19 魔勇者誕生
転職神官として、褒められた行為ではないけど、それ以上に私はお父様に会いたかった。
私の生い立ちや追放されてここに来た事情を話すとアルベールは、自分のことのように怒ってくれた。
「なんて酷いことを・・・それでも腐らずに努力してきたエクレア殿は、素晴らしい女性だ。それに比べて俺は・・・」
「アルベールさん、大切なのは過去ではなく、これからですよ。貴方はもう立派な「魔勇者」なんですからね」
「ああ、「魔勇者」としての使命を果たすよ」
因みにアルベールの母のシャタンさんも転職することができた。
ジョブは「魔忍者」で、人間で言う隠密行動に優れたレアジョブの「忍者」だった。
転職が終わり、喜んでいるアルベールに言った。
「事前の説明でも言いましたが、「魔勇者」に転職してすぐは、ステータスがかなり下がります。今まで普通にできたことが、できなかったりします。これは、絶大な力を持つ者への試練だと言われています」
「分かった。どんな試練でも、俺は乗り越えてやる」
気合いは十分だったが、実際はそうはいかなかった。訓練でゴブリンソルジャーたちに軽くあしらわれていた。プライドの高い者なら、ここで修業を投げ出したりするんだけどね。そういえば、私が指導した人間の勇者は、「もう修行やめる!!」とか言って、3日も訓練をサボったからね。
しかし、アルベールはそんなことはなかった。
「まだまだ!!もう一本頼む!!」
「お、おう!!無理するなよ」
訓練の相手をしているゴブリンのほうが、びっくりする程アルベールは気合い十分だった。
★★★
そんな修行の日々を過ごしていたアルベールだったが、ある日相談に来た。
「そろそろ、王都に戻らなくては魔王選に間に合わない。期日までに王都で手続きをしなければ、魔王選への出場資格がなくなるのだ」
「しかし、今のまま修行を中断するのは許可できません。アルベールさん、今が一番大切な時期なんですよ」
「そこを何とか・・・頼む!!」
アルベールが「魔勇者」になったのも、魔王選を勝ちぬいて魔王になるためだし、何とかしてあげたい。
「考えられる方法は、王都を目指しながら修行を続けることですかね・・・それには私が同行して、指導をすればいんでしょうけど、こちらの転職神殿を留守にするわけにも・・・」
そう言ったところで、ゴブミに遮られた。
「大聖女様、行ってあげてください。それにお父様にも会いたいでしょうし。転職神殿のことは、私に任せてください。これでも私は転職神官の端くれですからね」
オーガラも続く。
「ゴブミのことは任せておけ、それと俺も少し頼みたいことがある」
オーガラの頼みとは、魔王選のことだった。
毎回、鬼族の代表としてオーガが魔王選に出場していたのだが、今回はオーガラより強い者はいないので、オーガラに白羽の矢が立ったそうだ。しかし、オーガラは魔王選に興味がないようだ。
「以前の俺なら、強い奴と戦えると思って、喜んで出ただろうが、今は違う。魔王選に出る必要がない。ただ、鬼族から誰も魔王選に出ないとなると鬼族が舐められてしまう。それに形だけ弱い者を出しては、逆効果だ。オーガルからは、何度も出場を打診する書状が届いているんだ。だから、鬼族の代表はアルベールに頼もうと思う。コイツが魔王になれば、オーガやゴブリンを不当に扱うことはしないだろうしな」
「オーガラ殿・・・」
結局、アルベールと同行するのは、私とゴブキチとゴブコになった。
そして、途中でオーガの里に寄って、族長のオーガルにアルベールが鬼族の代表になることを伝えるといったものだった。
★★★
3日後、私たちは王都に旅立った。町の人たちに盛大に見送られた。
道中は、しばしば強力な魔物が襲って来た。ゴブキチが得意気に討伐する。
「ゴブキチの馬鹿!!アンタが倒したら、アルベールさんの訓練にならないじゃないの!!」
「俺とラッシュが強いってとこを見せたかったのに・・・」
ゴブキチとゴブコは相変わらずだった。
アルベールはというと、まだ「魔勇者」として覚醒していないようで、かなり苦労していた。私も熱心に指導する。
「アルベールさん!!力も弱く、魔力もほとんどなくても戦い方を工夫すれば、何とかなります。しっかりと考えて、戦って下さい。この時期にしか学べないことなんですよ」
実際にそうだ。
人間の「勇者」を例にすると、覚醒してしまった勇者は、そこら辺の魔物なら無双できる。最初から力が覚醒しないのは、戦い方を工夫することを学ぶためだと言われている。
「分かった。だったら、ファイヤーボールを目くらましに・・・」
ファイヤーボールで上手く目くらましをしながら、剣で攻撃、最終的には投げナイフで何とか討伐していた。
ゴブキチが言う。
「俺だったら、あっという間に討伐できるのに・・・」
「だ・か・ら、これはアルベールさんの修行だって言っているじゃないの!!本当に馬鹿ね」
ゴブキチがそう思うのも分かる。
オーガラが言うには、ゴブキチもゴブコも魔王選に出場してもいいレベルだそうだ。勝ちぬけるかどうかは分からないけど、いい勝負はできるらしい。
「ではアルベールさん。早速討伐した魔物を解体し、料理をしましょう。こういったことも、「魔勇者」には必要ですからね」
「す、少し、休ませてくれ」
「駄目ですよ。時間が無いんですからね」
「う、うむ・・・」
シャタンが呟く。
「アルベールもいい人に巡り会えたかもしれないわね・・・」
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