32 接触
とうとうアバレウス帝国の大部隊と接触する。
メンバーは、私、アルベール、オーガラ、ゴブキチ、ゴブコ、ゴブリンライダーと獣人部隊の精鋭たちだ。
今回は交渉をするためにやって来たので、堂々と正面から待ち受ける。アバレウス帝国の進軍ルートに布陣していたところ、ゴブキチとゴブコ、それにゴブリンライダーたちがアバレウス帝国の斥候部隊3名を拘束して、連行して来た。
斥候部隊にアルベールが警告する。
「ここは魔王国の領土だ。大人しく帰還するのであれば、今回は見逃してやろう。交渉したいことがあれば、日没まではここにいる。帰って上官に伝えろ」
斥候部隊3人はすぐに解放した。
日が傾いた頃、アバレウス帝国部隊約100名がやって来た。
アルベールが敵の指揮官に警告を発する。
「我は魔王国第二王子のアルベールだ。斥候部隊の者にも言ったが、ここは魔王国の領土だ。即刻立ち去れ!!」
相手の指揮官も応じる。
「我はアバレウス帝国第三皇子シバレウスである。この付近で我が国の部隊が、数多く行方不明になっている。我々は捜索に来たのだ」
「捜索にしては物騒だな。こちらは侵略目的としか思えないがな」
「では聞くが、我が国の部隊について、何か知っていることはあるか?」
「知らんな。この森は強力な魔物が跋扈している。大方魔物にでもやられたのではないのか?」
これにはアバレウス帝国の部隊員が声を上げる。
「何が魔物だ!!我らは魔物ごときにやられる部隊ではない」
「白々しい。どうせお前らがやったんだろうが!!」
「仇は取ってやる」
略奪しに来て、全滅したのに図々しい言い分だ。
「くどいぞ。我はそんなことは知らん。とにかく帰れと言っているのだ」
相手の指揮官であるシバレウス皇子は少し考え込む。
「こちらとしても、全面戦争を望んでいるわけではない。だが、捜索をさせてもらいたい。行方不明になった部隊の中には、我が弟もいるのだ。それにここにいる者の中にも身内はいる。どうか捜索の許可をくれないだろうか?」
シバレウス皇子は、話ができる者だった。
これにアルベールも答える。
「捜索は許可できない。とにかくそちらの部隊の数が多すぎる。10名以下の捜索隊であれば、事前に知らせてくれれば、求めには応じよう」
少し考えたシバレウス皇子は言う。
「全面戦争をしたくないのは、お互い様だ。意見が分かれるのは捜索を許可するか、しないかだな?このような場合我が国では、代表者による決闘で決める。もしこちらが勝ったらこのまま捜索をさせてもらいたい。そちらが勝てば、今回は大人しく引き下がり、後日少数の捜索隊を派遣する。どうだ?」
アルベールが考え込んでいると、オーガラ叫ぶ。
「その勝負乗った!!もちろん俺が戦う。相手は誰だ?」
戦闘大好きのオーガラだから仕方ない。
シバレウス皇子は案外優秀なようだ。
こちらの戦力を把握しようという意図があるのだろう。それに乗ってしまった形になってしまった。
「殿下!!我にやらせてください。重装歩兵隊長のマートンに」
フルプレートアーマーに身を包み、大きな楯を持った大柄の男がシバレウス皇子の前に歩み出た。
「うむ、許可しよう」
こうして、訳の分からないまま、決闘が始まってしまった。
★★★
決闘は力と力の勝負となった。
オーガラもマートンと同じく、頑丈な鎧を着こみ、大きな楯を装備している。転職して「オーガガーディアン」となってから、このスタイルになった。
二人の違いを挙げると、それは武器だ。オーガラは巨大な棍棒、マートンが長槍だ。
お互いが攻撃を楯で防ぎ、決定打を与えられない状況が続いている。
「オーガよ。なかなかやるな」
「人間、お前もな」
二人は楽しそうに戦っている。
そして、決着の時が来た。
急にマートンが足がもつれて倒れた。
「くっ!!これは・・・」
アルベールが解説してくれる。
「オーガラ殿の攻撃をマートンが防ぎきっているように見えたかもしれないが、楯を通じてダメージが通り、蓄積されていたのだろう。あのような攻撃を正面から受け止めるなど、考えられん。まあ、オーガラ殿の攻撃をあそこまで受けきったことは褒めるべきではあるがな」
オーガラがマートンに言う。
「どうする?」
「我の負けだ。もっと修行して、出直してくる。再戦させてほしい」
「もちろんだ。楽しみに待っているぞ」
オーガラとマートンは握手をして、お互いに健闘を称え合っていた。
シバレウス皇子が言う。
「こちらの負けだ。約束どおり、撤退する。後日、少数の捜索隊を派遣する」
「こちらもできることがあれば、協力しよう」
こうして、アバレウス帝国の部隊は去って行ったのだった。
アバレウス帝国の部隊が撤退したのを確認して、私たちも帰還することになった。
帰還途中で、獣人部隊の隊員が報告に来た。
「アルベール様、どうもつけられているようです」
「そうか・・・だが、放っておけ。こちらに攻撃はしてこないだろうし、情報が欲しいと思うのは当然だからな。それに折角作った砦も見てもらいたいしな」
アルベールは、魔王国に強力な戦力があると分かれば、迂闊に攻めて来ないと考えている。
あの砦を見たら、今回無理に攻める気はなくなるだろう。
そうして、砦まで差し掛かったところで、アバレウス帝国の密偵は帰還して行った。
「帝国にも話ができる者がいると分かったことは僥倖だな」
「そうですね。アルベールさんの交渉力も見事でしたよ。イレギュラーがあってもしっかりと対応していましたしね」
「エクレア殿にそう言ってもらえると、本当に嬉しいぞ」
「真の「魔勇者」になるために、この調子で頑張りましょうね」
「うむ、これからも頼むぞ」
色々とあったけど、今回も上手くいった。
もしかすると、私は「魔勇者」を育てるためにここに来たのかもしれない。アルベールを育てることが世界平和につながる気がしている。
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