29 決意
部下達が全て出払ってしんと静まり返るアジトの内部を、所々に設置された魔光石がぼんやりと照らしている。
その一角には食料を備蓄する小さな倉庫があり、誰も居なくなった今はネズミがどこからか現れ、積み上げられた穀物の袋に齧りついていた。
袋が破られぱらぱらと中身が散らばると、一匹また一匹とネズミはその数を増やし始めた。
ネズミは倉庫の奥の、物陰にぽっかりと開いた穴から出て来ていた。
穴は少し進むとその大きさを広げ、土の壁がゆらゆらと揺らめいていた。
それは魔光石の放つ淡い光が生み出す揺らめきであった。
「ここの暮らしは気に入ってたんだがな……まぁ仕方ねぇか……」
左手に魔光石を持ってそう呟いたのは、疲れた足取りで穴を進むガトルだった。
ガトルはリュウが変貌を遂げた時から、全滅を予感していた。
だが、そのまま逃走しても無駄であろうとその場に残り、壮絶な戦死を演出したのだ。
風纏衣を纏おうと屈んだ時は、ただ運が良かっただけだった。
だが、そのお蔭で腹が据わった。
派手な立ち回りを演じつつ、負傷して見せて玉砕を装い、部下の死体の近くまでリュウを誘導した。
そうして派手な爆発と土煙の渦で視界を奪って部下の死体を巻き上げ、それまで見せなかった本気の風纏衣の速度で、開いたままの扉に飛び込んだのだ。
ガトルの実力は勿論の事、冷静な読みと演技力、それら全てを怯まず実行できる胆力、そのどれかが一つでも欠けていたらガトルは今ここに居ないだろう。
だが、さすがのガトルも魔法を行使し過ぎていた。
あの場に居る全ての目を欺き、まんまと脱出に成功したガトルだったが、食料倉庫手前で魔力が枯渇してしまい、疲労困憊となりながらもようやくここまで逃げて来たのだった。
「それにしても、あのにーちゃんは反則だよな……殺しても生き返るとか、冗談きついぜ……畜生、リーザも妹も良い女だったのによ……」
ブツブツと愚痴を重ねながら、ガトルはのろのろと穴を進む。
そうでもして疲労感を紛らわせないと、今にも足が止まりそうなのだ。
「ま、命が有っただけめっけもんか……ここを出たらどうすっかねぇ……」
失われた右手に目をやり、ガトルは地上を目指して重い足を前へと進める。
切断面は既に治療を終えており、出血も無ければ痛みも無く、多少は不便になるだろうが、代わりとなる手下を手に入れるまでの辛抱だ、とガトルは思っていた。
全く懲りない事ではあるが、ガトル程の実力が有れば、それは容易く達成されるのかも知れない。
「とにもかくにも、先ずはここから出ねえとな……」
額に汗を浮かべながら、ガトルは魔光石で前を照らす。
その淡い明かりに照らされて、ガトルの瞳は不敵に光るのだった。
土煙が収まった広間ではあるが、その改めて見る光景は凄惨の一言に尽きる。
壁や地面は血で染まり、そこかしこに死体が転がり、しかも原形を留めていない。
その一角では、裸のままのリーザが背中を向けて座るエンバの治療を再開しており、やはり裸のままのリズがエンバの背にしがみついていた。
「リズ……心配掛けた。リーザさん、もう大丈夫です。一先ずは脅威も去ったし――ッ! さ、先に服を着て下さい……」
足の痛みが消えてほっと一息吐くエンバは、もう大丈夫、と振り向きかけて慌てて目を反らした。
そのエンバの声でリズは直ぐ近くにあった自分の服を引っ掴むと、エンバの背後で素早く服を着て、エンバの横にしゃがむ。
「エンバ……姉さんがまだだから、後ろ見ちゃだめよ……」
リズはエンバの手を取り、改めて助けてくれた感謝を述べようとしたのだが、手を取った気恥ずかしさからか、口からは違う言葉が出てしまう。
「ああ……お前しか見ない……」
エンバはそんなリズにフッと笑みを浮かべると、リズの顔を真っ赤にさせる。
リズとエンバがそんな青春模様を展開する中、リーザは鉄格子の向こうで脱いだ服を取りに戻ろうとして、未だ鉄格子の方を振り返ったまま立ち尽くしていた。
鉄格子の向こうに、黒い翼を生やしたままのリュウが居たからである。
「ご主人様、ミルクが分かりますか!?」
「ご主人様、戻れないんですか!?」
リュウの傍ではミルクとココアが心配そうに声を掛けているが、リュウはその声には反応せず、だらんと下げた右腕の肘から先だけを持ち上げる。
「ッ!? ご、ご主人様!?」
「え……これヤバくない!?」
その主人の右手に光が集まり出し、その意図が分からずミルクが緊張した声で呼び掛けるが、ココアはミルクの手を取って主人から距離を取った。
ミルク達の緊張した声でリズとエンバも何事かと振り返り、リーザの事も忘れてリュウの右手に注目する。
リュウの右手に集まる光はぐんぐんと大きくなり、優に二メートルを超えるサイズの光の玉となった。
皆が固唾を飲んで見守る中、リュウはそれを広間の奥に向けて発射する。
音も無くやや上向きに発射された光の球は、その奥にある扉や壁をくり抜いて、遥か先の地上へと抜けて行った。
リーザ達はその光景に呆然と立ち尽くしていたが、我に返ったリーザがその場に跪くと、リズ達も慌ててそれに倣った。
「グ……ウ……ウ……」
ぽっかりと開いた大きな穴を見届けたリュウは、突然がくっと片膝を地面に突き、更に片手を突いて体を支えた。
ミルクとココアはそんな主人の黒く染まる体の色が徐々に薄れているのに気付き、近寄って観察する。
背中の翼が畳まれて更に小さく背中の中に消えていき、体の色も主人の体内に溶け込む様に消えて行く。
「ご主人様っ! ご無事ですかっ!?」
「ご主人様っ! ココア達が分かりますかっ!?」
ミルクとココアが心配そうに再び主人に声を掛ける。
「げほっ、げほっ、な……んとか……な……」
「ご主人様! 良かった……」
「心配したですぅ!」
咳き込む主人がようやく声を発した事でミルクは涙ぐみ、ココアは安堵の吐息を漏らした。
リュウの黒く染まった体は、背中の一部を除いてほぼ元に戻っていた。
「っく……そ、そうだ……みんなは……」
リュウは頭を振り、両足に力を入れて立ち上がると、そのまま固まった。
何故なら周囲は血に塗れ、死体だらけだったからである。
「ミルク……これ、俺がやったんだよな?」
足元に転がる誰かの腕を見たまま、リュウがミルクに問い掛ける。
「は、はい……あの、覚えては……」
「いや、覚えてる、ってか……何て説明したら……って、ちょっと! 何やってるんですか! 止めて下さいよ! そんな事よりリーザさんは服着て下さい!」
ミルクに肯定されて記憶の有無を尋ねられたリュウは、自身が見ていたものを説明しようとして顔を上げ、鉄格子の向こうでリーザ達がリュウに向かって平伏しているのを見て慌てて止めて、リーザには着衣を促した。
慌てるリュウの声に、思わず顔を見合わせるリズとエンバ。
リーザも顔を上げはしたが服がリュウの近くに有る為、動くのを躊躇わざるを得なかった。
なのでミルクとココアがリーザの服を運んでやるのだが、上着を掴んだココアが困った声を上げた。
「ご主人様ぁ、リーザのベストが……血塗れですぅ……」
「えっ、ああ……んじゃ、とりあえずこれで……」
血塗れのベストを見せられて、リュウは自分のベストを脱ぐとココアにポイッと投げ渡す。
ココアはベストの重さに空中でよろけながらも見事にキャッチし、リーザの下へ運んだ。
ベストを脱いだリュウの背中には、翼が生えていた部分にだけ縦に長い黒い痣が出来ている。
「あ、ありがとうございます……」
「いえ、いいんです……それより、ミルク、ココア。ちょっと来てくれ」
ミルクとココアから服を受け取るリーザは、背中を向けるリュウに感謝を述べるが、リュウはそれを素っ気なく流すとミルクとココアを呼んだ。
「二人共、そのサイズでの戦闘は不可能だよな? どのくらい人工細胞を増やせば戦える?」
「倍くらい有れば、電撃とニードルガンは単独で使用可能でしょう……協力すればもう少し武装の強化は可能です……」
主人の予期せぬ問いであったが、ミルクは遅滞なく答える。
だが、主人が何故そんな事を聞くのかは分からない。
「よし。んじゃ、今すぐ俺から人工細胞を補充しろ」
「は、はい……」
「了解ですぅ」
有無を言わせぬ感じの主人の物言いに、ミルクとココアは素直に主人の両肩に降り立つと、そのサイズを倍化させた。
「お~、倍になると結構な大きさだなぁ。んじゃ、みんなの護衛を頼むな……」
「あ、あの! ご主人様はどうされるんですか?」
三十センチ程の大きさになったミルクとココアを見て、思わず感心した様な顔をするリュウは、二人にリーザ達の護衛を頼むと広間の奥へ歩き出そうとして、ミルクの質問に立ち止まる。
「ちょっと気になる事が有ってな、俺だけで行ってくる。付いて来んなよ?」
「え……わ、分かりました……」
リュウは首だけをミルクに向けて簡単に答えると、付いて来ない様に念を押す。
ミルクは了解するものの、初めて言われる言葉にショックを受けた様子だ。
皆を広間に残して、リュウは自身が開けた大きな穴に足を踏み入れる。
直径二メートルを超えるその穴はすぐに広間の明かりが届かなくなり、リュウは脳内ツールから暗視モードを選択する。
すると即座にリュウは通常時に近い視界を確保し、先へと足を進めた。
完璧な真円で穿たれている穴を進みながら、リュウは自身に起こった事を思い出していた。
燃え盛る両親に掴み掛かられて絶望と共に意識を失ったはずのリュウは、その最中に何度か誰かに呼ばれた様な気がしたのを覚えている。
それがミルク達なのかは分からないが、それでリュウの意識はかなり浅い所まで戻って来ていた。
次に記憶が有るのは、ココアがガトルを攻撃した時だ。
この時のリュウは、非常に希薄な自身を感じながら、ミルクとココアの行動を眺めていた。
その後ミルク達が行動不能に陥った時、リュウは何とかしなければ、と思った事を覚えている。
そして直後に目覚めるのだが、自分の感覚がおかしい事に気付いて戸惑った。
例えるならば、水の中から外の世界を見ているといった感じだろうか、意識が有り思考すらできるのに、声を出そうにも話す事が出来ず、動きたくても非常にゆっくりとしか動けないもどかしい感覚。
また、誰かが何かを話している様な感覚は有っても、誰に何を言われているのか理解する事が出来なかった。
ただ敵意は明確に理解出来ていて、危険を排除しようとした事も覚えていた。
だが力をまるでコントロール出来ず、殴るだけのつもりが殺してしまったり、逃がさないと思っただけなのに殺してしまったり、と力加減を必死に調整しようとしたが全て無駄に終わってしまった。
何故こんな事になったのか、それはココアが指摘した通り、ヨルグヘイムの名を騙る侵食者から奪い取った星巡竜のコアが原因であった。
ナダムでリュウの体内に確保されたコアは、人工細胞で包まれた事により劇的な変化をリュウにもたらさず、徐々にリュウの肉体に馴染んでいったのだ。
ただ、コア自体に自我などは無く、あくまでも力の源でしかない為、自発的に発動する事は有り得なかった。
発動させたのは、他でもないリュウ自身なのである。
リュウがガトルの闇魔法に苦しんでいる時、心はずっと悲鳴を上げていた。
そして両親の記憶を呼び覚まされた事で、リュウの心は限界に達していた。
逃げ出したい、もう見たくない、という想いで満たされるリュウの心であったが、両親の死を弄ばれた事で、無自覚に心の奥底で怒りを覚えていたのだった。
その心の奥底に発した、絶対に許さない、ぶっ殺してやる、という強烈な怒りが黒のコア、破壊の力を目覚めさせ、リュウの肉体を破壊の力で満たしたのである。
破壊の力により目覚めたリュウではあったが、その膨大な力とリュウの意識は全くと言っていい程バランスが取れていなかった。
その為、リュウが思った事と実際に行った事との間にはとんでもない差が生じ、リュウはその差を埋める事が出来ずに惨劇を生み出してしまったのだ。
要はリュウの未熟さ故の結果なのであるが、被害を被った者が悪党とそれに加担した者達だった事が唯一の救いと言うべきだろうか。
穴の中を進みながら、リュウは自分の仕出かした事にため息を吐く。
それは、思い通りにならなかった結果に対してであり、決して強大な力を手に入れた事に対してでは無かった。
この力が無ければリュウは自分自身だけでなく、リーザ達をも救えなかった事を分かっていたからである。
「畜生め……逃げ切れたと思ってたんだがなぁ……」
魔光石の淡い光の中に現れた人影を見て、ガトルは残念そうな声を出した。
「悪いな……あんただけは絶対に逃がさないと決めたんだ」
そう言いながら光の中に現れたのはリュウだ。
「何言ってやがる、逃げた奴なんざ居ねえじゃねーか……」
「あー、まー、結果的にな……」
リュウの言葉に呆れた様な表情で文句を言うガトルに、リュウはポリポリと鼻を掻いた。
「で、こんな俺を嗤いに来たのか?」
ガトルは恨みがましい目をリュウに向ける。
ガトルは横たわっており、その両足は膝の上辺りから消失していた。
地上を目指してのろのろと進んでいたガトルは、脱出したガトルを見逃さなかったリュウにより放たれた光の玉に足元の通路ごと飲み込まれ、新たに作り出された真円の通路に落ちたのだった。
「んな訳ねーよ……とどめを刺しに来たんだ」
そんなガトルを見下ろすリュウは首を横に振ると、決意に満ちた目をガトルに向ける。
暗視モードのリュウの目には、横たわるガトルの姿がはっきりと見える。
広間での太々しい表情は無く、苦痛に満ちた疲れた表情に見えるガトルだが、その目だけが諦めていないのか妙に光を帯びて見える。
「おいおい、ふざけんなよ……ここまでしたら十分だろーが……」
「いや、あんたはやり過ぎた。ここで終わるべきだ」
リュウの決意に力無く憤慨するガトルだが、リュウの決意は変わらない様だ。
両足、右手首を失った上に魔力枯渇の状態ではガトルと言えど何も出来ない。
だが魔力が回復すれば、ガトルはその優れた魔法で再び悲劇を生み出すに違いないのだ。
「俺は見捨てられたこの町を救ってきたんだぞ? ちったあその辺も――」
「だからって、他の魔人族を襲って良い訳がないだろ? しかもただ殺すだけじゃなく、人の心を弄ぶなんて許せる訳ねーし、自業自得だろ」
だからリュウは、更に言い募るガトルを切って捨てる。
だが、ガトルはそんなリュウの言葉に付け入る隙を見出していた。
「何だよ、にーちゃん英雄気取りかよ……悪の親玉倒した俺、偉いってか?」
「そんなつもりなんか無えって」
ガトルの口調が呆れた様な、蔑んだ様なものに変わり、リュウは即座に否定する。
ガトルはリュウの返答に、表情を変えずに心の中でしめしめと思う。
英雄的行為は人に深く考える事を放棄させ、簡単に行動に移させてしまう。
それさえ封じれば、泣き落としでも何でも相手を思考の渦に引き込み、悩んだ所に甘い答えを用意してやればいい。
問題は、如何に自身で考えを導き出したかの様に誘導するかだが、目の前のガキなら何とかなるだろう、とガトルは考えていた。
「なら見逃してくれよ……どうせこんな体じゃ人は付いて来ねえ。このままどこかでひっそり暮らすくらい良いだろ?」
「いや、あんたの魔法は脅威だ。また簡単に人を従えそうだしな……」
ガトルは疲れた声で命乞いを始め、リュウは頑なに否定するが、魔法に対し推測だけで根拠が無いと分かっただけでもガトルには十分だ。
「あのな、そんなに魔法は万能じゃねーよ。手下達だって、俺が五体満足だったから従ってたんだ。こんな体じゃ一対一なら何とかってぐらいなんだぜ?」
「嘘だね……」
だからガトルは、リュウの魔法に対する認識を大幅に下方修正させる。
一対一なら何とかなる、下げ過ぎずにその程度の脅威は有ると思わせるのが、信憑性を感じさせるコツなのだ。
現にリュウは言葉少なに答えるのみだ。
手足を失っているのも、今はガトルに有利に働いている様だ。
「嘘なもんかよ! なら、にーちゃんの一行に加えて監視してくれたっていい! リーザ達にも謝って役に立って見せる! な、後生だから助けてくれよ……」
ガトルはここぞとばかりに声を張り上げ、最後に情けない声で命乞いをする。
ガトルの狙いはここにあった。
如何にガキとは言え、このままでは英雄的行動でなくても激情に駆られて殺される懸念が拭い切れない。
だが皆の下に連れて行かれ相談する場が設けられるなら、ガトルは生存確率を引き上げる自信が有った。
恐怖を植え付けたリーザは論外、闇魔法に食いついたにーちゃんには魔法の有用性を説けば即座に殺すとは言わないだろう。
妹の方は激情家っぽいが、逆に情に訴えかければ悩むだろう。
星巡竜や妖精達はさっぱり分からねえが、目の前のにーちゃんの決定には従うだろうし、目の前のにーちゃんは他の皆の前では非情に成り切れないだろう。
そして一度許されてしまえば、ゆっくりとリーザを洗脳して脱出すればいい。
ガトルはそんな風にこの先の展開に思いを巡らせていた。
「……」
リュウはガトルの思惑通りに悩んでいた。
皆これ以上ない危機を迎えたが、何とか切り抜けて全員無事だ。
そしてもうこれ以上、「闇の獣」による被害は起こらないだろう。
部下達は死に、ガトルは自らの足で立つ事すら出来ない。
今まで散々酷い事をしてきた報いとしては十分なのだろうか……と。
そんな時、いつも相談してきたミルクが居ない事にリュウは気付く。
「あ……ふ、ふふ……俺ってバカか……」
リュウは笑い、首を横に軽く振る。
ミルクに付いて来るなと言ったのは自分なのだ。
それは、自分の意志で人を殺す所を見られたくなかったから。
何故殺すのか、両親の死を弄ばれたのが許せなかったからだ。
そう、リュウは誰の為でもなく、自分だけのエゴでここに来たのだ。
なのにガトルと少し話しただけで、それを見失ってしまった自分に笑ったのだ。
「おい、にーちゃん……冗談だろ、何が足りねえんだ? もう俺は本当に――」
リュウの右手から伸びる様に現れた剣を見て、ガトルが青褪める。
突然変わった流れに思わず唖然とするガトルが、何とか会話を続ける事で打開策を探ろうとするが、それはリュウの言葉に遮られる。
「悪い、あんたが今生き延びようと必死なのは分かる。けどな、俺はあんたを殺すと決めてここに来たんだ。別に被害者の想いとか、これからの被害を防ぐ為とか関係無い。あんたがこれまでして来た様に、俺は俺のエゴであんたを殺す。だから恨むなら俺を恨め」
「待っ――」
驚愕に目を見開いたガトルの胸にリュウの剣が突き立てられ、ガトルはビクンと痙攣して果てた。
リュウは特に表情も変えずガトルの死に顔を見つめたまま剣を抜き、一振りして血を払われた剣はリュウの右手に消えて行く。
「人を殺す時って肉を切る刃の感触とか、殺した後に吐き気とか感じるらしいけど……あれ、嘘か? ネットで見るグロ動画の方がよっぽど来るな……なんか拍子抜けって言うか……こんなもんなのかな? よく分かんねえ……」
リュウはガトルの亡骸を見つめながらそんな事を口にする。
だが、心が動揺しているからこそ、言い訳じみた事を口にしているのだという事には気付かず、リュウは踵を返すと広間に向かって穴を下るのだった。
今回は疲れた…。
ガトルなら何て言うか、リュウはどう答えるのか、色んな言葉が有って変わって行く展開の多い事…。
それらを虱潰しにして自身を一応納得させられたので、こういう形となりましたが、後になると「こうした方が良かった」なんて思うのかな…
ともあれ2章29話、楽しんで頂けたなら幸いです。
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