51 魔王選決着
王都に到着した。
途中、大量の挑戦者がやって来たこと以外は順調な旅だった。当初は面倒に思えたのだが、オーガの族長であるオーガルが「挑戦料を取って、儲けましょう」と言い出してからは、逆にお客様扱いをするようになった。それにゴブキチなんかは、のぼり旗なんかを作って、積極的に宣伝していたしね。
王都に到着した辺りから、アルベールの緊張感が伝わって来る。
話に聞く限りでは、フェルナンド王子は相当な剣士らしく、かなり強くなったアルベールでも勝つのが難しい実力らしい。
最後の最後まで、私とアルベールは打ち合わせを行う。
「とにかく安全策を取って、上手く立ち回ることですね」
「そうだな。初見殺しのスキルを使い続けて、目先を変える。ただそれで勝てるかどうか・・・」
「最後は気持ちです。それにもし負けるようなことがあっても、アルベールさんが立派な「魔勇者」であることには変わりありません」
「エクレア殿に恥じない戦いをする」
本当のことを言うと、アルベールに教えることはもうない。
でも、何となく離れたくなくて、何かと理由をつけて、師匠と弟子の関係を続けているのだ。なかなか子離れができない親の心境だろう・・・
でも、けじめはつけないとね。
同行者はというと、呑気だった。
「どっちが勝つと思う?俺はフェルナンドに賭けるぜ」
「おい!!アルベールを応援しようぜ」
「ソフィア王女の魔法も凄いんだぞ。弱った三人なら、俺でも勝てるかもな」
賭けまでしようとしている。
そして、私たちはどんどんと王城に向かって進む。それでも二人は現れなかった。
「それにしても、フェルナンド王子とソフィア王女は来ませんね・・・」
「もしかしたら、王城の訓練所を使うのかもしれん。一番効率的だからな。王城に入った時点で、挑戦状を叩き付けてくるかもしれん」
ゴブキチも会話に入って来る。
「挑戦料はどうする?ちょっと割高にしても王子だから、払ってくれるんじゃないか?」
「兄上も姉上も、金はあるだけ使ってしまう。期待はしないほうがいい。それにしても、ゴブキチ殿には礼を言う。俺をリラックスさせるために冗談を言ってくれるなんてな・・・」
多分、ゴブキチの場合は素だろう。
この時はゴブコも何も言わなかった。気を遣っているみたいだ。
王城に入る。
それでも二人は来なかった。
「謁見の間にいるのかもしれない。父上の前で俺を倒せば、話が早いからな・・・」
謁見の間に到着する。
既に魔人族の傘下の族長たちが勢揃いしていた。しかし、二人はいなかった。
私たちが謁見の間に入って、しばらくして魔王様がやって来た。魔王様が周囲を確認する。
最初にカール王子に挨拶をする。
「遠いところから、わざわざ来てくれて感謝する」
「友好国として当然のことです」
その後、玉座に座り時間まで待つようだった。
魔王選の終了時間が後30分に迫ったところで、魔王様が声を上げる。
「魔人族の族長!!前に出ろ!!フェルナンドはどうしたのだ?」
怯え切った魔人族の族長が言う。
「そ、それが・・・フェルナンド王子は・・・」
「どうした?我の親書を届けたのだろ?」
「届けるには届けたのですが・・・」
しどろもどろになりながら、魔人族の族長は答えたのだが、一同が騒然となる。
私も開いた口が塞がらなかった。
魔人族の族長が言うには、親書を携えて、修行中のフェルナンド王子を訪ねたそうだ。その親書も魔王選の決着が近いから、早く戻って来いとの内容だ。以下が魔人族の族長とフェルナンド王子がした会話になる。
『フェルナンド殿下、修行を切り上げて、すぐに戻るようにとのことです』
『うるさい!!俺はもうすぐ、奥義を極められそうなんだ』
『それでは魔王選に間に合いません。そもそも殿下は何のために修行しているのですか?魔王選のためではないのですか?』
『そんなの強くなるために決まっている。俺は忙しい。もう帰れ』
『親書はお渡ししましたからね』
脳筋過ぎる・・・
フェルナンド王子は、なぜ自分が修行しているのか、分からなくなってしまったようだ。
流石の魔王様も答えに窮する。
「もうよい・・・あの馬鹿息子が・・・時間までに来なければ、フェルナンドは辞退したとみなす。ところで、大臣。ソフィアはどうしたのだ?」
「そ、それが・・・ここ最近お顔を見ておりません」
「あの馬鹿娘!!もういい!!ソフィアも時間までに来なければ、失格だ」
何とも言えない雰囲気の中、決着の時を迎えた。
「二人は来なかったな・・・それでは、次期魔王を発表する。一番支持を集めたのはアルベールだ。よって、次期魔王はアルベールとする」
歓声が上がる。
少し拍子抜けだけど、結果的には良かった。アルベールが仕切りにお礼を言ってくる。
「これもすべて、エクレア殿のお蔭だ。あの時、「魔勇者」に転職させてもらえなければ、今の俺はなかっただろう。これからも、俺を指導してほしい」
「この結果は、アルベールさんが頑張った結果ですよ。それと、もうアルベールさんに教えることはありません・・・」
「そんなことはない。まだまだ足りないところは多くある。この通りだ・・・頼む」
私はこの魔王選の結果がどうであれ、アルベールの指導は終了しようと思っていた。しかし、自分の中では、まだ終らせたくないという気持ちもあった。私はアルベールに頼まれているのだからと言い訳して、こう言った。
「そこまで言われるなら、あと少し、ご指導いたします」
そんな話をしているところで、皇帝は言った。
「アルベールよ。すぐに魔王を譲るわけではない。まだまだ至らぬ所もあるだろう。魔王となるその日まで、日々の研鑽に務めよ」
「はい!!」
「それで、次期魔王となった褒美をやろう。何がよい?」
少し考えてアルベールは言った。
「母上の王妃復帰を望みます。そして母上の名誉の回復も・・・」
「そんなことでよいのか?それはお前の本心か?それともシャリーンに頼まれたのか?」
「私の本心です。それに母上とはお会いしたこともありません」
魔王様は頭を抱える。
そして、シャタンさんに話し掛ける。
「シャリーン、話していなかったのか?」
「だって、そういう約束じゃない?」
「それはそうだが・・・それでもこっそりと・・・」
「魔王が曖昧な指示をしてはいけないわ。まあ、これからはアルベールの母と名乗ることにするわ」
アルベールはパニックになっている。
「えっ!!シャタンが母上・・・そんな・・・」
覆面を取ったシャタンさんが言う。
「貴方の理想の母親像が高すぎて、名乗り出れなくてごめんね。これからもよろしくね」
アルベールは戸惑いながらだが、シャタンさんを抱きしめた。
そんな時だ。
覆面姿のフィリアさんが突然、謁見の間に現れた。
「やったあ!!成功よ!!」
一体何を成功したんだ?それに今日、ここで何が行われているか知っているんだろうか?
魔王様がフィリアさんに怒鳴る。
「この馬鹿娘が!!」
馬鹿娘?
一体どういうことだろうか?
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