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モンスターに転生するぞ[追加版]  作者: 川島 つとむ
第二章 マジで死ぬかと思ったよ
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2-9 乗合馬車で移動

 僕らは早速町から討伐地域近くにある村へ向かう為、乗合馬車乗り場へと向かって移動を始めた。


 現地へは馬車で二日走り山の裾野にある森沿いを行けば村へと到着する。


 そこから森の中へとわけ入り、約一日かけて登った先の廃墟が目的地って感じの日程になるようだ。


 道中アクシデントなど含めると、往復で大体八日から十日くらいの冒険になるのかな?

 割とガッツリした冒険になりそうだ。


 乗合馬車には前もって時間を確認していたようで、遅刻する事もなく乗車することが出来る。まあ僕は目立たないように乗ったけれどね。


 馬車そのものは幌に覆われた安っぽいものだった。

 貴族のような箱型ではない。


 野盗が現れたら、簡単に弓矢で射抜かれそうだな。防御力なんてまるっきり望めないぞ。


 まあ中身を確かめずに撃って来るとも思えないけれどね。




 早速動き出した乗合馬車の中、女子二人が気楽な感じで揺られているのに対し、男子二人はまるで死地に向かって進んでいるかのように暗い顔をしていた。

 まあいきなり戦う相手としては、ジャイアントはかなりの強敵だからこれは仕方ないのかな。


 慰めたりなんかしないけれどね!


 それにしても男子と女子で、正反対の表情をしているな~


 そんなに不安なら脳内シミュレーションでもして、戦い方の研究でもしていれば少しは気も紛れるだろうに・・・・・・

 僕もそんな器用なことは出来ないが、うじうじ悩むよりはまだましだ。


 大体見た事もない相手を想定出来るはずもない。


 自分にどんなことが出来そうか、いろいろ考えるのが妥当だろうな。たぶんたいていの物が燃やせると思う。


 人語が話せたら教えてあげられるのに、本当に不便なものだな。

 そんな男子二人を見ていても面白くも何ともないので、暇潰しに周辺地理でも確認しておこう。




 馬車の中にいた客は、レイシア達四人と旅行者なのか一般の男女ペアだけ。


 少ないけれど一般の客もいたので、僕は脅かさないように炎を完全に消して馬車の中を幽霊のように漂っている。


 基本的に、代り映えのしない景色を見る為、馬車の後部のほうボーとしていた。

 延々と続く道くらいしか見るものはない。


 初めの内は、雄大な大自然を満喫して楽しんでいたのだが、それが何時間たっても変わらないとしたら飽きて当然だろう。

 北海道とかいったら、こんな感じなのだろうか? 一度は行っておくべきだったかな。


 そんな感じでのんびり外の景色を見ながら進んでいると、前方に森が見えて来た。特にそれ自体は珍しくも何でもない。


 踏み固められただけのこの道も、あちこちで森や川などの側を通過する。


 今回もそんな森に沿う形でゆっくりとカーブするように進んで行った。




 だが途中、唐突に馬車が止った。

 馬のいななきが聞こえ、馬が何やら興奮しているようだ。


 何かあったようなので幌の上部からすり抜けると、馬の方へと飛んで様子を見に行く。まずは状況確認だろう。


 この異常事態にとっさに反応出来たのは、どうやら僕とブレンダだけのようだった。

 ブレンダは杖を用意して警戒しながら馬車から降りて来る。


 馬が暴れている原因は何だろうって見てみると、背もたれにもたれかかった御者の胸辺りに矢が刺さっていた。

 馬車の内側からじゃあ、背もたれになっている板が邪魔で、御者の状態を確認出来なかったのだ。座ったまま倒れなかったというのも原因だろうな。

 だから異変を察知するのが遅れたようだ。


 それを見て襲撃があったのだと判断。周囲を警戒しながら、御者がまだ生きているのかチェックする。

 おそらくぎりぎり致命傷ではないものの、一刻の猶予もなく治療が必要だと判断した。


 幸いな事に、この馬車の中には神官という癒し手がいる。即死でないのなら、まだ回復の見込みがあるぞ!

 ちょうどブレンダが外に出ていたので、姿を現し御者の方を指さしておいた。

 ブレンダならそれだけでこちらの意図を読み取ってくれるだろう。実際直ぐに行動を起こしてくれたのが見ないでもわかる。


 御者の方はブレンダが対処してくれるはず。ここは任せた!

 僕は襲撃者の撃退をしなければな!




 「なっ、炎の化け物?」


 ブレンダに合図を送る為、全身の炎を出したところに山賊達が駆けつけて来たようだ。


 ちっ、せっかくの不意打ちが出来なくなったか。

 背後からグサってやりたかったのにな・・・・・・まあ今回は仕方ない、諦めよう。


 森の中に潜伏していたと思しき山賊達のリーダーが、突然御者の近くに現れた僕に驚きの声を上げる。彼らは剣を持っているので、まだ森の中に弓を射かけた者が潜んでいるのだろう。


 馬車が止まった事で、ぞろぞろと出て来ていた。結構な人数だな。

 こいつらって、野盗というより山にいるから山賊でいいよな?

 呼び方なんてどうでもいいか。今は一分一秒でも早く治療させなければいけない。


 山賊が襲撃して来る中、新米神官であるフェザリオに回復しろって言うのは酷だろう。

 だったらこっちは僕が相手しよう。初の対人戦闘になる訳だ。

 不思議とためらう気持ちは湧いてこないな・・・・・・モンスターの体だからか?


 いちいち考えるのも面倒になって来た。これもゲームと同じだ。見るからに悪者で、襲って来たのなら排除するって感じでいいよな。

 おそらくこんな異世界で、人権などいちいち保護されていないに違いない。




 「キュルクルキュルル!(殲滅せよ、ファイアランス!)」


 今回はのんびりと訓練のような戦闘をしている時間は無い。まとめて終わらせよう。

 そう考え馬車を囲むように展開する山賊達に向けて、一気に魔法を解き放つ。


 炎の槍を一人に付き一本、爆撃機からミサイルを撃ち出すイメージで右手を振り回して撃ち出して行った。


 一度は僕の姿を見て驚き動きを止めたものの、気を取り戻して襲い掛かって来るリーダーにも炎の槍は突き刺ささり、その後に炎の影響で燃え上がる。


 以前学校で先生や生徒を燃やした時とは違い、炎が勢いよく燃え上がった。まるで油を含んだ松明の様だ。


 冷静ではなかったとはいえ、あの時先生と生徒を殺してしまわなくてよかったな・・・・・・

 思わずそう言いたくなる光景が広がっていた。




 見える範囲で魔法を回避したり、抵抗出来た山賊は見当たらない。等しく燃え上がりのたうつ様に地面を転がる。


 たぶん魔法を放った数は二十発。

 いったい山賊が何人いたのかはわからないけれど、気が付いた山賊には魔法をプレゼントしておいた。森に隠れている奴も、一応二人までは気が付いたからね。気が付いたからには攻撃するしかないだろう。


 一応リーダーだけは驚きつつも回避行動を取ったりもしたけれど、さすがに誘導ミサイルのように放たれた炎の槍を避け切ることは出来ていない。


 真っ先に山賊集団を率いて前に出て来ていたのも、致命的だったのかもしれないな。

 それだけ至近距離で攻撃を受けたのだから。まあそこは運が悪かったと思ってもらおう。


 その他の山賊はといえば、僕の姿に驚いて足を止めてしまったところに炎の槍の直撃を受けていた。


 最初の当たりどころがよかった奴は、苦しまずに死ねたかもしれない。


 リーダーのように下手に避けたり、運悪く致命傷でなかった者は炎に巻かれた後、もがき苦しんだだろうからな。

 知る限り誰一人として逃れた者はいなかった。


 まあ気配を消して隠れているような奴がいたら、逃れていてもおかしくはないだろう。

 ゲームだとハイディングとかしている連中だな。さすがにいても見付ける術がない。


 この結果を見て、出て来る奴はいないと思うけれどね。


 とりあえず他に隠れている山賊がいないか警戒だけはしておこう。




 思っていたよりあっさりと片が付き、ちょっと拍子抜けしたのだが、それよりも御者の方はどうなったのだろうか?


 ほぼ瞬殺だったので、まだブレンダ達に動きがあったようには思えないが・・・・・・


 「フェザリオ、早く癒しの奇跡を使いなさい!」


 後ろから聞こえて来た声で、まだ回復も始めていないって事に気が付いた。


 あいつは専属のヒーラーだろうが・・・・・・何をモタモタしている?

 医者じゃないからわからないが御者が受けた矢の位置は、致命傷じゃないだけで早く手当てをしないとやばそうに見えた。


 まだ学生のフェザリオだと復活は当然使えないだろうし、回復自体もおそらくは初歩、よくて中級までではないだろうか。

 早く回復を始めなければ、どんどん状況は悪化して行くぞ。


 こっちはこっちで他に隠れている山賊がいないかどうか索敵する為に、馬車の幌の上から周囲を警戒していたのに・・・・・・


 けれどブレンダの切迫した声に、これ以上の猶予はないと察した。




 つい今しがた油断して奇襲を受けたばかりだから、ここは集中して警戒しておきたかったのだがな。


 一般のお客が回復手段を持っていないとしたら、回復出来る可能性があるのは僕しかいない。いないというか、何となく回復の魔法とか使えるかなって感じなのだが・・・・・・


 とにかく手遅れになる前に御者がいるところに向かうと、警戒を怠った事を後悔しているブレンダと、おそらくはブレンダに引きずり出された状態で腰を抜かしているフェザリオがいた。


 その構図を見てある程度理解する。

 ぬくぬくと過ごして来たおかげか、死にかけている人間を初めて見て、怖くなったって感じか。


 僕も日本で暮らしていて、そんな人間を見かけたら頭が真っ白になってもおかしくはないと思う。だが少なくとも専門の癒し手なら、こういう時はササッと動いてくれよ。情けないな。


 「キュルギュルッル(彼者に癒しを、オールヒール)」


 確か大回復の魔法っていったらこんな感じだったな。


 やっとこちらに向かってやって来たレイシアが、直ぐ隣で崩れるように倒れたのがわかった。

 ちっ、上級の回復魔法を使う為の魔力が、どうやら足りないようだ。

 少しは一緒に冒険してLVが上がっていると思ったけれど、元々素質が低い方だったのか、それとも単純にLVが低いからなのか、回復魔法に必要な最大魔力が尽きてしまったようだ。


 自分の魔力を使って魔法が使えれば楽なのに・・・・・・




 魔法効果が途中で止まってしまったので、回復の効果も途切れそうになっている。何とかしなければこのままだと・・・・・・

 焦る僕の視界に呆然としているフェザリオが映った。


 わずかながらの怒りを乗せ、思い付くまま魔力を引き出してみる。


 主従関係とかないけれど、魔力を奪ったり出来ないか?


 「キュルル、ギュウウル(お前の魔力をよこせ)」


 フェザリオに右手を向け、レイシアの時を思い出しながら魔力を抜き取る。イメージはドレイン系の魔法だな。

 いや、吸血鬼が血をすするようなものだろうか?

 とにかく上手くいったようで、フェザリオがその場で崩れ落ちた。とりあえずこれは無視でいい。


 途切れかけた魔法効果をもう一度繋いで、魔力を注ぎ込んだ。




 ふぅー。何とか一命は取り留めたようだな。

 血は止まったし、ちゃんと息をしているのがわかる。


 ほっと一息付いてみんなの様子を窺うと、ブレンダによってレイシアが抱き起こされていた。


 ふむ、改めて思い返すとフェザリオの最大魔力は、レイシアよりも少なかった気がする。

 おちこぼれって言われていたレイシアの方が、断然優秀じゃないのか? 優秀というのは違うかもしれないが、劣っているとは思えないな。

 あえて言うならちょっと出来が悪いだけ? そんな感じだろう。


 そう考えると、フェザリオの方が落ちこぼれっぽいな。


 たぶん強引に魔力を奪うことが出来たのも、フェザリオの魔法抵抗みたいなものが低かったせいだろう。

 まあその点はいい実験になって得したところだな。


 こういうのも怪我の功名って言うのかね~

 そんな不謹慎な事を考えていると、今更ながらに戦士のランドルがやって来るのが見えた。




 「キュル、キュルウ(お前も魔力よこせ)」


 結局役に立たなかったランドルからも魔力を少量抜き取り、気を失ったレイシアへと分け与えておこう。

 確か授業で魔力が枯渇すると、深い眠りに就くって言っていた。逆を言えば、魔力を注入しておけば時期に目を覚ますって事だろう。


 ランドルはちょっとふらついただけで特に問題なし。レイシアも魔力を分けたおかげで直ぐ目を覚ましたようだった。


 フェザリオはもう、完全に役立たずの足手まといだから、レイシアの魔力ポットとしか扱わない事に決めた。

 何が神官で自衛も出来るだ!

 本職である回復すらまともに使えないようでは、まるっきり戦力にならないじゃないか。


 怒りに反応したのか僕の全身から炎が荒れ狂ったように吹き荒れた。

 自分で自分の生態にびっくりしたよ!




 ――――――



 初めての冒険、初めての依頼・・・・・・By レイシア&ブレンダ




 「なんだかせっかく冒険に来たのに、違う冒険が始まっていたわ! しかもせっかくの初戦闘があったのに、私の出番が無かった! やり直しを要求します!

 「あなたは何を馬鹿な事を言っているのよ」

 「だって! 私だって活躍したかったよー」

 「そもそも油断して全員奇襲を許したんだから、頑張って活躍したバグ以外は要反省よ。バグはまあ仲間だけれど召喚獣扱いだからミスって程でもないし、きっちりその後のフォローもしたからお咎めなしね」

 「私バグの召喚主だから、私の手柄でもあるんじゃない?」

 「確かにそう言えるかもしれないけれど、言いたくないわね」

 「え~~」


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