3-4 洞穴に居座るスライム
後わかる事はどうやらまだ、レイシアとどこかで繋がっているのが魔力の流れで理解出来る。つまり物理的な距離が離れていても、関係ないって事だろう。
この繋がりがある限り、僕は命令をされたらレイシアに絶対服従するしかないのだろう。
前回の進化で少しは抵抗出来た事から考えて、更に進化したこの種族なら支配を脱する事が出来る可能性が高い。
試してみる価値は十分にあるはずだ。
まずは取っ掛かりとなる繋がりを、もっと感じ取らないと何をどうすればいいのかわからないよね。
魔力の扱いに少しは慣れて来たから、今なら何かしら感じ取れる気がするのだが・・・・・・どうだろうか?
自分に繋がっていると思われる魔力の流れに意識を集中して、どうにか支配に抗ってみる。
一番初めのスライムだった時にも、糸みたいなものから魔力を吸って魔法を使えていたから、その繋がりを無くせばいい。
イフリートの時にはその逆に、レイシアが糸を通じて僕の炎の力を扱っていた。
あの時の感覚を思い出せ・・・・・・
距離があるせいか、繋がっている糸の存在がぼんやりとし過ぎて、ただ繋がっているという事しかわからない。
ぼんやりとした糸がどう僕に影響しているのか、集中して見ていくととうとうそれを見付けた。
体中に絡み付いている糸をついに把握した!
後はこの僕を縛り付けている糸を断ち切るだけだ!
認識した通り、そのまま僕の体をがんじがらめの様に縛り付けている。
これは少々手間取るかもしれない。何重にも絡まっているのだ。包み込まれているといってもいい。
初めは取っ掛かりすら見付けられなかったけど、徐々に絡み合った糸が解けるように、繋がりが薄れていくような感覚を味わう。
このまま行けばレイシアの支配から逃れることが出来るだろう。
しかししばらく絡まった糸を解いていると、補強するかのように更なる糸が絡まろうと動き出したのを感じた。
これは多分レイシアの方でも、抵抗しているのかもしれない。
油断すると、以前よりも雁字搦めにされそうな気がする。それだけ僕を逃がしたくないという事なのだろう。
だが僕は自分自身の自由の為に一気に魔力を込め、その支配からの脱出を試みた。
今まで体に絡まった糸を引き剥がそうとしていたところで、さらに蜘蛛が糸を吐き出して振出しにって感じだった。それを魔力という風を叩き付けてそれまでまとわり付いていた糸ごと、吐き出された糸を吹き飛ばしたような光景だ。
全力で魔力を放出したのが功を奏したのだろう。相手の支配が一気に遠ざかって行く。
それを機に数分の間続いた攻防は終結し、僕を縛り付けていた支配から解放されたのが感じ取れた。
しばらくの間、開放された余韻を味わう。
ふう、これで本当の自由を手に入れたのだけど・・・・・・これからどうしたものか?
自由が手に入ったと喜んだまではいいのだが、特にこれといってやりたい事が思い浮かばない。
異世界にただ呼ばれたとかなら、元の世界に帰るっていうのがほとんどの小説などに描かれている主人公の最終目標になるのだけれど。
僕の場合はおそらく元の世界では死んでいて、魂がこちらの異世界に転生し、しかもスライムになったってパターンだと思う。
せめて人間だったのならギルドに行って、冒険者ってパターンで世界を旅するのが王道だと考えられるけれど、スライムという存在で旅は危険というかありえないだろうなあ。歩くのが遅いという物理的な障害もあるし。
それにこの体ならば、お金を稼ぐ必要がそもそもない。
異世界に飛ばされた小説などの主人公がまず確保するのが衣食住になるのだが、これがスライムの場合衣類はそもそも必要としないだろう。
次に食事になるのだが、ある意味今の僕にとって周囲全てがご飯になるので、わざわざご飯の為にお金を稼いでまで食べようとは思わない。
美味しいものを食べるっていう目標も有りかもしれないが、学校で出て来た野菜などを思い出してみると・・・・・・そこまで美味しい料理があるとも思えないところだな。あるとしたらファンタジーならではの珍味だろう。
おそらくは人間が作っている料理より、木などに普通ありえないようなプリン味の実がなっているとか、ドラゴンみたいな凶暴なやつの肉を焼いて食べると凄く美味しかったみたいな・・・・・・
まあ自力でそういうのを探した方が、よっぽどよさそうに思えた。
そう考えるとせいぜい宿代の為に稼ぐって感じになるのだろうが、ネット環境が整う訳でもないので、部屋を用意する意味が無い。野ざらしでも寒くないしね。
ネットゲームで遊んでいられるのなら、今の状況は願っても無い最高の状態なのだがなー。スライムなので睡眠の必要もなく遊び続けられるし、食事も働いて食料を買いに動く必要もない。
永遠と遊んでいられる状態だ。
まあ冒険者が来て討伐されない限りだけれどな。
考えてみるとせっかく異世界に来たのなら、冒険者としてあちこち旅して回るっていうのも憧れるものの、そんなにお金稼ぎに拘る意味が無い。
一応人型になって魔法で体に色を付けたら人間だってごまかせるとは思うけれど、そこまでして冒険者になる必要性がそもそもない。
せいぜいが異世界観光のついでって言ったところだろうか?
冒険がしたいのなら別に人間に化けるまでもなく、冒険者ギルドに関係なく楽しめばいい。
人間が支配していない地域でなら、それが可能だろう。
支配されていた時には自由を求めていたけれど、いざ解放されるとやる事がないっていうのは困ったものだな。
まあこれから時間もたっぷりある事だし、のんびりと考えていくかな。
今までじっくりと考える時間とかなかったからわからなかったけど、この世界に来てからあちこち目まぐるしく連れ回されて来たおかげで、自身の事を考える暇もなかったのだなと改めて思う。
よく考えると生まれ変わったらスライムでしたなんて、今にして思えば冷静な状況だったら発狂していてもおかしくはないって気がして来る。
まあそれでもまだゲーム世代なだけましなのかね~
スライムとかゴブリンなどのモンスターなんて今時の小説やアニメじゃあ、ありふれた存在だったしな。
ボーっとしながらそんな取り止めのない事を考え洞窟に引き篭もっていると、たまに野生の動物やゴブリンなんかが侵入して来たりもする。
そんな時は天井部分に作った窪みに潜み、相手が真下に来てから飛び降りるという奇襲で即座に撃破し、動物ならそのままご飯へ・・・・・・モンスターなら倒した後で、洞窟の外に広がっている森の中へと捨てたりしていた。
飢えている訳じゃないから、さすがにゴブリンを食べたいとは思わないよね。
時計など持っていないし、洞窟の奥でひたすら隠れていると時間感覚が段々と無くなっていくのだが、わりと頻繁にこの洞穴にゴブリンなどが入って来る。
せっかくなのでご飯にならないゴブリン達には、この体の性能テストに付き合ってもらう事にした。
それでわかったのは、魔法に関してはイフリートの時より少しだけ威力が上って感じかな。多分微々たる違いだろう。
だが使える属性は火だけに限定されていない。これは正直言って嬉しい。
酸の攻撃ははっきりいってえげつないな。
詳しく語ると気持ち悪いだけなので、ここでは割愛しよう。
体の一部を固定化出来たので、直接殴ったり締め上げたりって事も試してみたのだが、力はそこまで圧倒的って感じはしなかった。
それでも一般市民の成人男性は余裕で越えるくらいの打撃を与えられている気がする。
以前のスライムに比べて少し大きいかなってくらいのサイズなので、体格差で比較すると圧倒的な力なのだろうな。
あれだ、小型犬に引きずられている飼い主がいたが、あんな力関係だと見ればいいかもしれない。
一度冒険者とかと腕相撲でもしなければどれくらいの強さかはわからないだろうが、中堅から上級冒険者辺りの腕力はあるのではないだろうか?
そんな感じなので総合すると、この体は魔法タイプ寄りの性能になるのだろうな。
その他の特徴はスライムにありがちな核が無くなったので、どんな隙間にも入り込める体へと進化したところだろう。
前はゼリー状の体の一部を核の防衛に回さなければいけなかったのだが、今は気にする事無く体全体で窒息を狙って行けそうだ。弱点が無くなったともいえるだろう。
それだけではなく、体に魔力を循環させる事で感覚が鋭くもなる。
前のスライムでは水越しに周囲を見ていた感じだったけれど、今ははっきりと物を見る事が出来る。更に魔力を循環させるとより遠くまでくっきりと見る事が出来る。ズーム機能みたいなものだな。
音や臭い、触感なんかも鋭くなる感じだ。
全属性の魔法が使えるようになった以外でも、かなり体の性能が上がっているようだ。
一通り知りたい事を検証し終わると、やる事が無くなった。
特にこれといって他にやってみたい事とかも思い付かないしな・・・・・・
下手に動き回って冒険者などに見付かると、討伐されかねないからあまり歩き回りたくもない。とはいってもスライムの歩く速度では、周辺を見て廻るだけでも軽く何日かかかりそうだ。
それはそれで面倒ではある。だからなおさらで歩きたいとも思わない。
おそらくそこらの冒険者を返り討ちにするくらいの実力はあると思うので、命の危機はそうそうないと考えているのだが・・・・・・あまり返り討ちにしていると凄腕が討伐に来るようになるかもしれない。
ある意味フィールドボスってやつになっちゃうのだろうな。
そんなのは面倒だからしたくはないな~
だからまあのんびりと腰を落ち着けて、何かやりたい事が出来たらやる事にしよう。
それまでは飢えないように暮らして行ければ、それで満足だ。
そんな生活をしてどれくらいの日数が過ぎたか、多分四日か五日位かな?
モンスターになって寝る必要のない僕には昼夜は関係無くなっていた。
おかげでどれだけの日数が経過したのかさっぱりわからない。
更にいえば、洞窟の天井にずっと潜んでいたので外の様子を窺うことが出来なかった。
せいぜい何となく外が明るいかもとか、暗いから夜かなって感じるくらいか。後はボーっと過ごしていたから余計だな。
そのせいで正確にどれくらい時間が経過したのか、わからない。
あまり時間を意識しなかったのでよくわからないが、洞穴にまた獣が迷い込んで来たようだ。
今回の侵入者は犬っころ~
僕はいつも通り、張り付いていた天井から即座に飛びかかろうとして、その寸前で獲物と目が合う。
ばれた!
そう思うと同時に、なんとなく懐かしいような不思議な感じがした。それにわんころにも敵愾心というものが感じられない。
この感覚は・・・・・・まさか?
「ひょっとしてお前、レイシアの下僕か?」
ワフ!
予感みたいなものもあってつい駄目元で聞いてみたら、返事をしやがった!
まだ僕の事を諦めもしないで、探していたのかよ・・・・・・
そう思いながらもなんとなくやりたい事も目標も何もない僕は、特に逃げ出そうっていう気にはならなかった。
おそらく支配され、強制されていたのが奴隷みたいに思えて、気に入らなかったのだと思う。
というか普通に奴隷は嫌だろう。
自分の意思を無視された扱いには抵抗するが、今考えてみるとレイシアと一緒にいるのもそれ程嫌ではなかったな。
言葉が通じなくていろいろと苦労はあったが、前の人生では感じた事のない刺激があった。
それに今現在の自分自身を振り返って見てみると、本当にただのスライムと変わらない生き方しかしていない気がする。
せっかく異世界に転生して新たな人生を送っているのに、これでは勿体ないのではないだろうか?
他の人間もそうだが、レイシアとかを気にして逃げ回る逃亡生活など、神経使うだけで面白くもなんともない。
ここ数日の、何日経ったのかもわからないこの停滞した状況を分析する。
あんな主だったけれど一定以上の充実感があったようだ。そして生きているっていう実感があったのだと理解出来た。
――――――
噂のレイシア・・・・・・By 学生達
生徒A「おい聞いたか! レイシアが連れていたイフリートがいなくなったんだと」
生徒B「何! じゃあもう怯えなくて済むんだな、ようやくホッと出来そうだ」
生徒A「おいおい、今までドベだった奴がいい気になっていたんだ。ここらで釘でも刺しておくべきじゃないか?」
生徒B「お前・・・・・・それで今まで肩身の狭い思いをしていたんだぞ。戻って来たら怖いからやめておけよ」
生徒A「・・・・・・戻って来ると思うか?」
生徒B「それはわからんな。だが可能性はゼロじゃないだろう」
生徒A「そうか・・・・・・じゃあ止めておくよ」
生徒B「あんなのに喧嘩を売るなんて、今考えても恐ろし過ぎる。冒険者として付け込まれる隙は極力避けるべきだな」
生徒A「お! お前もう初心者卒業じゃねえの? そんな心構えなんて、今の俺達にゃあ難しいぜ」
生徒B「いや、レイシアが連れていたイフリートを見たら、普通自然とそう思えるようになるだろう?」
生徒A「へ~、真面目だな~」
生徒C「お前ら情報古いぞ。今のレイシアはもう昔みたいな落ちこぼれなんかじゃないらしい」
生徒B「チッ! 情報収集を怠ったか!」
生徒A「そこまで言うのならその最新情報ってやつを教えてくれよ!」
生徒C「ああいいぞ。昔と違って今のレイシアはいろいろな召喚獣を呼び出せるようになったらしい。まあ見たのはウルフとファルコンくらいだったけどな。他にも召喚出来るような事を聞いた」
生徒B「マジかよ!」
生徒A「やっべ、レイシアにちょっかい出してたら痛い目にあってたかもしれん」
生徒C「後レイシア自身も、もう普通に冒険に出られるくらいに実力を伸ばしているんだとさ。ジャイアント討伐とか行ったらしいぞ」
生徒B「ジャイアントって、正規の冒険者でもきついクエストじゃないか! うわー、完全に抜かれたな」
生徒A「・・・・・・俺真面目に頑張るよ」
生徒B「そうだな。他人の足を引っ張っている場合じゃないだろう」
生徒C「元から足なんか引っ張るなよ・・・・・・」




