39 ドワーフの里
ドワーフの里への同行者は、かなりの大所帯となった。
私とアルベール、ゴブキチとゴブコに加えて、商会を経営するゴブマさん、ゴブスさんを中心にした職人たち、そしてギルマスたちは全員参加だった。
そして、護衛には冒険者パーティー「赤い稲妻」とミロスとミラのテイマー兄妹が就いてくれた。
薬師ギルドのギルマスのジャミルさんが言う。
「こんな機会はめったにないからね。皆、部下に仕事を押し付けて、参加してるのよ。折角、魔王国に来たんだから、色々見て周りたいしね」
メンバーを見ると、鍛冶ギルドのギルマスであるドグラスさんやゴブスさんを中心とした職人たちは、ドワーフの里が近付くにつれて、次第に緊張でピリピリしているが、他のメンバーは旅行気分だった。
5日程で、ドワーフの里に着いた。
ドワーフの里は、立派な城壁で覆われていた。アルベールが解説してくれる。
「ドワーフ自慢の城壁だ。ホープタウンの城壁も立派だが、この城壁には及ばない。この城壁があるからこそ、他種族からの侵攻をすべて跳ね返しているんだ。くれぐれもこの城壁を馬鹿にしたりはするなよ」
アルベールによると、大昔にオーガがドワーフの里を攻めたことがあったが、返り討ちに遭ったそうだ。
門の前で門番のドワーフにアルベールが事情を説明する。
「事情は分かった。族長の元に案内してやろう。だが、今回も結果は同じだろうがな」
ドワーフたちが嘲笑する。
職人たちの頑張りを知っているだけに私も腹が立ってきた。アルベールが言う。
「笑っていられるのも、今のうちだ。貴殿らは驚くことになるだろう」
「口だけなら、何とでも言える。ついて来い」
私たちを馬鹿にしたドワーフの案内で、族長の館まで案内された。
すぐに族長が出て来た。族長は壮年のドワーフで、族長の前にドグラスさんが歩み出て、頭を下げる。
「お久しぶりです、ドワンゴ師匠。俺の弟子たちが作った自信作を持ってきました」
「久しいな、ドグラスよ。お前が指導したんなら、それなりの物は用意してきたんだろう?」
どうやら、ドグラスさんの師匠というのは族長のことだったみたいだ。
「それどころか、師匠が腰を抜かすほどの物を持ってきましたよ」
早速、ゴブスさんがオリハルコンの大剣を差し出した。
族長はおろか、周りのドワーフたちが絶句する。
「こ、これは・・・」
「師匠、これはゴブリンの職人が作った大剣です。材質は伝説の鉱石オリハルコンです」
「オリハルコンだと!?ありえん・・・それにゴブリンが打ったというのか?」
族長の側近のドワーフが言う。
「み、見かけ倒しかもしれん。試し斬りをしてやろう。おい!!巻き藁を持って来い」
そのドワーフは、大剣を手に巻き藁に斬り掛かる。
軽く振っただけなのに、巻き藁は真っ二つになった。
「信じられん・・・」
ドグラスさんが言う。
「それだけじゃねえよ。ちょっとこれを掛けて、今度は軽く突いてみな」
ドグラスさんは、大剣にマジックオイルを振りかけた。
マジックオイルというのは、錬金術師たちが開発した魔法を付与したオイルのことだ。ドグラスさんに言われた通り、そのドワーフは巻き藁を大剣で軽く突き刺した。
巻き藁は激しく燃え上がる。
「どうですか、師匠?こっちのオイルはお手軽に魔法剣にできるオイルです。これも俺たちが開発したんですよ」
族長は言う。
「皆の者、宴だ!!宴を始めるぞ!!弟子が我を越えた。こんな、めでたいことはない。ありったけの酒を持って来い!!」
周りのドワーフたちも騒ぎ出す。
「アルベール殿下、それにゴブリンの職人たちよ。我の負けだ。こんな素晴らしい物は、今のドワーフには作れん。これまでの非礼を詫びる」
「師匠!!頭を上げてください。これは俺たち職人だけじゃできなかった物だ。みんなの協力があって・・・」
「その辺は酒を飲みながら話そう。とりあえず酒だ!!」
「師匠は相変わらずですね・・・」
何とか上手くいったようだが、なし崩し的に宴に突入してしまった。
★★★
宴が始まると、上機嫌のドワーフの族長はドグラスさんやゴブスさんに仕切りに質問をしていた。
「なるほど・・・そちらのスライムのスキルか・・・こりゃあ、ドワーフでも気付かんわけだな」
「そうですよ、師匠。この大剣を作ったのは何も鍛冶師だけじゃないんです。錬金術師やテイマー、町を上げて協力してくれた結果なんですよ」
「我らドワーフも、変わらなければならん時が来たようだな・・・」
他のみんなはというと、それぞれで盛り上がっていた。
ゴブキチなんかは、ドワーフと飲み比べをして、すぐに酔い潰れてしまって、ゴブコに介抱されていたけどね。
そんな中、族長は席を立ち、大声を上げた。
「皆の者!!よく聞け!!儂は今日で族長を退く。後任は息子のドラレフに譲る。これから儂は一職人としてホープタウンで修業を積むことにする」
あれだけ、盛り上がっていた場が静まり返った。
族長の息子さんが声を上げる。
「親父!!ちょっと待ってくれ!!いきなり辞めるとか言われても困るぞ!!」
「儂はもう決めた!!この熱い気持ちは止められん!!」
「年齢を考えろ!!」
アルベールが仲裁に入った。
「ドワンゴ殿、こんな酒の席で決めていいような話ではない。まずは落ち着いて・・・」
言い掛けたところで、遮られる。
「アルベール殿下、これはドワーフの誇りの問題だ。ドワーフは代々、魔王様に就任祝いの武具を献上してきた。魔王の椅子に興味はないが、献上する武具は譲れない。献上する相手が、我々よりもいい武具を作れるなんて、立場がないからな」
「それは、俺を魔王と認めてくれるということか?」
「認めるも何も、答えは決まっておる。あの大剣よりも立派な物を献上してやるから、楽しみにしておいてくれ」
ただドワーフの鼻を明かそうと思って、大剣を持って来ただけなのに、ドワーフ族もアルベールを支持することになってしまった。
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