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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第68話 中庭での遭遇

一話投稿します。誤字報告ありがとうございましたm(__)m



 あの日以来、フィーラはエルザとよく話をするようになった。


 クレメンスやジルベルト以外の、初の女友達といってもよい存在ができたことに、フィーラの気持ちはとても高揚していた。


 話をしてみるとやはり、エルザはしたたかで頭の良い少女だった。たたかれる陰口などフィーラが思っていたとおりまったく気にしてはいないようだ。




「それで……なぜここに全員集まるんだ」


 ジルベルトが本から顔を上げフィーラを見る。


「えっ? ジルベルトに友人を紹介しておこうと思って?」


 フィーラは今、いつも通り昼休みの図書館へ来ている。いつもと違うことと言えば、クレメンスとエルザを連れていることくらいか。


「俺に紹介する必要があるのか?」

「だって、わたくし友人が少ないのよ。せっかくなら皆顔見知りになっておいた方がいいかと思って」

「何だそれ……」


――いえね。やっぱりこの間のミミアさんの事件のようなことがあると、学園での顔見知りは少しでも多い方がいいんじゃないかと思って……。でもエルザ様がいるから、その話は出来ないのよね。


 ご近所付き合いは割と犯罪防止に効果を発揮するのだ。同じ理由で、友人が多いと思われる人物に何かをしようとする人は、あまりいないのではないだろうか。


――とはいえ、決して友人が多いというわけではないのだけれどね。でも、やっぱり友人と賑やかに過ごす学園生活って、良いものだもの。


「ジルベルトにもクレメンスにもいつもお世話になっているもの。大切な友人である二人に仲良くなってもらえればわたくしも嬉しいわ。もちろんエルザ様もよ?」


「まあ、特に断る理由もないな。俺は普通科一学年、ジルベルト・コアだ」


 ジルベルトが率先して自己紹介をする。すると、なぜかエルザが口を開き、一瞬呆けた顔をした。が、すぐにまた口を閉じる。


「俺はクレメンス・ダートリー。精霊士を目指している」

「エルザ・クロフォード。精霊姫候補です」

「ふふふ。わたくしはフィーラ・デル・メルディアよ」

「知っている」


 ジルベルトの言葉とともに、クレメンスとエルザが同時にフィーラを見る。


「……ちょっと混ざりたかったのよ」

 

 高校生の中におばちゃんが混ざってしまったような気恥しさを感じ、フィーラは顔を赤らめた。


「あんた、やっぱり変わってるな」

 クレメンスがどこか呆れたようにいった。


「そんなことないわよ。だって一人だけ仲間外れはさびしいじゃない」

「仲間外れどころかあんたが集めたんだろう?」

「そうだけど……そうじゃないのよ」


 この気持ちはきっとクレメンスにはわかるまい。何でもないようなことを皆でワイワイとやるのは学生の特権なのだ。


「それよりも、君はもう大丈夫なのか?」


 ジルベルトが言っているのは、デュ・リエールのときのことだろう。被害は少なかったとはいえ、王宮内に魔が出たということは瞬く間に広まってしまった。

 

 あのとき、サルディナの近くにいたはずのロイドやリーディアが後遺症もなく無事だったのは、本当に幸いだ。


 サルディナとは、学園に戻ってから一度廊下ですれ違ったことがある。そのときサルディナは、今度ぜひ昼食をご一緒に、と言ってフィーラに優しく微笑みかけてくれたのだ。


 もしかしたら社交辞令だったのかもしれないが、以前だったらきっと、お互い型どおりの挨拶をする程度で済ませていただろう。高圧的な態度がなくなり柔らかな雰囲気を纏ったサルディナは、いまや理想のご令嬢といった趣だった。


「ええ。わたくしはもう大丈夫よ」

 

 フィーラの場合はサルディナから距離があったためか、意識を失うまでには至らなかった。


――それにジークフリート様が庇ってくださったし。


 今思えば、王族に身を挺して庇ってもらうなど、なんと恐れ多いことか。フィーラはフォルディオスの民ではないが、国が違えど、王族は王族。本来ならば、フィーラがジークフリートを庇うべきだったのだ。


――次に何かあったら、わたくしがジークフリート様を助けられるぐらいにならないといけないわね。


「あまり無理はするなよ」


 ひそかに決意をしたフィーラに、ジルベルトがまるでフィーラの心を見透かしたかのような言葉をかける。


「ええ。ありがとう」


 ジルベルトもクレメンスも、本当にフィーラには勿体ないような良い友人だ。

 

 学園入学時、気の置けない友人が一人か二人は欲しいと思っていたフィーラだったが、まさにジルベルトとクレメンスは思い描いていた理想の友人だ。

 しかも、これからはそこに、きっとエルザも加わっていくのだ。そのことが、フィーラにはまるで奇跡のように思えた。








 一点の曇りもない晴天、とまではいかないが、今日は空の青さが際立っていた。



「今日もいい天気ですわね」

「そうだな」



 フィーラの言葉に答えるのは、フィーラとエルザに挟まれてベンチに座るジークフリートだ。


 授業終了後、フィーラはエルザに中庭を案内しようと思い連れて来たのだが、そこで例のごとく、フィーラの様子を見に来たジークフリートと遭遇したのだ。


 ベンチに座り会話をしているフィーラとエルザのもとに、どこからかジークフリートがやってきたのだが、ジークフリートはなぜかエルザを見て微妙な顔をしていた。


――ジークフリート様……なんとも言えないお顔をしていたわね。それにエルザ様も、なんだかいつも以上に大人しいし。


 エルザもエルザで、妙に澄ましたような態度で挨拶をしたきり、無言のままだ。図書館ではジルベルトともクレメンスともそれなりに話をしていたのだが。ジークフリートとは仲が良いのだろうと思っていただけに、フィーラは二人の態度に少なからず驚いていた。


「それにしても……フィーラ嬢とエルザが友人だったなんて、驚いたな」

「ええ……ちょっと……」


 ジークフリートの言葉に、フィーラは口ごもる。

 きっかけはエルザとアリシアとの諍いにフィーラが割って入ったことだが、エルザがそれを口にしない限り、フィーラからジークフリートに言うわけにもいかない。


 フィーラは誤魔化すように、ジークフリートに話しかける。


「それにしても、今日は結構人が多いですわね。珍しいわ」


 多いとは言っても数人程度なのだが、普段は全く人気がないものだから、たとえ数人でも多く感じてしまう。


「ん? ああ、どうやら騎士科の生徒たちのようだな。ここは騎士科の塔と寮が近いからな」


「そういえば、そうでしたわね。でも、普段はあまり見かけませんが……」


「ああ、確かにこの時間帯にいるのは少し珍しいかもな。この庭で騎士科の生徒を見かけるのは、昼が多い。君は昼休みにはあまりここにこないだろう?」


「そうですわね。わたくしは昼休みには図書館へ行くことがほとんどですから」



 

 ディランと初めて会ったのも、この中庭だった。騎士科の塔が近かったから、その日、彼はこの中庭にいたのだろう。

 

 結局、もう一度会えたあの日は、なごやかに会話をするどころではなかった。あの助けた猫がどうしているのかも知りたかったのだが……。


 フィーラがディランのことを思い出しながら遠くを眺めていると、見覚えのある人物が目に入った。


「あら?」


――あの人……もしかしてテッド?


「どうしたんだい?」

「いえ……知り合いを見つけた気がして」


 

 

 メルディア公爵家の護衛団から聖騎士候補となったテッドとは、学園入学以来会っていない。


 お抱えの護衛騎士が聖騎士候補に選ばれるのは、雇う側にとっても名誉なことだ。


 聖騎士候補として学園に在籍するあいだも、テッドにはメルディア公爵家から給金が出ているため、テッドはいまだにメルディア公爵家の護衛団所属のままだった。


 フィーラとしては、テッドに対しては同じ精霊姫選定に関わる仲間意識もあったし、知らない仲ではなかったため様子を見に行きたい気持ちはあったのだが、フィーラが訪ねて行ってもテッドの迷惑になるかもしれないと思い、今まで遠慮をしていたのだ。


――それに、もしテッドが友人といた場合、わたくしもどう自己紹介すればいいのか分からなかったし……。


 今までは普通科の生徒と特別クラスの生徒、どっちつかずの状態だったが、今のフィーラは、もし所属クラスを聞かれた場合にも、ちゃんと精霊姫候補と名乗れるのだ。


――まあ、補欠なんだけどね……。それにしても、自分の立ち位置が決まらないという状態は、なかなかに居心地が悪いものだったわね。



 テッドらしき人物は、友人と思われる数人と一緒にいるが、位置が少し遠かったためフィーラには確実にテッドだと言い切れる自信がなかった。

 だが、フィーラが声をかけようか迷っているうちに、テッドらしき人物はフィーラのいる場所とは反対方向へ歩き出してしまった。


――どうしましょう、行っちゃうわ!


「ジークフリート様、エルザ様、ちょっと失礼いたします!」


 焦ったフィーラはジークフリートとエルザにそう告げると、遠ざかるテッドらしき人物を追いかけるために走り出した。


「まって! テッド!」


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