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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第72話 勘違いですわよ?

誤字報告ありがとうございますm(__)m 一話投稿します。



「……やはり普通科や特別クラスとは違うな」


 クレメンスが周囲を見渡してつぶやいた。



 ここにはフィーラたち以外で学生服を着ている者は誰もいない。ここでは学生は皆、騎士服に身を包み剣を腰に差して歩いている。




 授業終了後に騎士科を訪ねたフィーラ、エルザ、ジークフリート、クレメンスの四人は、現在騎士科の受付でテッドを待っていた。


 騎士科の授業は実技が大半なため、教室を訪ねたところでお目当ての人物に会えることは滅多にない。

 そのため、騎士科の学生へ面会する場合は、会いたい学生の名前と訪ねて来た学生の名前を事務員に告げ、呼び出してもらうことになるのだ。


「そうね」


――学園というより、まるで軍の訓練場といった感じだわ。


「騎士科は実技の授業が主だし、そもそもティルフォニア学園以外の学園には騎士科はないからな」


「そうそう。他の国では騎士を目指す者は皆、騎士の養成所に通うんだよ」


 ジークフリートの説明をエルザが補足する。


 教育を施す学園は、ティルフォニア学園以外にも各国に存在する。しかし現状は、あくまでティルフォニア学園が最上であって、ほかの学園はいわば二流という扱いになってしまっている。


――前世でもあったわよね。特に大学なんか、一流大学、二流大学なんて、普通に言っていたもの。


 このティルフォニア学園は、貴賤を問わず各国の優秀な学生を、または学園への多額の寄付をした家の学生を受け入れている。

 しかし、優秀でも金がない者、事情があり国を離れられない者などはティルフォニア学園に入ることは叶わず、自国の学園に入ることになるのだ。


――このティルフォニア学園一点主義は正直どうかと思うけれど、そもそも平民を受け入れている学園がここだけなのだから、学園としての意義はあるのよね。……特待生制度があればなおのこと良かったわね。お金がない平民も入学できるのだから。


「……なあ、向こうからこちらに走ってくるやつがいるが、あれがそうか?」


 クレメンスが指さす方向を見れば、遠くから走ってくる人物が見えた。

 まだ人相の判別が出来る距離ではないが、背が高く、薄茶色の髪をしている。

 おそらくテッドだろう。

 

 その人物はあっという間にフィーラたちのもとに到着してしまった。やはりテッドだ。


「……っ、申し訳、ありません。お待たせしました……」


 ここまで結構な距離があったと思ったのだが、多少息が乱れているだけで、テッドは汗一つかいていない。


「君、足速いね。いいな、戦いのとき有利だね」


 エルザが感心してテッドを褒める。


「えっと、そうですか?」


「そうだな。なかなかのものだ。うちの騎士団でも五指に入る速さだろうな」


 ジークフリートも顎に手を当て感心しているようだ。


「お二人とも、テッドはうちの護衛団の騎士ですからね。あげませんわよ?」


 フィーラがそう言った直後に、テッドが咽た。平気なようにみえたが、やはりあの距離を全速力で走ったことで、体力を消耗していたのかもしれない。


「そうかい? それは残念だ」


 ジークフリートは口ではそういいながら、なぜかテッドを見ながら楽しそうに微笑んでいる。


――まさかヘッドハンティングするつもりではないわよね? まあ、テッドは聖騎士候補になるくらいだもの、国の騎士団にいたら宣伝にはなるでしょうけれど。


 ジークフリートはフォルディオスの王子だ。一応は警戒しておかなければならない。

 メルディア公爵家の優秀な護衛を、他国へと引き抜かれてはたまったものではない。


 エルザは純粋に騎士の技能のひとつとして、テッドの足の速さを褒めているのだろう。

 しかも、聖騎士候補を目指すエルザにとって、テッドは先輩候補にあたるのだ。


――でも、エルは精霊姫候補でもあるし……そういう場合ってどうなるのかしら? 精霊姫候補兼、聖騎士候補? ……もし、エルが精霊姫に選ばれたらどうなるのかしら? 辞退……なんてできないわよね?


 エルザは学園側にはまだ何も言っていないと言っていたし、当の本人にはあまり悩んでいる様子も見られない。

 むしろエルザの代わりにフィーラのほうがなにやら色々と考えてしまっている。


 精霊姫候補から聖騎士候補への変更など、前代未聞のことだろう。そしてもし、本当にエルザが聖騎士候補となり、聖騎士に選ばれる事態になったとしたら――。フィーラはそんなエルザを前に、平常心でいられる自信がなかった。


――そんなことはないと、ジークフリート様もエルも言ってくれたけれど、やっぱり、責任を感じてしまうのよね……。それに……エルが魔と戦うことを想像しただけで、あのときの恐怖が蘇ってくるわ。


 あの時、結局フィーラは気絶してしまったため、聖騎士がどうやって魔と戦ったのか確認していない。

 しかし、魔と対峙したときに感じた恐怖を今度はエルザが味わうかもしれないと思うと、フィーラはエルザの夢を、大手を振って応援することができないでいた。


――……けれど、エルが聖騎士候補になるかどうかはまだ決まっていないわ。わたくしが今から心配していてもしょうがないわね。




「あ――、みなさん、とりあえず場所を移しませんか? ここでは目立ちますので」


 テッドが恐る恐ると言った体で、提案をする。


「そうね。わたくし達しか制服を着ている学生はいないものね」


 しかも騎士科には女性がいない。否応なしにフィーラたちは目立ってしまう。


「ええと、そうですね……」


 テッドはフィーラの言葉に同意はしたが、何やら微妙な顔をしている。ほかにも理由があるのだろうか。


「ねえ、訓練場はだめ? 騎士科の訓練が見たい」

 

 聖騎士候補を目指すエルザにとって、騎士科の訓練を見るのは良い勉強になるだろう。


 もし聖騎士候補と認められれば、騎士科に編入することになるので、下見のつもりなのかもしれない。

 

「えっ、ですが!」


 エルザの言葉にテッドが慌ててフィーラを見る。


――え? わたくし?


「大丈夫だ。こう見えてエルも剣を扱うし、私も護身術程度には嗜んでいる。精霊士もいることだし、いざとなったら彼女を護ることくらいは出来るよ」


 ジークフリートの言った彼女が、おそらくフィーラのことを指しているのだろうことは分かったが、なぜ学園内にある騎士科で危険に巻き込まれる前提で話しているのかがわからない。

 

 フィーラが首をかしげていると、ジークフリートが笑いながら説明してくれた。


「訓練場は結構危険な場所なんだよ。振り払われた剣が飛んでくることもあるし、それに、訓練直後は気が立っている者もいる。もちろん、それで絡んでくるような者は騎士としては当然失格だがね。彼は君の護衛騎士だったんだろう? 君の安全を最優先に考えるなら、やはり安易に賛成はできないだろう」


 ジークフリートの説明に、ようやくフィーラは納得した。同時に、テッドの護衛としての意識の高さに感動した。


――すごいわね、テッド。やっぱり優秀ね。学園に来てまで、わたくしを護ろうとしてくれるなんて……。


「ありがとう、テッド。ちゃんと気を付けて訓練を見学するわ」


「……分かりました。必ず俺の近くにいてください」


「大丈夫。どんな奴が絡んできてもフィーには指一本触れさせないから」


 エルザが笑顔でテッドに確約する。だが、何故かテッドはエルザのその言葉に驚愕している。


「……お嬢様。こちらの方は?」


 突然、テッドの声の響きが変わった。


 顔つきも、人のよさそうなそれとは打って変り、険しいものとなっている。

 

 フィーラは何度かテッドのこの顔をみたことがある。何か、警戒するようなことが起こったときにする顔だ。

 一体何を警戒しているのだろうか。


「わたくしの友人のエルザよ? テッドもこの間中庭で会ったでしょう?」


 フィーラがそういうと、途端にテッドの顔から警戒の色が消えた。


「は?……中庭、ですか」


 テッドはまじまじとエルザを見つめ、あっ、と声をあげた。


 あのとき、エルザは少し遠巻きにしていたし声を発してはいなかったが、テッドはちゃんと思いだしたようだ。

 テッドは顔色を悪くしたかと思うと、頭を下げ、力をなくした声でエルザに謝罪の言葉を告げた。


「……申し訳ありませんでした」

「いや、いいよ。私もだいぶ変わったしね」


 謝罪を受けた側のエルザは、特に気にはしていないらしい。


 エルザとテッド、二人のやり取りを見たジークフリートが噴き出し、


「……まあ、勘違いしてもしょうがないよな」


 クレメンスがテッドを庇う発言をした。

 

 どうやらテッドはエルザを男性だと勘違いしたらしい。


「はは。それはそうだろうな。自分の知らない男が仕えていた家の令嬢を愛称呼びでは、彼が警戒する気持ちもわかる」


 ジークフリートは楽しそうに声をあげて笑っている。リディアスもそうだが、王族は笑い上戸が多いのだろうか。


――意外とサミュエルも笑い上戸だったりして……。



 一度、声をあげて笑うサミュエルを見てみたいものだ。笑い続けるジークフリートを見ながら、フィーラは思った。


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