43 街道整備
みんなが街道整備について盛り上がっている中、カール王子が苦言を呈する。
「そう簡単にはいかないぞ。これは国と国との問題になるし、国境も決めないといけない。こちらは僕の独断で決められない案件だし、そっちだって、魔王の意向を聞かないといけないだろ?」
アルベールが答える。
「こちらは必要ないぞ。国境がどうのと、そんな細かい事まで魔王様は関知せん。領主同士で勝手に決めればいい案件だ。因みにここの領主は俺だから、俺がいいと言ったらそれでお仕舞いだ」
魔族は人間の国と違い、国境にあまりこだわらない。
「そ、そうなのか・・・というか、お前も領主だったのか?だったら、僕がお前に勝っているのは、勇者歴だけじゃないか・・・」
ザバスさんが言う。
「とりあえず、今の状況を国王陛下にお伝えすれば、承認いただけると思います。それと国境についてですが、街道をまず作り、その真ん中を国境にするというのは、どうでしょうか?」
「こちらはそれで構わん」
商業ギルドのギルマスが、話に入ってくる。
「どうせなら、国境にも宿場町を作りましょう。これは忙しくなりますよ。私はこれで失礼します。すぐに旧ランカスター転職神殿に行って、土地を買い占めないとね」
そう言うと、ギルマスは去って行った。
冒険者ギルドのギルマスとテイマーギルドのギルマスも続く。
「冒険者も護衛依頼が増えるから、その段取りがあるから、俺も帰るわ」
「こちらも、街道建設や資材搬送などで、多くのテイマーが必要になるでしょうから、その手続きがありますので、失礼させていただきます」
二人も去って行く。
取り残された感じになった薬師ギルドのギルマスと鍛冶ギルドのギルマスも続く。
「熟成中の薬品をそのままにして来たから、私も帰るわね」
「特に何もないが、難しい話は苦手だし、みんな帰るなら俺も帰る」
こうして、ギルマスたちは誰もいなくなった。
ザバスさんが言う。
「自由で好き放題のあの人たちが、きちんと指導者をしていたことを考えるとランカスター転職神殿が、「奇跡の転職神殿」と呼ばれていたのも納得です。どんな魔法を使ったのでしょうか・・・」
お祖父様はどうかは分からないが、私は特に何もしていない。
ホープタウンの環境が良かっただけだと思うけどね。
その後だが、正式に書面を交わすことになった。
街道の整備は双方から同額出資し、国境も街道の中間地点を基準にすることに決定する。関税については、当面の間は双方ともに掛けないことになった。
★★★
ホープタウンには多くの人族がやって来るようになった。
目的は様々で、新しい商機を求めた商人やその護衛の冒険者など、多岐に渡る。そして、我が転職神殿にも多くの転職者がやって来た。
彼らのほとんどが上級職への転職希望者で、名の知れた武人や錬金術師も多くやって来る。
「お父様、上級職へ転職者の研修はどうしましょうか?そんな経験なんてありませんし・・・」
「私としては、必要ないと思っているよ。上級職になってもすぐに能力を開花できないことだけを指導すればいい。戦闘職の者には、一度は訓練所で腕試しすることを勧めれば、直に気付くだろうし・・・」
それはそうだ。
ランカスター転職神殿が転職者の研修に力を入れていたのも、調子に乗って命を落とす者を減らすためだ。上級職への転職者はそれなりに腕があるだろうし、訓練所にはオーガラを筆頭にした猛者揃いだから、すぐに修行の大切さに気付くだろうしね。
また生産職の転職者については、ほとんどが各ギルドの推薦者だから、こちらが指導をお願いするまでもない。
「こちらとしては、今までどおり、初めての転職者の研修に力を入れていけばいいと思う。人族の一般転職と相談業務は私とショコラがするから、エクレアは上級者の転職、それとアルベール殿下の指導をメインの業務にするといい」
「分かりました。そうしますね」
転職神殿も大きくなり、スタッフも増えたので、神殿全体の仕事量は増えたが、私の業務は以前と同じ水準だ。これもお父様を筆頭にスタッフたちが効率よく運用してくれているお陰だ。
★★★
街道整備はというと、かなり順調だった。
特に大活躍なのが、オーガたちだ。大半がオーガワーカーという力だけが強くなるジョブ持ちが中心となり、街道整備に取り組んでいる。彼らは力もタフネスもあり、護衛がいらないことも重宝されている要因だ。
ある冒険者が言う。
「護衛している俺たちよりも強いなんて、笑えない冗談ですよ」
そうは言っても、行き来する商人たちの護衛に冒険者は必須だ。
また、テイマーたちもフル稼働だ。
特にミロスはドラゴンを使って多くの資材を運んでいる。ミラの陰に隠れてはいるが、ミロスもそのドラゴンたちも優秀なのだ。
そんなこともあり、予定よりも大幅に早く街道は開通した。
現在は、街道の中間地点に急ピッチで宿場町を建設中だ。
そんな時、アルベールから相談を受けた。
「父上が視察に来られる。それに合わせて、ホーリスタ王国の国王もやって来て、王同士で不可侵条約を結ぶ手筈になっている。それで俺は、視察の日程調整や会談の進行など、すべてを任されているのだ」
「それはよかったですね。この会談が上手くいけば、魔王に一歩近付けますね。それにしては浮かない顔ですが・・・」
「父上はまだいいのだ。だが、側近の馬鹿どもときたら・・・」
アルベールが言うには、魔王の側近は脳筋集団らしく、行く先々でトラブルを起こすのだという。
「少し前のオーガたちを思い出してほしい。あれを酷くした感じだ」
私は少し考えて言う。
「だったら、綿密に計画を立てたほうがいいですね?」
「ああ。それでエクレア殿に相談に来たのだ」
それから、アルベールと魔王視察について、計画を練り始めた。
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