表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第三章  自由を求めて
36/39

3-2 紫色のスライム

 あれから二・三日の間、午前中は座学の勉強で午後から読書、僕は暇なのであまり遠くまで行かないで、あちこちを漂ってみる。

 僕には必要の無い授業になるから暇なのだ。


 だからランドルやフェザリオの様子を見に行ったりもしたけど、一応は真面目に勉強に取り組んでいるのがわかった。


 それが実戦で役に立つのかは別としてね。


 で、次にレイシアがやり出した事は、どうやら僕の次に役に立ちそうな配下を強化する作業になるのかな?

 呼び出した狼とか、鷹とかを錬金術で合成していた。

 確かにレイシアにとっての戦力強化になると、配下として召喚出来るモンスターが大きく影響するだろうな。

 でも合成して進化したモンスターって、召喚出来るものなのか?

 まあ出来るからこそ、試しているのかもしれないな。


 ぱっと見た感じ、よくわからないモンスターを呼び出していたりしたけどね。

 単純に融合している訳ではないようだが、見た事の無いモンスターだった。


 多分あれは失敗作なんじゃないかな? 僕で実験されなくてよかったと思う・・・・・・




 そしてのんびりと過ごしていた七日目辺りに、レイシアが話しかけて来た。何らかの成果でも出たのかな?


 「バグ、ちょっと立ち会って」


 どうやら当たりのようだ。

 いったいどんな戦力が手に入ったのだろう。さすがにドラゴンは無いとしても、キメラみたいなやつがいると、心強いだろうな。


 やっぱり合成といえば、キメラだろう。


 進化合成とか言っているから、ただの合成じゃないらしいけれどね。


 ワクワクしながらレイシアに付いて行くと、錬金術などの勉強をする実習室には既にブレンダが来て待っていた。

 なんとなく、ブレンダもワクワクして見える。




 「来たわね。どんな召喚獣になるのか、ちょっと楽しみよ」


 どうも既に進化させたのではなく、これから進化合成を試してみるみたいだ。進化の瞬間に立ち会って欲しいって事なのだな。

 自分以外の進化合成を見るのは初めてになるので、冷静に見ていられそうだ。


 部屋の大きさは人が二十人くらい入っても余裕があるくらいの大きさで、既に床には魔法陣が描かれていた。

 壁のあちこちにも魔法陣が描かれているのだが、これは見本とかになるのだろう。


 一応見本に混じって機能している魔法陣もあるのだが、これは事故防止の為の機能があるようだ。爆発の被害とかを防いだりするのかもしれない。

 あるいは悪魔みたいな厄介なやつが召喚された場合、拘束したりするとかかな?


 詳しい事は魔法陣を見ただけではわからない。何かしらの防衛処置だって事がわかるくらいだ。


 今はレイシアの成果の方を気にしておくか。




 レイシアは今回僕の代わりとなる素体として、お馴染みの狼を部屋の中央に用意された大きな魔方陣の上に座らせた。

 そんな犬っころを見ると・・・・・・あー、こいつこれから何が起こるかまるでわかっていないなーっと、人事のように思える。

 まあ実際に人事なのだが。当事者で無いというだけで、ここまで無関心になれるものかねー


 ついで合成素体が配置されている右と左の小さな魔方陣を窺うと、そこには何かの卵が二つ置かれている。

 それぞれの卵は表面の模様、形や大きさが違う為、何か別の種類の卵である事はわかる。どちらも一抱えありそうな大きさなので、かなり大型のモンスターの卵だろう。


 しかし相変わらず何の卵かさっぱりわからなかった。鶏でない事はわかるのだがな。


 「右の方の卵は、私が調達して来たのよ!」


 大きい方の卵を、自慢げにどうだって感じで紹介するけど。結局何の卵なのかは全然教えてくれない。やばいやつなのか?


 その間にレイシアは、床にいろいろな魔方陣を書き足していた。


 ぱっと見たところ、準備は万端に見えたのだが、微調整とかなのかな?

 まあ失敗しないようがんばれ!




 どれくらい作業していたのか、そろそろ待ちくたびれたと思い始める頃に、レイシアがボソリと呟いたのが聞こえた。


 「準備出来た。始めるよ」


 そう言うとレイシアは魔法陣に魔力を流し始め、犬っころと卵がある魔法陣が輝き始める。


 改めて外側から見ると、綺麗だな~

 幻想的にも見えるが、どうしてもモンスター同士を掛け合わせて、別のモンスターにするゲームを想い出してしまう。


 元が狼なら、進化するのはフェンリルとかになるのかな? ケルベロスとかも強いぞ。

 そんなのが出て来たら、おそらくレイシアでは制御出来ない可能性の方が高いけれどね。

 ゾンビとかそういうのだけは勘弁して欲しいところだが、さてさてどんなやつになるのやら。


 徐々に輝きを増す魔法陣を、おーっと思いながら見ていると、ふとそれまで気が付かなかったものを視界に捕らえた。


 僕の足元で光り出した魔法陣。

 ついさっきまで何も描かれていなかったはずなのだが、魔法陣が浮かび上がって来た?


 当然その魔法陣から逃げる為に飛び出そうとしたのだけれど、透明な壁が僕の行く手を邪魔している!!

 このパターンはやばい!


 反射的に元凶達に視線を向けると、予定通りって感じでこちらを見ているのがわかった。罠か!


 光に包まれて行く僕が最後に見たのは、ワクワクしているブレンダと楽しみにしているレイシアだった・・・・・・




 意識が覚醒した僕は辺りを見渡した。


 直ぐにここがさっきまでいた教室の中で、ブレンダとレイシアがこちらを見ている事に気が付く。

 いや、見下ろしている?


 レイシア達の視線を辿ると、小型犬を見るくらいに視線の先が低い。


 ああ、気を失っていたのなら床に寝ているって事だな。それにしては彼女達の表情はまさにやっちゃったって感じに見える。


 ひょっとしてひょっとするとまた失敗のパターンなのか?

 毎度毎度あんたら反省しないのかね。

 そろそろ学習してもいい頃なんじゃないかって思うのだが、こう考えているのも多分僕自身気が付いている現実逃避なのだろうな。


 そう思うとともに、薄々は気が付いている。


 どう誤魔化してみたところで、二回目の錬金合成をされてしまったのだと、頭の片隅では既に結論を出しているのだ。


 終わっちゃった事は、今更気にしても仕方が無い。一度目と同様、魂に異常があったようには思えないな。


 果たしてこれが融合前の意識と、融合された後での違いに気が付けるのかどうかは不明なのだがな。


 なんとなく、元の自分だと思える。そこはホッと一安心。

 問題は今の僕の姿だろう。


 今度はいったいどんなモンスターになったのか、はっきりいって怖過ぎて確認したくない。

 それはレイシア達の表情が物語っているからだ。


 あからさまな嫌悪感は抱いていないようだが、残念そうではある。ゾンビではないな。

 ではいったい何に進化したのだろう・・・・・・

 そう考え、ひたすらに二人が反応するのを待ち続けた。




 「はぁ~。戻っちゃったね・・・・・・スライムに・・・・・・」


 え?


 どれくらいお互いに見詰め合っていたのか。しばらくしてようやく口を開いたブレンダの呟きに、改めて自分の体へと意識を向けて見た。


 そういえば言われるまで気にもしていなかったけれど、部屋中全周囲が見渡せている。


 その視界は微妙に歪んでいて、水の中から見ているようにも見えた。いや、以前のスライムの時よりはっきりと見えるので、ほとんど違和感を感じないくらいじゃないかな?


 これは意識して見るから歪んで見えているって感じだ。


 そして以前と違うことは、自分の内側にも視線を向けられるところだろうか。




 核が無い。


 以前のスライムの時には弱点となる核がそこにあったはずだ。それが無くなっている。


 スライムはスライムでも、何かしら種類の違うスライムになったようだな。


 まだ実感が湧かなくて、イフリートの時にあった手を動かす感覚を思い出してみる。

 するとブレンダが断言したように手足は存在せず、触手が手のように反応して持ち上がった。久しぶりの感覚だがなるほど、確かにこれはスライムだって理解する。


 このゼリー状の液体全てが手であり足であり、それでいて脳細胞なのだろう。

 通常の生物のように臓器や器官などに別れていない事がわかる。


 後違うところといえば、アメジストをイメージさせる紫色をしていることだろうか。

 紫といえば、ゲームではポイズンスライムが有名なのだが、そんな毒々しい色合いではないところが気に入った。どちらかといえばラメ入りのゼリーの様にキラキラして見える。

 なかなか派手なスライムになったものだ・・・・・・何でイフリートからスライムなのだ?




 「のーーーー」


 思わず叫んだよ・・・・・・


 そりゃそうだろう? わずかながらも人形っぽい姿になっていたのに、また不定形生物に逆戻りっていったい・・・・・・

 いやそれはどうでもいいのだが、よくないが・・・・・・僕はまた合成されたのか!


 その結果がまたスライムって何でだよ! いやスライムって結構強かったからいいのだが・・・・・・いやよくないよ。

 どうせ進化するのなら、イフリートよりも上位のモンスターになる方が普通じゃないか?

 何でスライム。というかどうしてまた合成した!


 もういい加減にしてくれって感じだね。


 そしてハッと気付いたよ・・・・・・今までと違って声が出せる事に。

 え? 何これ、ただのスライムじゃないって事?


 ビックリしたが、まあどう見ても普通のスライムでは無いだろうな。

 色からしたらポイズンスライムかと考えていたのだが、まあ違うのだろう。


 僕はいったい、どういうスライムに進化したのだろうか・・・・・・




 「バ、バグが喋った?」


 自分の現状に驚いて、レイシアとブレンダがいる事を忘れていた。

 でもってブレンダが驚いているようだが、そんな事知ったことじゃない。言いたい事は山程あるのだ!


 「喋っちゃ悪いか!」


 喋れるとわかったとたん、今までの恨みを込めてブレンダに食い付く。


 しかし今の僕の声には違和感しかないな。なんていうのか、男でも女でもなく中性的と言うか、合成音声のような感じ。

 今まで人間として過ごして来た時の声の印象が強くて、別の誰かが喋っているみたいに聞こえるのだが、今は我慢するべきだな。

 せっかく会話が成り立つようになったのだから、ここははっきりと言っておかなければならない。


 どこか冷静な部分で、傍から見れば喋るスライムってどうなんだと思ったりするが、それよりも今まで溜め込んでいた思いを叩き付ける方が重要だろう。

 だから僕は二人に向けて思いの丈をぶつけた。




 「人の事をポンポン合成しやがって、いい加減にしろよ。前回消滅させかけたから、もうやらないと思っていたらまたやりやがって、お前らいい加減学習しろ。失敗して変なものにでもなったら、どう責任取るつもりだ!」


 こちらをぽかんと見詰めたまま、何も反応しない彼女達にふつふつと怒りが湧き上がる。

 理性的な部分では、ビックリして反応出来ないだけっていうのは、わかってはいるのだ。

 しかし、直ぐに謝罪が無い事が腹立たしくて仕方がない。


 今まで喋りたくても出来なかったからなのか、相当うっぷんが溜まっていたのだろうな。

 自分でも自分を上手く制御出来ない感じだ。

 今はこの感情のまま、二人に言いたかった事を叩き付けるのみ。


 「いい加減お前らの遊びに付き合っていられない! 僕はこれから自由にさせてもらうからな!」


 そう宣言すると彼女達の返事も聞かず、窓から外へと飛び出した。


 言いたい事ならもっと一杯ある。

 しかしそう考えていたけれど、上手く言葉は出て来てくれなかった。


 その代わりといってはなんだが、これ以上玩具にされないよう行動で離別を伝える。


 僕は自由になるのだ!




 ――――――



 スライムレポート・・・・・・By 優等生




 私がスライムの研究を始めたきっかけは、何だったのか・・・・・・早々子供の頃、みんなでよくスライム退治をして冒険者の真似事などをしていた時に疑問が浮かんだのだったかな。


 どこにでもいて、私達子供が毎日のように退治しているのに、一向に絶滅しない。


 ひょっとしてスライムって、恐ろしい存在ではないのかって考えたんだ。


 気が付けば、スライムの生態を知ろうとしていた。知らない事は怖かったからね。




 まあそれはいい。


 通常のスライムは必ず核を持っている。

 これを潰す事で、子供でもスライムを退治することが出来るんだ。逆に言えば、本作に出て来るこのスライムのように核が存在しなければ・・・・・・おそらくスライムは無敵になるのではないのではないか?


 彼らゼリー状の体は、物理的な攻撃が一切効かない性質がある。

 つまり、彼らは核があるから最弱のモンスター足りえた。その弱点が消えた今、果たしてこのスライムを倒す手段はあるのだろうか・・・・・・まあ魔法を使えばいいだけだろうね。




 レイシア嬢の召喚したこのスライム。


 おそらく核が無くなっただけならば、そこまでの脅威ではないと判断する。


 しかし調査団が見逃したようだけれど、異様に知能が高い事を学校の生活を見て知っている。

 複数の要素が絡み合い、おそらくは先生達にも手が出せない存在になっていると推測出来た。


 私は第二、第三のバグ君が現れない事を、心の底から願うよ・・・・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ