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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第81話 先発

一話投稿します。ここ数日は毎日投稿してましたが、また不定期に戻ります。



「ジルベルト。来てくれてありがとう」


「いや……こちらこそ助かった」



 模擬戦当日、フィーラたちの前に現れたジルベルトを見て、クレメンスが驚きの表情を浮かべた。


「ジルベルト……普通科のお前が模擬戦か?……人が捕まらなくて押し切られたのか? だったら俺が……剣はからきしだが」


 クレメンスが顔色の優れないジルベルトを心配して声をかける。


 クレメンスはジルベルトが強いことを知らない。きっと押し切られて断り切れなかったと思ったのだろう。そして、ジルベルトに迷惑をかけるくらいなら、責任をとって自分が出ようと申し出たのだ。


――クレメンスったら……クレメンスに責任はないのに、剣が扱えなくても代わりに出ようとするなんて……。クレメンスを出すくらいならわたくしかお兄様が出るべきよ。

 

 模擬戦を言い出したのはサミュエルだが、乗ったロイドも同罪だ。さらにいえば、何も考えずにわくわくしていたフィーラにも責はある。


――考えてみれば、王太子であるサミュエルが言い出したお遊びなんて、額面通りに

受け止めては駄目だったのよね。


 当事者であるテッドやエリオット、その場にいたクレメンスたちなどは今回のそのお遊びを一体どのように思ったのだろうか。


――……いえ。でもエリオット様はやる気満々だったわね。テッドもお兄様に鼓舞されてやる気を出していたし。……やだわ。結局一番被害を被っているのはジルベルトじゃない。それに優しいクレメンスも……。



「ああ……いや、大丈夫だ。こちらにも事情があったからむしろ助かっているんだ」


「当日まで言わずにごめんなさい、テッド、クレメンス。実はちょっと事情があって……ジルベルトには不戦敗になってもらおうかと思っているの」


――サミュエルの誘いを断るためとはいえ、ジルベルトは剣に繋がる場所に来ることさえ、嫌がっていた節があったのに……。そのうえ、形だけとはいえ、試合に出てもらうなんてできないわ。


 騎士科を見学しようと誘ったときも、ジルベルトは断った。きっと騎士科に来ることすら躊躇われたからだろう。


 ジルベルトがサミュエルに誘われた経緯は、兄とクリス、エルザと、ジークフリートはすでに知っている。テッドには会う時間がなかったことと、クレメンスにはどう伝えていいか悩んだため、結局当日話すことになってしまった。


「大丈夫! 私とテッドさんで勝つよ。ねっ、テッドさん」


 エルザがテッドに眩しい笑顔を向ける。


「え⁉ あ、はい」


 テッドは困惑しつつも、エルザの言葉に素直に頷き、


「すみません。……テッドさん」


「あ、いえ。大丈夫です!」


 申し訳なさそうに謝るジルベルトに対し、あわてて心配するなと笑顔で請け負う。



――うう。ごめんなさい、テッド……。やっぱりテッドも振り回しちゃっているわよね……。



「……そうか。それでも無理そうだったら、間際でも良いから断れよ。不戦敗でいいなら、俺が出てもいいんだ」


 クレメンスはそう言ってくれるが、こちら側で模擬戦に出ることをサミュエルの誘いを断る口実に使ってしまったのだから、たとえ不戦敗だとしてもジルベルトが出なければだめなのだ。

 


――クレメンスは本当に優しいわ……。精霊に好かれるのもわかるわね。



「ああ。ありがとう」


 クレメンスの心遣いに、ジルベルトが微笑む。ここへ来た当初よりも、心なし表情が柔らかい。


 ジルベルトとクレメンスが顔合わせをしてからそれほど時間は絶っていないが、二人はどうも馬が合うらしい。

 図書館でもよく二人で話をしていて、フィーラやエルザが割って入れないような雰囲気のときすらあるのだ。


「それにしても……貸し切りの割に人が多くないかしら?」


「ああ、それは……。すみませんお嬢様。あの時俺たちの話を聞いていた奴らがいて、話が結構広まってしまったんです。一応、ロイド様に確認をとったのですが……」


 テッドの言葉に、フィーラは驚いてロイドを見つめる。


「仕方ないさ。学生は皆面白そうなことに飢えているんだ。王族が絡んだ模擬戦なんて、恰好の暇つぶしだろうし、貸し切ったとはいえ主催は騎士科とは関係のない僕たちだ。多少の便宜は図らないとあとから文句がでる。これでも人数は制限したんだ」


――まあ、そうよね。自分たちの陣地をよそ者に好き勝手使われるのは面白くないでしょうし……。



「さあ。始めるぞ」



 サミュエルの掛け声に、外野の声が大きくなった。

 

 にやにやとこちらを見ながら仲間同士で身を寄せ合い話をしている者、真剣な顔でじっとこちらを見つめている者、演劇を見る観客のように目を輝かせている者、さまざまだ。



「そちらはテッド・バーク、エルザ・クロフォード、ジルベルト・コアの三名だな。対するこちらは、エリオット・ミュラー、リック・ベケット、アーロン・マクレガーの三名だ」


「戦う順はどうする?」


「もとはといえば、テッドとエリオットを戦わせるための模擬戦だ。それさえ整ったなら、あとの順序は問わない」


「……では、こちらはエルザ、テッド、ジルベルトの順だ」


「わかった。ではこちらはアーロン、エリオット、リックの順でいいだろう。審判は……」


「では僕が」


 ウォルクが手をあげて名乗り出た。



「エル……大丈夫?」


「大丈夫だよ、フィー。この三日間、昔のように剣を振っていたんだ。ジークに付き合ってもらってね」


「え? ジークフリート様に」


――だからジークフリート様、なんだか疲れているように見えたのね……。


「さあ、じゃあ頑張ってくるよ」


 エルザが軽く腕を回し闘技場へと足を踏み入れる。相手はすでに、定位置へとついていた。




「……本当にお前がやるのか?」


「そうだよ? ああ、手は抜かないでよね。騎士たるもの、どんな相手でも全力を出さなければ、でしょ?」


「……」


 アーロンはエルザの言葉には答えない。だが、その表情を見ればあまり乗り気ではないことがわかった。


 アーロンの態度などまったく気にせず、エルザが剣を構えた。



 エルザが剣を握るところを始めてみたが、思ったよりも様になっている。対するアーロンも剣を構えるが、どうみてもやる気がないのが見て取れる。



「では、試合――はじめ」



 ウォルクの試合開始の声と同時に、エルザの足が地面を蹴る。エルザは瞬く間に相手の間合いに踏みこみ、そのまま剣を振りぬいた。



「……っくそ!」


 アーロンはエルザの剣を間一髪避けたが、油断していた分次の動作が遅れた。そこへすかさず、またエルザの一振りが入る。



「ほお。早いな」


 ロイドがわずかに眼を瞠り、感心したようにつぶやいた。ロイドは普段あまり人を褒めることがない。ロイドが褒めるときは本当にそう思ったときだけだ。


「ですね。身が軽い分、素早い」


 苦手な相手だな、と小さくテッドがつぶやいた。


「……まあまあか」


 そういうジークフリートの口元は、しかし見事に緩んでいた。


「エル、すごいわ!」


 ひときわ大きく闘技場に響いたフィーラの声援に、エルザではなくアーロンが反応した。



「……この! 調子に乗りやがって!」


 アーロンはエルザの剣を払いのけ、すぐさま剣をエルザに向かって突き出すが、エルザは軽い身のこなしでそれを避ける。

 そして避けた勢いのままに身を反転させ、アーロンの背中を剣で強かに打ち付けた。

 アーロンはぐうっ、と唸り声をあげその場に膝を突く。



「止め――勝負あり!」



――痛! うう。身体にガードをつけているとはいえ、見ているわたくしのほうが痛いわ……。 



 しばらく茫然と膝をついたままの姿勢でいたアーロンが、拳を振り上げ地面を叩いた。



「……くそ! 背中を狙うなど卑怯だ!」



 どう聞いても負け惜しみにしかならない台詞を、アーロンがエルザに投げつける。



「君、戦場でもそんなこと言うの?」


「ぐっ……!」


 エルザの反撃に、アーロンは何も言い返さずに口をつぐんだ。とっさとはいえ、己が口にしてしまった情けない言葉を恥じたのだろう。



「どうする? 私はもう一度やっても良いよ?」


「……いや。俺の負けだ。……悪かった」


「うん。構わないよ」



 エルザがしゃがみ込んだままのアーロンに手を差し出す。アーロンは一瞬躊躇したあと、諦めたようにエルザの差し出された手を握った。

ええと……しばらくバトル? ぽいのが続きます(描写下手ですが)。一応物語は進行しています。

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