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ミニチュアガーデン  作者: ルイ(ヤンデレ好き)
第一章 日常の崩壊
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Episode9.切り札

※性行為をにおわせる描写、台詞があります。ご注意ください。

※色々ひどいことやってる外道がいます。許してください。


 ガウェインは苛々と城の廊下を早足で歩いていった。彼の苛立ちの理由は主に三つ。

 一つは、先に純粋なるジョーカーを見つけたのにも関わらずみすみす目の前でレジスタンスに奪われたこと。二つ目は、近くの吸血鬼たちに捜索の要請をしたのに、案の定すぐには動かず、30分もたってから重い腰を上げたこと。当然レジスタンスの連中は影も形もなかった。

 敵の機動力を見ているだけに、味方の怠慢が癪に障る。吸血鬼たちは安穏と人間社会を支配するのに慣れすぎて、人間という生き物の底知れないしぶとさを忘れてしまった。


 厳しい顔つきで城に帰ってきて、自分のクリーチャーに受けた報告が、彼の苛立ちの最後の理由だった。


「っ、フェルナンド!」


 怒鳴り声を上げながら重い扉を開けると、予想していた光景が目に飛び込んできた。

 巨大な白いベッドの上で絡まるようにして睦み合う男女。一見して恋人同士の事後のように思えるが、そうでないことは男と女の有様を見ればすぐに分かった。

 必要最小限のところだけを露出させてあとはきっちり服を着込んでいる男と、全裸で、身体中に赤い切り傷がある女。


 部屋には鼻を摘まみたくなるような精と血の匂いが充満していた。

 匂いを嗅ぐだけで20代前半、処女の血だと判断できる。……いや、正確には数時間前まで処女だった者の血か。

 先ほど成り行きに任せて食事・・をしてきてよかった。空腹のままだったらこの血の匂いに当てられて冷静に話ができなかっただろう。


「お前、何度言えば理解する! つまみ食いは周囲に悪影響だからやめろと言ったろ!」


「えぇー、別に殺してないんだからいいじゃん。お腹は傷つけてないから、まだ孕める身体だし。ねー?」

「は……ぃ、きもちぃ、です、セックス好き、です、これからは皆とセックスして、いっぱい子供産み、ます、あ、ぁあ……っ」

「くくっ、そぉそぉ。選り好みしちゃダメだよ? 迫ってきた男全員銜え込んで、子供たっくさん産んでね。俺たちの大事なだぁいじな餌なんだから」


 肩や背中、腕や足など、腹と顔以外の部位をほとんどナイフで切り刻まれているというのに、女は「痛い」という言葉を使わない。

 これもこの男の常套手段だった。あらかじめ痛みを快楽に換えさせるよう洗脳してからナイフで切ったのだ。そうしておきながら痛みによがる女を変態、淫乱と蔑む。……どこまでも趣味の悪い。


 真新しい肩の傷から流れる血を、男――フェルナンドは舐め上げ、ついでとばかりに傷口を舌で抉る。女の甲高い嬌声が部屋に響いた。

 牙が少しでも食い込めば女は死ぬだろうが、何度も“つまみ食い”をしてきたフェルナンドはそんな失態は犯さない。舌を器用に駆使して流れる血を味わった。


「さて、と。うん、美味しかったー。あ、お前。こいつどっか治安の悪いところに捨ててきてくんない? この状態のままで」

「かしこまりました」

「じゃあね、ベラちゃん。俺の精液じゃ絶対孕まないから、ちゃんと人間の男の精液もらってくるんだよ。大丈夫、ゴロツキばっかのところにおいといてあげるから、きっと色んな人からもらえるよ」

「ぁ、ぁ、お、かあさん……おかあ、さん……」

「うん、ベラちゃん、立派なお母さんになろうねー」


 フェルナンドはシーツに女をくるむと、物を渡すように自身のクリーチャーに手渡した。

 最後に残った自我がこぼす哀願でさえ、分からないふりをして鬼畜な言葉で返す。女を俵担ぎしたクリーチャーが部屋から出ていくと、フェルナンドは意地の悪い笑みをガウェインに向けてきた。


「勘違いしないでほしいんだけどー、これは慈善活動だよ?」

「……どこが。悪趣味にもほどがあるぞ貴様……っ」

「んー、ベラちゃんはねぇー、昔男にレイプされかけたトラウマから男とヤれなくなっちゃったんだって。そんな身体じゃ子供産めないでしょ? せっかく美人なのに勿体ないから、トラウマを治してあげたんだぁ」


 嘘を吐け。ただ若い女の血が飲みたくなっただけだろう。

 50歳以上の人間の血なんて不味くて飲めた物じゃない、と日頃から公言している男をガウェインは睨みつける。

 別に先ほどの女に同情するつもりは更々ない。クリーチャーに抱えられてさらなる悲劇の地へ行くのを、ガウェインは一切止めなかった。女を助けるつもりはない、ただ、掟を軽んじるこの男の様が気に食わないのだ。


「大体何が悪いのー? 子供を孕む腹と育てる胸は一切傷つけてないし、牙も突き立ててないから掟には反してないよ? 実際ボスにはお咎め食らったことないしー」

「貴様は器用にできても、貴様のシンパが真似してうっかり殺しているんだ。こんなくだらないことで掟が形骸化したら大問題だ」

「ぷっは! それ俺に責任押しつけちゃう? 自制できないそいつらが悪くね?」

「貴様の真似をして若い女を殺した吸血鬼にはきちんと罰を与えてる。だが貴様のこの行動が、周囲に悪影響を与えてると言ってるんだ!」

「知らねーよ。血舐めててうっかり牙使うんなら、最初から注射器でも使えって言っとけばぁ?」


 くるりと頭上に投げたナイフを受け止め、そこに残っていた女の血をじっとりと舐める。

 フェルナンドがつまみ食いを始めたのは50年ほど前からだろうか。最初は確かに50代の血とは質も香りも違う若い血に理性が飛びかけた。だが牙を突き立てたら最後、若い女は死に、自分は背中を焼けた鉄の棒で1000回叩かれることになる。それが分かっていたため、なんとか渇望を抑え、殺すことなく血を飲んだ。


 フェルナンドのように器用に飲める吸血鬼は少ない。普通は血の匂いを嗅いだら首に食らいついて仕留めたくなるし、血を味わったら全身から吸い尽くしたくなるものだ。

 こんなつまみ食いができるのは強靱な精神力を持ったものの特権だ、とフェルナンドは考えていた。


 だからそんな特権を奪い上げて頭でっかちに掟を押しつけてくるガウェインが、フェルナンドは疎ましかった。

 一方ガウェインの方も、掟があるからこそ安穏と食事ができるということを忘れ、ギリギリのラインを歩くフェルナンドを嫌っている。

 性格のあわない二人はたびたび衝突し、今日のように睨み合うことがあった。


「つーかさぁ、結局君ジョーカー捕まえられなかったんだってぇ? 俺に文句言うより先に、ボスに報告してお咎め食らってくればぁ?」

「ボスにはもう報告し、お咎めはないと言われてきた。レジスタンスが既に大勢動いてたんだ。全く……鬱陶しい連中だ」

「それは災なぁん。ボスからはジョーカーは不用意に殺さず、生け捕りにしろって言われてるからねぇ」

「……あの子ならともかく、イグニスのような危険思想に染まりきった奴らを生け捕りにできるか」


 言いながらガウェインは、惜しいところで逃がしてしまったシンシアのことを思い出した。

 後ろから拘束したとき、随分と華奢な体つきをしていると感じた。年の頃はおそらく13,14ぐらいだろう。あんな幼い身体で剣を持ち、ガウェインに必死で抵抗しようとした。

 父の成れの果ての前で涙をこぼす様は息をのむほど美しいものでもあったし、同時にひどく心が痛くなるものでもあった。

 すべて忘れさせ、自分を家族であると教え込み、幸せにしてやりたいと心から思った。何故かは分からないが、自分はあの少年に惹かれている。そばに置いて笑顔を見てみたい。あの美しい顔が優しく微笑めば、きっととても穏やかな気持ちになれるのだろうと想像した。


 ガウェインはフェルナンドの方をちらりと見て、仕方がないとばかりに小さく息を吐いた。

 とても気に食わない奴ではあるが、こいつの“洗脳”は本当によく効く。最終的にはこいつに頼むことになるだろう。


「……頼みがある」

「へ? ガウェインが? 俺に?」

「そうだ。そのうちジョーカーの少年を捕まえてくる。その子から元の家族とレジスタンスの記憶を消し、代わりに俺を家族と思い込むように作り替えてほしい」

「そのくらいなら三日もあればできるけど……めっずらし。ちなみにー、どんな関係をお望みですかー? 息子? 弟? なんなら伴侶もできるよ?」


 堅物のガウェインがその少年に入れ込む様に度肝を抜かれたフェルナンドだったが、すぐに調子を取り戻し、顔をにやけさせながらからかう。

 一方“伴侶”という言葉に心臓を跳ね上がらせたガウェインは、赤くなる顔を横に背けながら必死に考えを振り払った。――何を考えてる! 俺にそっちの趣味はないはずだぞ!


「そ、それは捕まえてから考える。とにかく、頼んだぞ!」

「はいはい、ジョーカーはボスも欲しがってるから、頑張ってねー。はーあ、俺の聖母マリアはいつ現れてくれるのやら」

聖母マリア? なんだそれは」


「女のジョーカーだよ。俺の子を孕んでくれる」


 急にフェルナンドの声が凄みを帯びる。またその話か、とガウェインは呆れた。

 普段はゆるゆるの口調で話し軟派な雰囲気をまとうフェルナンドだったが、“女のジョーカー”の話になると薄暗い執着を前面に出す。ぎらぎらとした瞳には底知れない欲望が宿っていた。

 「番」やら「マザー」やら「ハニー」やらと毎回呼び方を変えるが、今度は「聖母マリア」か。随分前、人間が信仰していた神の母の名だ。お前の子は神か、大きく出たものだ。


「いい加減諦めたらどうだ、女はジョーカーにならない。前例がないだろう」

「いーや、いつか絶対女のジョーカーは生まれる。ボスだってそう思ってるからレジスタンスをあえて見逃してるんだ。あそこは自動的にジョーカーを集めてくれるからね」

「そうだが……」

「絶対に現れる。現れなきゃおかしい。――吸血鬼が男しかいないのは、他に種を植え付けるためだよ?」


 吸血鬼と人間の間に子供は生まれない。いくら植え付けようとも一度として芽生えなかった。

 こんなに優秀な種族なのに繁殖ができないなんておかしいじゃないか。繁殖ができてこそ、種族は真の繁栄を遂げる。


 ジョーカー。レジスタンスの誰かがそう名前を付けた。良い名前だ。

 フェルナンドはぺろりと唇を舐めた。


 ――――吸血鬼の、切り札ジョーカー


「絶対に捕まえて、俺の子を孕ませる」


 その日はきっとそう遠くない。

 物語のR15指定は大体コイツのせい。ぎ、ぎりぎりR15で大丈夫……だよね……?(すっごい不安)じ、事後だし……。

 敵サイドの不穏な雰囲気とかは書いててとっても楽しい。シンシア、しらないところですごく嫌な奴に執着されてます。

 ガウェインはガウェインでなにやら一目惚れっぽい。しかしこいつも言ってることちょっとおかしいですね。この二人書くの楽しいわー。


 さて、これで第一章は終わりです。第二章からレジスタンスとして本格的に活動する予定。

 なんか色んなところでフラグを勝手に作られてるが、シンシアはいつまで無事なのか……。

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