142.亜空間対策会議
次話は近日更新と言いつつ、四年ぶりになりました。お久しぶりぶり。
この作品のコミカライズ(ヤングガンガン掲載)も好調なようなので、頑張って完走させたいと思います。
王都の近くに縦横高さ数百メートルの黒い立方体が、突然現れた。
中にはエドガーや魔王が閉じ込められていた。外側からは開ける方法がない。
そこで聖白竜のラーナを育てて突入して、内側から破壊することになった。
夜のお城にて。
俺とリリシアは王様に会っていた。
謁見の間ではなく、大きな円卓のある部屋。
調度は鎧や剣が壁際に飾られている。作戦会議室のようだ。
円卓には王様以外に宰相や宮廷魔術師長、副騎士団長ミルフォード。
フォルティス大司教や冒険者ギルドマスターのルベルも座っていた。
亜空間の対策のために集まっていたのだった。
俺はリリシアとともに並んで座っていた。
すでに亜空間について知ったことは話していた。
ただし魔王の名前だけは伏せた。
会議は進んでいく。
好々爺のような王様は、顔を情けなさそうに崩して口を開く。
「あれが教皇国の仕業だと言うのかね……」
「正確には、作戦が失敗して思いもよらぬ結果になったようですが。この国に害をなそうとしたことは間違いないですね」
「もう戦争みたいなものではないか……しかし、どうにかできるのかね?」
「外側からは何もできないかと」
俺は黒い壁を剣で叩いたときのことを思い返しながら言った。
王様が、ローブを着た枯れ枝のようにやせた老人に顔を向ける。
「宮廷魔術師長、アレクの言うことは本当かね?」
「ええ、宮廷魔術師たちの出した結論と同じですな。魔法も物理も全く受け付けません。中が亜空間のため、空間の断絶が起きておると」
ルベルが赤い髪を揺らして強気な声で言う。
「アレクを送り込めばそれだけで消せるだろう。問題はその方法だ」
「アレクよ、聖白竜の宝珠があれば、中に入れるのだな?」
王様の言葉に俺はうなずいた。
「はい、王様。ですので、これから教皇国へ乗り込んで、宝珠をもらってこようと思います」
「今からか!?」
「水は魔法で出せますが、食料がほとんどないそうです。できるだけ早く助けないとまずいです」
「なるほど。それは確かに、よあ――いや、みんなが無事に助けなくてはな」
王様はこの期に及んでまだヨアネス元王子の安否を心配しているようだった。
父親としては優しい人だが、王様としては少し頭が痛い存在だった。ヨアネスはろくでなしだから。
けれども今は息子が亜空間に囚われているというのが、優柔不断気味な王様の熱心さにつながっていた。
宮廷魔術師長のじいさんが顔をしかめる。
「しかし、魔物をランクアップさせるなどという邪法を、教会が使ってくるとはのう」
「ヨアネスを勇者にして何をする気だったのか?」
俺は魔術師長のじいさんに向かって考えていたことを話した。
「確証はないが、魔王的なものを倒させて、この国の次期国王にする気だったんじゃないか? もともと任命権でもめていたそうじゃないか」
「なんと! 確かに、本来は教皇国だけが勇者や聖人、聖域の認定をおこなうとされておるが」
「言うことを聞くヨアネスを傀儡にして、フォルティスを支配するつもりだったんだろう。教会の意向に従う国のできあがりだ」
「そこまで企んでいたとは……」
魔術師長が唸るようにつぶやいた。
王様も顔をしかめつつ唸るように言った。
「恐るべきことだ。神が言うならいざ知らず、教会を運営する人間が権威にとりつかれておる」
「別に教会で祈ろうと、田畑で祈ろうと、神に違いはないはずだ。神の威光を守ることは確かに必要かもしれないが、他国に干渉してまで教会の権威を強めようとするのはおかしいのではないか」
大司教が長い髭を揺らしてうなずいた。
王様もうなずく。
「わしもそう思う、大司教よ」
「聖波気を持ち、性格が良く、魔王を倒せる力がある者を、勇者に任命してよいではないか。聖なる獣を従えて、人と聖獣との間を取り持つ者を、聖女と呼んでも構わないではないか」
大司教は憤りを込めて言った。
俺は黙って王様を見守る。話の流れが予想とは違った方向に向かったからだ。
勇者にはなりたくない、でもならざるをえない――その打開策になるかもと思っていた。
王様は深く考え込んでいたが、真剣な表情で顔を上げると口を重く開いた。
「今後も任命権争いを火種としてまたこういったことが起きるだろう。ならばフォルティスはルクティア教皇国と袂を分かつことにする」
「「「ええっ!?」」」
急な決定に、その場にいた全員が驚いた。
俺も驚いた。
しかしすぐに悪い話ではないと気が付いた。俺が得する。
俺の様子が変わったことを察したのか、隣に座るリリシアがすみれ色の瞳を期待を込めて輝かせた。
素早く考えを巡らせる中、王様はさらに発言する。
「我が国のルクティア教はフォルティス国教会と名を変えて活動するのだ。フォルティス大司教が大主教となり、首長となったわしとともに国教会を率いるのだ」
みんなは口々に否定した。
ルベルが形の良い眉を寄せて言う。
「国王、いくらなんでも早急過ぎるのではないか?」
「そこまでやっては完全に敵対することになってしまいますぞ」
宰相も顔をしかめて言った。
大司教も言葉を詰まらせながら言う。
「いずれは、そうなっても……と思いますが……根回しもせずに、いきなりは……難しいのではないかと」
否定的な意見が多い中、俺は円卓に身を乗り出した。内心を隠して大きな声で言う。
「このままだと狂信的な教会の言いなりになる。わかっていて何もしないのは、それこそ悪なのでは?」
「強く出過ぎると相手の反発も強まるぞ?」
「できるだけ迅速に事態を進めるためには、教皇に対して強く当たらないといけないのでは?」
「む、そうだぞ……囚われた人々の命に関わる」
王様が心配そうにきょろきょろ見回しながら言った。
俺は力強くうなずく。
「そうですとも、王様。フォルティスが本気であることを見せれば、きっと厳正に対処してくれるでしょう」
王様は俺の言葉にうなずきつつ言う。
「で、今から行くとなれば、勇者になったほうがすぐにでも会えるはずだが、それでよいかアレクよ」
――きたっ!
俺は思い通りに話が運んだことを喜びつつ、微笑みを浮かべて答える。
「お断りします」
「な、なんだと! この期に及んで断るとは、正気かアレクよ!?」
「三十年も勤めましたんで、もういいかなと。ですが、臨時の外交官的なものになら、なってもいいかなと思いまして」
「……どういうことだ?」
「つまり元勇者を暗に表すような、名誉交渉役的な存在です。第一線を退いてオブザーバー的な存在になる。上皇や特別顧問のような存在ならなってもいいです」
「新しく役職を作るというのかっ」
驚いて目を見張る王様に、俺はニヤリと笑いかける。
「ルクティア教の新しい組織になるのですから、新しい役職を任命しても問題ないでしょう? 任命権には任命権で対抗してやりましょう、王様!」
「な、なんと! それが狙いで国教会設立を擁護したというのか!」
国王は目が飛び出るほど驚いていた。
ルベルがあきれて華奢な肩をすくめる。しかし美しい唇の端を楽しそうにゆがめる。
「素直に勇者になればいいだろうに……妙なところで頭が働く男だ」
「そりゃどーも。どうしても勇者はやりたくないんでね」
なんだかんだで魔王を倒さなくてはいけなくなる。すでに会ってるし。
王様は、むむむっと唸っていたが、苦しそうに顔をしかめながらうなずいた。
「仕方あるまい。わかった、それで一筆書こう」
「ありがとうございます、王様」
「なんという役職名にしようか。元勇者は使えないとなれば、聖職代行? 少し弱いかの」
「そうですねぇ……神氏、神意代行者……あれ? 以外と難しいぞ?」
「太上勇者、臨時聖者……」「大勇者……」「逃亡者……クズ野郎……賞味期限切れ勇者……」
皆がそれぞれ口にするが、どうもいまいちしっくりこない。
――というかルベルのそれは称号じゃなくて蔑称だろ。
俺はジロっとルベルを無言で睨んだが、彼女は赤い唇の端を上げてニヤニヤ笑っていた。
しばらくみんな首を傾げていると、まとめるように王様が言った。
「む……今は救世代行者としておこう。正式名はおいおい考えることにしよう」
「ありがとうございます、王様」
俺がお礼を言うと、会議は終わった。
場の空気が緩んでお開きとなる。
兵士や従者が部屋に入ってきて片づけを始める。
そのうちの一人に宰相が命じて白紙を持ってこさせた。
羽ペンを持って手紙を書き始める。
その後、王様が手紙を一読してから最後にサインを入れた。
封蝋をして俺に渡してくる。
「これを教皇に見せれば良かろう」
「ありがとうございます、王様」
俺は手紙を受け取ると、頭を下げた。
ルベルが腕組みをして偉そうに言った。
「あとは捕まえたマニも連れて行った方が脅しになるだろう」
「ああ、それは考えてある。マニは今、どこにいる?」
部屋を出ようとしていたミルフォードが答えた。
「騎士団詰め所だ。取り調べをおこなっている」
「何か話したか?」
「いや、光の神ルクティアのすばらしさを熱狂的に話すだけだ」
「狂信者か。闇に生きるから狂ったのか、もともと狂信的だったから闇の仕事ができたのか」
「両方だろうな。……となると、連れて行っても教会を裏切るようなことは言わなさそうだな」
そう言ったルベルに対して、俺はフッと不敵な笑みを向けた。
「ルベルはまだまだだな」
「なんだと!?」
ルベルは赤いツインテールを振り乱して、怖い顔で睨み付けてくる。
だが、俺は動じずに言った。
「魔術師長の使う魔法、記録追想をマニに使えば、ヨアネス王子を使ってフォルティス王国を陥れようとした、決定的な証拠が見つかるはずだ」
「おお~! さすがは元勇者」「なるほど。自白を強制するのではなく、その手があったか」
王様や大司教が感心した声を上げた。
また、ルベルが悔しそうに唇を噛みつつ俺を睨む。
「くっ……! 勇者を辞めて、ずる賢くなったな」
「搾取され続ける身分はもう、こりごりなんでな」
俺は不敵に笑ったが、ルベルは悔しそうに唸りつつも何も言わなかった。
魔術師長のじいさんが、うんざりした表情をした。ため息とともに言う。
「あの魔法は、結構しんどいんじゃよ……」
「でも、頼む。今は王国の危機なんだ」
「しかたあるまい。どれ、よっこらせっと」
魔術師長は、億劫そうに椅子から立ち上がった。
ドアの近くにいる副騎士団長のミルフォードのところへ歩いていく。
「では、ついて着てくれ」
「わかった――それでは、王様。失礼します」
俺は立ち上がると、王様に一礼してから会議室を出た。
ミルフォードの後に続いて、お城の廊下を歩く。
隣ではリリシアが目を細めて嬉しそう微笑んでいた。しなやかに身を寄せてきて小声で言う。
「さすがですわ、ご主人様」
「リリシア的には、俺が勇者の方が良かったんじゃないのか?」
「そうかもしれません。でも、たとえ無条件奴隷が解除される間だけだったとしても、ご主人様と離れ離れになるのは嫌です」
「そうか……それなら、ずっと傍にいてくれよ?」
「はいっ」
リリシアはぎゅっと腕に抱き着いてきた。大きな胸が押し付けられる。
――まんざらでもない気分。
別に胸が当たったからではなく、リリシアが喜んでくれたことが嬉しい。
俺は開いた方の手で頭を掻きつつ、視線を逸らした。
――と。
廊下の陰に小柄な女性がいて、こちらを見ていることに気が付いた。
隠れていてもわかるスタイルの良い肢体を、高貴なドレスと優雅な雰囲気が包んでいる。
――カロリナ王女だ。フォルティス王国第二王女。
もし勇者として大成したら結婚する予定だった人。
可愛らしくて美しい人だとは思うが、どうも避けられていると言うか、嫌われている感じがして俺は苦手だった。
前を歩くミルフォードも気が付いたらしく、鎧をガシャッと鳴らして直立した。
「カロリナ王女、夜分遅くにお騒がせして申し訳ありません。ですが、お目にかかれて光栄であります」
「ミルフォード、健康そうで何よりです。――あの黒い四角形は危険ではありませんか?」
「はっ、王女様! あれは亜空間と言うものでして、今のところ邪魔ではありますが、危険はございません! 近日中に勇者――ではなく、元勇者のアレクが対処いたします!」
カロリナは無感情な視線で、俺をちらっと見た。
それからミルフォードへ親しみを込めた微笑みを向ける。
「そうですか。ミルフォード、事態が解決したらあなたが報告に来なさい。あとアレクも奮戦しなさい。……では、ごきげんよう」
カロリナは優雅に踵を返すと立ち去った。
可憐な後ろ姿に向かって、ミルフォードは深く頭を下げる。
カロリナは何度も振り返ってはチラチラとミルフォードを見ていた。
横にいたリリシアが俺の服を指先でつまんで、ついっと引っ張りつつ小声で言う。
「王女さまとミルフォードさんは、とても仲がよろしいようですね?」
「えっ、そうなのか? ……まあ王族を守るのが騎士団の務めだから、それなりに仲がいいんだろう」
そう俺が答えると、リリシアがすみれ色の瞳を半目にして、ジトっとした視線で見上げてきた。
「ご主人様らしい答えですね……」
「ん? なにか問題があるのか?」
リリシアの言葉の意味が分からず、俺は首を傾げた。
するとミルフォードが顔を上げて俺を見た。
「なにしてる、アレク。行くぞ」
「わかったよ」
俺とリリシアはミルフォードに連れられてお城を後にした。
その後、騎士団詰め所でグルグル巻きにされたマニと、マニの記録追想を録画した水晶玉を受け取った。
この話は4年前に書いてましたが、矛盾を解消する方法が思いつかなくて放置してました。
あといろいろ大変なことがありました。
でもまあ私事がいろいろ片付いてきたので、ちょこっとだけ再開です。
あと10~15話ぐらいで完結だと思うのですが、コミカライズもあるし頑張りたいです。
次話は本日夜更新
→『143.教皇国へ行こう』




