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前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


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第60話 後継者

一話投稿します。誤字報告ありがとうございました。



『お前ごときに、次代の精霊姫が殺せるものか』




 精霊王の言葉を受け、ヘンドリックスの心臓が鼓動を速める。


 今のあの娘は、完全に精霊王をその身に降ろしている状態だ。現精霊姫のオリヴィアとて、あそこまで完全に精霊王をこの世に顕現させることは出来ない。

 そこには必ず、オリヴィアの意思が存在していた。


 一体、何ということだろう。精霊姫候補選定の終了をまたずして、すでに精霊王はあの娘をオリヴィアの後継者と決めている。

 ここからの選定は、形だけのものとなるだろう。精霊王の言葉を覆すことの出来るものなどこの世には存在しないのだ。


 精霊教会やほかの候補者たちにどう説明したものか。かつてない事態にヘンドリックスは頭を抱えたくなった。

 しかし、今はまだ別に考えることがある。それが逃避に過ぎないことはわかっていたが、ヘンドリックスは生まれ始めて魔の存在をありがたいと思った。






『どうする?負けを認め、私のもとに下るか?』


 光の糸に捕らわれたままの魔に、精霊王が訪ねる。


『…馬鹿なこと』


『だろうな。ならば消えろ』


 フィーラの壮絶なまでの美貌から容赦のない言葉が放たれる。


 一瞬ののち、サルディナの体から白い炎が燃え上がった。


「…なっ!」

 ジークフリートが思わずと言った体で声をあげる。

 フィーラがあれほど拒んでいたサルディナの死を、よりによって精霊王が下すとは。


「…心配しなくていい。あのお嬢様は無事だ」


 ディランが気色ばむジークフリートを宥める。


「だが、あれは…」

「恐らく…体に巣食う魔だけを標的として、浄化の炎で焼いたんだろう」

「そんなことが出来るのか?」


 それができるのならば、これまで魔に憑かれた者たちだとて助かったのではないのか。

 仮にも王族に名を連ねる者として、魔に憑かれた者の顛末は、幾度となく聞かされている。

 

 一度魔に憑かれた者は、もう二度と、元には戻れないのだ。それが今までの常識だった。



「普通はできない」

「だが、精霊姫なら…」

「…いいや、できない」

「…なら、今のは…」

「あれが異常なんだ」


 ディランの言葉に、ジークフリートは口をつぐむ。現精霊姫であるオリヴィアにもできないことを、フィーラはやってのけたのだ。

 それは精霊姫の資質として、フィーラがオリヴィアを上回ることを意味する。


「…これで、あんたとお嬢さんだけが無事だったのも納得だ。精霊王を降ろすことができる器には、生まれつき強い守護が備わっていると聞いたことがある」

「彼女はわかるが…何故私まで」

「彼女の守護が発動した際、彼女に触れていたんだろう。そのまま結界の中にとりこまれたんだ」

「なるほど…」

 

 確かに、ジークフリートはフィーラを庇おうとして、フィーラに覆いかぶさった。あの行動がなければ、ジークフリートも皆と同じように意識を失っていたかもしれない。



『終わったぞ』

 精霊王の言葉に、皆サルディナを見る。


 サルディナは元の美しい姿のままだ。焼けたところなど、ひとつも見当たらない。

 そのまま膝から崩れ落ちそうになるサルディナを、一番近くにいたクリードが支え、そのまま床に横たわらせる。


「さきほどの魔は…」

 

『手ごたえはあったが、あれはおそらく本体の一部だ』

「えっ?」


 それは一体どういうことなのか。色々と聞きたいことはあったが、それを精霊王に対して聞いていいものなのかどうかジークフリートは迷う。精霊王と会話をするなど、想像したこともなかったのだ。


『あまり長くいると、この娘の負担になる』


 精霊王の言葉に、ジークフリートが慌てる。


「フィーラ嬢!」


『まだ、大丈夫だ。ヘンドリックス』

「はい」

『今回の事は、この場にいる者だけの事としろ』

「…精霊教会へは」

『言わなくともよい。精霊たちにも口止めはしてある。これはオリヴィアも了解している事だ』

「…承知しました」



 どう伝えようか迷っていたことは解決したが、これでは余計に面倒くさいことになりそうだ。


 ヘンドリックスを悩ます問題は全く解決していなかった。


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