63 戦場の転職神殿 4
最初にベリオス将軍を案内したのは、転職神殿に併設されている訓練所だった。
訓練所では、今日も魔族と帝国軍人が合同で訓練をしている。私たちには見慣れた光景だが、ベリオス将軍は、驚愕している。
「な・・・何だこれは?」
「ベリオス将軍よ。どうだ?一般部隊の練度も上がっているだろう?」
「それは認めます。上級騎士クラスの戦闘力を持った者も多くいます。しかし、問題はそこではなく、魔族と・・・」
アルベールが私に目配せをしてきた。
説明してやれということだろう。
「ここで訓練をしているのは、転職者たちです。転職者に種族は関係ありません」
「詭弁だ。魔族が転職できるわけがない。嘘を申すな」
「普通に転職できますよ」
「そんな馬鹿な・・・」
ベリオス将軍はお付きの者に言って、鑑定をさせていた。
「間違いありません。魔族もジョブを持っています」
「なぜだ・・・」
シバレウス皇子が言う。
「こちらのエクレア殿は「上級転職神官」で、魔族はおろか、上級職への転職も可能なのだ」
驚きの表情を浮かべて、ベリオス将軍が私を見る。
正確には、魔族と上級職にしか転職させられないんだけどね。
「ベリオス将軍も、ここに来る途中に工事現場で働く者や商人の真似事をする兵士たちを見たであろう?実は部隊の編成替えを行ってな。工兵部隊と諜報部隊を新たに編成したのだ。この駐屯地の発展を見ろ。これだけでも、成果があったと言えるだろう。貴殿からも、皇帝陛下に言ってくれないか?「ボンクラ皇子なりに頑張っている」とな」
ベリオス将軍は、絶句する。
そこに訓練所の指導者をしてくれているフェルナンド王子が現れた。
「どうした、アルベール?いっぱいお供を連れて」
「訓練の視察に参りました」
「そうか。だったら丁度いい。今日は集団戦闘訓練を行うから、見ていってくれ」
「ありがとうございます」
アルベールが言う。
「シバレウス皇子、ベリオス将軍、折角だから集団戦闘訓練を見ていかないか?」
「折角だ。見せてもらおう。ベリオス将軍はどうする?」
「お供します・・・」
私たちは、フェルナンド王子と訓練員と共にある場所に向かった。
★★★
「な、何だこれは・・・こんな砦があるなんて聞いてないぞ!!」
ベリオス将軍が叫ぶ。
私たちがやって来たのは、獣人の里を守る砦だった。
そんなベリオス将軍を無視し、フェルナンド王子が訓練の指示をする。
「A班は攻撃、B班は守備隊として、砦に配置しろ!!」
「「「はい!!」」」
「訓練開始は30分後だ。アルベール、我らは砦に移動しよう。訓練がしっかり見えるからな」
因みにA班もB班も魔族と人間の混成部隊だ。
砦の中に入るとベリオス将軍が、また驚きの声を上げる。
「この武器はなんだ?こんことはあり得ない・・・バリスタにカタパルト、我が軍の物よりも、格段に性能が良さそうだ・・・」
フェルナンド王子が言う。
「心配しなくても、この武器は訓練では使わん。今回の訓練は、潜入部隊の工作が成功して、武器を使えなくしたという設定だからな」
ベリオス将軍が小声で呟く。
「この砦に侵入して、武器をすべて壊せる部隊なんかいるわけがないだろ・・・」
これを聞いていたフェルナンド王子が言う。
「いや、可能だぞ。訓練では何度か成功している。流石に全部壊すのは難しいがな」
「で、できるのか・・・」
訓練が始まる。
気迫に溢れるいい訓練だった。守備側が攻撃側を撃退したところで、訓練は終了となった。
「防衛に成功したB班は訓練終了だ。失敗したA班は、居残り特訓だ」
「「「はい!!」」」
ベリオス将軍が「まだ、訓練させるのか・・・」と呟いていたが、無視されていた。
ベリオス将軍がアルベールに問いかける。
「このような砦を我らに見せてもよかったのでしょうか?」
「問題はない。その理由を説明してやろう」
アルベールは、砦で作業していたドワーフのドワンゴさんに声を掛け、説明をするように指示していた。
「この砦は試作品だからな。いろいろと後から建て増ししたから、ちょっと性能が落ちるな。新たな砦建設のため、フェルナンド王子に協力してもらって、データを集めているのだ」
「そんなことが・・・」
帰り道、ベリオス将軍とその従者たちが、何やら話しているのが聞こえてきた。
「将軍、無理です。こんなの帝国軍の総力を上げても攻め落とせるかどうか・・・」
「帰還して、作戦の変更を進言しましょう」
「今なら間に合います。だって魔族は何も気付いてなさそうですし・・・」
「どんな事があっても命令は命令だ。お前たちには迷惑は掛けん。我に考えがある」
嫌な予感がする。
そして、その予感は当たることになった。
訓練所に帰還した時、ベリオス将軍はフェルナンド王子に決闘を申し込んだ。
「貴殿がこの中で、一番の強者と見受けられる。我と決闘してもらいたい」
「決闘?まあいい。とりあえず、立ち合えばよいのだな?」
「では、参る!!」
ベリオス将軍は、木剣ではなく真剣でフェルナンド王子に斬り掛かった。
しかし、フェルナンド王子は軽く受け流す。尚もベリオス将軍は、斬り掛かるが相手にならない。大人と子供ほどの実力差がある。決闘というよりは、フェルナンド王子に稽古をつけてもらっているように思えてしまう。
決闘を見ていたマートンが言う。
「なぜ、ベリオス将軍は決闘なんて申し込んだんろうか?ベリオス将軍ほどの剣士であれば、フェルナンド先生に勝てないことくらいは分かるのに・・・ま、まさか・・・」
シバレウス皇子が言う。
「ベリオス将軍は死のうとしているのだ。自分の死を持って、戦争を起こさせようとな。ここで将軍が死ねば、帝国は、魔族に暗殺されたと喧伝するのだろう・・・」
「だったら、止めないと・・・」
アルベールが言う。
「兄上を舐めてもらっては困る。あの程度の相手であれば、そんなことはせんよ」
ボロボロになったベリオス将軍は、立ち上がり、今までにないくらいに魔力を高めていた。
「勝てないことは分かっている。だが、我の最高奥儀をもってすれば・・・クロススラッシュ!!」
十字の斬撃がフェルナンド王子を襲う。
フェルナンド王子は、軽く受け流し、ベリオス将軍の剣を叩き落とし、喉元に剣を突き付けた。
「これも通じないのか・・・本気にもさせられないとはな・・・」
ベリオス将軍はうなだれる。
「貴殿は、なかなかの才能を持っている。だが、修行が足りんな。見たところ、弱い相手とばかり戦っていたのだろう?もっと強い相手と戦わなければ、これ以上の成長は望めんぞ」
「我はもっと強くなれるのですか?」
「そうだな。きちんと修行すれば強くなれるぞ。それと転職でも、してみたらどうだ?成長が早くなるからな」
「そうですか・・・後10年早く、貴殿に出会っていれば、我の人生も変わっていたかもしれませんな」
私は、失礼だとは思ったが、会話に入った。
「ベリオス将軍、貴方はもっと強くなれますよ。現在は「上級剣士」ですが、「剣聖」の適職がありますね。ただ、熟練度が足りないので、すぐに転職はできませんが、努力を続ければ、きっとなれます」
「我が「剣聖」だと!?」
場が騒然となった。
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