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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第63話 誓い

一話投稿します。サルディナが語ります。



 メルディア公爵家、ゴールディ公爵家、セルトナー公爵家は昔から何かと比較されてきた。そしてそれは、それぞれの家に王太子であるサミュエルと同じ年の女子が誕生した時からさらに顕著となった。


 ゴールディ公爵家は、家格でいえば、メルディア公爵家の下、セルトナー公爵家の上に位置する。メルディア家には元より適うべくもないが、しかし、セルトナー家も昔から領地の経営が盛んなうえ、さまざまな新しい事業にも手を出し成功を収めていた。

 伝統のメルディア、革新のセルトナーに挟まれた、何もないゴールディ家。

 そう言われていることを、サルディナの父は昔から気にしていた。


 比較され続ける痛み。それはサルディナも良く知っている。


 サルディナは父からずっと、サミュエルの婚約者となれるよう邁進するように言われて育った。それがお前の役目なのだからと。

 サルディナ自身は、サミュエルの婚約者になりたいと思ったことはなかった。だが、父からそう言われてしまえばサルディナはそれを目指すしかない。ゴールディ家において、当主である父の言葉は絶対なのだ。


 しかし、そのことに対する父からの期待は、フィーラとサミュエルとの婚約の話がでたことでなくなった。サルディナはフィーラに出し抜かれたと父から叱られたが、父の怒りはサルディナが思っていたほどのものではなかった。


 フィーラとサミュエルの婚約は、父としてもある程度納得のいくものだったのだろう。フィーラ自身に問題はあったが、五つある公爵家の中で最も高貴な血筋であるメルディア家の娘を王家が選ぶだろうということは、十分に推測できたことだからだ。だから父も、どうにか自分を納得させることが出来たのだろう。


 これがもし、サミュエルの相手がフィーラではなくリーディアだったなら、父はこう簡単には認めなかったに違いない。父はどちらかといえば、メルディア家よりもセルトナー家の方を意識し、敵とみなしていた節があったのだ。


 フィーラとリーディアが精霊姫候補に選ばれたときも、サルディナはまた父から怒られた。何故あの二人が選ばれて、お前は候補に選ばれなかったのかと。


 そんなことは、サルディナが知るはずがない。サルディナだって知りたかった。癇癪持ちの我儘姫が候補に入って、何故自分が外されたのか。

 サルディナは、リーディアが候補となったことに対しては、特に何を思うことはなかった。リーディアは常に品行方正であったし、優秀だった。精霊姫の候補としてふさわしい。

 父はメルディア家よりもセルトナー家を敵視していたが、サルディナ自身が己と比較し敵視する相手は、リーディアではなくいつもフィーラだった。


 なぜだろうかと、考えたことがある。なぜ、リーディアではなく、フィーラなのか。フィーラはその類まれな美貌を抜きにすれば、およそサルディナと比較になるような令嬢ではなかった。

 なのになぜ、サルディナにとっての比較相手は、リーディアではなくフィーラだったのか。

 

 サルディナの心の奥深くにあったその答えを、サルディナはずっと見ないふりをして来た。だが、今回のことで、サルディナはようやくその答えを、気持ちを、正面から見つめることができるようになったのだ。


 サルディナは、どんなに評判が悪くても、家族に愛されているフィーラのことが羨ましかったのだ。フィーラの家族は、常にフィーラを愛して慈しんでいた。

 思うままに、我儘に、自由奔放にふるまうフィーラは、それでも家族から認められていたのだ。

 

 サルディナがどれほど頑張ろうと、父は一度として褒めてくれたことはなかった。もし、サルディナがフィーラのごとく振舞っていたとしたら、きっと勘当ぐらいはされていただろう。




 フィーラのことを憎みながらも、サルディナはいつもフィーラから目が離せなかった。フィーラが近くにいると、意識は自然とそちらを向いた。


 フィーラの姿を追っているうちに、そばにいるロイドのことが気になるようになった。

 フィーラではなく、フィーラを優しい目で見つめるロイドの姿をサルディナが目で追うようになったのはいつの頃からだろうか。

 最初は、あのような兄が欲しいと思っていただけだった。いつからか、次第に形を変えていったその想いに、サルディナはここでもまた気づかないふりをした。


 ゴールディ公爵家の一人娘であるサルディナと、メルディア公爵家の跡取りであるロイドの婚約など父が認めるはずがない。しかし、それはロイドに限ったことではないだろう。 

 きっとサミュエル以外の誰が相手であったとしても、サルディナはゴールディの家からは出られない。


 ロイドのことはすでに諦めていたつもりだった。だが、デュ・リエールでロイドと踊るリーディアを見たとき、自分でも驚くほどに、心の内が黒く染まった。


 そして、ロイドがリーディアを庇うそぶりを見せた瞬間、サルディナの中で何かが爆発したのだ。それはきっと、今まで抑圧されてきたサルディナの感情だ。


 それからのまるで悪夢のような出来事は、今でもちゃんと覚えている。だが、絶望の中聞こえてきたのは、必死にサルディナを助けようとするフィーラの声だった。


 一番、意識して、一番、嫌っていたはずの相手。


 しかし、その相手だけが、最後まで、サルディナのことを諦めないでいてくれた。

 今、サルディナのなかに、以前のようなフィーラに対しての嫉妬はない。


 何故、自分が精霊姫候補に選ばれなかったのかも、今ならよくわかる。サルディナの心は弱いのだ。魔に入り込む隙を与えてしまうほどに。


 魔が取り払われたあと、その場で一旦意識を取り戻したサルディナは、自分のことよりも、まっさきにフィーラの無事を確認した。

 どうしても欲しくて、どうしても手に入らなかったものを、サルディナにくれた人。


 ただ愛してほしかった。そのままのサルディナを認めてほしかった。自分で自分に価値の見いだせなかった、そのサルディナの気持ちを、フィーラはまるごと救ってくれたのだ。


 フィーラの手を握り、サルディナは泣いた。泣いて泣いて、そのまままた意識を失った。


 次に目が覚めた時、あの場にいた聖騎士の一人が、サルディナを訪ねて来た。もし、サルディナにすべての記憶があるのなら、それを誰にも話してはいけないと。フィーラがそのことを覚えているかどうかは分からない。だが、覚えていてもいなくても、彼女は今後、大きな渦に巻き込まれていく運命なのだと。そう言ったのだ。


 サルディナは頷いた。それがフィーラのためになるのなら、サルディナはきっと死を目の前にしても、その秘密を守って見せる。




「フィーラ様、わたくしは、あなた様のおかげで目が覚めたのです。己の弱さと、向き合う強さを得たのです」



 今、サルディナの目の前で笑うこの人が、至高の存在へと昇り詰めるまで。その日まで、サルディナは秘密を守り続ける。


 サルディナはあの日、そう誓ったのだ。


次話はステラ(ヒロイン)が語ります。

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