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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
最終章

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62 戦場の転職神殿 3

 駐屯地はどんどんと発展していく。

 最近では、帝国軍の関係者以外の者も多く訪れるようになった。新しく転職神殿ができて、指導も充実しているとの噂が広がったからだ。


 そのような状況なので、ランカスター転職神殿支部として、正式に開業することが決定した。

 こちらの支部長には、ザクサスという40代の転職神官が就任することになった。ザクサスは帝国出身で、長年転職神殿本部に務めていた。しかし、無理やり転職者を戦闘職のジョブに転職させる強制転職に異議を申し立てたことから、冷遇されていた。

 それで、多くの転職神官を引き連れて、ランカスター転職神殿本部に移籍したのだった。


「強制転職に反対し、冷遇され続けた私が支部長になるとは、びっくりですよ。それに今度は、強制転職させられた転職者を元のジョブや希望するジョブに転職させることがメイン業務になる・・・運命的なものを感じざるを得ませんね」


「正しい行いを神様が見ていてくれたのかもしれませんね」


「だったら、頑張らないといけませんね。ランカスター転職神殿本部に移籍して、本当によかったと思います。ランカスター転職神殿本部は、転職者だけでなく、転職神官の人生も変えてくれました。本当にありがとうございます」


 そう言うとザクサス神官は、仕事に戻って行った。

 立ち去るザクサス神官を見ながら、アルベールが言う。


「あのような神官が冷遇されていた転職神殿本部には、腹が立つ」

「私もそう思います」

「だったら、ちょっと仕返しをしてやろう。俺に考えがある」

「聞くだけは聞きますが・・・」


 アルベールの作戦を聞いて、ちょっと驚いた。


「別に悪いことをするわけではない。相手の気分は悪くなるだろうがな」



 ★★★


 アルベールの作戦は、大々的に支部の開所式を行うことだった。

 別に私たちランカスター転職神殿本部が何をしようと、帝国や転職神殿本部には関係はない。それにザクサス神官以下の支部で勤務する神官たちは、大喜びだしね。


「分かりました。許可しましょう」

「では、来賓に声を掛けよう」


 アルベールが向かったのは、シバレウス皇子の天幕だった。


「シバレウス皇子、今日は招待状を持って来たぞ。もちろん出席してくれるな?」

「もちろんだ。マートンや希望者には全員声を掛けるが、神殿に入りきらないかもしれんぞ」

「それは心配ない。式典は外で行う」

「分かった。こちらからも、要望がある。この件を利用させてもらえないか?」


 シバレウス皇子が説明を始める。


「面白いな。だがいいのか?」

「心配には及ばん。これくらいの恩返しはさせてくれ」


 アルベールもシバレウス皇子も悪い顔になっている。

 どうやら、二人はかなり仲が良いみたいだ。


 ★★★


 開所式まで、2週間を切った。

 私とアルベールは、シバレウス皇子の天幕を訪れていた。

 天幕からは怒号が聞こえてくる。


「殿下!!一体何を考えているのですか!?この作戦の意味を理解していないのですか!?」

「作戦も何も、強い帝国軍を作るための大規模演習であろう?」

「それは表向きの目的であって、本当の目的は・・・」

「命令書に書いてないことは分からん。何たって、我はボンクラ皇子だからな」


 天幕の外で待っていると、護衛騎士のマートンが声を掛けてくれた。


「殿下、大聖女殿とアルベール王子がお越しです」

「通してくれ」


 天幕に入ると、シバレウス皇子が怒鳴っていた男が、驚きの表情を浮かべて私たちを見てきた。


「ま、魔族の王子だと・・・それに大聖女・・・」


 驚いている男にシバレウス皇子が言う。


「ベリオス将軍、紹介しよう。大聖女のエクレア殿と魔王国次期魔王のアルベール王子だ。こちらで演習をしていたら、偶然再会をしてな。それ以来、懇意にしておるのだ」

「し、しかし・・・魔族で、敵国の・・・」

「敵国?魔王国と我が帝国は、不可侵条約を結んでいるはずだが?何か戦争をする予定でもあるのか?」


 シバレウス皇子は、ベリオス将軍を完全におちょくっている。

 これにアルベールも乗っかる。


「戦争とは物騒だな。シバレウス皇子、まさか、不可侵条約を破って侵攻してくるのでは、あるまいな?」

「それはない。そうだな?ベリオス将軍」

「そ、それはそうですが・・・」


 この場で、実は大規模演習を建前に魔族を挑発して、戦争を誘発するとは言えないしね。


「分かりました。殿下はそういう考えなのですね。ではこちらにも考えがあります。皇帝陛下に殿下の総司令官の解任を進言いたします」


 マートンが言う。


「それはあまりにも失礼ではありませんか?殿下は十分な成果を上げておられます」

「何が成果だ。見たところ、演習はしておらんようだし、どう見ても戦力が低下している。演習の指揮官としては失格だ」


 シバレウス皇子が、悪い笑みを浮かべながら言う。


「ほう・・・だったら、演習の成果を見せてやろう。マートン、相手をしてやれ」

「御意!!」


 シバレウス皇子はマートンとベリオス将軍の模擬戦を指示した。

 二人が外に出て、武器を構える。そこには多くの野次馬がやって来た。


「おい!!マートンさんが模擬戦をするらしいぞ」

「相手は・・・まさかベリオス将軍?」

「「上級剣士」のベリオス将軍か・・・流石にマートン様でも厳しいんじゃないのか?」


 ベリオス将軍は、帝国でも一、二を争う剣士らしい。


「殿下、我がマートンごときに負けるとお思いですか?」

「ベリオス将軍、マートンに勝てれば、我は大人しく総司令官の座を降りよう」

「その言葉、二言はありませんな?マートン、掛かって来い!!」


 ベリオス将軍は、かなりの腕前だった。

 流石は上級剣士といったところだ。見た感じ、「赤い稲妻」のラドウィックよりも、実力は上だろう。一方的にマートンを斬りつけている。


「どうした、マートン?手も足も出んか?」


 マートンは不敵に笑う。


「いやあ・・・帝国最強のベリオス将軍も、この地では、中の上程度の実力しかありませんね。ちょっと失望しました」

「なんだと!?」


 マートンは大楯で、ベリオス将軍の全ての攻撃を受け止め、そのままの勢いで、吹っ飛ばした。


「シールドバッシュ!!」


 ベリオス将軍は、驚愕の表情を浮かべる。


「油断したわ!!」


 ベリオス将軍が向かって行くが、結果は同じだった。

 何度も何度も、マートンに吹っ飛ばされる。そして、ついにベリオス将軍は立てなくなった。


「な、なぜだ・・・」


 シバレウス皇子が言う。


「マートン、もうよい。ベリオス将軍よ、これでも演習の成果は上がっていないと言うか?」

「そ、それは・・・だが、なぜマートンがここまで強くなっているのですか?」

「それは転職したからに決まっているであろう。それも上級職の「剛力王」にな」


 ベリオス将軍は絶句する。


「まだ演習の成果に納得していないようだな?少し、案内してやろう」


 ふとアルベールを見ると、悪い顔をしていた。

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