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ミニチュアガーデン  作者: ルイ(ヤンデレ好き)
第二章 血の覚醒
16/17

Episode15.それぞれの能力


「うん、この辺なら全部見渡せるね」


 イグニスを救出するということになったものの、連れて行かれた屋敷がどの屋敷か分からない。そんな時「僕に任せてほしい」と言ったのはアルフレッドだった。

 彼の提案により、貴族の屋敷が密集する地域のそばの、小高い丘に立つ。木々が開けたところから豪華な屋敷が幾つも見える。


「ちょっと待ってて。今探すから」

「え、探すってどうやって……」

「シア、説明するから兄貴の邪魔するな」


 ちょいちょいとシュナイダーが手招きをするので、大人しく彼の方へ寄っていく。アルフレッドは目を大きく開けて貴族の屋敷を見下ろしていた。


「兄貴の特殊能力は透視クリアボヤンスなんだよ」

「クリア……って何ですかそれ」

「あー、つまり壁とか障害物をすり抜けてものが見える能力だな。おまけにジョーカーは目が良いから、あの距離でも隊長がどこにいるか特定できる。今探してくれてるから待ってろ」

透視クリアボヤンス……便利な能力ですね。偵察とか監視とかに向いてそう」


 シンシアは感心してそういったのだが、シュナイダーは微妙に顔を暗くして頭を掻いた。


「うーん、まぁそうなんだけどな。なにせ戦闘にはほぼ使えないから、兄貴自体にそういうコンプレックスがあるっていうか、理解ない奴らが色々言うっていうか……。隊長の能力がまんま戦闘特化! って感じだからな、余計に思うところがあるんだろうな」

「イグニスさんの能力?」

「隊長はあれだ、パイ……パイロ……パイロなんちゃらっていう、炎を操る能力だ。すごいぜ。クリーチャーなんて睨んだだけであっという間に燃やせちまうんだから。小火が怖いって言って中々見せてくんねぇんだけど、実践で見るとすごい迫力なんだよ! こう、炎がぶおおおおって……」


発火念力パイロキネシスだよ。あと、炎を操るんじゃなくって目で捕捉した相手に火を点けるだけだから。そういう言い方すると隊長がサーカスの劇団員みたいに思われるからやめなよ」


 ヒートアップして声高にしゃべり出したシュナイダーの後ろ頭を、アルフレッドが小突く。労るように自分の眉間を指で揉んでいた。一人イグニスを探そうと奮闘している横で楽しそうにお喋りする弟にむかっ腹が立ったのかもしれない。

 シュナイダーは結構な痛みが残る頭を撫でながら、不思議そうに兄を見下ろした。


「あれ? もう見つけたのか? 早くね?」

「端っこだったし、目立ってたからね。なんかもうクリーチャー5体と吸血鬼1匹倒してたよ。僕ら用無しかも」

「マジで?! え、すごくね隊長。一人で全部?」

「あー、でも縛られてたから迎えに行った方が良いのは確かか。なんか顔も血だらけだったし」

「縛られてたのに勝ったのか?! あの人マジで規格外だな!」

「ち、血だらけってまずいじゃないですか! すぐ行きましょう!」


 シュナイダーとシンシアで興奮するところがまるで違う。アルフレッドは呆れたため息を一つ落とすと、今にも丘の斜面を駆け下りそうなシンシアの肩を掴んで止めた。


「待って。ここからならシュナイダーの能力使った方が早いから、それで行こう」

「え゛……」


 何故かシュナイダーが嫌そうに顔をゆがめる。彼の特殊能力をまだ聞いていないシンシアはそんな反応に首をかしげた。


「シュナイダーさんの能力って何なんですか?」

「えー……まぁ、瞬間移動テレポーテーションなんだけどさぁ……」

「視界に映るところなら一瞬でそこに移動できる、すごい能力だよ。目で捉えてなくちゃいけないから壁を挟んでたりするとダメだけどね。でも複数人を同時に移動させることも可能だから、使い勝手の良い能力なんだ。……ちゃんと使えれば」

「うっ……」

「すっ、すごいじゃないですか! シュナイダーさん! 今すぐ移動しましょう!」

「だってさ。シュナイダー、ちゃんと・・・・使ってね」


 なんてこの場にうってつけな能力なのか。いや、この場だけではない。奇襲や逃走にも優れた万能の特殊能力だ。

 目をキラキラさせるシンシアとは逆にシュナイダーの顔色はどんどん悪くなる。しかし隣で自分の肩を叩く兄の笑顔の圧力に負けて、不承不承ながらも瞬間移動テレポーテーションを使うことに決めたのだった。


「わ、わかったよ……ちゃんとやるから。で、どこに移動すればいいんだ? 見える位置じゃねぇと飛べねぇぞ?」

「左端にある、あのうす水色の屋敷……わかる? あそこの2階。手前の方にバルコニーがあるだろ。バルコニーが繋がる部屋にちょうど隊長がいる」

「……ん。見えた。あのバルコニーに飛べばいいんだな」

ちゃんと・・・・ね」

「わかってるよ! シア、こっち来い」

「は、はい!」


 兄にしつこいほど念を押されたシュナイダーは苛立っていた。少々乱暴にシンシアを呼びつけ、隣に並ばせる。

 そのまま兄とシンシアの手を握って瞬間移動テレポーテーションしようとするのを、兄がやんわりと制す。


「シアさん、ちょっとごめんね。保険に」

「え? ――ぎゃあっ??!」

「うーん。その反応はちょっと傷つく」


 突然アルフレッドの腕がシンシアの背中と膝裏に回ったかと思えば、ひょいと重さを感じない様子で持ち上げられてしまった。

 地に足がつかなくなった不安定感と、その格好が意味するところの恥ずかしさにシンシアは蒼白になる。こ、こ、これはいわゆるお姫様だっこというやつでは。

 似合わない!! いや、アルフレッドは王子様顔だから超似合ってるけれど、お姫様だっこされてる側があり得ない。ことある度に周囲から散々「男女」とからかわれてきた自分だ。普通の女の子よりもごついし、背は高いし、ペチャパイだし、とにかく女らしくない。似合わなすぎてぞっとする。


「ああああああの、こっ、この格好は、できればっ、早急にっ、可能な限りっ、やめてもらいたいんですが!」

「うん、ごめんねシアさん。無理」


 こっちだって無理です!! とシンシアは心の底から叫びたくなったが、イグニスの危機だということを思いだし、なんとか胸の内に秘めた。アルフレッドの腕の中で縮こまり、ぐるぐると獣のようにうめき声を上げる。

 シュナイダーはそんな二人のやりとりを、拗ねたように見ていた。この兄の“保険”とやらは、すべてシュナイダーを信用していないことに発っするものなのだ。


「んなに信用できねぇかよ。ちゃんとやるって言っただろ」

「うん。でもシュナイダーは不器用なところがあるから。また目標地点の10メートル上空に移動したらたまらないなって思って。シアさんはこうやって僕が守ってるから、シュナイダーは頑張って能力をコントロールして?」

「兄貴だけ役得すぎるだろ! くっそー! ……飛ぶぞ!」


 シュナイダーが声高に叫び、シンシアとアルフレッドの肩を掴んだ。

 瞬間、視界が切り替わった。



*  *  *



「うわっ、ほんとに移動した……!」


 景色が一瞬高速で横に流れたかと思うと、次の瞬間にはバルコニーに着いていた。大人が10人は立てそうな大きなバルコニーを見ながらシンシアは感嘆のため息を落とす。


「すごいですね、シュナイダーさん!」

「あ、ああ……」


 興奮を隠しきれないまま笑顔でシュナイダーを褒める。しかし彼の顔色は能力を使う前よりもさらに悪くなっていた。

 どうしたんだろう、と思いアルフレッドの方も見る。アルフレッドは微笑んでいた。優しい微笑みではない、周囲に凍てつく風が吹き荒れている。


「……シュナイダー」

「わ、悪かったって! いやもうほんとごめん!」


「え、あの……どうしたん、……あ」


 お姫様だっこしていた腕から力が抜けたので、シンシアは下を見ながら慎重に足を地面に付ける。

 そこでようやくアルフレッドが弟に激怒している理由が分かった。


 ……埋まっている。

 双子の足首から下が、バルコニーの大理石に。


「僕は確かに目標地点よりも上すぎる・・・・のはダメだと言ったよ? でも下すぎる・・・・のも、常識で考えたら、ダメ、だよね?」

「い、いや、これは故意にやったわけじゃなくってな。その、なんというか、うっかり……」

「ちゃんと普段から訓練しとけば防げただろうが!!」

「「ひぃっ……!」」


 初めて聞くアルフレッドの怒声にシュナイダーだけでなくシンシアまですくみ上がった。穏やかな人ほど怒ると怖いというのは事実だ。シュナイダーは足が自由にきかないのに、兄の怒鳴り声を前にすると反射的に土下座したくなった。

 思わず鬼の顔を前面に出してしまったアルフレッドだったが、ここが敵陣の真ん中だということを思いだし、怒りを矛に収めいつもの笑顔を浮かべる。まず安心させるようにシンシアに微笑みかけたのだが、余計に怯えさせてしまった。


「ごめんねシアさん、ちょっと僕たちこの床を壊して足を取り出さなきゃいけないから、シアさん先に隊長回収してきて。大丈夫、さっき見た限りは吸血鬼もクリーチャーも隊長に伸されてたから」

「はっ、はい!」


 シンシアはというと、早くイグニスを助けにいきたいという気持ちと、怒れるアルフレッドから逃げ出したいという気持ちでいっぱいになり、言われた瞬間に駆け出した。


 窓は曇りガラスでよく見えなかったが、中で火事が起こっているらしい。

 持ってきた愛剣の柄で思い切りガラスをたたき割る。がしゃん、と割れたその先には、イグニスがいた。

 だが、彼だけではない。彼に襲いかかろうと爪を振り回しているのは――吸血鬼。


「イグニスさん!」


 どうやら、回収するだけでは済まなそうだ。

 シンシアは覚悟を決めて剣を握り直した。


 瀕死のイグニスに比べてなんだか暢気だなこの3人。

 今回でイグニス、アルフレッド、シュナイダーの特殊能力が全部出そろいました。シュナイダーに関してはこのEpisode書きながら考えたとか……言えない……。

 整理すると、


 ・イグニス→発火念力(対クリーチャー特化。目で対象捕捉し火を点ける)

 ・アルフレッド→透視(壁をすり抜けて物を見る)

 ・シュナイダー→瞬間移動(視界に映るところならどこでも移動可能。ただしコントロール仕切れてない)


 って感じです。こうしてみるとアルフレッドの能力のなんて地味なことか……。本人も気にしてます。


 思ったより長引いてる今回の攻防、次あたりには収束させたい。というかあと何話書けばシンシアは覚醒するのやら。

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