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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第二章 マジで死ぬかと思ったよ
29/39

2-10 休憩入ります~

 「とりあえず、一命は取り留めたわ。目を覚ますまで、しばらくはここで休憩になるわね」


 ブレンダが一般人である二人に事情を説明していた。


 そして安心させるように、微笑みながら付け加える。


 「移動出来るようになるまでは、私達が周辺の警戒をするわ。その間は自由にしていて」

 「はあ、わかりました」


 中年の女性の方が、それに返事を返している。


 レイシアは自分の足で立ち上がっていて、既に周辺の警戒をしていた。というか召喚したモンスターにお願いしている感じだな。

 そっちの方が万全だろう。


 気を失ったままのフェザリオは、ランドルが馬車の中へと運んで行った。その後は馬車の周辺を警戒する為に、ブレンダの反対側にあたる馬車の後ろに向かう。

 そのブレンダは、御者の右横で周囲を警戒しながら時折御者の様子を見ているようだ。

 レイシアは馬を挟んだ左前が担当場所に決まっていた。

 三人で馬車を囲むように警戒している感じだな。


 そして僕は馬車の上空、炎を消した状態で空に浮かんだまま周りを警戒している。

 上空なら周囲が一望出来て、警戒するにはもってこいだしね。とはいっても森の側っていうのはちょっと場所が悪いかな。

 そこが心配なくらいだ。


 ちなみに透明になっているので、相手からこっちはたぶん見られる事はない。


 一般人の二人はなるべく直ぐに馬車の中に入れる位置で、日陰になる場所に座って特に言葉もなく静かにしていた。

 突然の事で、どうしたらいいのかわからないのかもね。




 「うぅ、ここは?」

 「あ、目が覚めまして? 体の方に何か異常はないかしら?」


 どれくらい時間が経ったのか、日がかなり傾いてうっすらと暗くなって来た頃、御者のおじさんが目を覚ましたようだ。

 そしてブレンダの質問にハッとして自分の体、主に矢の刺さった胸の辺りをしきりに撫でている。


 その部分は服に穴が開き、べっとりと血に汚れていた。傷はないけれどね。


 「ああ、ああ・・・・・・。特に問題はなさそうですが?」


 頭の上に一杯の疑問符を浮かべながら、相当混乱している様子。


 まあ不意打ちで死に掛けたのだから、相当混乱しているのだろう。

 ブレンダが、これまでの経緯を丁寧に説明していた。貴族なのによく気が付いて、リーダーっぽいな。


 「状況は把握出来たようね。予定とは少々違ってますがもう直ぐ夜ですし、今日はこのままここで野宿にしましょうか?」

 「ええそうですね。申し訳ありませんが、今日のところはそれでお願いしたく思います。では私は皆さんに説明して、野営の準備をしてまいりますので失礼ですが、引き続き警備などしてもらえると助かるのですがいいですか? あ、それと場所はもう少し移動します。少し進めば水場がありますし、ここには山賊と戦った後などが残ったままですので」


 馬車の周辺には、あちらこちらに焼け跡が残っている。


 さすがに山賊の死体は既に片付けた後であるが、こげた匂いは漂って来ていた。

 ちなみに片付けはランドルがやっている。こういうのは男の仕事だろう。

 まあそれ以前に、役に立たなかったのだからそれくらいはね?


 「そうね、場所などはお任せするわ」


 どうやら、話はまとまったようだ。


 僕はこのまま炎を消して、馬車の上で警戒でも続けていよう。


 少しして一般人の二人組みに説明を終え、馬車を走らせ始める。

 本当にちょっと移動すると森の終わり辺りに、川が流れているのが遠目でも確認する事が出来た。

 あそこで野宿になるのかな。

 どうやら後数分で辿り着きそうだな~




 森が終わり、川に沿ってしばらく走り続けた後、道が川から徐々に離れ始めた辺りで馬車は道から逸れて停止した。


 「お客さん方、申し訳ありませんが今日はここで野営させてもらいますよ」

 「ええ、わかりました」


 僕達以外の二人の方に、念の為って感じで声をかけた御者は馬車の隣に焚き火を作り、その周りに客が座る為の御座などを敷き始める。

 それが終わると、馬車から馬を放して川の水を馬に飲ませに行った。


 戻って来た時には手にやかんを持っており、川で汲んだと思われる水でお湯を沸かし始める。

 流石にこういう作業は慣れたものらしく、動きに無駄がないな~


 ちなみに温かい飲み物はサービスらしいのだが、食事自体は各自で用意するものらしく、それぞれ自分の荷物から携帯食を取り出して食べ始めていた。

 飲み物は紅茶かな? 砂糖みたいなものは無いようだから、お茶みたいな扱いなのだろう。僕は甘い方が好きです。飲めないけれど・・・・・・




 特に食事の必要はないので、そのまま周辺を漂いながら警戒を続けていたのだけれど、川の方へ行った時に何かが流れに逆らって移動する音を聞いた気がした。

 かすかだったから水の音なのか魚でもいたのか、どっちかわからないな。


 魚だったらいいのだが、魔物か野生の肉食動物辺りだったら馬が危ないかもな。


 馬は特に気にしないで川の水を飲んでいる。

 一応ブレンダ辺りに知らせておくか。


 「キュウイ(なんか来るかもしれないぞ)」


 その声にブレンダが即座に反応を示し、声がした場所に顔を向けて来た。


 昼に油断して危なく御者を死なせかけただけあって、休憩していても軽く警戒は続けていたみたいだな。

 即座に反応して馬車の側面、川の方へとやって来たぞ。


 こっちを気にしつつ、馬車の周囲にも警戒しているようだ。


 僕は消していた炎を灯してみんなに姿を見せた上で、腕を川の方向へと向ける。


 パーティーメンバー以外の人が、御者さんも含めてびっくりした表情をしているのはとりあえず無視して、地面近くへと移動する。


 みんなを呼んだはいいが、これで何もありませんでしたっていうのだったら、ちょっと恥ずかしいな。

 そうだったらどうしよう・・・・・・笑って誤魔化すか?




 「みんな武器を持ってこっちへ来て」


 レイシアは脇に置いてあった杖を持ち、直ぐにブレンダの横に並ぶ。

 ランドルが少し手間取ったものの準備を整えてやって来た。

 ちなみにフェザリオはまだ気を失ったままでここにはいない。


 三人はそのまま僕の先導で川へと移動して、指差した先を警戒しながらも様子を窺う。


 改めて見たけれど、よかった。どうやらみんなを呼んだのが無駄にならなくてすみそうだ。

 暗くて見えにくかったけれど、何かが泳いで来るのがわかった。結構早いな。やっぱり魚かな?


 少し前までは結構な速度で泳いでいたようだが、馬に気付かせないよう慎重に移動しているのか、どうやら魚ではなかったようだ。チラッと背中の部分が見えた。

 魚とはまた違ってごつごつとした感じだ。背びれは付いていない。


 警戒して魚でしたなんて、間の抜けた展開にならなくてよかったなってちょっとホッとするけれど、戦闘にはなりそうだな。


 そっちはそっちでレイシア達が心配だったが。




 水を飲んでいる馬に向かって、音も立てずにゆっくりと移動しているのは、ワニであった。


 数は一頭なので練習になるかと思って、みんなに任せる事にする。


 魔物の類で、知らない相手なら参戦してもよかったのだが、ワニなら任せても大丈夫だろう。

 それにこういうのもいい実践訓練になって、彼らにはちょうどいいな。連携も試してみるといい。


 一歩後ろに下がった僕にブレンダが気付き、ふむって感じで頷くのがわかった。一瞬考え込んだみたいだけれど、僕と同じでいい訓練になると判断したようだ。


 「レイシアさんは召喚でワニの注意を引き付けて、ランドルは反対側に回ってワニの背後から出来れば物理攻撃。気が付かれたら盾で押さえつつなるべく川から引き離しなさい」

 「わかった」「了解」


 軽く指示を出すと、三人がそれぞれに行動を開始する。

 なかなか立派な指揮振りじゃないか。これは期待出来そうだ。


 じゃあ僕は邪魔が入らないよう荷馬車の方の警戒をしながら、じっくり観戦させてもらいますかね。




 「召喚、ファルコン。ワニの気を引き付けつつ、隙があれば攻撃を」


 鷹がレイシアの命令に従い、ワニと馬がいる真ん中くらいの場所へと目立つように移動する。

 いかにも気が付いていませんって感じで、川の水を飲んでいるような振りで、さらに少し川の中へと足を付けていた。


 あ、目の前に現れた獲物に反応して、ワニが移動速度を上げて鷹に寄って行く。

 さっきまでの慎重な動きではない。ちょっと焦っているのかな?

 馬と違い、飛んで逃げられないよう急いでいるのかもしれないな。罠なのに・・・・・・


 ぎりぎりまで引き付けて、いきなり空へと飛び立つ鷹。


 ワニが慌てて鷹の方へと口を開けて悔しそうにしていた。


 当然だけれども突然上がった水しぶきなどにより、馬の方もワニの存在に気が付いて川から逃げて行く。

 そっちの行動についてワニに思うところはないみたいだな。


 二兎追う者は一兎も得ず。

 目先の餌に釣られたのが敗因だろう。

 まあそこまで考える知能は無いのだろうがね。


 馬より鷹を取り逃がした事が残念なのか、空を飛ぶ鷹へと口を開けたまま呆然としているように見える。

 ワニよ。後ろに気を付けた方がいいぞ。


 野生の獣の癖に、警戒心の低い奴だ。そんなに獲物を逃がした事がショックだったのかね~




 こちらの動きに気が付いていないワニに対して、ランドルが背後から襲い掛かった。


 「うりゃ!」


 気合でも入れる為なのか、攻撃の瞬間声を出して殴りかかったようだ。


 素早い相手とかにそんな声を出していたら、気が付かれて逃げられる可能性があるだろうが。癖かなんかわからないが、やめた方がいいぞ。

 けれど今回の相手はワニであったので、何事もなく不意打ちの一撃が相手の後頭部辺りに命中する。


 皮膚が硬いからか、腕が未熟だからか、せっかくの剣の攻撃が棍棒の打撃みたいになっていた。当然皮膚は傷こそ付いたものの、斬れてはいない。


 かえってそれが良かったのか、脳震盪でも起こしたかのように鈍い動きで弱々しく暴れるワニ。

 それでも警戒してか盾を構えながら少しずつ下がっていった。


 これはもう少し未熟な者ならそのまま勢いで突っ込んで怪我をするパターンだったので、油断しないという点で評価出来る。熟練の冒険者なら、ここで一気に倒し切るだろうな。

 まあ動きが鈍っているだけで、無力化出来てはいないから、安全策でいいのだろう。


 だからさっきブレンダが作戦を指示していたように、盾を構えて防御を優先しつつ川から引き離すっていう行動は、予定道理の行動になる。

 さてさて怪我はするなよー




 「燃え尽きろ、ファイアアロー」


 ゆっくりとランドルへと振り返ろうとしているワニに対して、ブレンダの攻撃が突き刺さる。


 呼び出された三本の炎の矢がワニに向かい、全弾命中してワニはそのまま活動を止めた・・・・・・

 どうやらランドルが放った不意打ちの攻撃が、思いの外効いていたのかもしれないな。さすが戦士といったところか。

 まだまだ新米のパーティーではあるけれど、それなりに冒険者っぽくなって来ているかな。


 せっかく仕留める事が出来たワニなので、どうやら食料にするみたいだ。


 ブレンダが手を貸してランドルがメインになって皮を剥ぎ、肉を切り取っていた。


 「終わりましたか?」

 「ええ、もう大丈夫よ。今、ワニの肉を切り取っているところよ」

 「ワニですか。もしよろしければ、ワニ肉を使った料理など調理しましょうか?」

 「そうね。先程少し食べたから、あまり重くならない程度に何か作れるかしら?」

 「でしたら、ちょっとしたおやつみたいなものでも作りましょう」


 獲物を倒して解体。当たり前なのだがえぐいな。


 ゲームならアイテムをドロップしたり、解体作業は省略されて肉だけ残ったりするのだが、現実は甘くない。


 改めてモンスターに転生してよかったかもな。

 モンスターには討伐部位を集める必要はないのだ。




 恐る恐るやって来た御者とブレンダが話し合い、ワニを使った即席のおやつを作る事になったようだ。


 そういえば、ワニの肉って食べた事なかったな・・・・・・せっかくの異世界だし味わってみたかったな・・・・・・

 野営中だし、そうたいしたものは出て来ないと思うけれど、ちょっと食べられない事が悔しい。


 今の体じゃあ多分食べた瞬間に燃えて、灰の味しかしないだろうな・・・・・・残念だ・・・・・・


 御者のおじさんが馬を連れて馬車の方へと戻り、みんなが焚き火を囲んでおやつを食べているのを眺めながら、僕は一人炎を消して周りの警戒を続けた。


 一人離れて食事風景を眺める。こういうのはちょっとだけ寂しいものだな・・・・・・




 ――――――



 神官科の生徒達・・・・・・By ランドル&フェザリオ




 「はあぁー」

 「一体どうしたってんだ? これから冒険だっていうのに辛気臭い溜息なんてついて」

 「一応さ・・・・・・自己紹介した時に言ったように、自分では自衛くらいは出来るだけの訓練は積んで来たんだよ」

 「ほーう」

 「いやそんな何も、疑うような目をしなくたっていいじゃないか! 仲間内では結構戦えたんだよ? 本当だって!」

 「あー、それって神官科の中ではってやつだな?」

 「え? ああ、もちろんそうだよ」

 「なるほどな~。俺達戦士科の奴らから見たら、あれはお遊びなんだよ。お遊戯ってやつだな。なんていうか、真剣さが足りないっていうか、スローモーションで動いて遊んでいるようにしか見えないんだがな~」

 「いやだって、あれって基本的な武術の型じゃないか。基本的にはあれを素早くしたらそのまま実戦に使えるって、先生に聞いたよ?」

 「いやいや。確かにあれは基本で間違いはないぞ。だが敵がその型を知っていて、しかも自分達に合わせた速度で攻撃して来てくれる訳が無いだろうが。あくまでも実戦では臨機応変! それが大事だ!」

 「そんな~」


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