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ミニチュアガーデン  作者: ルイ(ヤンデレ好き)
第二章 血の覚醒
11/17

Episode10.狩るものと狩られるもの

 ※残酷な描写がいっぱいあります。ご注意ください。


「こちらイグニス。対象者3に男が接近。顔は見えないが路地に連れ込もうとしている。服装は薄茶色のローブ、貴族にしては地味。様子を伺う」

『了解。こちらネスト。対象者13に男が接近。……ああ、違う、対象者の息子だったようだ』


 今日は吸血鬼の捕獲という難易度の高いミッションだったため、イグニスは隣の中央C地区の仲間に協力を仰ぎ対象者を見張っていた。

 中央B地区の対象者――50歳以上の人間、総勢15名を、交代々々で監視し、吸血鬼の接近を待つ。人間を襲おうとしたところを狙って捕獲する作戦だった。


 50歳を迎えたからといって、当然すぐ襲われるとは限らない。食用・・とすることを許可されただけだ。既に監視してから10日、誰も襲われることなく平和に過ごしている。

 監視するレジスタンスの中には苛立ちまぎれに「さっさと食えよ」と悪態を吐く輩もいた。実際に言葉にした者にはイグニスが厳しく怒鳴りつけたが、きっと何人もが同じことを思っているのだろう。昼夜で交代するとはいえ、精神が参るミッションだ。


 ジョーカーは一人で対象者を、一般戦闘員は5人で対象者を監視している。体力に自信があるイグニスも、時折眉間の辺りを揉んで疲れた目を癒やした。


「こちらイグニス。こっちも違った。対象者の弟らしき人物が金を無心している」

『こちらグループ・ステファン。対象者5に女が……おいおい、おっぱじめやがったんだけど。こんな歳して若い女と浮気してやがる。路地裏で下半身出し始めたが、見てなきゃダメか?』

『こちらネスト。くだらないこと言ってないでしっかり監視しろ』


 最初は誰もが緊張感をもってやっていたが、疲労が溜まってくると男独特の下卑たジョークが出てくる。

 生真面目な隊長ネストは一切そういうのを許すつもりはないようだが、この段階になってくると口だけでは抑えきれない。


 日も傾き、交代の時間まであと3時間という時に、突然機器に悲鳴がはいってきた。


『こちらグループ・グリード! 対象者12を監視、クリーチャーに襲われた! か、数は5体! ――ジャック!』

「こちらイグニス! 今そちらに急行する! 場所を言え!」

『さっ、サシャ地区1番街シルバー通り、に、肉屋と診療所の間の路地裏だ! ジャックとフィッシャーが死亡! ひっ――』

『こちらネスト。路地から出ろ! 急げ!』

『あ、が、が――』

『グリード! くそっ……』


 シルバー通りに向かって全力疾走しながら、イグニスはグリードの断末魔を聞いた。Gリーダーの顔は全員覚えている。中央C地区に所属する、まだ30代の、真面目そうな青年だった。


『ぴちゃ、ぴちゃ……じゅるっ、じゅるるる……くちゃ』

『な、なんだよこの音……っ』

「聞くな! とにかくシルバー通りに急げ!」


 G・ステファンと名乗った男が怯えた声を上げる。あの男はまだ入ったばかりという顔をしていた。きっとクリーチャーの特性についてもよく知らないのだろう。


 クリーチャーは食べ物を必要としない。吸血鬼に操られてるだけの木偶人形だからだ。だが、吸血鬼の忠実なる僕である奴らは――主人に持っていくため、血を吸い、血を溜める・・・

 その血の吸い方は吸血鬼よりもよほど不器用・・・だ。奴らには血を吸い尽くすための牙がない。だから首や腹など、あらゆるところを引き裂いては溢れた血を口に入れていくのだ。吸血鬼に食べさせるため内臓と目玉は綺麗に丸呑みする。時間があれば筋肉だって噛みちぎって持って行く。奴らは汚く汚く、死体を保管・・するのだ。


 機器から伝わる水音と咀嚼音に、一般戦闘員の何人かが狂った悲鳴を上げる。彼等はきっと集まってはくれないだろう。どれだけ威勢がよくても復讐心があっても、恐怖に負ければ終わりだ。

 イグニスは舌打ちをし、胸ポケットにある別の無線機を起動させた。


「待機組! 起きろ! クリーチャーが現れ仲間が3名やられた! 至急サシャ地区一番街シルバー通りに急行しろ!」

『た、隊長。こちらシュナイダー! 了解、全員叩き起こします』

「一般戦闘員は10人で固まれ! 相手のクリーチャーは5匹いる、5人じゃ太刀打ちできない! ジョーカーは二人一組だ!」

『こちらアルフレッド。指示を飛ばしました。これから弟と現場に向かいます。吸血鬼の姿は確認できましたか?』

「いや、連絡は入っていない。監視している最中に不意を突かれたかもしれない。Gリーダーと連絡が――」


『こちらグループ・ギッシュ! G・グリードのメンバー一人を発見、保護。もう一人が路地で動けない状態らしいので救援に向かいます!』

「っ、待て! 罠だ! 通りに戻れ!」

『え――』


 ごきり、と首の骨が折れる音がした。あまりに生々しい死の音に、それを聞いた一般戦闘員が半狂乱になって騒ぎ出す。その騒ぎに混じって、かすかだが、人間の絶叫が聞こえた。……おそらく、G・ギッシュのメンバーのものだろう。Gリーダーを殺されると統率が乱れ、無力と化す。

 これで、最小で4名、最大で10名の死者が出た。誰が死んだか正確に把握できないというのは最も危険だ。クリーチャーは一度目にした人間を完璧に真似ることができる。死者に化けて人間を連れ込み、路地裏で殺すのだ――今のように。


『こちら、ネスト。……死にたくなければよく聞け。現場についても路地裏には入るな。ジョーカーが来るのを待て。……イグニス、すまない。死んだのはいずれもうちの戦闘員だ。教育が行き届いてなかった』

「反省会は後だ。――俺からも忠告しておく。クリーチャーの擬態を見抜くことは困難だ。路地裏に引き込もうとする奴は、たとえ友人の顔をしていても信用するな。殺されるぞ」


 両隊長の低い声に、動揺の波が少しずつ引いていく。「了解」と誰かが震える声で呟くと、同じような言葉が幾つも続いた。

 ……怖くないはずがない。仲間が死んでいく音を、機械を通して聞いているのだ。無残に殺され、引き裂かれて、啜られる音を。


 だが、真に恐ろしいのはこの光景だ。イグニスは夕暮れの大通りを静かに見つめる。

 大声で野菜を売る男。片手に荷物を、もう片手に娘の手を握り家路につく女。腕を組みぴったりと寄り添う恋人たち。

 誰も、……誰も、気付いていない。路地裏で起こる、凄惨な虐殺を。この世界が、平穏の皮を被った地獄であることを。


『こちらネスト。現場に着いた。5名の一般戦闘員と共に路地裏を探す』

「……こちらイグニス。俺ももうすぐ着く」


 ――その後。ジョーカーが率いる少数の戦闘員と共に、路地裏の捜索が始まった。

 見つかったのは、10人の一般戦闘員の死体。いずれも首を落とされ、内蔵を抜き取られていた。落とされた首は乱雑に転がされていたことから、単に血を抜き取るために切断したと思われる。

 鶏と同じだ。誰かがそう言った。違うのは、血を抜いた肉体ではなく、肉体から抜かれた血に関心があることぐらいだ。


 10人の死体からそう遠くないところに、女性の服と塵の山があった。対象者12の、食べかすだった。

 当然着いた時には吸血鬼の姿は見えず、クリーチャーの姿も見えない。ただ、10名……いや、11名の死者を出しただけに終わった。



*  *  *



「ふふふ。大収穫、大収穫」


 屋敷の主である男は自身の操るクリーチャーを居間に並べて心底満足げに微笑んだ。

 10人分の血と内臓をいれたクリーチャーは女型であれ男型であれ例外なく、臨月の妊婦のように腹を大きく膨らませている。囮用の一体だけは擬態しやすいように何も溜めさせていない。


「んー、これだけあれば1年は持つだろうけど、どうしよっかな。新鮮なうちに食べちゃおっかな」


 膨らんだ腹をご機嫌に叩きながら男は考えた。

 今日はレジスタンスを見事に欺いてやった。まさか監視する立場の奴らが、逆にクリーチャーに虎視眈々と狙われているなんて思いもしなかっただろう。

 いや、最初は警戒をしていたはずだ。一日目は・・・・


「10日で集中力切れちゃうんだから、人間って脆弱な生き物だなぁ」


 男は10日間ずっと、レジスタンスを監視していた。ジョーカーは隙が全くないし、人間は周辺に常に気を張っている。自分たちが食われる立場だと知っている生き物の動きだった。

 だから永遠の時を生きる男は、特に焦ることなく、疲れを知らないクリーチャーたちを使って獲物が弱るのをじっと待った。

 52歳の女性も男は食ったが、本命はレジスタンスの人間の血だった。彼らは若く、健康的だ。その血は極上の味がする。


「うん、やっぱり食べちゃおう! 美味しいものは一番美味しい時に食べるべきだよね!」


 決心した男は、この10日間の我慢強さは微塵もみせず、クリーチャーの首筋に牙を立てる。

 じゅるじゅると中に収められた大量の血を美味しげに吸い出した。あっという間に腹がへこんだクリーチャーを解放し、次の一体へ。

 4体全部の血を吸い出した男は、満たされた腹を撫で笑顔でクリーチャーに命じる。


「内臓は明日食べるから、てきとうに調理して。うーん、そうだな。ハンバーグが食べたい気分!」

「かしこまりました」


 吸い出した血の美味しさに、男は美麗な顔をうっとりと歪ませた。

 若い血を飲める吸血鬼はそんなにいない。掟を破らず手に入れる方法が二つしかないからだ。

 一つは、人間を殺さずに血だけ飲む方法。ロード吸血鬼のフェルナンドはこの方法を好むが、中々成功率は低い。普通の吸血鬼は血の誘惑に勝てるほど精神が強くないのだ。


 もう一つは、レジスタンスを殺して血を飲む方法。真実を知り、抗う人間を守る掟などない。ジョーカーだけは殺さず生け捕りしろと命令されているが、レジスタンスに入っている人間ならいくら食べても咎められない。

 もちろんこの方法もリスクは高い。吸血鬼を殺せる力を持つのもまた、レジスタンスだからだ。

 だから自分の力を傲ることなく、慎重に、注意深く、機会を伺う。吸血鬼にしては異常なほどの警戒心をもつ男にとっては、そうすることなど造作もなかった。


「レジスタンス……次はいつ、狩りを始める?」


 自分を狩ろうとする存在を、逆に狩る。これこそが狩猟の楽しみじゃないか。

 既に皮をむかれて食べるだけ、などというウサギ肉にんげんには興味はない。牙をむき、毛を逆立たせ抵抗する猟犬レジスタンスの方がよほど狩って楽しい。

 心なしか、血を飲むときも彼らの躍動を感じるのだ。若いから美味しいだけではない。飼い殺しにされていない、生きた味がする。

 男はぺろりと舌を出し、狩りの享楽に酔った。


「ほんと、病みつきになりそうだ」


 今度は、もっと手強い獲物を狙ってみようか。

 ――ジョーカーという、強い強い狼を。


 性的R15の次はグロ的R15をすかさずぶっ込むっていう。

 突然始まった吸血鬼捕獲ミッション(失敗)。何故このミッションをすることになったかは次回説明します。

 主人公微塵も出てないわ……。イグニスも指示だけして特に活躍してないわ……。

 うーん、まぁ今回の話はクリーチャーの生態説明と、なにやら警戒心の高い吸血鬼の独り言だけですね。次回は主人公出します。

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