22 魔王選開幕
王都ベルダーに到着した。
王都ベルダーは、大都市と言ってもいいくらいの規模で、出身国ホーリスタ王国の王都に匹敵する。違いと言えば、建築様式と多種多様な魔族が行き交っているところだろう。
魔王選の式典は3日後なので、アルベールが皆をベルダー観光に連れ出してくれた。特に喜んだのは、ゴブマさんだ。アルベールの口利きで、大規模な商会や取引先になりそうな所を中心に案内してくれた。アルベールは「無能王子」、「ポンコツ王子」と揶揄されているが、それでも王子には違いはない。たとえゴブリンであっても紳士的に対応してくれた。
式典までの間は、本当に楽しかった。
美味しい物を食べたり、町を散策したりして、ここに何をしに来たか忘れそうなくらいだった。当日となったので、聞き忘れていた式典の流れを確認した。
「まず、謁見の間に各種族の代表が集められる。それで、ゴブリン族も代表が必要なのだが・・・」
アルベールがゴブキチを見やる。
「お、俺がゴブリンの代表?ちょ、ちょっと待ってくれ。心の準備が・・・強い奴がいっぱい、いるんだよな?」
「ゴブキチ!!何を焦ってるのよ?貴方が魔王選に出る訳じゃないでしょ?ただ、出席すればいいだけなんだからね」
ゴブキチとゴブコのやり取りで、少し話が逸れたが、魔王選に出るには各種族の代表か、王族にしか認められていないそうだ。ゴブリンは、今まで魔王選に参加したことがなかったので、その慣例を知らなくても当然とのことだった。
「別に魔王選の式典に参加しなくても、罰則はない。だが、魔王選に出場しないだけで、その種族は舐められてしまう。新しく魔王になる者に全権を委ねるのと同義だからな。それに俺は、ゴブリンとオーガの代表でもあるからな。是非、出席してほしい」
「ま、まあ・・・そこまで言うなら出てやるよ」
各種族の代表が揃ったところで、現魔王から魔王選の内容が発表されるらしい。ほとんどが力比べみたいなものが多いそうだ。
「過去には、自分の身内を魔王にしたいために、魔法禁止のトーナメント戦を開催したり、逆に魔法のみのトーナメント戦を開催したりしたこともある。そんなことをすれば、将来に禍根を残すことになる。父上は厳しいが、公正な方だ。どの種族にも不利にならないものになるだろう」
私は少し焦った。
「でもそれでは、アルベールさんが覚醒しないまま戦うことになってしまいますよ。確かにアルベールさんは強くなりましたが、まだまだ実力者と戦うのは厳しいかと・・・」
「それは心配しなくていい。魔王選の内容が発表されてから、最低1年の猶予期間がある。その間に修行して、実力をつければいい。だから、これからもエクレア殿、指導を頼む」
「もちろんです」
1年か・・・ギリギリかもしれないな。
そんな話をしながら、私たちは魔王城に向かった。
★★★
魔王城に着くと、すぐに謁見の間に案内された。
謁見の間に各種族の代表者が勢揃いする。全員が揃ったところで、魔王が登場した。現魔王はゲオルグ、アルベールと同じ、黒髪で褐色の肌をした壮年の男性で、自然と発せられるオーラで、尻もちをつきそうになった。ゴブキチなんかは、ずっと震えている。
「皆の者、良く集まってくれた。魔王選に参加する者は我の前に出よ!!」
その声も威圧感があった。
威圧感に負けたのか、ゴブキチは前に出ようとして、ゴブコに止められていた。
魔王の前に代表者が並んだところで、魔王が怪訝な顔をした。
「オーガの代表者はいるか?オーガの代表が見当たらんようだが・・・」
オーガルが歩み出る。
「オーガは魔王選に参加せんのか?」
「もちろん参加します。オーガ及びゴブリンの代表、つまり鬼族の代表は、こちらのアルベール王子殿下です」
場が騒然となる。
獅子族の代表者が驚きの声を上げる。
「オーガラはどうしたのだ?そこの軟弱王子が、あのオーガラよりも強いというのか?」
虎人族の代表者が言う。
「オーガラなど、取るに足らん。それを恐れるなど、ライオスも大したことがないな」
「なんだと!!表に出ろ、タイガード!!」
後で聞いた話だが、獅子族と虎人族はライバル関係にあり、すぐに喧嘩になるそうだ。
第一王子のフェルナンドが一喝する。
「二人ともやめろ!!陛下の御前だ」
「フェルナンド、もうよい。魔王選は強制ではない。誰を代表にしようと一向に構わん。それよりも魔王選の選定方法を発表する」
場が静まり返る。
「次期魔王となる者は、より多くの種族から支持を得た者とする。今のところ、ゴブリンとオーガの支持を集めておるアルベールが一歩リードというところだな。期間は3年、どんな方法で支持を集めてもいいものとする」
場が騒然となった。
早速、獅子族のライオスと虎人族のタイガードが動き出した。
「こうしてはおれん、すぐに領地に戻って、獣人すべての支持を集めなければ」
「なに!!獣人はすべて我を支持するはずだ。ライオスには負けてられん」
二人は、あっという間に謁見の間を後にした。
これに第一王子のフェルナンドも続く。
「父上、我はこれで失礼いたします。すぐに魔人族全体の支持を取り付けて参ります。そしてその後はインプ族と・・・」
こんなんでいいの?
私は魔族ではないけど、魔族の将来が心配になってくる。オーガ族が特別だと思っていたけど、みんな似たり寄ったりだった。
場に残されたのは、私たちとエルフの代表者とドワーフの代表者、そして第一王女のソフィアだった。
エルフの代表者とドワーフの代表者が言う。
「私たちもこれで失礼します。エルフはいつもどおり、余程おかしな魔王でない限り、新しい魔王に従います」
「儂らもじゃ。いつもどおり、相互不干渉で頼む」
エルフの代表者とドワーフの代表者が去って行く。
これも後で聞いた話だが、エルフとドワーフはいつも形だけ、魔王選に参加しているらしい。魔族全体の統治には全く興味がないようだ。
第一王女のソフィアはというと・・・
「全く騒がしいわね。それにアイツらは馬鹿だわ。3年もあるんだから、一番支持を集めている者を直前でボコボコにすればいいだけじゃないの。お父様、私は魔法の研究がありますので、これで失礼しますね」
ソフィアもいなくなり、残ったのは魔王と私たちだけになった。
魔王はため息を吐く。
「まったく・・・自由な奴らばかりだ」
魔王も苦労しているようだ。
「話は変わるが、アルベールよ。そちらの女性が大聖女殿で間違いないのだな?」
「その通りです」
「そうか・・・大聖女殿、歓迎する。ゆっくりして行ってくれ」
「あ、ありがとうございます」
よく分からないが、私のことは報告されていて、一応歓迎はしてくれているようだった。
「それと、アルベールから話を聞いている。リシャールの娘らしいな?今日は父娘水入らずで過ごすといい」
こんなに簡単にお父様と会わせてくれるとは驚きだった。感謝の言葉を伝える。
「大聖女殿、一つ言っておくが、魔王選をこの内容にしたのは、リシャールの助言があったからだ。詳しいことはリシャールから聞くといい。これで魔王選の開催の儀は終了とする。まあ、もう誰もおらんがな・・・」
私はお父様と再会できることに胸が躍った。
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