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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第61話 後始末

一話投稿します。



 精霊王は、ヘンドリックスに指示を出したと思ったら、突然いなくなった。残されたフィーラは当然その場に倒れこみ、あわてたジークフリートに支えられた。



「…これからどうする?」

 フィーラを支えながら、ジークフリートがヘンドリックスに問う。


「精霊王の言葉に違えることは出来ない。ここであったことは、我々だけの密事だ」

「それは…彼女には?」


 ジークフリートがフィーラを見つめる。当事者である彼女が、先ほどまでのことを覚えているかどうかは、目を覚ましてみなければわからない。


「…覚えていたら、彼女にも従ってもらう。もし、覚えていなければ、知らない方が彼女のためだ」


 ここからの精霊姫の選定は、いわば仕組まれたものになるといっていい。結果がすでに出ているにも関わらず、そしらぬふりで挑まなければならない。

 それをまだ世間の荒波にもまれた経験の少ない少女に強いるのは、少々酷というものだろう。覚えていないほうが良い。


「…何てことだ」


 本当に、自分はなんという現場に居合わせてしまったのだろう。間が悪いにも程がある。この場にいたのはフィーラと自分を除いてすべて聖騎士だ。彼らはいわば精霊王側の人間。いわば選ぶ側の人間だ。しかし、ジークフリートの立ち位置はその逆。選ばれる側にある。


 精霊姫の選定に、精霊教会以外の言は及ばない。しかし、精霊教会側が何を基準として選定を行っているのかは、例え王族と言えども知らされることはない。

 

 だからこそ、候補者たちは選定期間中すべてのことにおいて力の限りを尽くす。だというのに、ジークフリートはすでに結果がでていることを知りながら何食わぬ顔で候補者たちを鼓舞しなければならないのだ。


 とんだことになってしまった。それがジークフリートの嘘偽りない正直な感想だ。



「とにかく、精霊王のおかげでこの場の瘴気は浄化されました。そのうち、皆目を覚ましますよ」


 クリードが周囲を見回す。瘴気にあたるとそれだけで体力を消耗するものだが、おそらく、今回はそこまでの被害はでないだろう。


「そうだな。魔は俺たちが祓った。取りつかれたのはあのお嬢さんじゃなく、別の人間だ。…使用人の誰か、そう言っておけば、どうにかなるだろう。…ならんかな?」


 魔に憑かれた人間で助かったものはいままでいない。ではなぜサルディナが助かったのかと疑問に思うものもなかには出てくるだろう。


「使用人といえども、裏付けはとられますよ」

「うーむ…どうしたものか。とんでもないことを押し付けてくれたなあのお方は」


 腕を組み、うなっているヘンドリックスに、ジークフリートが助け船を出す。


「…それなら、うちの国の使用人ということにすればいい」


 ジークフリートの発言に、三人の視線が集まる。


「私が連れて来た従者の一人が、王宮に入り込んだ魔に憑かれた。それなら調査はうちの国が主体で行うことになる。ティアベルトの王宮で起こった事件だ、少なからずティアベルト側の調査も入るだろうがどうにか誤魔化せるだろう。教会側は君たちがどうにかしてくれるんだろう?」


「すまんな。助かる」

「いや、お互い様だ」


「問題は、もしお嬢さんに記憶があったとしたらその嘘は通じないということだな」

 ディランの言葉に、三人は顔を見合わせる。


「あ~どうするか?」

「奇跡が起こった…とか?」

「それで通用するか?」


「…あのお嬢さんが言っていた。あの魔は、普通の魔ではないと」

「そういえば…」


 ディランの言葉にジークフリートが頷く。


「それが幸いした。そう言えば納得するんじゃないか?」

「そうだな…まあ、まだ記憶があるかどうか分らんのだが」

「そうするしかないでしょうね」

「そうだな」


 四人の視線がフィーラに集まる。いまのフィーラは、現精霊姫に次いで重要な立場となっている。実質、すでにフィーラの立場はただの精霊姫候補ではない。精霊王の言を得た、オリヴィアの正当な後継者なのだ。

 現精霊姫であるオリヴィアが退位するのは約二年後。それまで、今回のことを皆に秘密にしたままフィーラを守り通さなくてはならない。


「ああ…、本当に、どうしたものか」

 

 ヘンドリックスはすやすやと眠るフィーラを見つめ、大きなため息をついた。








 フィーラが目を覚ましたのはデュ・リエールの事件から二日後。今は目を覚ましてから丸一日が経っている。明日には学園へと戻らなければならない。


「フィー。もうしばらく寝ていた方がいい」

「ですが、お兄様…」

「学園だってしばらく休んでいいんだ」

「いいえ、お兄様。わたくしはただ瘴気に当てられて寝ていただけですわ。お兄様だって明日には学園に戻るのでしょう?」

「僕はフィーが戻るまでは戻るつもりはないよ」


―ええ?ちょっと…。だったらなおさら休めないじゃない。


 いつものロイドの妹馬鹿ぶりに、フィーラは呆れると同時に安心した。


―お兄様に何事もなくて良かったわ。それに、サルディナ様にも…。


 あのあとのことは、昨日見舞いに来てくれたジークフリートから聞いた。

 やはりサルディナに取りついた魔は普通の魔じゃなかったらしく、そのおかげで、サルディナも無事で済んだということだった。


―良かったわ。わたくしが大騒ぎすることではなかったわね。…本当に良かった。


 フィーラはまだサルディナの無事な姿を見ていない。だが、ジークフリートの話だと、外傷もなく魔に憑かれたことにより体力を消耗しただけだということだった。


 こんこん、と扉がノックされた。


「はい。何かしら?」


「失礼いたします。お嬢様」

 扉が開き、アルマが顔をだす。


「どうかした?」


「ゴールディ公爵家のサルディナ様より、面会の希望を承っております。お受けなさいますか?」


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