだろ? だからお前は見切りをつけた」
コイツはもう駄目だと。生かしておいたら誰のためにもならない。
利用価値があり、まだ情も残っている信勝を生かすために殺そう。
そう判断し信長は全ての罪を母に被せ、その首を刎ねた。
「俺には分かるよ。似た者同士だからな。でもよ信勝には分からねえんだ」
何故、謀反の首謀者である自分は生かされたのに母は殺されたのか。
自分を殺す理由はあっても母を殺す理由はないだろうと。
自分を殺した後で、母を寺にでも叩き込めば良かったじゃないかと。
「美濃の姫さんとくっつけて織田の血を残すなら他の兄弟でも良いだろう?
何故わざわざ謀反を起こした自分を許して姫を娶らせたんだ?
分からない分からない。姉上の考えていることがまるで理解出来ない。
信勝はよ。能力はともかく人格は真っ当なんだ。真っ当だからお前が理解出来ない」
「むぅ」
利用価値なんて後付けでしかない。
結局のところ信勝を生かした理由は情なのだが、それが信勝には伝わっていないのだ。
ただ、情に厚くとも超えてはいけないラインを超えればあっさりとそれを切り捨てられる非情さも持ち合わせている。
だがその非情さも他を守るという情あればこそ。
その辺のややこしさが誤解を招いてしまうのだ。
「…………一度、腹を割って話すべきか?」
「手遅れだろ。あそこまで追い詰められてるんだ。今更、お前が何を言っても受け止められないよ」
加えて信勝が追い詰められたのは帰蝶の存在もあるだろう。
カールが見た限りでは、どちらかと言えば彼女は信長寄りの性格だ。
普通の嫁御ならドップリ溺れて、上手いこと割り切れていた可能性もあるが信長タイプのせいで気が休まらなかったのだろう。
「ならどうすれば良い?」
「とりあえずアレだ。しばらくの間、俺に預けてみねえか?」
自分の傍で働かせまずは気分を上向きにさせる。
その上でちょいちょいフォローを入れて信長への認識を解させるのだ。
カールの提案に信長はしばし逡巡するが、
「……すまん。頼んで良いか?」
「おう。遠慮すんな。俺らもうダチじゃねえか」
「ありがとう」
「良いよ」
ふぅ、と二人は同時に息を吐き出す。
「人間関係というやつは難しいな」
「ああ。でも、難しいからその繋がりを大切にしようと思えるんだろうぜ」
リミおっさん目当てで回してレオ姉も引けたんだけど
何やこのメスゴリラ……土パの素殴りが冗談みたいに強化されよった……




