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実家の転職神殿を追放されたけど、魔族領で大聖女をやっています  作者: 楊楊
第二章 魔王選

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16 新たな神官

 オーガの前族長のオーガラだが、我が転職神殿で働くことになった。

 そうなったのには、訳がある。オーガラは、その戦闘力から、幼少期より戦闘以外の仕事はやった事がなかった。当然、物作りなんかはできないし、仕事といっても荷物運びくらいだ。また、屈強な体格のオーガラにそんな仕事を頼むなんてできないと、ゴブリンたちが怯えてしまったため、仕方なく転職神殿で面倒を見ている。


 面倒を見ていると言っても、ほとんどがゴブミが付きっきりで仕事を教えているから、私がすることは、ほぼないんだけどね。


 オーガラは真面目に働いた。

 オーガの掟で、弱者は強者に絶対服従というのがあるらしい。なので、与えられた仕事は確実にこなしてくれている。ゴブミの評価も高い。


「オーガラさんは、真面目で頼りがいがあります。それに戦闘訓練の指導もしてくれて、本当に助かっています」


 そういえば、最近は神官業務が忙しく、戦闘訓練などの研修に参加できていない。こちらに来て「転職」スキルが使えるようになったのだけど、私は転職業務よりも研修業務のほうが好きだということに気付いた。全然できなかった転職者が、頑張ってスキルを身に付け、成長していくのを見ると、何とも言えない気持ちになる。


 ただ、私以外に転職業務を行える者がいない今、そんなことは言っていられない。私が「転職」スキルを使わないと、転職神殿として成り立たないしね。


「誰か私の代わりに、「転職神官」をできる人がいればいいんだけどね・・・あれ?まさか・・・」


 通り掛かったゴブミを何の気なしに見たのだが、少しオーラのようなものが出ていた。これは「転職神官」の「ジョブ鑑定」のスキル持ちしか分からないもので、転職ができる状態にあるということだ。急いで、「ジョブ鑑定」をしてみた。


 適職  ゴブリンプリースト

 特徴  鬼族(ゴブリン、オーガ、又はその血を引く者)を転職させることができる


 ゴブミが「転職神官」?


 一度深呼吸をして、ゴブミにこのことを伝えた。


「ゴブミ、落ち着いて聞いてね。貴方は転職できるわ。それも「転職神官」にね」



 ゴブミは大喜びで、転職することに決めた。

 このことは町中に広がり、新たな「転職神官」の誕生に町はお祭り騒ぎとなった。そして3日後には、式典が開かれることになった。

 その際の挨拶でゴブミが言った言葉が印象的だった。


「私は生まれつき体が弱く、弓の才能がある姉に迷惑を掛けてばかりでした。エクレア大聖女様がこの町にやって来られ、多くの者にジョブが授けられる中、私は一向にジョブを得ることができませんでした。本当に辛かった。私なんて、無能で価値のないゴブリンだと思うようになりました。しかし、多くの人の支えもあり、たとえジョブが得られなくても前向きに頑張ることに決めました。半ばジョブを得ることを諦めていた私でしたが、本日、「転職神官」というジョブをいただくことができました。これは神様がご褒美を与えてくれたのだと思います」


 そこでゴブミは一旦言葉を切った。


「最後に皆さんにこの言葉をお贈りして、挨拶に代えさせていただきます。

 転職で苦労した人ほど、いいジョブに巡り合えると言われています。だから、神様は最高のタイミングで、最高のジョブを用意してくれているはずです」


 会場から大きな拍手が巻き起こる。

 ゴブコもゴブキチも大泣きしている。私だって泣きそうになった。こんなに多くの人に転職を祝福されるのだから、ゴブミはきっと素晴らしい転職神官になるだろう。



 ★★★


 早速、次の日からゴブミへの指導を始めた。

「ジョブ鑑定」や「転職」スキルの使い方から、転職相談などの業務、そして一番は心構えだ。


「転職で強大な力を手にする転職者もいます。邪悪な転職者であれば、転職させないのも選択肢の一つです。それが良い事なのか、悪い事なのかは分かりません。転職をさせることの重大性を認識して、転職させてください」

「はい!!」

「まあ、始めのうちは、私に相談してよね。転職を断るのは、転職をさせる10倍は苦労するからね」


 これは本当だ。

 実際、実家の転職神殿でも、明かに経歴を偽装した犯罪者や邪な考えを持つ転職者の転職を断ってきた。かなり文句を言われたり、脅されたりしたけどね。でも、その転職がきっかけで、多くの人が不幸になるのは許せない。断るべき者は断る。それは転職神官が背負うべき、宿命なのだ。


 幸い、ここに来てからは、そんな輩はやって来ないんだけどね。


 ★★★


 ゴブミも転職神官として板についてきた。

 もう一人で業務をさせても大丈夫と思えた頃、ゴブミが相談にやって来た。


「実は転職させたい人がいるんです。ただ、その人は真面目なんですが、不器用で、犯罪というか・・・」


 かなり歯切れが悪い。


「とりあえず、連れて来て。一緒に話を聞きましょう」


 そうしてやって来たのは、なんとオーガラだった。

「ジョブ鑑定」のスキルで確認するとオーガラの適職は、「オーガガーディアン」だった。人間にも守護者ガーディアンというジョブがある。タンク職のジョブで、守備力が高く、仲間の楯となるジョブだ。

 元々、魔族トップクラスのタフネスを誇るオーガラが、そんなジョブに転職したら、かなりヤバい戦士が出来上がるのではないかと思ってしまった。


 ここまでオーガラと接してきて、決して悪い人ではないとは思っていたけど・・・

 そういえば、詳しい話は聞いてなかったな。全部ゴブミに任せきりにしていたからね。


「オーガラさん、貴方は「オーガガーディアン」というジョブに転職できます。このジョブは非常に強力なジョブで、大きな力を手にするでしょう。ですので、当転職神殿としましては、邪な気持ちを持ったり、ジョブを悪用しようとする人の転職はお断りしています。質問ですが、なぜ転職を希望されるのですか?」


「俺はここに来るまでは、とにかく強さを求めていた。しかし、今は違う。強さにも種類があることを知った。ゴブリンたちは力は弱い。だが、俺よりも強い部分もある。それに気付かされた。もし「オーガガーディアン」に転職できたら、大切な人を守っていきたい」


 ゴブミが言う。


「私からもお願いします。オーガラさんの気持ちに嘘はないと思います」


 少し考えた私は言う。


「では、オーガラさんの転職は、ゴブミに任せます。転職神官は、転職者の人生を背負うとも言われています。転職で人生が大きく変わりますからね。だからゴブミ、貴方がオーガラさんを信じられるなら、転職をさせてあげなさい」


 ゴブミの表情が明るくなる。


 次の日、オーガ族初となる転職者が誕生した。

 ゴブキチは文句を言っていたけど、ゴブコに窘められていた。ゴブキチの気持ちも分からなくはない。そんな強力な力を持った奴が向かってきたらどうしようと思うからね。


 でも、それは心配ない。

 だって昨日の夜、見てはいけないものを見てしまったからだ。

 食事の後、ゴブミとオーガラが抱き合っていた。


 オーガラの言っていた「守りたい人」って、ゴブミのことだったのね・・・


 ジョブと恋人を手に入れたゴブミは、あっという間にリア充になったのだった。

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― 新着の感想 ―
そりゃ、オーガラも惚れるよね。捕虜なのに普通に接してくれて、転職できてないのに精一杯働いている彼女は正しく聖女だよ……
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