28.俺なりのダンジョン攻略
本日更新3話目。
日差しが西の空に傾きかけた頃。
俺とリリシアは王都に帰った。
ただし、引いている荷車はすぐには返さず、物資調達に使わせてもらった。
ガラガラと車輪の音を立てながら石畳の道を歩く。
「えーっと。食料と簡易鍋とコップ。それにろうそくと着火油……あとは、銅の塊?」
「コウちゃんが欲しいって言ってました」
「材料か。わかった」
いろいろ買い揃えて一階にも泊まれる安宿へ。
買い物で11万3200ゴート、安宿が3000ゴート。
――てか、店がしばらく使えないから家賃安くしてもらってもいいんじゃないか?
あとで大家に相談してみよう。
そして買い込んだ物資を部屋に入れて、そこからダンジョンに繋いで持ち込んだ。
その後、荷車は城近くの倉庫に返した。
所持金合計。大金貨43枚、金貨29枚、大銀貨6枚、銀貨13枚。459万7300ゴート。
◇ ◇ ◇
コウのダンジョンは明るく青白い光に満ちている。
通路の床に銅の塊を置くと沈んで消えていく。
残りの食料などは床に並べた。
子機に話しかける。
「じゃあ、コウ。予定通り頼んだ」
『あいさー』
入り口が消えて、すぐに別の場所が現れる。
外に出ると山の上だった。
俺はゴーレムのメインダンジョンの可能性が高い山脈のダンジョンを攻略するつもりだった。
できればコアを破壊してコウをパワーアップさせたい。
というかダンジョン同士は常に戦争状態らしいので、ほっておくとコウがまた破壊されてしまう。
子機からコウの声がする。
『ここが限界です。これ以上近づくとアタシの存在が相手にバレてしまうので』
「入り口はどこだ?」
『尾根の向こう側だです』
「わかった」
俺とリリシアは砂礫の積もる尾根を東に向かって歩いた。
周囲の景色は雄大で、北には緑の森と平原。
南には平らな地面に亀裂が走った大峡谷が広がっていた。
なんとなく青空が近い気がする。
隣を歩くリリシアに話しかける。
「なんだか気持ちのいい場所だな」
「はい。ダンジョンや魔物がなければ、もっと素敵だと思います」
リリシアは雄大な背景を背に、銀髪を揺らして微笑んだ。
それだけで何か、ここまで来た甲斐があったと思った。
尾根を越えた斜面にダンジョンの入り口を見つけた。
斜面を慎重に降りていく。
――と。
リリシアが急に「ん?」と眉をひそめた。
「どうかしたか?」
「いえ、かすかに血の匂い……モンスターが近くで死んでいるようです」
「そいつを倒した敵が近くにいるかもな。俺がダンジョンに入って入り口を確保。リリシアは天使になって索敵だ」
「はいっ」
リリシアの背中からバサッと翼が広がる。
俺は剣を抜きつつ斜面を降りた。
ダンジョン入り口に飛び込む。
一枚岩でできた天井と壁。敵の気配はない。
「中は大丈夫だ」
「はいっ、行きます」
リリシアが羽を広げて軽々と入り口まで飛んできた。
それからオーラディティクトと指眼鏡を使って周囲を索敵した。
「敵は見当たりません。大猪の死骸があるだけです」
「そうか。死骸か。討伐部位は取っておいた方がいいか?」
「ほとんど食い荒らされてますから毛皮は取れないかと。しかも崖下ですし、危険かもしれません」
「じゃあ、いいか。無視して行こう」
「はい、ご主人様」
俺たちはダンジョンの奥へと進んだ。
中は天井や壁がぼんやりと光っていて、わりと明るい。
床も壁も継ぎ目のない一枚板で、四角いトンネルのようなダンジョンだった。
俺は剣を抜き、リリシアが翼を出して指眼鏡で見ていく。
二股路や十字路に行き当たると、罠のない方の通路を選んで進んでいった。
しばらくしてもなにも起きない。
「……モンスター用通路だから、戦闘は避けられないと思っていたんだが……」
「不思議ですね。この辺は材料を取り尽くしたのでしょうか?」
「まあ、警戒しつつ先を急ごう」
「はいっ」
その後もまったくモンスターに遭遇せず、俺たちはさくさくと地下へと降りていった。
◇ ◇ ◇
昨日の夕方のことだった。
森の中の小屋の近くで、混沌竜は生きていた。
しかし瀕死だった。
エサを食べて成長しなければとわかっていたが、それ以上の恐怖に心が支配されていた。
本能が食欲以上に訴え続ける。
――やばいやばいやばい、あいつやばい! 死ぬ! 殺される!
体が動かず逃げられない。
それなのに無慈悲にも聖属性ダメージが継続的に入り続ける。
あいつが傍にいるだけで、何もできずに嬲り殺しにされていく。
――なんなんだよ、あいつはっ! 俺様はSSランク級モンスターだぞ!?
しかし、もがいても瀕死の身体ではどうにもならなかった。
ただ死を待つことしか。
すると急に体が軽くなった。
あいつの気配が消えていた。どこかに移動したらしい。
――い、いまだ!
混沌竜はすぐさま茂みから抜け出して走った。砕けた卵の殻をまき散らしつつ。
必死でその場から、小屋のある広場から離れる。
そして泣きダッシュしながら南へと向かった。
何度も転生しては世界を滅ぼそうとした混沌竜にとって、初めて流した涙かもしれなかった。
森から北西に向かえば人間の街があることには気が付いていた。
しかしそこを襲えば確実にあいつが来るのもわかっていた。
エサを食って怪我や体力を回復したいが、今はとにかく離れることが先決だった。
でもどこまで逃げたら、あのマップ兵器のように凶悪な範囲から抜け出せるのかわからない。
痛みや疲れよりも恐怖が先に立って足が動く。
森の外れまで来ても、不安が募った。
そこで大きな猪を仕留めて、混沌竜は山へと登った。
――山の向こう側へ行けば、さすがに範囲外になるだろう。
そういう考えがあった。
そして瀕死の重傷を負いながらも山を越えて尾根の向こう側に出た。
さすがはSSランクのモンスターだった。
――ここまでくれば大丈夫だ。
混沌竜は咥えてきた大きな猪をゆっくりと食べた。
肉をよく噛みながら考える。
一万年前は調子に乗りすぎて同族からも反感を買ってしまい孤立した。
結果、全種族総出で狩られてしまった。
今回はあんなに強い奴までいるんだから、力を付けるまではどこかに隠れて大人しくしておこう。
可能であれば、魔王や邪竜王と共謀して世界を滅ぼそう。そうしよう。
そんな結論を出すと、あとは眠って食べて眠って食べてを繰り返した。
次第に怪我が癒えてきた次の日。
明るくなった周囲を見渡すと、崖の上にダンジョンがあるのが見えた。
暗い夜では入り口に気付かなかったようだ。
――隠れるにはちょうどいいな。
混沌竜は崖を這いあがってダンジョンへ入った。
中は明るい。そしてゴーレムがいた。
SSランク級モンスター相手では、障害にもならない。
爪や尻尾の一撃で粉砕する。
そして粉々になった岩の体の中、黒い核があるのに気が付いた。
取り出して核をかじってみる。
ちょっと固いが、濃厚な魔力が詰まっていて旨い。
「グギャ」
生まれて初めて喜びの声を出した。
その後もゴーレムを狩っては、核をリンゴのようにかじった。
どんどん深い階層へと降りていった。
そして丸い玉のある部屋まで来た時、足元が丸く光った。
――しまった魔法陣か!?
しかしトラップではなく、目の前に湯気を立てる焼き立ての鳥の丸焼きが現れた。
混沌竜は目を丸くしつつも丸焼きにかぶりつく。
――ああ、うまい。
体が生き返る……って、そうか。ゴーレムの核だけだと体は回復しないんだな。
肉だ、肉が欲しい!
そんな心を読み取ったかのように、何者かが語り掛けてきた。
『もっと柔らかい肉は、この先にある』
壁の一部が開いて通路が現れた。
混沌竜は鶏肉を食いつつ、部屋の主であろう丸い玉を見る。
――本当か?
『嘘は言わない。しかもこれからさらに増える。もし足りなければ今の鳥肉をあと100個用意しよう』
――わかった。
どうせあの男以外、俺様を殺せる奴はいない。
この世のすべては俺様の食料。
存分に喰らうことにしよう。
混沌竜は丸焼きをすべて食べ終えると、どこまでも続く長い通路に入って行った。
さすがに順位下がりまして、でも日間13位!
ここまでこれたのも皆さんの応援のおかげです!
ブックマーク登録と☆評価、ありがとうございました!
次話は深夜2時とか3時に更新してみたいかも。
→29.補給と臥龍とエドガー隊




