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ミニチュアガーデン  作者: ルイ(ヤンデレ好き)
第二章 血の覚醒
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Episode12.追想と追走

 感想ありがとうございます! 励みにして更新頑張ります。


 シンシアの作戦を開始してから既に1週間経った。イグニスは警戒心を一切解かないまま対象者を監視し続ける。たまに耳に伝う仲間の報告が唯一の慰めだ。

 対象者14名のうち10名を監禁し、行動範囲が狭く監視しやすい人間だけ残して監視する、という作戦だが、イグニスたちの負担は単純に計算しても倍になった。

 今までは昼夜で交代して見張っていたが、今度は一人でずっと監視していなくてはならないからだ。ジョーカーたちは皆一睡もしていない。


 寝ないと人間はいずれ死に至る。7日目であれば強烈な睡眠欲と、睡眠障害による幻覚や集中力の低下が起こっていて然るべきだ。

 にもかかわらずイグニスの調子に変化はなかった。ずっと立ちながら目を凝らすことの疲労はあっても、それは眠らないことの障害ではない。

 眠ることはできる。目を閉じれば確かに眠れる。だが、眠らないこともできる。


 ――また人間離れしたところを見つけてしまったな。


 イグニスは苦笑をこぼす。双子は気付いていないだろうか。あの二人は監禁場所の監視組だから交代で休むことになっている。ならばこんな小さな異常には気付かない、か。

 やがては自分たちが“普通ではない”ことを一つ一つ自覚していくだろう。緩やかに絶望し、緩やかに諦めていく。今のイグニスのように。


『イグニスさん』


 シンシアの声が右耳に響く。機械を通したせいで少し声質が変わってしまっているが、彼女の声を聞くと少し安心するのは何故だろうか。

 彼女の声には親しみが溢れている。決して嫌ではない、温かな親しみだ。これが数年も経てば素っ気なく「隊長」と呼ばれるのかと思うとかなり悲しいが。


「どうしたシア」

『こっちの対象者は全員寝静まりました。2名が吸血鬼の話を信じてくれて、家族と一緒にレジスタンスに入りたいと言ってくれました』

「そうか。ならこちらも身元調査する必要があるな。さすがにその場に一週間もいてクリーチャーだということはないとは思うが」

『はい。……あの』


 声に陰りが生まれる。彼女が動き、元いた場所から距離を取る音がした。対象者に聞かれたくない話なのだろうか。


『対象者の方に、レジスタンスにいる方が安全かと聞かれたんですが……どうなんでしょう。この間のことがあったから、咄嗟に答えられなくて……』

「……それは……」

『こちらネスト。新人、これは個人用の通信機器じゃないんだぞ。余計なことを言うな』

『す、すみません! あの、異常はありません。変なこと聞いてすみませんでしたイグニスさん』


 ぷつ、と小さな音を立てて通信が切れる。ネストのあの生真面目で厳しい性格は最初は苦手に捉えられることが多い。シンシアもまたネストを怖がっているようだった。

 シュナイダーもあまり彼のことを好きじゃないようだから、きっと今の会話をネタにシンシアに愚痴をこぼしているだろう。そんな光景が思い浮かんできて、少し笑った。


 ――レジスタンスは安全か、か……。


 答えたくない質問だな、と思った。ネストはシンシアを諫めたのではない、自分に助け船を出したのだ。「余計なことを言うな」というのは明らかに自分に向けての忠告だった。

 レジスタンスに入らなければ50歳までは安穏と生きることができる。ただし50歳以降はただの餌としていつでも食べられる危険に晒される。

 だがレジスタンスに入れば20代でも30代でも殺される危険が出てくる。隠れ家ごと見つかって全滅した例もあった。殺されなくても一生隠れる人生を送ることになり、平穏な生活とはとても言えない。


 決して安全とも幸せとも言えないから、レジスタンスに入る時は必ずそのことを説明し、本人に選択肢を与える。この話をして尻込みするような連中は、どうせ裏切りの種にしかならない。

 結局は近親者を殺され記憶が消える前に保護されるか、自身が食われかけた人間しか入らないのだ。今回シンシアに入りたいと言ってきた対象者も、おそらく入らないだろう。

 そう、普通は選択肢を与えられ、選ぶ自由を持てる。


 ――ジョーカーには、ない。


 シンシアにはそんなことは話さなかった。ただ、復讐したければ入れと言った。もし父親が殺されていなかったら、父親を守るために一緒に入れと言うつもりだった。

 尻込みしたら、このままでは死ぬぞと脅すつもりだった。いやがるなら、気絶させ無理矢理連れて行くつもりだった。……隠れ家に連れて行ってなお、抵抗するならば。


 ――始末しろと、命じられていた。


 吸血鬼がジョーカーを生け捕りにしたがっているのは上層部は全員分かっている。吸血鬼に取られて厄介な存在になるのなら、その前に殺せ。他でもないリーダー、バルサザールからの命令だった。

 シンシアもやがて気付くだろう。この組織が、優しく甘い組織ではないことを。目的のためならばどんな命だって踏みつける。知られて不都合なことは隠す。裏切り者は見せしめに惨殺する。

 やがて気付き、憤慨し、失望し、……受け入れる。復讐を成し遂げるためには、こんな組織でもなくてはいけないから。イグニスがたどってきた道を、シンシアもたどるのだろう。


 ――いつまで彼女は、笑っていられるだろうか。


 幸福には決して繋がらない道に、シンシアを引きずり込んでしまった。

 これは、後悔ではない。最初から分かっていたことだ。ならばこの気持ちは後悔ではない。


「……こちら、イグニス。対象者2の家に訪問客だ。長身、おそらく男。服装はローブをまとっていて見えない」


 見張っていた家の前にローブの男が立ったことで、イグニスの思考は即座に切り替わる。

 対象者2は妻と子に出て行かれた酔いどれの独身男だ。家族がいるならともかく、家に一人であれば吸血鬼に襲われる場所は家にまで広がる。誰にも邪魔されないからだ。


「っ、ローブの男が中に押し入った! サシャ地区3番街レッダー通り3の4、リード診療所と看板が出てる。これから入るから待機班急行しろ!」

『了解!』


 安全な場所で20人単位で固まっていた一般戦闘員に向けてすばやく指示を出し、俺は家の中に入ろうとする。

 それを止めたのはもう一人の隊長、ネストの冷たい声だった。


『待て、入るな。今回は捕獲という難易度の高いミッションだ、最も無防備な状態を狙え』


 ネストの続く言葉を察したイグニスから、咄嗟にやめろと声が出る。小さく、掠れた声だった。

 聞こえたのか、聞こえなかったのか、ネストは少しだけ声を明るくして言う。まるで間違ったことなど何も言っていないかのように。


食事中・・・だ。吸血鬼が対象者に牙を立てるまで待て』


 シンシアが息を呑む音が、聞こえた。

 その他の音は何も聞こえない。誰も動揺などしていない。


 ――最初からその計画だったのだから。


『イグニスさん』


 ネストを非難するでもなく、制止するでもなく、抗議するでもなく、――イグニスの名前を呼んだ。

 その声にどんな感情が込められていたのか理解するより前に、イグニスは家の中へと飛び込む。

 通信をきった。その先の質問を聞きたくなかった。答えたくなかった。


「っ、離れろ!!」


 家の中では今まさに、対象者の首筋に吸血鬼が牙を突き立てようとしていた。イグニスの大声に敏感に反応した吸血鬼は対象者から手を離しイグニスと距離を取る。

 命の危機を逃れた対象者は奇声を上げながら家を飛び出していった。そう、それでいい。そのままどこか人のいるところで匿ってもらえ。


「人間……? いや、その赤い目はジョーカーか。ようやく見つけた餌だというのに……」


 吸血鬼は30代前後の野性味のある美形だった。見るからに苛ついている。

 14人いた対象者のうち10人を別の場所に監禁したため、吸血鬼側も餌を見つけるのに手間取ったのだろう。これはこれで好都合だ。空腹で苛ついている敵は攻撃が乱暴になりやすい。


「クリーチャーは、見たところいないようだな」

「ふん。人形などいなくてもこの私一人で十分だ」

「違うだろ? どうせ器用に操れないだけだ。あんた見るからに雑魚だからな」

「な、なんだと! 人間風情が!」


 そういう台詞回しがいかにも小物っぽいとこの吸血鬼は気付いているのだろうか。

 ジョーカーを人間風情・・・・とこき下ろすようでは高がしれている。クリーチャーを用心棒として連れていないのは本当に上手く操れないからだろう。

 ……こいつはあの狡猾な吸血鬼ではないな。まぁあれだけの数のレジスタンスを食えば、しばらくは血などいらないか。


 イグニスは愛用の武器である仕込みナイフを構えた。吸血鬼はそれを見て余裕の顔で嘲笑う。


「そんな小さなナイフで私を殺せると思うのか? 見くびるなよ人間!」

「……? あんた何も知らないのか?」


 吸血鬼の言葉に、イグニスは小さな違和感を感じた。

 別に誇るわけではないがイグニスはジョーカーの中でもかなり手練れだ。名前も知られているし、その戦い方もこの辺では有名になっている。

 普通はこのナイフを見たら警戒するはずなんだが……。


   ガアアアアァァッ


 考えるまもなく、吸血鬼が牙と爪をむき出しにして襲いかかってきた。最初から首という分かりやすい急所を狙った攻撃に、イグニスは冷静に対処した。

 左腕を顔の横に出して爪の攻撃を受け止める。左腕に仕込んであった鉄小手と硬い爪がぶつかり合って鈍い音を立てた。

 斜め一文字に切り裂こうとしていた右爪の攻撃は後ろに最小限飛び抜くことで、服一枚かすって回避した。


 大ぶりな攻撃の後は体勢を崩しやすい。イグニスは左足の膝を吸血鬼の鳩尾めがけて入れる。

 それを避けようと反射的に前屈姿勢になったところで、右手に持ったナイフを吸血鬼の脇腹に刺した。


 吸血鬼は一瞬痛みに呻いたがすぐに体制を立て直し、イグニスの右頬に向けて拳を打った。

 ナイフを使ったことで右側が無防備になったイグニスはそれをもろに食らい、勢いよく左に吹っ飛んだ。

 イグニスは痛む頬を押さえながら、やはりおかしいと思った。


 こいつ、本当に知らない。


「くっ、くくっ、私がこんな小さなナイフで倒せると思ったのか?」

「それはナイフじゃない。注射器・・・だ」


 ――あんた、この地区の吸血鬼じゃないな?


 続く言葉は、喉を出なかった。背後から伸びてきた幾本もの腕に捕らえられ、頭を床にすりつけられる。

 必死にもがきながら後ろに目をやると、満面の笑みを浮かべた20代ほどの美青年と、能面のように無表情な二人の人間が背中にのしかかっていた。……違う、こいつらは吸血鬼と、クリーチャーだ。

 予備の武器に手を伸ばす前に吸血鬼の青年に両手首を掴まれ、勢いを付けて折られる。


「がっ……、っ、っ……」


 イグニスの声なき悲鳴に混じって、どさっと重い何かが倒れる振動が床に響く。ナイフを受けた吸血鬼が床に倒れびくびくと痙攣していた。

 口から泡を吹き苦しげにのたうち回る吸血鬼を、青年吸血鬼は「怖いなぁ」と嘲笑する。


「吸血鬼の血が入ったナイフ型注射器。僕らにとっては猛毒だ。あのナイフだけは食らいたくなかったんだよね。さ、僕が押さえてるから予備のナイフを探して壊しといて」

「かしこまりました」


 後ろに控えていたであろう別のクリーチャー2体がイグニスの胸や腰、ブーツなどを隈無く探しすべての隠し武器と通信機器を真っ二つに折っていく。


「は、はぐじゃぐざまっ、げ、げどぐを、げどぐをおねがっ……」

「うん、ごめんね。解毒をしてる暇はないんだ。そろそろレジスタンスが集まるだろうから逃げないと。君も上手く逃げてね?」

「そ、んな、はなしが、ちが……ぅ……」

「さ、いこうかジョーカー君。もっと安全な場所で食べてあげよう」


 麻縄と鉄鎖で厳重に縛られたイグニスはクリーチャーに運ばれ為す術もなく連れ去られた。


 バトルシーンが拙いのは許してください。小物がくっさい小物なのも許してください。主人公が空気なのも(ry

 なんだろう、前半はレジスタンスの黒い部分がチラ見した感じ。後半は、ああ、あの人の罠でしたかって分かる感じ。

 今回敵として出してる狡猾な吸血鬼さん、いまだ名前決まっておらず。とりあえず便宜上伯爵と呼びます。


 ナイフ型注射器はあれですね、刀身の部分が実は空洞になってて刺すと中の毒がちゅーって流れるイメージですね。物理的にどうとか細かいことはいいんですファンタジーだから(どーん)

 ちなみに解毒は別の吸血鬼が吸い出してペッってやります。ものの○姫でもあったそんなシーン。だが見捨てる。

 なんかこんなに色々やってるのに名前付けられない伯爵もそれはそれで哀れかもしれん。

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