表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世を思い出したわがまま姫に精霊姫は荷が重い  作者: 星河雷雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/206

第59話 精霊王

一話投稿します。



 急に静かになったフィーラに気が高ぶり過ぎて気絶したのだろうと考えたディランとジークフリートは、次の瞬間、フィーラの体からあふれ出す光に視界のすべてを奪われた。


「何だ……これは⁉」

 

 ゆっくりと光量が収まっていく中、ジークフリートは腕で目を庇いながらフィーラを見る。


 ディランはすでにフィーラを肩からおろしていた。眩い光をものともせず、目を閉じたまま佇むフィーラを見つめている。


「……これは」


「おい!今のは何だ!」

 

 遠くから黒髪の男が叫んだ。


 その声に反応するかのように、フィーラの瞼がゆっくりと開かれてゆく。


 しかし、あらわになったフィーラの瞳は何も映してはいなかった。ただその虹彩だけが、虹色に輝いている。







『ああ……。久しぶりの感覚だ』







 フィーラの唇から紡がれる、フィーラとは異なる者の声。


 ジークフリートは最悪の事態を想定した。光と闇、溢れ出たものの差こそあれ、今フィーラに起こっている事態はサルディナの時とよく似ている。


 先ほどフィーラが言っていた、男の声。この声の主が男か女かはジークフリートには判別できないが、もし、フィーラの言っていたものがこれならば、今はフィーラが魔に取りつかれているということになるのではないか。ジークフリートの額から一筋の汗が流れる。

だが、



『案ずるな』



 フィーラの姿を借りた声の主は、一言、そうジークフリートに告げると、黒髪の大男の方を向いた。


『ヘンドリックス。この場は私が預かる。その娘には手を出すな』

 

 名を呼ばれた男は、すぐさまその場に膝をついた。


「……まさか……あなた様が……」


 ヘンドリックスの声を聞いた二人の聖騎士が、同じように膝をつく。


『全く。よくばりな娘だ』


 聖騎士の言動から、フィーラの体を借りて喋るこの存在が何なのかジークフリートにも当たりがついた。

 しかし、そんなことは聞いたことがない。ヘンドリックスと呼ばれた男の驚愕具合から見ても、これが非常事態だということが察せられる。


『さて。いい加減出てきたらどうだ。娘の懇願は無視したようだが、私の要求を拒むことは許さない』


 フィーラの体を借りる何者かが、サルディナの体を借りる何者かに告げる。




 サルディナの体がぐらりと傾ぐ。


『逃がすと思うか?』


 その瞬間、サルディナの体の周りに、無数の光の糸が出現した。


 サルディナの体は、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶のように、動きを抑えられた。

 散らばる赤い髪が、滴る血を連想させる。


 身動きを封じられたまま、サルディナの体に巣食う魔は、くつくつと笑いをこぼす。


『……ああ、まさか精霊王まで出てくるとは……』


 サルディナの声でジークフリートは己の推察が当たっていたことを悟る。



 この世のすべてを総べるとされる精霊王。精霊の最上級に位置するその存在との交信は、精霊姫に限られていたはずだ。

 なぜ、候補であるはずのフィーラが、精霊王を呼ぶことが出来たのか。しかも、今のフィーラの状態は、完全にフィーラとしての意識を手放しているように見える。



『ああ、やはりすぐに殺しておくべきだった』


 サルディナの口から、紡がれた言葉。


 それが何者のことを指すのか。それを理解した瞬間、ジークフリートの中でかつてないほどの怒りが沸いた。


 そして、それはこの場にいた全員が同じだったようだ。


 聖騎士の三人から、先ほど魔と対峙した時には感じられなかった殺気がほとばしる。

 

 しかし、フィーラの姿を借りた精霊王は、嫣然として微笑んだ。




『お前ごときに、次代の精霊姫が殺せるものか』




「……何ということだ」

 

 我知らずジークフリートは驚きをそのまま声に出していた。


 次代の精霊姫。


 ほかならぬ精霊王の口からその言葉を聞くことになろうとは――。



 自分は今、とんでもない現場に居合わせている。ジークフリートは喜びとも恐れともつかない感情に身震いをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ