23 再会
謁見の間からすぐにお父様の執務室に案内され、アルベールがお父様を呼んできてくれた。
「リシャール殿、客人だ」
「これはアルベール殿下、私に客人とは珍しいですね」
そう言ってやって来たのは、間違いなくお父様だった。私は気が付くと、お父様に抱き着いていた。
「お父様!!本当に会いたかった。心配したんですよ」
「エクレア・・・どうして、ここに?」
しばらく、再会を喜び合った私たちは、お互いの事情を話始めた。
まずは私から、お祖父様が亡くなり、新しく神殿長になったマロンに実家の転職神殿を追放されたことや、「転職」のスキルが使えるようになり、ゴブリンたちを相手に転職神殿を開いたこと、ゴブミというゴブリンの少女が「ゴブリンプリースト」になったことなどを話した。
少し悲しそうにお父様は言った。
「父上が逝ったか・・・お別れくらいは言いたかったんだけどな。それにマロンがそんなことに・・・私たちは、エクレアもマロンも精一杯愛情を注いでいたつもりだったんだけどな・・・」
「マロンがなぜそんなことをしたのかは分かりません。私としても寝耳に水の出来事でした。でも、そのお陰で今の私があります」
「そうだな。これも神様のお導きかもしれないな」
私もそう思う。
あのまま実家にいれば、「転職」のスキルが使えないまま、欠陥神官として一生を過ごしていたかもしれないしね。
「じゃあ、私の事情を話そう。これはエクレアのジョブに関係することなのだが・・・」
お父様は、私の「転職」スキルが使えないことを心配し、度々転職神殿本部に行って、過去の文献を調べていたそうだ。そんな時、「上級転職神官」の秘密を知ってしまったそうだ。
「過去にも「上級転職神官」は存在した。しかし、その存在はひた隠しにされた。なぜなら、転職神殿やその上部組織であるマーズ教会に不利益をもたらすからだ。そもそも「上級転職神官」は、専門職から上級職に転職させることができるジョブだ。「剣士」の上級職は「上級剣士」だが、どうすれば「剣士」が「上級剣士」になれるか分かるかな?」
「一般的には「剣士」になって、厳しい修行を積めばなれると言われています」
「そうだね。でも「上級転職神官」がスキルを使えば、修行は必要だが、普通に修行を積むよりも早く「上級剣士」になれるようだ」
「それなら、ひた隠しにしてきた理由が分かりません。「上級転職神官」を集めて、専用の転職神殿を開けばよかったのではないでしょうか?」
お父様は、一旦言葉を切った。
アルベールたちを気にしているようだ。
「リシャール殿、遠慮せずに言ってやってくれ」
「分かりました。これは魔族が関係することなんだが、マーズ教会は「魔族はジョブを得られない下等な種族」ということを謳っているよね?」
これは真実だ。
私もそういう風に教えられてきた。
「でも実際は、そうではなかった。それは、魔族は種族自体が専門職のジョブなんだ。ゴブリンで言うと、ゴブリンという種族であり、「ゴブリン」というジョブでもある。魔族は種族ごとに特徴があるよね?」
言われてみればそうだ。
「つまり、魔族が転職するとなると種族は変えられないから、その種族の上級職になる。そうなると私のような普通の「転職神官」では転職させられない。だけど、「上級転職神官」であれば、魔族の転職も可能だ。ここで話を戻すと、魔族が転職できてしまうと「魔族はジョブを得られない下等な種族」という設定が崩壊してしまう。教会としては、非常に都合が悪い」
「そ、そんな・・・魔族と接してみて、クセは強いですが、悪い人たちではありませんし、決して下等な種族でもありません」
「それは私も分かる。実際に接してみてそう思う。ただ、教会としてはそうはいかなかったんだろう」
アルベールが言う。
「魔族の文献にも、大昔にジョブを得られたという記録がある。それはエクレア殿と同じ「上級転職神官」がジョブを授けてくれたのだろう。魔族には転職神官という概念がなかったから、聖女と呼ばれていたようだ」
「つまり、「上級転職神官」のジョブは魔族のためのジョブということでしょうか?」
「そうかもしれないね・・・」
そこからは、お父様と転職談義になってしまった。
こういうところは、私もお父様も根っからの転職神官だと思う。
「なるほど・・・ゴブリンの転職率は9割を超えているのに、オーガは2割以下か・・・」
「そうなんです。理由が分からなくて・・・」
「魔王国の文献によると、やはり上位種と呼ばれる魔族になればなるほど、転職率は低いようだ。その辺に答えがあるのかもしれないな」
「今後は、種族ごとの傾向を統計的にまとめれば面白いかもしれませんね」
「そうだな。論文が書けるくらいの研究テーマだ・・・」
そんな話をしているところで、アルベールが割って入って来た。
「リシャール殿、エクレア殿、仕事熱心なのは分かるが、まずはリシャール殿がここに来た経緯をまず聞いたほうがいいと思うぞ。これからはいつでもそういった話ができるからな」
「そ、そうでした・・・申し訳ありません。お父様、続きをどうぞ」
「私もすまなかったね。こういった話は転職神官同士じゃないとできなかったから、つい楽しくなってしまってね」
そういえば、お祖父様やお父様と一緒にこんな話で、よく盛り上がっていた。少し懐かしくなった。
「その前に少しお茶にしないか?ここからは、少しショッキングな内容になるからね」
お父様がそう言ったところで、シャタンさんがお茶を持ってきてくれた。絶妙のタイミングだった。そこからは、シャタンさんを交えて、アルベールの転職話で盛り上がった。
アルベールが言う。
「シャタン、お前も調子に乗るな。まずは、リシャール殿に経緯を話してもらわなければ、前に進まない」
「申し訳ありません、殿下。でもこういった話は楽しいですからね」
「お前は相変わらずだな・・・」
しばらくして、お父様が真剣な表情になった。
「ではこれから、ここに来た経緯を話すよ」
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