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星を巡る竜  作者: 夢想紬
第二章
39/227

11 学びの成果

 リュウ達がギルドに戻ると、テペロとアルバの座るテーブルの周りに人が増え、談笑が交わされていた。


「皆、集まってるか?」


 ガット支部長が近付くとアルバ達が談笑を止め、支部長に向かって座り直した。


「先に紹介しておこう。こちらはリュウ・アモウ殿。人間族ではあるが妖精様を従え、星巡竜の子供であるアイス様の守り人だ。数日前よりこちらに滞在されており、町長達の許可を得て今後も滞在される。皆、失礼の無い様にな」


 ガット支部長の紹介を聞き、アルバ達ハンターは、一様に驚きの表情でリュウとその肩に座るミルクとココアを見る。


「えー、初めまして、リュウ・アモウです。まだこちらに来て数日なので、色々と教えて下さい。で、こっちがミルク、こっちがココアです。よろしくお願いします」

「ミルクと申します。よろしくお願いします」

「ココアです。よろしくお願いしまーす」


 少し赤い顔で自己紹介するリュウと、立ち上がりお辞儀をするミルクとココア。


「リュウ殿、彼らはここのAランクのハンター達です。顔と名前はおいおい覚えていくでしょう。とりあえずは、当面の危機について話しを進めようと思います。」

「あ、はい。了解です」


 Aランクのハンター達の中から数人が立ち上がりかけた時、ガット支部長が再び前に出て空気を締めた。

 ここで締めないと挨拶やら質問やらで、時間を大幅に無駄にする事を分かっていた為である。


「初めに言っておくが、増援は無しだ。我々だけでヴォルフを追い返す」

「いやいやいや、無茶でしょ! 俺達だって装備が無いから逃げて来たのに!」


 いきなり無茶な支部長の発言に、テペロが即、突っ込んだ。

 他のハンター達も焦った様な表情で、テペロの言葉に頷いている。


「だが、ここにも装備は無いし、ヴォルフ相手では人が集まらん」

「だからって、俺達に死んで来いと!?」


 ガット支部長は、そんなテペロに対して淡々と現状を説明し、テペロは叫びに似た声を上げた。


「話は最後まで聞け。お前達は万が一の為の防壁だ。ヴォルフに対応するのはリュウ殿だ。お前達には、リュウ殿のサポートも行ってもらう。どうだテペロ、酔いが醒めたろ?」


 呆れた様にため息を一つ吐き、ガット支部長はネタばらしを行い、いたずらっぽい瞳をテペロに向けた。


「人が悪いぜ……ってかよ、そんなガキに……あ、いや、すみません! 一人でって本気なんですかい!?」


 ガット支部長に憤慨するテペロだったが、驚くべき内容を思い出し、ガット支部長に睨まれながらも、食って掛かる。


「まぁ、私も全てを見た訳ではないが、リュウ殿とミルク様、ココア様が雷は無効化できると提案して下さってな。町長達と共に、縋ってみようという事になったのだ」

「皆さん、困惑されるのは当然でしょうけど、何とかしたいという気持ちはご主人様も同じです。どうかお手伝いさせて下さい」


 ガット支部長は、少し自信無さげにテペロに答えた。

 それを見たミルクは、フォローが必要だと、及び腰のハンター達に頭を下げる。


「支部長! 私も行きます!」


 と、そこに突然声が掛かった。

 声を掛けたのはリーザだった。

 後ろにはアイスを抱えたリズも居る。


「リーザ、君は今回は待機要員のはずだろう?」

「はい、でも今回はヴォルフが相手とか。人数は多い方が良いでしょう?」

「そうか、そうだな。直ぐに行けるのか?」

「もちろんです」


 Aランクのハンターは任務の際、半数の人員は待機させ、不測の事態に備えさせるガット支部長だったが、リーザの瞳を見てあっさりと同行を了承した。

 そして、リーザの同行が認められたと分かると、すぐさまアイスが口を開く。


「リュウ! 連れて行って!」

「アイス、心配要らねーって。リズさんとお菓子食べて待っててくれよ?」

「アイス様、心配要りませんよ。夜には戻って来ますから」


 何も知らされていなかったアイスだったが、リュウの格好とリーザの言葉で、すぐにリュウが何か危険な事に関わるのだと理解し、同行の許しを願った。

 対するリュウとミルクは同じ様なセリフで、アイスを留めようとする。

 だが、心配要らないと言われても、アイスは安心できない。

 リュウは軽い言葉で、とんでもない事をしてしまうのだから。


「い、嫌だよ! リュウ、危ない事しに行くんでしょ? アイスも行く!」

「むー、後方で見学する約束守れるか? 守れるなら連れてってやるよ……」

「約束する!」


 絶対付いて行くオーラ全開のアイスに、やっぱりかと思いながらリュウは渋々だが連れて行く事にする。


「ご主人様、良いんですか?」

「アイスは頑固だからなぁ、この方が良いんじゃね?」


 心配そうにミルクに問われ、仕方ないじゃんと肩を竦めるリュウ。


「アイス様、付いてきたら晩御飯抜きって言ったらどうしますか?」


 そこにココアが、アイスに対して仮定を問い掛ける。


「え!? う……リュ、リュウはそんな事、い、言わないもん……ね?」

「今、どんだけ葛藤したんだ……この食いしん坊め!」


 目を白黒させた挙句、リュウに救いを求めるアイスは、リュウのジト目にさっと目を反らす。


「リズさん、済みませんが……アイスのお目付け役してくれます?」

「え!? いいんですか!? はい! しっかり努めます!」


 リュウは魔人族の中で一番アイスが懐いているリズに同行を求め、留守番だと思っていたリズは、目を輝かせて了承した。

 ガット支部長も特例として認めてくれたのか、苦笑いするのみであった。










 夕刻前にオーグルトを出発したヴォルフ対策班は、街道の北側の森の脇を北東に進んでいた。

 対策班はアルバをリーダーとする三名と、もう一つの五名の二班に加え、ガット支部長、単独参加のリーザ、アイスを抱えたリズ、リュウの四名である。

 風の魔法で周囲の気配を探れるアルバを先頭に、一行はリュウやミルク、ココアと雑談しながらも、その歩調を乱す事はない。


「それにしても、支部長自ら同行するなんて珍しいですね……やはりリュウ様の力量を見極めるのが目的ですか?」

「そうだな……場合によっては魔王陛下の耳に入れねばならんからな……」


 最後尾を歩くリーザは、隣のガット支部長に声を潜めて話し掛けた。

 ガット支部長は、その問いに少し考える素振りを見せたが、聡明なリーザは分かっているのだろう、と素直に答えた。


「そうなると、リュウ様は魔都に呼ばれる事になるのでは?」

「だとしても、我々にはどうする事もできん。それに星巡竜様の情報を得るのならば、魔都の方がリュウ殿にとっても都合が良いかも知れんしな……」


 想像通りの支部長の答えに、リーザは眉根を少し寄せる。

 魔都はオーグルトから西へ半月、そこから北へ一ヶ月も掛かり、簡単には出向く事など出来ない場所なのだった。

 リーザの事情など分かるはずも無いガット支部長は、オーグルトのハンターギルドを預かる者として、魔王の意向に異を唱えるつもりなど毛頭無く、単純に魔都の情報量の多さはリュウにとって助けになるのでは、と考えていた。


「そんな……」

「何だ? リュウ殿が魔都に向かうのは反対か?」

「い、いえ……」


 思わず漏らした呟きを支部長に見透かされた気がして、リーザは答えに詰まった。


「余計な事かも知れんが、もう五年だ。別に人間族でも心が軽くなるなら良いと思うぞ?」

「し、支部長! そ、そんなんじゃ……」


 そしてリーザの過去を知る支部長は、少しからかう様にリュウとの仲について理解を示し、リーザは慌てて否定した。


「すまん、早とちりだったか、忘れてくれ」


 そう言うと支部長は、再び黙々と歩き始める。

 リーザも同じ様に黙々と隣を歩いたが、その脳裏にはあの夜の事が思い出されていた。

 二人っきりの救護室で真っ赤になったリュウにリーザが取った行動は、自分でもどうかしていたとしか思えない大胆なものだった。


 五年前に恋人を失ってからリーザは、誰にもなびく事無く過ごしてきた。

 だから寂しかったのだろうか、それとも彼が自分の過去を知らない人物だったからだろうか、リーザは色々と自身の行動の理由を探そうとする。

 だからと言って七つも年下の少年に、そう思ってしまうとリーザの思考は止まり、顔の火照りを鎮める事で精一杯になってしまうのだった。










『ご主人様、前方に動体反応、二体です。距離はおよそ一キロです』


 戦闘に備えて姿を潜めているミルクの声に、リュウは自分でも視界をズームして二人の人物を森の陰に確認する。


「前方に二人、お仲間じゃないですか? 森の境です」

「え!? ちょっとお待ちください!」


 風の魔法で広範囲を探っていたアルバは、リュウの言葉で探知範囲を前方に絞っていく。

 そうすると探知距離が伸び、アルバにも二人の気配を感じられる様になった。


「ディンとラーナですね。では、リュウ殿よろしいのですね?」

「はい、行ってきます。ですが、皆さんも気を付けて」


 アルバは仲間の気配を確認すると、リュウに確認を取り、リュウは気後れすることなく答えた。

 これからリュウは森に入って一人で先行し、アルバ達はその後方を塞ぐ様にしてヴォルフを山へ追い立てる手筈なのだ。


「リュウ! 気を付けてね!」

「アイス、リズさんから離れたら、マジで晩御飯抜きだからな!」

「わ、分かってるよぉ!」


 アイスがリズの腕の中から、心配そうに声を掛けるが、リュウはアイスがちゃんと待っていられるかの方が心配だった。

 なので先に、言いつけを守らなかった場合の罰を提示しておく。

 アイスの慌てた様な返事を聞き、リュウはニカッと笑うと皆にくるりと背を向け、森の中に入りながら北北東へ移動して行く。


「よし、我々も間隔を開けつつこのまま北東に移動。ディン達と合流するぞ!」

「了解」


 アルバの指示で、Aランクハンター達が森の際で迅速に行動を開始する。

 ガット支部長とアイスを抱いたリズは、その陣形の後ろに少し離れて移動する。










「街道はそうでもなかったけど、森に入ると随分暗い……が、これでよし、と」


 森に踏み込んだリュウは、たった数メートル程で視界が極端に暗くなった事で、視界を暗視モードに切り替えた。

 途端に視界は昼間同様の明るさを取り戻す。

 リュウの視界は人間と同様の範囲しか見れないが、各種センサーによって全周囲を探知して視界に情報を表示させる為、背後から脅威が接近してきても十分に対応可能だ。


『ご主人様、制御はどうしますか?』

「とりあえず、ノーマルで。先ずは数を減らそう。ヤバくなったら頼むな」

『分かりました』


 ミルクの問いに、リュウは自身での体の制御を選択する。

 ミルクとココアに各種武装を任せるスタイルだ。

 ツールを用意されてから色々学んでいるリュウだが、扱える武装は乏しく、AIと違ってシングルタスクの身では、複数の敵に対応するのはまだまだ困難だからだ。

 そして、リュウのバックパックが小さくなり、両腕のプロテクターが変形し、かなり口径が大きい筒先が現れる。


「さ、こんな所で遭遇しても困る、ウォーミングアップを兼ねて移動すっぞ!」

『『はい、ご主人様!』』


 まだ街道から一〇メートルも離れていない場所ではハンター達が危険だと、リュウは木々の間を駆け始めた。

 リーザ達によって完全に肉体を回復された為、修復措置の必要が無くなった人工細胞は、余す所無く肉体の強化と武装に回され、リュウは人間の枠を超えたスピードで森を楽しむ様に駆ける。


「は、速過ぎる……リュウ殿は一体!?」

「こんなの付いて行けないぞ!?」


 風の魔法でリュウの気配にも気を配っていたアルバともう一人、風の魔法を使えるノーグは、リュウの移動速度の異常な上昇に、それぞれの持ち場で驚きの声を上げつつ走り出す。


「おいおい、急に走るなよ! なんだってんだ!?」

「リュウ殿の速度が上がった、このままだと風の探知から外れてしまう!」


 アルバの後ろ五メートルを移動していたテペロが、突然走り出したアルバに遅れまいと走りながら叫んだ。

 走りながら、慌てた様に答えるアルバ。

 アルバの経験上、こんなに速く移動するものは、それこそヴォルフしか知らない。

 だが、探知している気配はリュウのものだと、風が教えてくれている事に驚愕していた。


「本当かよ、あのガキそんなに凄いのか!?」


 テペロはいつも的確に獲物を捕らえて放さない、風の魔法を使うアルバを信頼している。

 そのアルバを慌てさせるのが、食堂で顔を赤らめていた少年だという事が信じられず、つい普段の口調で叫んでしまう。


「テペロ! リュウ殿だ!」

「テペロ! リュウ様よ!」

「なんなんだよぉ、畜生めぇ!」


 そんなテペロに近くを走るガット支部長とリーザの叱咤が飛び、テペロは逃げる様に速度を上げるのだった。










「はぁ……はぁ……ディン、ラーナ、待たせたな……」

「どうしたんだアルバ、急に走り寄って来るなんて……」


 街道から僅かに森に入った所で接触してきたアルバに、ディンが怪訝な顔を向ける。


「それより、ヴォルフの位置はどうなってる?」

「ああ、それなら此処を真っ直ぐ北だ。今は移動せず休んでいる様だ」

「なら、そろそろだな……」


 ディンの疑問を一先ず置いて、アルバはヴォルフの位置を問い、自身の風の探知からリュウがヴォルフに近いと知り、右手をリュウの位置に向け一つの魔法を発動する。


「うおっ!?」


 森を疾駆するリュウは、突然周囲に巻き起こった不自然な風に、その足を止めた。


『今のが合図の風ですね?』

「ああ、多分そうだ。ここからは慎重に行くか……」


 ミルクは道中に歩きながら行われた打ち合わせで、ヴォルフに近付いたら風で知らせるという曖昧な言葉の意味を体感し、リュウに告げる。

 リュウもその風の不自然さに、声を潜めて同意する。


 自身の目と各種センサーを頼りに、慎重に歩を進めるリュウ。

 一方、ヴォルフの群れは狭い範囲ながら、複数頭で体を寄せ合ったり、単独で伏せたりと、体を休めていた。

 ただその中で一際大きい個体が耳と尻尾をピンと立て、周囲を警戒していた。


 リュウが視界にヴォルフらしき姿を捉えたのと、一際大きいヴォルフが唸るのはほぼ同時だった。

 距離は約百メートル、白い毛並みが次々と木々を縫う様に接近して来る。


「来た! ミルク、ココア、頼むぞ!」

『『はい!』』


 木々の間隔が広い場所に移動しながら、リュウはミルクとココアに緊張した声を掛ける。

 瞬時に応答される可愛らしい声が、今はとても頼もしい。


 一〇メートル程木々の無い僅かに開けた場所の、端にある大木を背にするリュウに向かって、左右の前方から地を滑るように接近する複数の白い影。

 その先頭が一〇メートルの空間に躍り出る瞬間、リュウの左右の腕から絞り込んだ空気を解放する様な発射音が響き、「ギャンッ」という鳴き声と共に左右に二頭ずつのヴォルフが、絡み合う様に転がる。


 その時には次のヴォルフ達が飛び込んで来るが、立て続けに響く発射音がそれらのヴォルフも同じ様に地面に転がしていく。

 だが、第三波のヴォルフ達に対しては射撃が間に合わず、ヴォルフ達は額の角から紫電を飛ばしながら、リュウの喉元へと飛び掛かった。


「っとぉ!」


 リュウの喉元に飛び掛かったヴォルフ達の牙は空を切っていた。

 何故ならリュウは電撃を物ともせず、更にその頭上へ跳躍していたからだ。

 攻撃を躱されたヴォルフ達が再び地面を蹴り、リュウの落下地点に狙いを定める。

 だが、「バシュッ」という音がしただけで、獲物であるリュウが落下地点に落ちて来ない。


 リュウの小さくなったバックパックから発射された銛が、背後の大木の上部に打ち込まれ、極細のワイヤーでリュウを空中に留めていたのだ。

 銛を操作したのはミルクでもココアでもなく、リュウ自身によるものである。

 ミルクのツールによって、銛の射出方向を視界に表示できるからこその芸当なのであった。


「ちょ、ちょっとヤバかった……」


 宙ぶらりんのリュウは、ヴォルフの跳躍では届かないであろう距離までワイヤーを巻き上げると、ようやく余裕が出来たのか、冷や汗まじりに口を開いた。


『余裕でしたよ? ご主人様!』


 そんなリュウに、ミルクは嬉しそうな声で褒め、同時に眼下のヴォルフに向けて「バシュゥ」と発射音を響かせた。


『格好良かったですぅ!』


 ココアもリュウを褒めながら、やはり残るヴォルフに向けて「バシュゥ」と発射音を響かせ、リュウは銛のフックを解除してワイヤーを巻き取りつつ、地面に降り立つのだった。

いつもいつもサブタイトルには悩まされます……

良いの有ったら、教えてください。

なので変更するかも知れません……

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