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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第二章 魔王選

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18 アルベールの事情

 アルベールを落ち着かせて、事情を聞く。

 アルベールは子供の頃から、魔力が少なく、力もなかったことが原因で、魔王国の第二王子ではあったが、かなり馬鹿にされて育ったようだ。アルベールには腹違いの兄の第一王子と同じく腹違いの姉の第一王女がいるのだが、第一王子は剣技の天才として、第一王女は魔法の天才として頭角を現していたのに対して、アルベールは二人には全く歯が立たず、それが元で不遇な扱いを受けてきたようだ。


 父である現魔王からは無視され、配下の者からは馬鹿にされ、本当に信頼のおける従者はシャタンだけだという。


「アルベールさんが、辛い人生を送ってきたことは十分理解できます。しかし、それで復讐のために「魔勇者」になるのは違う気がします。もっと人のためになるような・・・」


 言い掛けたところで、アルベールに遮られた。


「それは分かっている。だが俺には時間がないんだ!!頼む、転職させてくれ」

「分かりました。まずは、なぜそんなに急いでいるのかを教えて下さい」

「それは魔王選のためだ。魔王選とは、次期魔王を決める戦いだ。もし兄上や姉上が魔王になれば、大変なことになる。兄上たちは、弱小種族など人とも思っていない。ゴブリンもそうだが、弱小種族は、おもちゃにされてしまう。そうなると、母上の出身種族であるインプ族なんか、すぐに使い潰される。俺が不甲斐ないばかりに、母上は城を追い出されるという辱めを受けた。だから、俺が母上の汚名を晴らすんだ」


 情報量が多いので、一旦整理する。

 アルベールは、「魔勇者」特有の転職前の弱小ステータスのため、自分も母親も馬鹿にされてきた。アルベールが復讐と言っていたのは、どうやら自分のためというか、母親のためのようだった。話した感じ、そんなに悪い人には見えない。まっすぐで口下手な人のようだ。


「アルベールさん、お聞きしたいのですが、復讐とは具体的にどのようなことを考えているのでしょうか?」

「それは、俺が魔王になって、弱小種族を馬鹿にしたり、蔑んだりしないような魔王国を作る。そして、母上にも謝罪してもらい、王妃に返り咲いてもらう。そのためには俺が魔王選に勝ちぬいて、魔王になるしかないんだ」


 ゴブミがツッコミを入れる。


「復讐というか、立派な考えのように思いますけど・・・」


 更にオーガラが続く。


「大聖女殿、しばらくここで修業をさせて、コイツの態度を見るのはどうだろうか?俺も転職者だ。チャンスくらいやってもいいと思うが・・・」


 アルベールが驚きの声を上げる。


「なに!?お前!!転職しているのか?」

「そうだ。「オーガガーディアン」だ。転職ということで言えば、俺は先輩だ。ちゃんと敬意を払え」

「クソ!!ここに魔王選のライバルがいるとは・・・」

「魔王選か・・・俺は出ないぞ。もっと大切なものを見付けたからな」


 オーガラはゴブミを見つめ、ゴブミは赤くなる。

 リア充は放っておいて、アルベールに言う。


「アルベールさん、しばらくここに滞在することを認めます。この転職神殿は人手不足ですから、仕事はいくらでもあります。ですので、当面は私について仕事を覚えてください」

「分かった。感謝する」


 こうして、「魔勇者」の適職を持つ、魔王国の王子様アルベールが、ウチの神殿で働くようになってしまった。


 ★★★


 アルベールは優秀だった。

 王子だけあって、しっかりと教育を受けていたようで、子供たちに勉強を教えてくれている。また、魔法も剣もそれなりに使える。無能と呼ばれていたのは、あくまでも魔人族でのことだ。ゴブリンファイターだと1対1ではアルベールには勝てない。勝てるのは、ゴブキチとゴブコくらいだけどね。ただ、オーガラには全く歯が立たない。それでも頑張って向かって行く。


「その実力で魔王を目指すなど、笑い話にもならんぞ」

「まだまだ!!俺は諦めない」


 そんな一生懸命な姿勢に、ゴブリンたちもアルベールを認める。

 訓練後は、一緒に食事に行ったりもしているようだった。


 アルベールの様子を見ていると、木陰からアルベールを見つめる者がいた。シャタンさんだった。


「アルベール・・・立派になったわね・・・」


 私はシャタンさんに声を掛けた。


「アルベールさんは、頑張ってますね」

「エクレア様、ありがとうございます。アルベールが魔王になれなくても、一生懸命な姿が見られただけで、十分です」


 あれ?王子であるアルベールを呼び捨てにしている。


 すると、シャタンさんは覆面を取った。

 女性だった。褐色の肌で、頭に2本の触覚が生えている。多分、インプ族だ。


「私はあの子の母親です。王宮から追放されたとき、どうしてもあの子の側にいたかった私は、覆面をして、従者としてあの子の側にいることを決めたのです。これまで、あの子なりに頑張ってきたのですが、全く結果が出ず、近年は不貞腐れていました。そんなとき、この転職神殿の噂を耳にし、藁をもすがる思いでここに来たのです」


「そうだったんですね」


 この後シャタンさんは、思いもよらないことを話し始めた。


「人間にジョブというものがあるのは、かなり前から知っていました。実際、人間の転職神官にジョブを授けてもらおうとしたのですが、上手くいきませんでした」

「転職神官?」

「そうです。何年か前に魔王国にやって来た者です。彼が言うには、人間の世界では転職神官をしていたとのことで、試してもらったのですが、ジョブを授けることはできませんでした。彼は、『魔族が転職できないことはない。自分に魔族を転職させる技能がないだけだ』と言っていましたよ」


 私は一度、深呼吸をして質問をした。


「その転職神官の名前を教えてもらえますか?」

「リシャールといいます。ただ、捕虜としての身分ですから、王都からは出られませんけど・・・」


 間違いない、お父様だ!!


 私は、言った。あまり、転職神官として相応しくはないことだけど。


「その方に会わせてください。約束していただけるなら、アルベールさんの転職を行います」

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