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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第三章
97/227

12 王城を目指して

 森の中に開かれた美しい都、王都マーベル。


 その南を東西に走る街道の北側は美しく装飾された背の高い柵が有るのみで、領内であれば木々さえ無ければ街道のどこからでも都を眺める事が出来る。

 街道からの入り口は中央に一箇所、人が二十人は並んで入れそうな巨大な門が有るのみで、平時であれば門は解放され、門の両脇の詰所に王都騎士団員が待機しているだけである。


 王都という重要な場所であるのに、そこまで警備体制が緩いのには訳が有る。


 北と西に山脈、南には肉食獣が多数生息する出会いの森と、三方を通行困難な自然で守られているマーベル王国は、唯一手薄である東の国境に城壁を設置している為、この国に出入りするには誰もが街道に有る検問所を通らねばならない。

 その検問所ではゴーマン騎士団による厳しい審査が行われている為、マーベル王国内の警備はケンカの仲裁程度しか無く、基本的に害獣に重きを置いているのである。


 その為、ヴォイド教による襲撃事件の際は無警戒な上に対応が遅れ、多数の犠牲者を出したという苦い過去も有るのだが、審査の見直しや一度に入国できる団体の人数に制限が設けられた為、以降には目立った事件は起こっていない。


 その様な環境のお蔭で、マーベル王国内はどの領地ものんびりとした解放感を味わう事が出来るのであるが、クーデターが起きた現在は王都の門は閉ざされ、外周の柵に沿って王都騎士団とエンマイヤー騎士団が合同で見張りに立つ物々しさを呈していた。


 そんな王都の大門の脇に有る王都騎士団詰所には、一人の青年が訪れていた。


「あのぅ、オーエン第二班長でいらっしゃいますよね? 私はノイマン騎士団の副団長補佐、エミール・アドラーと申します」


 白いシャツに薄茶色のズボン、髪を短く切りそろえた二十代半ば頃の青年は、詰所の開かれた窓から中に居る騎士に向かって声を掛けた。

 すると詰所の扉が開き、兜は付けてはいないが重そうなプレートメイルに身を包んだ中年の騎士が青年の前へと出て来る。


「君がハンスの言ってたエミールか、思ってたよりも優男だな。もっと鋭い印象かと思っていたよ。今日は非番らしいが……こんな時に何用だね?」


 ノイマン騎士団副団長、ハンス・ブルーノの親友であり王都騎士団の第二班を預かるエドガー・オーエンは、いつもハンスが口にしていた優秀な部下の訪問を受けて目元を和らげて応対するが、最後に少し困った様な表情で声を絞った。


「はい。実は先日、うちの団長がノイマン男爵に面会したんですが、リーブラの我々には何も言わずに王家捜索に向かってしまいまして、再度面会のお願いに……せめて本だけでも差し入れ出来ればと思いまして……」

「本をか……いや、この状況下では下手な真似をせぬ方が良いのではないか? 公爵に余計な口実を与えてしまうかも知れんぞ?」


 そんなエドガーを見てもにこやかな表情を崩さず事情を説明するエミールは肩に下げている革袋をポンポンと叩いて見せるが、エドガーは呆れた表情を一瞬覗かせたものの、すぐに真面目な表情でエミールに忠告した。

 するとエミールはエドガーに肩を付ける様に僅かに身を寄せる。


「呑気な奴だと呆れられるか、面倒臭がられても、これならば警戒はされないでしょう?」

「ッ! ふむ……なら庭園の担当が俺の部下だと良いな。あいつらならコロッと通してくれるだろうよ……門は開けられんから、ここを抜けて行くといい」


 エミールに悪戯っぽい笑みを向けられて、エドガーは差し入れが口実なのだと気付き、ニィっと笑って愚痴とも取れるセリフでエミールの通行を許可し、詰所に招き入れた。


「さすがは『落雷』の第二班長……厳しいですねぇ……」


 エドガーの後に続き詰所に入るエミールは、エドガーの部下であろう他の二名の騎士に会釈しながら、部下に辛口評価を下すエドガーに軽口を叩く。


「何言ってんだ……お前さんのとこは頭が『火山』だろうが……」

「おっと、これは藪蛇でしたか……」


 だが、すかさずエドガーに言い返されてエミールはわざとらしく肩を竦めた。

 『落雷』に『火山』、どちらも部下に厳しいと有名な渾名であるが、一人のみを直撃する『落雷』に対し、顔を真っ赤にして怒鳴る内に周りの者をも巻き込んでいくノイマン騎士団名物『火山』にはエミールもお手上げなのであった。


「わっはっは。気を付けてな……ま、お前さんなら悪い事にはならんだろう」

「ありがとうございます。では、失礼致します」


 そんなエミールに気を良くしたのか、エドガーが笑いながら詰所の内側の扉を開いて道を開けると、エミールは一礼して扉を潜って王都へと足を踏み入れた。


 詰所の扉が静かに閉じられるのを確認すると、エミールは踵を返して王都の町並みへと向かって歩き出す。


「先ずは第一関門突破ね」


 するとエミールの肩に担ぐ革袋の緩んだ口からココアがひょっこり顔を出し、嬉しそうに囁いた。


「! はい、思ったより話の分かる方で助かりました。次も上手く行くと良いのですが……」

「大丈夫。もし上手く行かなくても、ココアを置いて戻ってくれたら夜を待って忍び込むから」


 ココアの囁きにエミールは素早く周囲に目を走らせて応答するが、当然ココアも周囲のチェックは済ませており、言葉を濁すエミールに心配は無用だと明るく答えた。


「はぁ……しかし、レディを残して去るというのは出来れば避けたいですねぇ」

「や、やだぁ、エミールったら! 照れるじゃない……でもダメよ、ココアにはご主人様という存在が居るんだから!」


 だがなるべく早く情報を集めて帰りたい、とココアから聞いているエミールは、ココアを夜まで待たせる様な事は避けたく、遠回しに心情を述べたつもりなのだが、ココアは頬を赤らめてエミールの肩をペシペシ叩き、頬を両手で押さえてイヤンイヤンと身をくねらせた。


 エミールはそんなココアを横目で見ながら微笑もうと試みるのだが、頬が引き攣ったので諦めてスタスタと先を急いだ。


 非番だったエミールは、数時間前に副団長であるハンスの訪問を突然受けた。

 そこでハンスの話に聞き入り、ココアの存在と能力に呆然とし、更にココアの知性の高さに舌を巻いた。

 実物を目の当たりにしても、童話の様な子供らしさを固定観念として捨てきれなかったエミールは、ココアの話す内容が自分達の仲間の捜索のみに留まらず、現在のマーベル王国の状況をも考慮されている事に驚愕したのである。

 なのに今のココアは童話の域のお調子者の妖精そのものであった。


 そんなココアはリュウ達と別れると、通信機器を設置しつつリーブラの町までやって来た訳だが、まだ随分と人工細胞が残っていた。

 身長五十センチも有れば日中での移動は目立ってしまうし、かと言って小さく分裂しての並列処理での移動では電力の消耗が激しい。

 そこでココアは信用できる人物に城まで運んで貰おうと考えたのである。

 故に時折エミールを立ち止まらせては、遠隔操作で通信機器を設置していく。


 エミールの役目は厳戒態勢下でのココアの城内侵入の手助けであるが、出来る事なら自分でも城内外を見ておきたいとの思いが有った。

 特に気になるのはエンマイヤー騎士団とエルナダ軍の配置状況である。

 領主を拘束されてエンマイヤー公爵の言いなりになっているノイマン騎士団ではあるが、誰一人として今回のクーデターに納得している者など居ない。

 隙あらば反攻に転じたいと考えるエミールにとって、ココアの出現はまさしく転機の訪れを感じずにはいられなかったのであった。










「うわぁ~、綺麗~!」


 王都の中央を北へ抜けたエミールの耳に、ココアの感嘆の声が心地良く届く。


 ココアの目に映るのは、深い緑の背景に浮かぶ四隅に円柱の塔が配された白亜の城と、その前に広がる美しい庭園であった。


「喜んで頂けて私も嬉しいです。ですがそろそろ身を隠して頂かないと……」

「そうね……じゃあ、エミールに任せるわね。言っとくけど、ココアはここまででも十分に助かってるから無理はしないでね?」

「ありがとうございます。ま、一応やるだけやってみます」


 僅かに顔を綻ばせるエミールであったが、庭園入口に騎士の姿を見てココアに隠れる様に促すと、真っ直ぐ騎士の下へと向かった。


 騎士に近付くエミールの表情が僅かに曇る。

 庭園入口を守る二名の騎士のプレートメイルに、エンマイヤー騎士団の紋章を見たからだ。

 だがそれを想定していないエミールではなく、軽快な足取りで騎士の下へ辿り着いた。


「私はノイマン騎士団副団長補佐、エミール・アドラーと申します。失礼ですが、こちらの責任者はどなたですか?」

「済みません、一切の取次ぎを禁じられておりますので、お答えはできません」


 にこやかにエミールに話し掛けられたまだ年の若い騎士は、エミールの肩書を聞いて表情を強張らせながら答えた。


「そこを何とか取り次いで貰えないだろうか? 今日しか非番の日が無くてね、私も大事な用件なんだ。それに今は私達も公爵陣営なんだ、頼むよ」

「そうは言われましても……ここは公爵様より直々に誰も通さぬようにと命じられておりまして、応じる訳にはいかないのです……」


 明らかに緊張した様子の騎士にエミールは笑みを絶やさず頼んでみるのだが、若い騎士も納得して貰おうと申し訳無さそうに自身の事情を説明した。


「そうか、困ったなぁ……では、ここで待たせて貰おうか……」

「そんな困りますよ……いくら二本線のお方でも規則には従って頂かないと」


 それでも引き下がる気の無いエミールに、若い騎士はどうしたものかと同僚の方に目をやるのだが、もう一人の騎士も困った表情を向けるのみである。


 因みに彼が言う二本線とはプレートメイルの左の肩当てに彫られた騎士団の紋章の下に引かれた線の事であり、部下を統率する立場にある者は三本、それに準じる立場の者は二本、一般の者は一本、線の無い者は騎士見習いという具合にどの騎士団にも統一されている物である。


「まぁ、そう言わずに。お互い困った者同士、仲良くしようじゃないか」

「そんな……勘弁して下さいよ……」


 そして悪戯っぽい笑顔を見せるエミールに若い騎士がほとほと困った様子を見せた時だった。

 蹄の音が聞こえ、もう一人の騎士が庭園に向けてビシッと姿勢を正し、それに気付いた若い騎士も慌てて振り返って姿勢を正した。

 そこには騎馬が十数騎やって来ており、その後方には馬車も見える。


「どうした? 揉め事か?」

「いえ、その……こちらの方が――」


 馬上から柵越しに優し気な声を掛けて来たのは、エンマイヤー騎士団の副団長であるランス・カークスであった。

 部下思いで知られるランスの登場に、若い騎士がほっとした表情で事情を説明しかけたところでエミールがその前へ出る。

 ランスが直接護衛に当たる人物など、領主であるエンマイヤー公爵以外に考えられないからである。


「カークス副団長、覚えていらっしゃいますか? エミール・アドラーです」

「ああ、確かブルーノ副団長のところの……済まないが今は時間が無い。公爵の護衛が有るのでな……」


 エミールが名乗るとランスはすぐに思い出した様だが、急用なのか短く断りを入れながら右手の肘から先だけを上げた。

 ランスの合図に、庭園を警備していた二人が門の中央に歩み寄って鍵を外し、門を引き開け始めた。


「待って下さい! 私も非番の今日しか時間が無いのです! お時間は取らせません! 公爵閣下の許可を得たいだけなのです!」

「済まないな、副団長補佐。公爵はお忙しいのだ。諦めてくれ」


 千載一遇のチャンスに慌てて声を張り上げるエミールなのだが、ランスは取り合わずに馬を進ませる。


 形だけとは言え、済まないとまでランスに言われてはエミールにもこれ以上の行動を取る事は出来なかった。

 目の前をゆっくりと過ぎて行く騎馬を見つめながら、下唇を噛むエミール。


 これではただの小間使いと何も変わらない、そうエミールが自嘲した時、目の前を通り過ぎようとした馬車が不意に停車した。

 まさか、という思いで馬車を見上げるエミールの視線の先で扉が開かれ、顔を覗かせたのはエンマイヤー公爵、その人であった。


「用件は何だ?」

「……は……」


 じろりとエミールを見下ろす公爵から意外にも用件を問う言葉が発せられて、エミールは咄嗟に言葉が出なかった。


「時間が無いのだろう? 不敬を承知で大声を上げたのだろうが?」


 そんなエミールに不機嫌そうに尋ねるエンマイヤー公爵。

 彼はただ、未だピリピリとした雰囲気が漂う情勢下に目立つ行動を起こす者に単純に興味を引かれたのだった。


「ありがとうございます! ノイマン騎士団副団長補佐、エミール・アドラーと申します。実は、先日閣下のご配慮でうちの団長が面会の機会を得たのですが、そのまま王家捜索に向かってしまいリーブラに残留した我々にはノイマン男爵のご様子が分からないのです。つきましては私に再度面会の許可を頂きたく、お願い申し上げます」

「確かにボルド団長には面会の後に王家捜索の続行を命じたが……」


 実際にはエミール達の元にも団長からの伝令は届いているが、その事を伏せたエミールの嘆願にエンマイヤー公爵は数日前の出来事を思い出しながら呟く。


「うちの団長はせっかちなので、残留組は置き去りにされてしまいまして。再度面会をお願いする様に非番の私が命じられた次第で……」

「ふっふ、行動が早いのも考え物だな……で、その荷物は何だ? 見せてみろ」


 更に困り顔になったエミールの続く言葉にはエンマイヤー公爵も思い当たる所が有るのだろう、思わず同情の苦笑いを溢すのだが、笑みを潜めてエミールの手荷物について尋ね、手を伸ばした。

 エミールが手に下げる革袋にはココアが隠れている訳だが、エミールは事前にココアから箱に同化できる事を聞いている為、動揺は無い。


「男爵の書斎に有った本です。机に有った読みかけと思われる物を数冊……」

「この箱は?」

「中身は存じませんが、同じく机に有った物です……必要無いかも知れませんが一応、念の為にと……それに……あ、いえ、何でも有りません……」

「それに何だ? 言ってみろ」


 躊躇なく手荷物を手渡して中身を説明するエミールは最後に余計な事を言い掛けたのか、ばつが悪そうに言い淀んだのを公爵がじろりと睨んで続きを促す。

 公爵の注意がエミール自身に向けられたお蔭で、箱は深く調べられる事も無く革袋に放り込まれた。


「その……こんな時でも無ければ男爵に顔を覚えて頂けないか、と……」

「ふん……己が出世の為になら気も利くというものか。ふぅ、まあ良い、面会は許可してやる」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 苦笑いで答えるエミールを嘲りの目で見る公爵であったが、やれやれと大きくため息を吐くと面会を許可し、エミールはパッと表情を明るくして頭を下げた。

 そんな少々あざといエミールの態度を公爵は見抜いているのだろう、苦笑いで見下ろしているが、エミールの脇に立つ若い騎士は面会が許可された事がとても意外なのだろう、口が半開きになっている。


「名は何と言ったか?」

「エミール・アドラーです、閣下」


 名を尋ねられ、エミールが真っ直ぐにエンマイヤー公爵を見上げて答えると、公爵は小さく頷き口を開く。


「今後はわしの下に騎士団も束ねられる。そこでだ、一つ忠告しといてやろう。過ぎた欲は身を滅ぼすぞ。気を付ける事だ」

「ご忠告、肝に銘じます。貴重なお時間をありがとうございました」


 エミールが自身の部下になる事を念頭に置いた様な公爵の忠告に、エミールが真摯に頭を下げる。

 それを見て公爵は満足したのか、エミールの脇でぽかんとしていた若い騎士に面会手続きを指示し、馬車の奥へと姿を消した。

 そして従者の者が扉を静かに閉じると、馬車は騎馬と共に去って行った。


 しばらく馬車を見送っていたエミールが、横の若い騎士に笑顔を向ける。


「ふぅ、やってみるもんだねぇ……いやぁ、公爵閣下は器の大きい方だ」

「は、はぁ……では、付いて来て下さい。王城守備隊に引き継ぎますので……」


 にこにこと満足気に話し掛けて来るエミールに、若い騎士は門を閉じつつ困惑混じりに答えると、もう一人の騎士に後を任せてエミールを伴い城へと向かう。


 広大な庭園をエミールは気さくに若い騎士に話し掛けながら歩く。


「王城守備隊? 初耳だねぇ……」

「親衛隊が居ないので、エンマイヤー騎士団から新たに創設されたのです」

「へぇ……親衛隊の代わりをするとなると、選ばれた人達は大変だねぇ……」

「人員は倍ほど居るそうなので、そうそう引けは取らないかと……」

「なるほど、なるほど。で、隊長は誰なんだい?」

「それが……アレック・ミルズ・ゴーマン様でして……」

「おやおや、ゴーマン男爵のご子息かい……優秀な部下を付けて城に放り込めば何とかなるのかねぇ? どう思う?」

「わ、私に聞かれましても……」

「困っちゃうよねぇ?」

「は、はぁ……」


 若い騎士も今は同僚の目が無いからか、エミールの問いに素直に答えていたのだが、王城守備隊の隊長の話になると困った様に言葉を濁した。


 ゴーマン男爵家はかつての戦争時代に数々の功績により貴族入りを果たした、言わば成り上がりの貴族である。

 元々は領地も持たぬ名ばかりのものであったが、交易事業に失敗して没落した貴族の後釜という形で今の領地を得る事になった。

 それは偏に代々の当主が実直であり、他の貴族との関係も良好だった為、諸侯との軋轢が一番少ないだろうという側面も有った。

 更に王国の東に位置する為、他国との諍いの際には最前線となる領地には代々騎士を経て当主となるゴーマン男爵家は打って付けだったのである。


 そんな男爵家も戦争を経験しなくなると余計な事を考える様になるのか、当代当主であるマーカス・ミルズ・ゴーマン男爵は同じ男爵であるのに広大な領地を持ち、狩猟で王家とも交流の深いノイマン男爵と事ある毎に対立する様になっていく。

 そしてそれは外交における王家への不満と繋がり、相まって同じく王家に不満を持つエンマイヤー公爵との密接な関係を築いていく事になっていく。


 常に最前線との意識が高いゴーマン騎士団は荒っぽい事で有名であるが、その実力は高く、王国宰相を務めるエンマイヤー公爵との結びつきもあって、次第に王国内には国王派と宰相派という派閥が生まれてしまう事になり、領地を持たぬ貴族商人の中にも、この機に名前を売り込む者達が現れる。


 そういう時代に生まれたゴーマン男爵家の一人息子であるアレックは両親に溺愛され、取り巻きの貴族にもてはやされ、何不自由無く育った。

 周りに誰も逆らう者が居ないアレックは立派なドラ息子となり、父親の頭を悩ませる事になる。

 そんな父親マーカスの考えた苦肉の策が、新たに創設された王城守備隊の隊長という役職であったのだ。

 戦闘指揮はともかく、せめて城内で優秀な部下に囲まれていれば、やんちゃも減るだろうとの思いからなのだが、既に二人の女性騎士が除隊し、一人の女官が城を去っているのだった。


「さて、君にも世話になったね。ここまでありがとう」

「いえ、大した事では……では、失礼します」


 城に着いて守備隊員へと面会の事情を説明してもらったエミールは、ここまで付き合わせてしまった若い騎士に礼を言い、その背中を見守った。

 そして守備隊から面会許可の札を受け取ると、ノイマン男爵が軟禁されている南東塔へと向かうのであった。


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[一言] 名前の通り傲慢男爵ですなぁ。
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