百九話 皆で行こう常夏の島1
とある日、いつもの様に月一の『互助会』の定例会が開かれ、ローデンタリアの今後の方針等様々な事が話し合われた後、
「インクセリアの南の端っこに、アーデンベグ島という常夏の島がある。そこでバカンスでもどうだ?」
と、インクセリアの国主であるヴァイスが誘ってきた。
「……バカンス?」
肩をピクリと動かして、ベリオスが聞き返す。
「あぁ。……ローデンタリアでの一件も一段落しただろう?」
「……どうなんだ?」
腕を組みながら、暁が尋ねてくる。
……コイツいつも偉そうだな。まぁいつもの事だけどさ。
「……うん。……今後の方針は決まった。国はボロボロだけど、復興は一段落」
俺は首を縦に振って肯定する。
ヴァイスの言った通り、ローデンタリアで起きた転生者の一件は国に深い傷を残した。
王族達は死に絶え、多くの民が死んだ。
それでも、そこにいる限りは生きていかなければならない。
国を離れる者も多かったが、現政府がなんとかして復興を進めていた。
それも落ち着いて来た頃合いだ。
「だろ? ……俺達の国も助けて貰って、まだロクにお礼もしてないんだ。そこで、だ」
ヴァイスが人差し指をピンと立てる。
「支払いは全て俺達持ちで、バカンスでもどうか、と思ってな」
そんなヴァイスの提案に、真っ先に乗っかったのは
「――良いねぇ! バカンス! その提案乗った!!」
コウリンだった。
まぁコイツは……ノリが良いからな。
「最近休んでなかったしな! 招待して貰えるなら行くぜ」
「僕も問題ないよ」
次に賛成したのはハルキだった。
……えぇ子や。ホントにえぇ子。
「私も問題ない。休みは……何とか作ろう」
続いて暁が腕を組みながら賛成する。
……それで良いのかギルドマスター。お前、また秘書が苦労するぞ。
俺は関係ないので、頑張れとしか言いようがないが。
「分かった。俺も時間を作ろう。何、まだ”次期”国王だ。時間はある」
そういえばお前まだ”次期”国王だったな。
まぁ現国王も元気な人なので、少なくとも数年はその肩書の儘だろう。
「私も問題ないわ」
「俺も問題ないぞ!」
「俺もだ」
「私も行ける!!」
ヴァネッサやローガン達『互助会』メンバー達が次々と参加を表明する。
残りのいないメンバーには後で伝える事になり、その場にいて参加を表明していないのは、俺とゼイ、フランチェスカだけとなった。
……え、これ、行く流れ?
「……どうするねお嬢?」
ゼイが俺の顔を見る。
俺の答えは――
「……やだ」
だ。
いや、俺だって休みたい。
バカンスをするなら俺だって喜んで参加したい。
思いっきり羽を伸ばして、休みたい。
だが、参加するとなると、問題が一つある。
水着だ。
常夏、バカンス……となれば、当然水着を着る事になる。
暗殺者として暗殺対象者を油断させる為に町娘に扮装する、なんてのは日常茶飯事だ。
それには慣れた。……というか、考えない様にしてきた。
だが、プライベートで女装? ……とは言えないのか。水着を着るのは想定外だ。
まだ、俺は男である事を捨てた訳ではない。
水着だけは断じて「ノー」だ!!
「……無理。やだ。断る。……ゼイは参加していい」
ゼイは良いだろう。個人での参加は勝手にどうぞ。
まさか王国の馬車を使う訳にもいかないだろうし、この人数を連れてくのも大変だ。
移動手段は此方で手配出来る。
だが、俺は参加出来ない。したくない。
「……お嬢」
やれやれ、とゼイが肩を竦める。
俺の固い意思を読み取れたのだろう。
「……仕方ない。ハルキ、こっち来なさい」
ヴァネッサが、ふとハルキを呼び寄せる。
「どうしたの?」
「いいから」
其の儘奥へと引っ張り込んで行った。
……何を吹き込むつもりだ。
ハルキとヴァネッサは数分も経たない内に戻って来た。
「ねぇ夜」
そしてハルキが俺の方に寄ってくる。
そして、
「……ダメ?」
小首を傾げて、眼を潤ませてそう懇願してきた。
……ひ、卑怯だぞヴァネッサ!!
お前、俺が”ハルキを見守る会”副会長と知っての事か!!
鬼! 悪魔! ヴァネッサ!!
お前の母ちゃん、知らないけどでーべそー!!
「……むぅ」
「……僕、夜と一緒に遊びたいな。……ダメ?」
そんな純粋な眼で見られても俺は折れないぞ!!
「……夜、お願い」
俺は……俺は……俺は――!!
「……仕方ない」
結局、頷く羽目になった。
姐さん、ハルキを使うのは卑怯ですぜ。
「よっし!!」
「歓迎するぜ。夜!!」
コウリンとヴァイスが手を叩いて喜ぶ。
……何をそんなに喜んでるんだお前等は。
そして後ろで小さくヴァネッサが嬉しそうな笑みを浮かべている。
……クソッ! 諸悪の根源が嬉しそうに!!
「……リーダーは?」
コウリンの問いに、皆の視線がフランチェスカに向く。
「……そうね。わかったわ。貴女達が行くというなら、私も行くわ」
フランチェスカも、直ぐに頷いた。
「「「「よっし!!」」」」
男性陣が総じて喜ぶ。この変態どもめ。
……参加してくれて有難うフランチェスカ! 目の保養になります!!
「……という訳で、夜」
「……何?」
「水着の用意宜しく」
……え、それも俺が用意するの?
いや、出来なくもないけどさ。
誤字などありましたら教えて下さると嬉しいです。




